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忌み子編

25.戦いのあと

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 ポコット村は勝利の宴をもよおしていた。

 例によって村人たちが集まって、酒を飲み、賑やかに騒いでいる。

「やっぱアルはすごいなぁ。アダマンタイト鎧に勝っちまうなんて」

「剣だけじゃなくて魔法まで使えるようになっちまったらいよいよ最強だな」

「アルのおかげで村は平和になったよ」

 みんな口々にアルへの称賛を口にする。

「いやぁもともとは僕のせいでこうなったわけだから、なんてことないよ」

 アルはなんだか照れくさかった。

「そういえば、あのジークとかっていう貴族の坊主はどうなったんだ? まさか殺しちゃあいねぇよなぁ? まだ子供だったし……」

 誰かが気にして訊ねた。

「なんか気がついたら絶望した顔で森の中へとフラフラと消えちまったぜ?」

「ふーん、おとなしく敗走したってわけか……。ま、もう戻ってこねぇならどうでもいいけどよ」

 村人たちの会話によると、どうやらジークは廃人となって行方不明のようだ。

 アルとしてももう十分こらしめたから、これ以上どうこうする気はなかった。

「アダマンタイト鎧はどうなったんだ? あんなもの村に置いてあったらじゃまでしかたねぇ」

「ああ、あれはカイドさんに引き取ってもらいましたから大丈夫です。なんだか武器の素材に使えるそうなので……」

 みんながそうやって話していると、遠くから近づいてくる見知らぬ人間がいた。

 なんだかボロボロの服装で、やつれた女の人だ。

 アルは最初それが姉のベラだということに気がつかなかった。

「おーいアル、なんだかお前の姉だとかいう人が来ているぞ」

 村人の一人が彼女をここまで案内してくれたようだ。

「姉さん!?」

「久しぶりねアル」

「どうやってここに!?」

「カイべルヘルト家のやつらを追ってきたのよ」

「でもどうして? 僕になにかようですか?」

「あんたがいなくなってから、お父様はすっかり老け込んでしまって、うちは大変な状況なのよ。お金もなくなっていくし、家事をする人はいないしで」

「で、それで僕のところへきたと?」

 ずいぶんと都合のいい話だ、とアルは思った。

 怒りをこらえつつ、姉の顔を見やる。

「特別に家に戻ってきてもいいわ。本当はあんたの顔なんてもう見たくないけど、家事をやるというのならずっと置いてやってもいいわよ」

「それで僕が家に戻るとでも?」

「なに? 私に歯向かうというの?」

「当然です、あなたたち家族が僕にどんな仕打ちをしたか覚えてないんですか?」

 アルの中で、あのつらい日々がよみがえる。

 ベラは本気でなにが悪かったかわかっていない様子だ。

「あんったねぇ! 大人しく私の言うことを聞きなさい! この薄汚い忌み子が!」

 ベラは豹変してアルに怒鳴りつけた。

 これはひと悶着ありそうだな、とアルが思って身を構えた矢先。

 村人たちがアルの目の前に立ちはだかった。まるでアルを守るようにして。

「あんた、アルの姉だかなんだか知らねえが……、お引き取り願おうか」

「な、なによアンタたち……ただの村人のくせして! 貴族のあたしに歯向かうっていうの!?」

「ああ、アルはもうここの家族なんだ……! あんたには絶対に渡さねぇ!」

「……っ!」

 ベラは歯噛みしてわなわなとしはじめた。

「いいわよ……私を見捨てたこと、地獄の果てで後悔しなさい……」

 そして捨て台詞のように言い放つと、その場を後にしようと背を向けた。

 いちおうの解決はしたようで、村人たちもほっとして自分たちの席へと戻り始める。

 アルももはや見苦しい姉になど興味はなく、そっぽを向くように姉へ背を向ける。

 だがそれを見計らって、ベラは再びアルへと向き直った。

「……っ、とでも言うと思った!? この私が! あんたを絶対に殺すううううう!!!!」

 そして発狂して、アルへと襲い掛かる!

 その手には刃物が握られている。

 刃物の先には誰がみてもわかるくらいに、たっぷりと毒が仕込まれていた。

 さすがのアルでも、毒に侵されれば、なす術がない。

 そしてこの不意を突いた攻撃に、アルの対応が遅れる。

 思えば前世で死んだときも同じように不意打ちでの死だった。

 もはやこの攻撃をアルが自力で避けることなど不可能! 

 咄嗟に気がついてそれを見ていた者はみなそう思っていた。

「アル! あぶない!」

 叫んだのはミュレットだった。

 咄嗟に火球を放つも、それがベラへと当たるのはおそらくアルが攻撃を受けたあとだ。

 ベラのナイフが容赦なくアルへと迫る。

 そしてナイフはそのまま肉を引き裂いた。

 だがそれはアルの身体ではなかった!

「へへへ……俺さまがいる限り、アルに手は出させねぇ……」

 アルの代わりに、そこに割り込んで、身をていして犠牲になったのは、村の少年ナッツだった。

「ナッツ!?」

「そんな……」

 アルとミュレットがともに驚愕して涙を流す。

「あ……わたしはそんなつもりでは……」

 ベラも我に返ったのか、おろおろしはじめた。

 それを見逃さず、村の若い男衆がベラを取り押さえる。

 アルたちは毒ナイフを受けたナッツへと駆け寄る。

「ナッツ! 大丈夫か!」

「ばっか、大丈夫なわけあるかよ、毒が回ってもううまく喋れねえ……」

「そんな……どうして、君が……」

 アルはナッツの手を強く握る。

 脈がどんどん弱くなっている。

 村には医者はいない、彼はもう助からないだろう。

 みんながそう思った。

「俺はアルを守れたならそれで満足だ……。なぁ、アル、耳をかしてくれ」

「こんな時になんだ」

「いいから」

 アルが耳を近づけると、ナッツの弱弱しい呼吸が聴こえ、そのあとすぐに彼はこうつぶやいた。

「ミュレットを、頼んだぜ……」

 そうして彼は息を引き取った。

「ナッツうううううううううううううううううううう!!!!」

 アル、号泣。

 こうして尊い犠牲をうんで、物語はひと段落するのだった。

 ベラはその後投獄された。

 ナッツは村に像が建てられ、みながその死を悲しんだ。

 像には「ナッツの墓」と書かれている。

「ナッツ……、彼は勇気があって、優しい男だった……」

 アルとミュレットはその墓の前で、涙をこらえて立っている。

「そうね、いいひとだったわ……」

「彼はミュレットのことが好きだったんだ……」

「……」

 ミュレットは何も言わなかった。

「それなのに……」

「ねえ、アル……」

 ミュレットが急にアルの手を握った。

「……?」

「私はアルのことが好きよ……」

 ミュレットは頬を赤らめて、上目遣いでアルを見つめてそう言う。

 アルはそれを黙って抱き寄せ、唇にキスをした。
 
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