上 下
34 / 40

第34話 金融ギルド

しおりを挟む

 このエルドールの街に引っ越してきて、大体3か月ほどが経った。
 異世界での生活にも、だいぶ慣れてきた感じがする。
 そこで俺は、また新しいことをいろいろやってみようと、考えていた。

「ずっと前から気になってはいたんだよなぁ……」

 俺がやってきたのは、街の大通りにある大きな建物だった。
 少し格調高い感じの、いかにもな建物だ。
 そこは、日本でいう銀行だった。
 金を預かってくれたり、引き出せたり、他にも金に関することならなんでも、といった施設らしい。
 その辺のことは、門番のレギムにいろいろ教わった。
 建物の看板には【金融ギルド】の文字が、黄金色で刻印されていた。

 ちなみに、金のこととなると、日本円と単位が違うので、いろいろとややこしい。
 今まではそれほど大きくない金額しか扱ってなかったし、いっぺんに大金を使ったのだって家を買ったときくらいのものだ。
 それに、言われた金額を使うだけだったから、特に不便はなかった。

 金融ギルドに今まで来なかったのは、預けるような金もなかったからだ。
 最近冒険者ランクがかなり上がって、実入りもいいので、そろそろ……ということでやってきた、というわけだ。
 預ける金がなければ、金融ギルドになんか用はないからな。

 だけど、金融ギルドなんておっかない名前のところに入るのに、そのままだとやっぱり不便だ。
 そこで俺は、久しぶりにサポートAI《カガリ》を呼び出してみることにした。

「なあ、カガリ。いるか……?」

『はい、お呼びでしょうか。ショウキチ様』

 どこからともなく、声がする。

「おお……! ずっといたのか……?」

『ええまあ、これも実験の一環ですから』

「そっか……まあいいや。それはそうと、用があって呼び出したんだ」

 俺はカガリに、金の単位を日本円と揃えられないかきいてみた。
 すると、カガリはすぐに俺にサポートアプリケーションをインストールする、と言い出した。

『サポートアプリをインストールすれば、ショウキチ様の主観では日本円として表示させることも可能です。もちろん、他の人からはちゃんとGとして見えます』

「おお、それは便利だ! すぐにやってくれ! って……インストールってことは、またあの頭痛くなるやつ……?」

 最初にこっちに連れてこられたときにも、なにやら翻訳プログラムなるものをインストールされた覚えがある。
 あの時は、脳が焼けるような痛みを経験した。

『まあ、脳に介入して認識を変更するプログラムなので……その点はがまんしていただくしかありません』

「そ、そうなのか……まあ、一度やってるしいいか……」

 今更、なにも怖いものなんてない。
 カガリはすぐに俺にプログラムをインストールしてくれた。

「いででででで……っつーーー!」

 なんとか我慢できる痛みだが、かなり奇妙な感覚だ。
 インストールが終わると、なにごともなかったかのようにまったく痛みが引いていくのも、逆に怖い部分だ。

『これにてインストール完了です。試しに、インベントリを開いてみてください』

「えーっと、インベントリ・オープン!」


――――――――――――
佐藤正吉 27歳
所持金  1,512,350円
――――――――――――


「うおおおおお……!? ちゃんと円表記になってる……!」

 っていうか俺、百万円も溜めてたのか……。
 まあ、冒険者としてクエストを受けるだけで、かなりもらえるようになったからなぁ……。
 それに、生活費がベーシックインカムで賄えるから、ほぼ全部貯金できてしまう。
 けっこう使ってるとはいえ、まだこれだけ残ってるなんて。
 今までに、この短期間でかなり稼いだことにならないか、コレ?
しおりを挟む

処理中です...