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忌み子編
26.それから【視点移動あり】【ざまぁ】
しおりを挟むアルに敗れたジークは、森を一人で彷徨っていた。
ほぼ廃人状態の彼が保護されたのは、それから3日経ってのことである。
カイべルヘルト家の執事たちにより、屋敷に連れ戻された彼は、もはや以前とは別人だった。
自分のすべての権力をもって挑んで勝てなかったのだ。
それに、目の前で怪物を目にして、完全にあてられてしまった。
もはやアルに抱く感情は、憎しみではなく畏怖や畏敬の念に変わってしまっていた。
「うちのジークをこんなにして! 許せん! やはり許せんぞあのアル・バーナモントとかいうクソガキ!!」
ギサナン・カイべルヘルトは、変わり果てた息子を目の当たりにして、発狂した。
すぐに再びアルを追い、殺すように命じるも、使用人の一人が申し訳なさそうに答えた。
「その……もはや戦える使用人がほとんど残っていません。アダマンタイト製の鎧も無くなってしまいましたし、経済的損失も馬鹿になりません……。正直、これ以上は無理かと。いえ、無謀です」
「経済的損失? 金ならいくらでも出すから、新しく手練れを雇え!」
「ですから、その……お金が……」
「は?」
使用人が帳簿を見せると、ギサナンは凍り付いた。
剣聖の剣エルマキドゥクスのレプリカ。
それからアダマンタイト製の鎧。
新しく雇い入れた戦闘用の使用人の給料。
使用人を遠征させ戦闘させたことによる兵の維持費や人件費。
あとは死んだ使用人に対する補填。
それらすべてを合算すると、とんでもない額が表示されていた。
「な、なんだこれは……」
くらっとした眩暈とともに、ギサナンは意識を失ってその場に倒れた。
◇
一方でその後、アルの実家がどうなったか。
ベラはもちろん投獄された。
ナッツを殺害したこと、村を襲ったことが主な罪だ。
「やめろ! 放しなさい! 私はアルに、弟に復讐をするのよ!」
憲兵たちがベラを引き取りにきたが、彼女はそう言って激しく抵抗した。
村人たちも協力して、柱から引きはがし、ようやく憲兵たちに引き渡すことができた。
憲兵たちが連行していくさなかも、
「くそう……どうして私が……こんなことなら私ではなくお姉さまに行かせればよかった……」
などとぶつぶつ呟いていたのだという。
牢獄に着き憲兵が、
「さぁついたぞ、今日からここがあんたの住まいだ」
といってベラを牢屋に突き飛ばした。
「ちょっと、なにするのよ、私はこれでも貴族のレディなのよ!? 丁重に扱いなさいよ」
ベラはまだ自分の置かれた状況に納得がいっていないのか強気な口調で歯向かった。
だがそこは無法地帯である監獄だ。
そこでは看守たちが絶対のルールで、彼らにかかればどんな些細なことでも罪とみなされる。
逆に言えば看守の行動はどんなに行き過ぎたものでも罪とはならない。
「へっへっへ、生意気なオンナだとは思っていたが、こう暗がりだと顔もよくわからねえな。いちおう貴族の端くれだからいい匂いはするし……まあ退屈はしねえかな……」
看守の一人がニヤニヤとした視線をベラに向ける。
「ちょっと、どういうつもりよ? あなた看守でしょ……? そんなことしてどうなるかわかっているの?」
「さあて、どうなるんだろうねぇ?」
看守はそう言って、他の看守たちを牢屋へと招き入れた。
やがてベラの独房は屈強な男たちでいっぱいになる。
その後彼女がどうなったかは言うまでもない。
◇
さてそのもう一方で、姉キムと父ラドルフについてはどうなったか。
彼らもまた、悲惨な目にあっていた。
「そんな……ベラが投獄されたですって……」
妹の投獄を、役人から知らされて、キムは意気消沈した。
(くそう……あの馬鹿妹め、使えないわね……アルのやつ、ますます許せないわ)
「とにかくそういうわけですから、お気をつけて……」
役人はそれだけ言い残すと、帰っていった。
(気を付けて……? いったいなんのことだというの……?)
その答えはすぐにわかることになる。
翌日キムが街を歩いていたときのことだ。
「人殺しの姉よ……!」
「この街から消えてほしいわ……」
すれ違いざまに、そう言われたのだ。
相手は口元を抑えていてよく見えなかったが、この街に住む人物でまちがいない。
きっと交流もあった人物だろう。それだけに、心変わりの早さと、その非情な社会性にはキムもショックを受ける。
「くそ……私がなにをしたっていうの……!?」
居心地が悪くなってすぐに家に引き返す。
家に帰ってから庭先で掃除をしていると、キムの頬を突然なにかがかすめた。
「っつー……?」
見るとそれは小石だった。小石は頬をかすったあと、窓ガラスを突き破り部屋へと侵入した。
小石を投げた方を見ると、小さな人影がクスクスと笑いながら逃げていくのが確認できた。
(クソガキめ……)
おそらくは近所の子供が親が話しているのを聞いてやってきたのだろう。
バーナモント家はいまや村八分にされているのだ。
これは引っ越しをよぎなくされるかな、とキムがぼんやりと考え出したころだった。
ラドルフがキムに黙ってなにやら大荷物を持って家を出ようとしていたのだ。
荷物が大きすぎて、扉に引っかかっているところを、キムに発見されてしまった。
「お父様……!?」
「ふん、キムか……そんなところで突っ立っていないで手伝え」
キムが後ろから押し出すかたちで、ようやくラドルフは扉を抜ける。
「そんな大荷物を抱えて、いったいどこへ行くというのですか?」
「そんなこともわからんのかお前は、やっぱりお前たち娘はアルとちがって出来損ないだな……」
その言葉にキムは怒り心頭。
「またアルですの!? アル、アル、アル、アル、お父様はいつもそうやって……!」
「そりゃあそうじゃ、お前たち姉妹はマリアの子じゃないからな。使用人を孕ませてしまったときにできた子だ。まあマリアはそれでもお前たちを愛してはいたがな」
「そんな!? だって……、え?」
突然、驚愕の事実を突きつけられ、キムは思考が停止する。
「当たり前だろう。お前らも鏡で見たことくらいあるだろう。お前たち姉妹と、アルやマリアとではぜんぜん似ても似つかんではないか……はぁ……」
「そんな……そんな……うそでしょ……?」
「まあわしはもうこの家を出ていくからな、あとは好きにしろ。この家はもう売って、わしの今後の生活費の足しにしたからな。じゃあな」
ラドルフはそう言ってそうそうに引き上げようとする。
「それじゃあ私はどうすれば……!?」
「どうもこうもない、お前はもう大人だろう。好きに生きろ。それかそこいらで野垂れ死ね」
残されたキムはしばし放心状態。
ラドルフ・バーナモントはなんともひどい人間である。
「っふっふっふ……ふははははっははははははは」
そしてキムは狂気の笑いを一人上げる。
その後彼女は家もない、金もない状態で街を彷徨う羽目になる。
とりあえずアルやラドルフに復讐しようという気はいまのところはない。
それよりも生活を立て直す必要があった。
だがそれでも、いつかは復讐してやるという野心だけはいつまでもキムの心に残った。
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