魔力ゼロの忌み子に転生してしまった最強の元剣聖は実家を追放されたのち、魔法の杖を「改造」して成り上がります

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中

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忌み子編

12.修行

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 翌日早朝から、アルとミュレットは森の一番開けた場所に来ていた。

 密集した森は昼間でも暗くて不気味なのだが、この場所だけは温かい木漏れ日が優しく照らしてくれている。アルにとって一番のお気に入り場所だ。

 村の子供たちも、森が危険になるまではここでよく遊んでいた。

「それじゃあ、ミュレット、なにか杖になりそうな木の枝を拾ってきて」

 魔法は素手でも行使できたが、わかりやすい杖という形を用意したほうが初心者には易しかった。

「わかった……」

 ミュレットはいささか納得いかないようすで、それでも素直に言葉に従った。アルは、なにがそんなに不思議なんだろうと、逆に疑問に思った。その答えはすぐに明かされる。

「でも、アルが教えてくれるのは剣でしょ……? なんで私に杖なんか用意させたのよ」

「……へ?」

「だってアルには魔力がないんだから、当然、魔法なんて教えられるはずないでしょ……?」

 ミュレットの当然の主張に、アルは愕然とした。あまりにあたりまえのことすぎて、失念していた。

 前世のアルは、魔法を極めこそしなかったが、一級の剣士並みには魔法を使用できた。だから当然今回も魔法を教えられるつもりでいた。

 でもいったいどうやって魔力の無い自分が、初心者に魔法を教えられるというのだろう……?アルはしばらく考えた。

「ま、まあ……僕自身は魔法が使えないけど、ミュレットに教えることはできるよ。感覚や知識を教えるだけでも、独学でやるよりは早いはずだ」

「え、魔法を教えられるの……? 使ったこともないのに? どうして?」

 ミュレットが不審に思うのも当然だ。魔力のない者が、魔法を教えるなど、こんな滑稽な話、誰も信じやしない。

「あ、いや……その……本で読んだんだよ……」

 まさか前世の記憶があるなどと本当のことを言うわけにもいかず……誤魔化した。だがそれも嘘ではない。

 アルは実家にいたころ、よく祖父の魔道書を読みふけっていた過去がある。知識だけなら、前世での経験以上に蓄えがあった。

「ほんとにぃ……? そんな付け焼刃の知識で私をちゃんと教えられるのかしら……」

 せっかくアルの力になれると期待したのに、とミュレットは若干落ち込む。

「大丈夫だよ、僕に任せて! あ、もちろん剣もそれなりに教えるつもりだし……」

「本当!? じゃあ安心ね……! アルの剣だけは誰にも負けないものね……!」

「あはは……」

(僕的には近距離戦で危険な剣よりも、あるていど安全な後衛の魔法のほうを中心に教えたかったんだけどなぁ……)

 アルは小さく嘆息する。





 それでも、実際に始めてみると、ミュレットは剣よりも魔法のほうに興味を示した。

 というより、そっちの方が向いていた。

「アル! これ、すごいわね! この火炎球 ファイアボールっていう初級の魔法! ちょっと教えてもらっただけで簡単に繰り出せたわよ!」

 そう言いながらミュレットはアルに向かって火炎球 ファイアボールを撃ち続けた。何故アルに向けて放つのか、それは万が一にも森を燃やさないためだった。

 森が燃えてしまったら、その火は村をも襲うことになるので、村を守ろうという修行の副産物としては、元も子もない結果になる。

 その点、アルに向けて撃つぶんには、例のごとくアルがものすごい速さで剣を振って火を消滅させつづければいいので、ノーリスクなのだ。

「すごいのはミュレットだよ! こんなに早くものにするなんてね……正直驚いたよ」

 実際、ミュレットの呑み込みの早さは、目を見張るものがあった。アルが要点だけをかいつまんで話すと、その通りに感覚を研ぎ澄ませ、一発で魔法の発動に成功した。

 アルが剣の天才ならば、ミュレットは魔法の天才といえた。

「アルの教え方が上手なおかげだわ!」

「それは嬉しいことを言ってくれるね……! 教え甲斐があるよ」

 言いながら二人は火球を飛ばしてはそれを打ち消し――それははたから見れば異様な光景といえた。

「あれ……? 火が出なくなっちゃったわ……」

「ああ、魔力が切れたんだね……。一晩寝れば治るよ」

 体内に流れる魔力量には個人差があり、それは訓練で増やせるが、まだ初心者のミュレットには、一日数発の火球を撃ち出すので限界だった。

 よく勘違いされるのだが、魔力を失っても急にふらついて倒れたりするわけではない。そうでなければ、アルがこうして普通に立っているのもおかしいということになる。

 全部の魔力を使い切るというのは、そもそも無理な話で、完全に枯渇する前に、無意識に身体がブレーキをかけるようになっている。

 徹夜を無理やり続けようと頑張っても、限界がくれば自動的に意識を失うのと似たようなものだ。人間の身体は、ちゃんと機能するように上手くできている。

 それであればなおさら、アルの身体が異常なく動いてるのが不思議なのだが、もともと魔力を持たないということは、そもそもの構造からして違っているのだろう。というのがアルの見解だ。

「それじゃあ、今日はいったん終わりにして、うちに帰ろうか……きっとママがおいしいご飯を用意して待ってるよ」

「うん、そうね」

 二人は仲良く手をつないで、我が家へと帰るのだった。





 一週間が経って、ミュレットの魔法制御もだいぶ上達してきた。なおもアルの指導は続く。目標とするのは、アルがいなくてもミュレット一人で自分の身を守れるようにすることだった。

 アルにとってミュレットもミレーユもすでに大切な家族となっていたし、絶対に守りたい存在だった。なにせあれほど居心地の悪かった実家と比べれば、ここは天国のようなものだったから。

 だがそうといっても、この先何年も四六時中、ミュレットのそばにいて守っていられるわけでもないだろうから、アルとしてはそれだけが気がかりだった。

 ミュレットに魔法の才があったことは、アルにとって僥倖といえよう。

 訓練は既に実地での実践にまで及んでいた。あまりのミュレットの上達ぶりに、アルもしぶしぶ実戦を許可したのだった。

「よし! いいぞミュレット! いまので十匹目だ」

 二人は森の中を駆け回りながら、スライムや化けネズミなどの弱めの魔物を片っ端から狩っていく。村の周辺を常に狩り続けないと、安心して夜を過ごすことができない。

 ゴブリンなどのある程度知能の高い魔物であれば、一度懲らしめてやれば人間の縄張りだと理解し、暫くはやってこないのだが、スライムなどは別だった。

「アル! そっちに行ったわ!」

「ようし、任せろ!」

 こんなふうに二人して狩りを行っていると、一人のときよりはるかに効率がいい。おかげで魔物掃除はスムーズに進んでいき、本来なら一日かかる分を半日でさばけるようになった。

 そんな調子で毎日暴れてるうちに、一ヶ月で村の周辺の治安はだいぶ回復した。

「これならしばらく狩らなくても、当分魔物が湧くことはないだろう……」

「そうね、久しぶりに家でゆっくりしたいわね……」

 アルについていけば、ずっと一緒に過ごせるからと狩りに同行していたミュレットだったが、その実態はそんな甘ったるいものではなく、毎日森の中を筋肉痛になるまで泥まみれで走り回らなくてはいけなかったので、ほとほとうんざりしていた。

(こんなことなら……軽々しく付いていくなんて言わなければよかったかも……)

 でもまあ危険を共にしたことで、絆はより深まった気はする……とミュレットは自分に言い聞かせる。

 だがそんな淡い期待もつかの間、二人が帰還するのを、待ち受けていた者があった。

 村の若い衆、特に男を中心としてだが、彼らはアルが帰還するなり真剣な顔つきで詰め寄ってきた。

「なあ、アル! 俺たちにも剣術を教えてくれ!」

「……え!?」

「ミュレットにいろいろ教えてるんだろ!? だったら俺たちにも訓練つけてくれよ! なあいいだろ? 俺たちだって自分たちの村を守りてえよ」

 周囲に知れたらこうなることは、アルもあらかじめわかっていた。それだから森の中でこっそりと二人だけで訓練していたというのに――どうやらここ最近派手に暴れすぎたのが原因だ。

 だが彼らの主張ももっともだ。ミュレット一人に村の防衛を担わせるわけにもいかない。アルとしては無暗に前世の知識をひけらかして、混乱を招くことは避けたかったが、こうなってしまっては仕方がないだろう。

「まあ、そうだね……僕としても正直そのほうが頼もしいしありがたい。よし、じゃあ明日からみんなでやろうか!」

 責任重大だな、と胃が重くなるのを感じながらも、アルは承諾する。

「やったぁ! これで俺たちも村の役に立てるな! それに、いざとなればアルに恩返しできるかもしれねぇ! みんな、気張っていくぞ!」

 と、若者たちは大はしゃぎ。

 唯一ミュレットだけが、面白くないという感じでむくれていた。アルの袖を引っ張ってアピールするも、無神経な彼はなんのことだかさっぱりなのであった。
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