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しおりを挟む「1人で帰れるから…放っておいてくれ」
「…」
「聞こえないのかよ?平気だから1人で…ッ!!」
俺は会話の途中でヘラに木の空洞から引きずり出された。泣きそうな顔を見られたくなくて俯くとヘラのモフモフの手が俺の顎に触れ、強制的に目を合わせる形になる。目に入ったヘラの表情に戸惑う。ヘラ…どうして辛そうな顔しているんだ?俺まで辛くなってしまうよ。自然と眉が下がる。もしや俺のせいで誰かに何か言われたのか?
「ヘラ…どうした…?辛そうだよ…」
「えぇ、辛いですよ。シオン様が何も言わないので。いつも平気な顔をして、不満も漏らさず、ワガママさえ言わない。自分の心配より、人の心配をするお人好し。そのくせ寂しそうな顔で笑う。何故頼らない?それとも私では頼りにならないですか?」
いつもとは違う感情がこもった話し方。胸に染み込むような優しい言葉。自然と俺の両目からポロポロと堪えていた涙が零れる。じっと俺の言葉を待つヘラ。
「ひっく、言ってもいいの…?ぐっ、俺の気持ち言ってもいいの…?」
「えぇ、勿論です。シオン様に頼られる事が、何よりも私の喜びです」
「うぅっ…ヘラッ…づらいょぉ…ひぐッ…ぐるじぃょぉ…たすけてッ…」
俺は初めて弱音を口に出した。最初は死ぬと分かっているキャラになってしまうなんて冗談かと思った。必死に頑張ったがポジティブな俺にも限界がある。みんなに嫌われている事も辛かった。ガイの部屋に向かう途中に、ヒソヒソ囁かれる事なんてしょっちゅうあったし…。でも完全獣人のそんな姿も可愛くて目の保養とばかりにチラ見しちゃったり…。
何も言わなくても俺のもふもふ愛が伝わればいいのにと何度思ったことか…。
止まらない涙をヘラのもふもふした手が何度も掬ってくれ、強く抱き締めてくれた。ヘラはそのまま俺を横抱きにして歩き出す。
「服…濡れる…ッ…からッ…自分で歩く…」
声を詰まらせながら言うと、私が抱っこしたいんですと断られてしまった。くっそ、キュン死にさせる気か?!俺を殺しにかかってきてるな。
ヘラの胸に顔を埋めスーハースーハーしていると、ヘラが突然立ち止まった。顔を上げるとそこは見知った場所だった。おっ、ここは俺がいつも覗き見している場所では…。
「ヘラッ!!シオンは見つかったか?!」
「アレン。あぁ、見付けた。だが呼吸がおかしい」
げっ!!アレンだとぉー?!一気に息苦しさが増す。はぁはぁ泣いて体温が上がったせいか、すっごい苦しい。アレンまで俺を殺しにかかってくるとは…。なんて恐ろしい世界だ。あー体がダルい。これは40度超えの熱を出した時みたいだ。もしやインフル?この世界にもインフルとかあんの?ってかこの2人知り合いなんか?呼び捨てしてたみたいだけど…。
「ガイが薬を盛られたかもしれないと言っていた。もしや…」
考え込むように腕を組むアレンの言葉に、ヘラはこくりと頷いた。
「シオン様。喋るのもお辛いでしょう。今から質問をします。頷くか首を軽く振って答えて頂けますか?」
緊張した目付きに俺まで緊張がうつり、ヘラの服を掴む手に力が入る。
「何か薬を盛られましたか?」
こくん
「それは毒ですか?」
ゆっくり首を振る。
「それは…媚薬ですか?」
こくん
「…人間用の?」
人間用…そーいや、あのサド野郎は獣人用とか言ってたな…。反応がない俺に質問を変えてもう一度ヘラが問う。
「…獣人用ですか?」
こくんと頷くとヘラはを食いしばるような顔をした。
「あのクソッタレがッ…!!アレン聞いたな?至急クレイ先生を呼んでくれ、あと解毒剤もだ。ガイはまだ?」
「あぁ。まずいな…。非常にまずいぞ…。なんて事をしてくれたんだッ!!ガイは…アイツを締め上げていると思うが…理性が飛んでない事を祈るよ…怒りのリミッターが外れて殺しかねん」
ヘラのクソッタレ発言にも驚いたが、えっ、あのエロおやじの尋問ってまだ続いてたの?締め上げるとか寧ろご褒美プレイでは…。はぁ…ダメだ。苦しくてこれ以上エロい妄想が出来ない。ガイのお仕置プレイを想像したかった…。俺も尋問されるなら優しめの言葉攻めお仕置プレイでお願いしたい。いや、お仕置セックスでも可。はぁはぁ、苦しくて目を閉じるとヘラが先程より強く抱き締めてきた。
「シオン様。すみませんが、急を要しますのでしっかりと掴まっていて下さい」
そして地面を強く蹴り飛び上がった。高い、めっちゃ高い、いや落ちたら間違いなく大怪我するよね?!ひぃッ…小さく悲鳴を漏らしヘラにしがみついた。落とすなよ?絶対に落とすなよ?!フリじゃないからなー!!
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