14 / 56
忌み子編
14.村を出よう
しおりを挟む「……と、いうわけなんで、僕、村を出ます!」
「……はぁ!?」
村長の家、兼集会所となっているその場所で、アルの突然の告白に、村人全員が異口同音に驚いた。
「前にも話した通り、一応僕は追われる身なんですよ……僕としては大好きなこの村に面倒事を持ち込みたくはないんで、とりあえず出ていくことにしました」
村人たちは納得がいかない様子で、
「何言ってるんだ……!?」
「そうよ、そうよ、迷惑だなんて気にしなくてもいいのよ! アルはもうみんなの家族なんだから」
「そうだぜ! そんな奴らが来ても、俺たちがぶっ飛ばしてやるよ!」
アルに師事している子供たちが、威勢よく立ち上がった。
「ははは……気持ちは嬉しいんだけどね……。そのへんの魔物ならともかく、相手は貴族の一家だし……まだ君らには勝てない相手かな……数も多いしね。それに、貴族に逆らったりなんかしたら、それこそこの村はどうなるかわからない」
「そんな……、他に方法はないの?」
「そうだな……まあ奴らがここにやってきても僕が居なければそのうちほとぼりも冷めるだろう。そしたら、また帰ってくることにするよ」
「絶対だぞ!?」
「僕がいない間、村の防衛はみんなに任せたよ。もう君たちだけで下級の魔物くらいなら倒せるはずさ!」
そのような一幕があり、村人はみなアルとの別れを惜しんだ。
また宴会が開かれ、それぞれに言葉を交わし合った。
唯一ミュレットだけがいまだ口を開かないままいるのだった。
「ミュレット……?」
家に帰り、家族だけになっても口を開かないものだから、アルも心配して声をかける。
「私、アルと離れるのいやだよ。せっかく家族になれたのに……」
ミレーユも心配そうな目で二人を見つめる。
「離れるといっても、またすぐ帰ってくるよ。ちょっとの間、身を隠すだけさ」
口ではそう言うものの、やはり村にこれ以上の危険を持ち込むのは絶対に避けたい。そういう思いで、アルは戻らないつもりでいた。それをいっしょに暮らしてきたミュレットだけは見抜いていたのかもしれない。
「嘘よ……」
「ほんとさ……」
「じゃあどうやってほとぼりが冷めたことを知るっていうの? いつのタイミングで戻ってくるっていうの? 一年後? 二年後? それとも十年後? まさか永遠に戻らないっていつもりじゃないかしら!?」
いまにも泣き出しそうなミュレット、そして図星を突かれた顔のアル。
見かねたミレーユが助け舟を出した。
「近くの大きめの街に、親せきのおばさんが住んでるから、そこを頼ればいいわ。そこなら手紙のやりとりもできるし、私が知らせるから……」
「そうね、それならアルが逃げそうになってもわかるから、安心だわ……!」
「いやいや、そこまでしてもらうわけには……」
そんなことをされては、余計に村を離れ辛くなる、とアルは首を振る。
「アル……!」
ミレーユが有無を言わさぬ表情でにらみつけると、アルは一瞬にして態度を変えた。
「はい」
「なぁに? アルったら、私の言うことは聞けないのに、ママに睨まれたらなんでも頷いちゃって……なんだかおもしろくないわ!」
ミュレットが拗ねてむくれる。いつものことだ。
「アルはママには頭が上がらないのよねー?」
ミレーユが面白がってアルをつんつんつついた。
「は、はい。それはもう……」
そう、例のあの日以来、いまだにアルはミレーユに逆らえないでいる。
◇
アルが村を離れるまでにはまだいくらか猶予がある。カイべルヘルト家の使用人が、仲間が帰ってこないことを不審に思い、屋敷に帰って報告するまでには三、四日かかるだろう。
そこからカイべルヘルト家の者たちが再びこの村の所在を突き止め、実際にアルを探しにくるのは、一週間は先のことになる。
それまでにアルは、できるだけ村の者を強くしようと考えた。
もちろん追手が村に到着したときにはアルの痕跡は何も残っていないはずだが、万が一ということもある。村人を鍛えておいて損になることはない。
訓練のさなか、アルは一人の少年に向かって歩いていく。
少年は素振りの途中で、後ろから近づいてくる彼の気配に気づくそぶりもない。
近づいて行って、肩に手を置く。
「村のこと、それから……ミレーユやミュレットのこと、頼んだよ」
アルは一番信用の置ける友人にそう告げた。
彼はナッツといって、これまたアルと同年代の村の少年だ。
ナッツは剣術で抜きんでた成績をあげ、その熱心な姿は、アルに一目を置かせた。
彼は振り返り、
「おう、まかせておきなよ! 安心してアルは街に行って隠れてろ」
彼らが仲を深めるに至ったのは、ナッツがアルにある相談を持ち掛けたことがきっかけだ。
これは数週間前、まだ彼らが戦闘の訓練を開始する前にまでさかのぼる。
「アル、ミュレットを助けてくれたこと、本当に感謝しているぜ?」
それは村人全員の思いと同じだったが、ナッツは特にそう思っていた。というのも、それは彼が幼いころからミュレットに思いを寄せていることに起因する。
「君は、確か……ナッツだったっけ?」
彼らは軽く自己紹介の挨拶を交わした。
「アルは、今はミュレットんちでいっしょに暮してんだよな……?」
ナッツはあくまで淡々として告げた。そこに嫉妬の感情は入り混じっていない。ミュレットとアルはまだ知り合って日も浅く、一つ屋根の下に暮らしたとてどうこうという感じでもなかったし、なにより、アルのその可憐な見た目が、ナッツのライバル感情を殺したのだ。
「まあ、そうだけど……それがなにか?」
「オレ、実は昔っから……ミュレットのことが好きなんだよな……だから、その……お前にいろいろ協力してもらいたいと思って……」
「ふむふむ。なるほどー……そういうことか……」
アルは興味深そうに、ニヤニヤとナッツを見つめる。剣聖エルフォとしての生活は、色恋とは無縁のものであったため、こういったイベントはアルにとってとても新鮮で懐かしいものに感じた。
もちろん剣聖に言い寄ってくる輩は腐るほどいたが、そのどれもが、名声や金や、その他もろもろの薄汚い欲望を元にした動機の者だったので、こういったピュアな恋愛感情とはほとほとご無沙汰だったのだ。
「な、なんだよ……そんな茶化すことないじゃんか……!」
ナッツはアルの冷やかすような反応をみて、顔を赤らめる。
「いや、わるいわるい。そういうつもりじゃなかったんだ……。まあとにかく、僕は君とミュレットがくっつくようにアシストをすればいいんだね? 恋のキューピットというわけだ」
「お、おう。頼めるか?」
「任せておきなよ!」
アルは満面の笑みで無邪気にピースした。
こうしてナッツはアルへの牽制に成功し、アルは愚かにもミュレットの恋心に気がつかないままなのであった。
アルがミュレットを異性として意識するようになるのは、まだ先のこと。
23
あなたにおすすめの小説
元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。
しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた!
今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。
そうしていると……?
※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい
桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる