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忌み子編
13.忍び寄る追手【視点移動あり】
しおりを挟むアルが村の者たちに教えたのはもっぱら剣術だった。魔法の習得にはそれこそ大量の時間を要するし、なにより適正も重要となってくる。もちろん基礎は教えるが。
ミュレットなどは本当に例外中の例外で、他の子供たちは体内の魔力を意識するのでも精一杯だった。
それでも何人かは筋のいいものがおり、彼ら彼女らには別途指導がなされた。
「じゃあまずは一日五千回素振りしてもらうから」
「え……アル、それ冗談だよな……?」
広場に集まった訓練希望者たちはみな一様に顔を見合わせた。
「冗談じゃないよ。さっき教えた通りに効率よく振れば、そんなに時間はかからないはずだ。それに、魔力のない僕と違って、みんなはちゃんと魔力でブーストしてやれば、簡単なはずだよ」
アルは何でもないことのように言ってのける。
「ま、まじかよ……アル先生スパルタすぎるぜ……」
軽い気持ちでやって来た者も中にはいて、彼らは嘆息ののち肩を落とした。
「アルの指導は厳しいからね! ま、私はすぐに魔法が使えたからそれほど苦労はしなかったけど」
ミュレットが得意げに自慢する。アルを独り占めできなくなった苛立ちで、せめて先輩風を吹かせないでいられないのだった。
「あ、もちろんミュレットもやるんだよ……?」
「……へ?」
「魔法はだいぶものになってきたからね……あとは独学でも自然に伸びていくだろうし。いざというときにはやっぱり剣術もできた方が便利だからね……!」
満面の笑みで無邪気にそう言い放つアルに、周囲は恐怖を覚えた。さすがのミュレットも苦笑い。だけどやっぱりアルの言うことだから、しぶしぶ従うのであった。
ただの村人に施す訓練としては、だいぶ常軌を逸したものであることはみな薄々感じていた。当のアル以外は、だが。
アルのような修羅にとって、この程度の訓練、ほんとうになんてことのないものなのだ。
見る人が見れば、最強の精鋭を育てる軍事施設かと思うようなスパルタ訓練は、アルの自覚なしにどんどんと大げさなものになっていく。
そしてその様子を草葉の影から見て、戦慄するものがいた。
「な、なんだあのガキども……? こりゃあエライことになりそうだぞ……」
◇
時は数日前にさかのぼる。アルが脱出したカイべルヘルト家では、アルを逃したことによって憤慨している者が二人。
ギサナン・カイべルヘルトとその息子、ジーク・カイべルヘルトである。
「あのバーナモントのクソガキ、一度ならず二度までもジークに手をあげるとはな……! 許せん、今度見つけ出したらはらわた引きずり出して、実家の門前に晒上げだ!」
「お父様、落ち着いてください……。すべてはこのジークの不徳の致すところです。奴の可憐な見た目に惑わされて、油断を見せたこのわたくしが……。くそぅ! あの悪魔め! 次に出会ったら俺自らが必ず犯して殺して……ぐっふっふっふっふ……ああ、楽しみだなぁ……探しに行った使用人たちの報告を聞くのが楽しみだ」
ジークがゲスな笑いを遠慮なくこぼすので、使用人も、親であるギサナンでさえも若干顔が引きつる。
普段プライドの高いジークがここまで平静を崩すなんて。それほどまでにジークの怒りは大きかった。
「それに、うちの大切な剣も盗まれたというじゃないか!? 剣聖エルフォの剣――エルマキドゥクスのレプリカは、あれはめちゃくちゃ高価なものだったのだぞ!? それをみすみす小僧に盗られるなんて、うちの警備はどうなっているんだ!」
ギサナンが憤慨して言った。
「おい! そこのお前! 現在の状況はどうなっている!?」
ジークが部屋にいた適当な使用人に怒鳴りつける。カイべルヘルト家の使用人はみな同じ服装、同じ髪型をしており、ただ使用人とだけ呼ばれ、なんら個別の特徴を持たない。
さらに全体で情報を細かく共有し合っているので、どの使用人に尋ねてもおおよそ結果はおなじなのだ。
「は! 最後にアル・バーナモントを見た者の情報をもとに、屋敷より西方向を中心に捜索を進めております」
「西ィ? なるほど、そうか……確かに西に行けば海があるしそこから大都市に出られる。なかなか合理的な判断じゃないか……くっくっく、だけど西側には我らカイべルヘルト家に所縁のある貴族がごまんといる! 情報や協力者には事欠かないぜ!」
「ええ、ジーク様のおっしゃる通りです。奴は我々の手のひらで踊っているに過ぎません。見つかるのも時間の内でしょう……」
「だが、その情報は確かなのか……? その使用人を疑う訳ではないが……西に行くと見せかけて他の方角に行ったのかもしれないではないか! アレは想像以上に頭のキレるガキだぞ。それくらい巧妙に策を練ってきてもおかしくはない……」
ギサナンが鋭い考察を落とす。
「ええ、もちろんそれも考慮しております。念のために他の方角にも偵察を行かせております故、万が一にも捕り逃すことはございません!」
「がっはっは、さすが我がカイべルヘルト家が誇る使用人たちだ! ぬかりないな」
◇
草むらからアルたちを観察している男の正体は、言わずもがなカイべルヘルト家の使用人である。
彼は北を担当する偵察隊の一員で、単独行動中に村を発見したのだ。
巨万の富と権力を誇るカイべルヘルト家といえど、その使用人の数には限りがある。所詮は田舎貴族の中の王、無限に人がいるような都会とは話が違う。
北側を探索していた彼らは、森林地帯のあまりの広さに、ある程度手分けして捜索することを選んだ。はぐれたりしては困るので、時間を決めて――もしくは標的を発見した場合には――集合地点に集まることになっている。
男は村の子供たちがその年齢や境遇に似つかない高度な魔法や剣技を特訓しているのを見て、これはなにか訳があるなと考えた。
標的であるアル・バーナモントが一枚噛んでるにせよ、そうでないにせよ、一度情報を持ち帰る必要がある。
「これは、大変なことになったぞ……!」
そうと決まれば急いで集合地点へ戻らねば――村からカイべルヘルト家へまでは三日ほどかかる。それに森は広大で入り組んでいるため、村の位置を忘れないうちに帰らねばならない。
男は踵を返すと、音を立てないように、されど速足で仲間のもとへ向かう。
「……っはぁ……はぁ、はぁ」
村からもうだいぶ離れただろうか、振り返れど見えない。男は頭の中で位置を再度確認する。
「よし、まだ覚えてる。これでジーク様を村に連れていける……」
男が再び走り出したそのとき、頬に鋭い切れ込みが入る。
――ツー、っと赤い血が垂れる。
突然の襲来に男はごくりと唾を飲み込むと、その次には死を覚悟した。
(なんだ……今の攻撃……何も見えなかったし何も気づかなかった……)
次の瞬間、男は首筋に冷たい感触が突きつけられているのに気づく。
「振り向かずに質問にだけ答えろ……」
男の後ろから、姿の見えない襲撃者の声がする。
「わ、わかった……」
「お前はカイべルヘルト家の使用人か……?」
「そ、そうだ」
「目的は……?」
「アル・バーナモントの捜索だ」
「そうか……なら、帰すわけにはいかないよなぁ……」
「え、それってどういう……?」
男が振り向こうとするが、それは叶わない。
それより先に、男の首が地面に斬って落とされる。
「だから振り向くなって言ったのに……」
アルは一切の躊躇なく、男を亡き者にした。
剣聖の生活は修羅そのものだった。戦いに明け暮れる日々。
もちろん殺すのは敵対する国の者ばかりだ、基本的には。それでも彼が剣聖と呼ばれるまでには、幾多の困難があった。必要に応じて、罪のない者を殺すこともあり得た。
この世界で剣を握って生きるものが、大人になっても殺生をしないですむことなどほとんどない。今でこそ情勢は落ち着いてはいるが、とくにアルがエルフォとして生きていた時代においてはそれが顕著だった。
「はぁ……もうここも見つかってしまったか……」
動かなくなった男を処理しながら、アルはひとりごつ。
「この身体になってからは、こういう物騒なことはしたくなかったんだけど……村の人に迷惑をかけるわけにもいかないし……困ったなぁ……」
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