嫌われ悪役王子は死にたくない!!《本編完結済》

えの

文字の大きさ
17 / 43

17

しおりを挟む

「1人で帰れるから…放っておいてくれ」

「…」

「聞こえないのかよ?平気だから1人で…ッ!!」

俺は会話の途中でヘラに木の空洞から引きずり出された。泣きそうな顔を見られたくなくて俯くとヘラのモフモフの手が俺の顎に触れ、強制的に目を合わせる形になる。目に入ったヘラの表情に戸惑う。ヘラ…どうして辛そうな顔しているんだ?俺まで辛くなってしまうよ。自然と眉が下がる。もしや俺のせいで誰かに何か言われたのか?

「ヘラ…どうした…?辛そうだよ…」

「えぇ、辛いですよ。シオン様が何も言わないので。いつも平気な顔をして、不満も漏らさず、ワガママさえ言わない。自分の心配より、人の心配をするお人好し。そのくせ寂しそうな顔で笑う。何故頼らない?それとも私では頼りにならないですか?」

いつもとは違う感情がこもった話し方。胸に染み込むような優しい言葉。自然と俺の両目からポロポロと堪えていた涙が零れる。じっと俺の言葉を待つヘラ。

「ひっく、言ってもいいの…?ぐっ、俺の気持ち言ってもいいの…?」

「えぇ、勿論です。シオン様に頼られる事が、何よりも私の喜びです」

「うぅっ…ヘラッ…づらいょぉ…ひぐッ…ぐるじぃょぉ…たすけてッ…」
 
俺は初めて弱音を口に出した。最初は死ぬと分かっているキャラになってしまうなんて冗談かと思った。必死に頑張ったがポジティブな俺にも限界がある。みんなに嫌われている事も辛かった。ガイの部屋に向かう途中に、ヒソヒソ囁かれる事なんてしょっちゅうあったし…。でも完全獣人のそんな姿も可愛くて目の保養とばかりにチラ見しちゃったり…。

何も言わなくても俺のもふもふ愛が伝わればいいのにと何度思ったことか…。

止まらない涙をヘラのもふもふした手が何度も掬ってくれ、強く抱き締めてくれた。ヘラはそのまま俺を横抱きにして歩き出す。

「服…濡れる…ッ…からッ…自分で歩く…」

声を詰まらせながら言うと、私が抱っこしたいんですと断られてしまった。くっそ、キュン死にさせる気か?!俺を殺しにかかってきてるな。

ヘラの胸に顔を埋めスーハースーハーしていると、ヘラが突然立ち止まった。顔を上げるとそこは見知った場所だった。おっ、ここは俺がいつも覗き見している場所では…。

「ヘラッ!!シオンは見つかったか?!」

「アレン。あぁ、見付けた。だが呼吸がおかしい」

げっ!!アレンだとぉー?!一気に息苦しさが増す。はぁはぁ泣いて体温が上がったせいか、すっごい苦しい。アレンまで俺を殺しにかかってくるとは…。なんて恐ろしい世界だ。あー体がダルい。これは40度超えの熱を出した時みたいだ。もしやインフル?この世界にもインフルとかあんの?ってかこの2人知り合いなんか?呼び捨てしてたみたいだけど…。

「ガイが薬を盛られたかもしれないと言っていた。もしや…」

考え込むように腕を組むアレンの言葉に、ヘラはこくりと頷いた。

「シオン様。喋るのもお辛いでしょう。今から質問をします。頷くか首を軽く振って答えて頂けますか?」

緊張した目付きに俺まで緊張がうつり、ヘラの服を掴む手に力が入る。

「何か薬を盛られましたか?」

こくん

「それは毒ですか?」

ゆっくり首を振る。

「それは…媚薬ですか?」

こくん

「…人間用の?」

人間用…そーいや、あのサド野郎は獣人用とか言ってたな…。反応がない俺に質問を変えてもう一度ヘラが問う。

「…獣人用ですか?」

こくんと頷くとヘラはを食いしばるような顔をした。

「あのクソッタレがッ…!!アレン聞いたな?至急クレイ先生を呼んでくれ、あと解毒剤もだ。ガイはまだ?」

「あぁ。まずいな…。非常にまずいぞ…。なんて事をしてくれたんだッ!!ガイは…アイツを締め上げていると思うが…理性が飛んでない事を祈るよ…怒りのリミッターが外れて殺しかねん」

ヘラのクソッタレ発言にも驚いたが、えっ、あのエロおやじの尋問ってまだ続いてたの?締め上げるとか寧ろご褒美プレイでは…。はぁ…ダメだ。苦しくてこれ以上エロい妄想が出来ない。ガイのお仕置プレイを想像したかった…。俺も尋問されるなら優しめの言葉攻めお仕置プレイでお願いしたい。いや、お仕置セックスでも可。はぁはぁ、苦しくて目を閉じるとヘラが先程より強く抱き締めてきた。

「シオン様。すみませんが、急を要しますのでしっかりと掴まっていて下さい」

そして地面を強く蹴り飛び上がった。高い、めっちゃ高い、いや落ちたら間違いなく大怪我するよね?!ひぃッ…小さく悲鳴を漏らしヘラにしがみついた。落とすなよ?絶対に落とすなよ?!フリじゃないからなー!!




しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

オメガな王子は孕みたい。

紫藤なゆ
BL
産む性オメガであるクリス王子は王家の一員として期待されず、離宮で明るく愉快に暮らしている。 ほとんど同居の獣人ヴィーは護衛と言いつついい仲で、今日も寝起きから一緒である。 王子らしからぬ彼の仕事は町の案内。今回も満足して帰ってもらえるよう全力を尽くすクリス王子だが、急なヒートを妻帯者のアルファに気づかれてしまった。まあそれはそれでしょうがないので抑制剤を飲み、ヴィーには気づかれないよう仕事を続けるクリス王子である。

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。 *触れ合いシーンは★マークをつけます。

病み墜ちした騎士を救う方法

無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。 死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。 死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。 どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……? ※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です

黒豹陛下の溺愛生活

月城雪華
BL
アレンは母であるアンナを弑した獣人を探すため、生まれ育ったスラム街から街に出ていた。 しかし唐突な大雨に見舞われ、加えて空腹で正常な判断ができない。 幸い街の近くまで来ていたため、明かりの着いた建物に入ると、安心したのか身体の力が抜けてしまう。 目覚めると不思議な目の色をした獣人がおり、すぐ後に長身でどこか威圧感のある獣人がやってきた。 その男はレオと言い、初めて街に来たアレンに優しく接してくれる。 街での滞在が長くなってきた頃、突然「俺の伴侶になってくれ」と言われ── 優しく(?)兄貴肌の黒豹×幸薄系オオカミが織り成す獣人BL、ここに開幕!

婚約者の前で奪われる!?王太子が僕の番だった夜

BL
僕は辺境伯家の嫡男レオン・グレイスフィールド。 婚約者・隣国カリスト王国の辺境伯家、リリアナの社交界デビューに付き添うため、隣国の王都に足を踏み入れた。 しかし、王家の祝賀の列に並んだその瞬間、僕の運命は思わぬ方向へ。 王族として番に敏感な王太子が、僕を一目で見抜き、容赦なく迫ってくる。 転生者で、元女子大生の僕にはまだ理解できない感覚。 リリアナの隣にいるはずなのに、僕は気づけば王太子殿下に手を握られて…… 婚約者の目の前で、運命の番に奪われる夜。 仕事の関係上、あまり創作活動ができず、1話1話が短くなっています。 2日に1話ぐらいのペースで更新できたらいいなと思っています。

処理中です...