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しおりを挟む俺の足じゃ到底辿り着けないであろう時間で自分の部屋に到着した。獣人ってやっぱり凄いなー。いやヘラが凄いだけかなのか?カッコ可愛い従者最高です。はぁ…なんか頭もボーッとしてきた。酸素が体に巡ってないのかな。ヘラが何か言ってるみたいだけど上手く頭に入ってこない。単語しか拾えない。
再び目を閉じると部屋の中に誰が入ってくる気配がした。もう目を向けることすらしんどくて出来ない。ホスト保健医かな?ヘラは俺を横抱きにしたまま、スっと立ち上がると、頼む、とだけ言ってそっと俺の体を手渡した。
ヘラよりも大きな体に抱き締められる。これは誰だろう?少し目を開けて確認すると白いもふもふが見えた。あぁ、俺はしんどさが限界を迎え、ついに幻覚まで見えるようになってしまったのか…。
再び目を閉じて、はぁはぁと呼吸を繰り返すが息が吸えない。苦しい…。
「シオン…」
ヘラよりも大きな手が俺の頭を優しく撫でる。一瞬ガイかもしれない思ったが、アイツは初めて俺の頭を撫でようとしてバシバシ思い切り叩いたからな…人間に対する対応が下手くそなのだ。ガイではないな。
「シオン」
ガイに似た声で俺の名前を呼び何度も頭を撫でてくれる。気持ちいいなぁ…。少し呼吸が落ち着いたところで、もう一度目を薄く開けた。
やはり目の前には白いもふもふが…目線を上に向けるとそこには紛れもないガイ本人が居た。
あぁ、これは俺が創り出した幻なんだな…。今頃、本物のガイはサド野郎に寄り添って慰めているはずだ。
ゆっくりと手を伸ばすと念願のもふもふに触れる事が出来た。俺の手を振り払おうともしない。どうやら俺の創り出したガイは、俺の理想を具現化した幻みたいだ。ならば好きにしても構わないだろう。
「ずっと…触りたかった…ふわふわだ…」
力なく笑うと抱き締める力が強くなった。あぁ、心が満たされていく。俺の妄想力はこの世界に来てより豊かになったらしい。
「ふふっ、ガイは可愛いなぁ…」
少し強く引っ張っても、奥までモフっても引き剥がさず、怒る事さえしない。されるがままのガイは相変わらず俺の頭を撫でている。
好きだなー。やっぱり俺、ガイが好きだわ。自分の気持ちを再認識して泣きそうになった。どうして俺じゃないんだろう…主人公でもなく、サド野郎でもなく、俺を選んでくれないかな…。
ガイの幸せを願いっている俺は、自分から気持ちを告げる気など最初からなかった。一生懸命頑張ったつもりだったんだ。共通の話題を探して、会えるように口実作って…。振り向いて欲しくて必死だった。
「ガイ…好きだよ…。俺を選んでよ…ねぇ、頼むよ…こんなにも好きなのに…」
俺はガイのもふもふから手を離し目をつぶった。頬に伝う涙は叶わない恋だとわかっているから。幻でもいい、もう少しだけこのままで居させて…。俺の言葉を聞いてガイは頭を撫でるのを止めた。
「可愛すぎるだろッ…あぁー、襲っちまいてぇ」
え゛ッ?!ガイさんキャラどうしたんですか?!俺様キャラなってまっせ!!これも俺の願望か?!しんみりとした気持ちが一気に吹っ飛んだ。どんなお顔で今のセリフを…めっちゃ見たいのに目を開けるのも辛い…。しっかりしろよ俺!!
「シオン。今からお前に媚薬の解毒剤を飲ませるからな?ちゃんと飲めよ?じゃないと死んじまうぞ」
おぇッ?!死ぬだと?!死ぬという単語に敏感な俺は、力を振り絞り薄く目を開けるが、焦点が合わず全ての輪郭がぼやけてしまう。だが、白い物体が俺に近づいてくるのは何となくわかった。
俺の唇に押し当てられる分厚くて柔らかい物がガイの唇だと理解するのに時間はかからなかった。
舌を差し込み少しづつ苦い液体を流し込まれ、じわりと俺の口の中に少し温かい液体が広がっていく。ガイの長い舌が喉の奥を刺激すると、俺は反射的にゴクリと液体を飲み込んだ。少しの間離れては口に解毒剤を含み俺に口移しをする。何度も執拗に行われる行為に顔を背け、俺は音をあげそうになるが、ガイがそれを許さない。
「んッ…ふぁッ…」
飲みきれない液体が顎を伝う。勿体ないとばかりにガイは舐め取り、自分の舌を俺の舌に絡め、粘膜越しに擦り込んでくる。終わりを迎えた頃には俺はすっかり息も上がり、苦しさが増していた。ガイの表情は最後まで分からなかった。だってキスをする時は目をつぶるのがマナーだしね。もう今日はキャパオーバーだよ。何でもいいから眠りたい。ガイに擦り寄ると、優しく俺を抱き締め直してくれた。
「シオン、何があろうと俺はお前を守り抜く」
頬に手優しくを添え呟かれた言葉に俺は微笑みが零れた。最後にまさかのガイのナイト宣言が聞けるとは…良い夢が見れそうだよ…。ありがとう。そしておやすみなさい。俺は意識を失う様に眠りについた。
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