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第5話 マウンテングリズリー
しおりを挟むリシアンさんが来たその日の夕方でした――。
突如巨大な叫び声と共に、それはやってきました。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「た、たすけてくれー!!」
そのとき私は外で農作業をしていました。
声のした方向を振り向くと、冒険者のような恰好をした集団が、巨大なクマに追われているではありませんか!
あれはたしか……マウンテングリズリー。
山に住んでいるからマウンテングリズリーと呼ばれるのではありません。
ここは森ですしね……。
彼らがその名で呼ばれている理由、それは――。
文字通り、山のように大きいから、です。
「あ! あれは! 私のはぐれた仲間たちです! お願いですエルキアさん! 彼らを助ける方法はありませんか!?」
隣にいたリシアンさんが叫びます。
まあこの森にそう何人も人はいませんし……、当然、彼らがリシアンさんの仲間なのだろうとは思いますが……。
それにしても、5人もいてマウンテングリズリー一匹も倒せないとは……最近の冒険者はずいぶん情けないんですねぇ。
「はぁ、任せてください。あれくらい、なんとでもなりますよ」
「えぇ!?」
「炎の矢」
私の手から火矢が発せられ、グリズリーの頭蓋を貫きます。
「アガガガガ……」
――ドスン!
グリズリーは大きな音と共に、その場に倒れました。
「すごい! あの大きなクマを、一撃で仕留めるなんて……! しかも下級の魔法で」
「まあ、あれ以上の魔法を使うと、この森ごと燃やし尽くしかねませんからね……。あれで十分ですよ」
本当言うと、私がちょっとでも加減を間違えると、この世界丸ごと滅ぼしてしまいかねないのですが……。
そんなことはさすがに口に出せません。
だから私はなるべく攻撃魔法は使わないようにしているんですけどね……。
「エルキアさん……あなた……一体何者なんですか!?」
「あぁー……まあ、それはおいおい……」
適当に誤魔化します。
それよりも、お仲間の安否のほうが優先です。
私は腰が抜けてその場に座り込んでいる彼らのもとへ、駆け寄ります。
「みなさん、大丈夫ですか!?」
「あ、あなたは……。危ないところを、お助けいただきありがとうございました……!」
「いえいえ、お安い御用です」
そして彼らの手を引っ張り、立ち上がらせてあげます。
彼らもそこそこの冒険者なのでしょうが……。
情けないですね。
装備品に似合わない臆病さです。
「おいおい、お前たち、エルキアさんが呆れてるじゃないか。情けないぞ! それでもルキアール王国が誇る親衛隊かよ」
そこに、リシアンさんが遅れて駆け付けます。
お仲間との久しぶりの再会ですね。
素直によかったです。
いや、リシアンさんが邪魔なわけではないですけどね。
「お、お前は……リシアン! 迷子になったと思ったら、こんなところにいたのか!?」
「ああ。彼女はエルキアさん。偉大な魔女だ」
「そんな……偉大だなんて」
「我々からも、改めてお礼を申し上げます。リシアンを置いて頂きありがとうございました」
「いえいえ、まぁ、立ち話もアレですし、どうぞ中へ」
私は彼らを小屋に通します。
リシアンさんが使っているほうの小屋を使わせてもらいましょう。
ちょうどみなさんで座れるテーブルがあります。
「ところで、先ほどリシアンさんは『ルキアール王国が誇る親衛隊』と仰っていましたが……。どういうことなのですか……?」
席に着くや否や、私の口から純粋な疑問がこぼれ落ちる。
だってしょうがないじゃないですか、私は彼らのことをまだ何も知りません。
まぁ、それは彼らも同じでしょうが……。
というかむしろこの場合一番怪しげなのって私のほうなのでは!?
ですが助けたのは私なのですし、私に先に訊く権利があるはずです。
「ああ、それでしたら……彼、リシアンは王なのですよ」
「へ?」
「彼はルキアール王国王――リシアン・コルティサングその人です」
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