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学園編

1.入学式

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 アルとミュレットは15歳になった。

 15といえば、魔剣学校に入学できる歳だ。

 魔術を極めたいと思っていたアルが興味をもつのは当然だった。

 ミュレットもアルが行くとなれば当然ついていくと言い出した。

「そうねぇ……心配だけれど、まあアルがついているもの。大丈夫よね」

 ミレーユもしぶしぶ了承した。

 二人は入学の準備を整えると、街を出て王都へと歩を進めた。

 王立魔剣学院は国一番の優秀な生徒たちが集まる難関学校。

 それでもアルは必ず入学できる自信があった。

「まあ僕とミュレットなら大丈夫だよ」

「そうかなぁ、だって私、他の人がどのくらい魔法をつかえるのかとか全然知らないし」

「うーん、まあミュレットほどの使い手はほとんどいないと思って大丈夫だよ」

「えー、ほんとにぃ?」

 王都に入って、学校までの道のりを、二人はそんな会話をしながら歩く。

 すれ違う人々はみな同年代の少年少女たちで、おそらく彼らも受験者だろうと思われた。

「おいおい、えらく自身満々な奴らだな……」

 すれ違いざまに、金髪の鋭い目をした少年が声をかけてきた。

 どこかの貴族のお坊ちゃんと思われるその少年は、どうやらアルたちの会話が気に入らなかったらしい。

「や、やあ、僕はアル・バーナモント。こっちはミュレット・バーナモント」

 アルはとりあえず初対面の相手に自己紹介する。

「ふん、俺はグリシャ・グリモエル。まあ馴れ合うつもりはないがね」

 グリシャと名乗った少年は、愛想悪く会釈すると、速足で人ごみに消えていった。

「なんだか変な奴だったわね……」

「ま、まああまり仲良くなれそうなタイプではないかもね……」

 そうこうしているうちに、学校へとたどり着く。

 校門の前には多くの受験者たちが集まり、そわそわと小声で話をしている。

 髭をまっすぐ垂直に垂らした長身の男が来て、

「静粛に」

 と言うと、一斉に静寂が訪れた。

「私は教頭のキール・ニクモエル。これから試験の説明をします。どうぞよろしく」

 彼はそう名乗ると、どこからともなく水晶を取り出した。

「これは魔力測定器です。これで魔力量を測り、それによってクラス分けをします。なぁに、簡単なことです。試験はすぐに終わりますよ」

「ギク……」

 魔力量の測定、それはアルにとってはなによりも避けたいことだった。

「ええ、心配しなくてもここにいる全員が入学を許可されます。その魔力の量にかかわらず……ね。それでも数日もすれば、半数以上が脱落していきますから……」

 教頭によると、どうやらこの試験において失格というのはないらしい。

 だが数日のうちに半数が脱落するとはどういうことだろうか……。

 もしかかすると、入学してからの授業がそれほど厳しいということだろうか。

 アルはとりあえず入学できそうだと安心するも、別の不安を感じるのであった。

「それでは、一人づつ、前へ」

 先ほどすれ違った金髪の少年――グリシャ・グリモエルが前に出る。

 彼が水晶に手を伸ばすと、水晶は赤く光った。

「おお! 君はAクラスです。素晴らしい」

「ふん、余裕だぜ」

 グリシャはAクラスの制服を受け取ると、案内され別室へと消えていった。

「次は君だ」

 ミュレットの番になった。

「アル、お先に行ってくるね」

「うん。頑張って」

 ミュレットが前に出て、水晶に手をやると、こんどは紫に光った。

 紫といってもただの紫ではなく、深淵のような深い深い色。

「おおお!! これは素晴らしい。あなたはAクラス! 本当ならそれ以上ですが、一年生はAクラスまでなので……。なぁに、あなたほどの魔力なら、すぐに飛び級もできますよ」

「えへへ」

 ミュレットにみんなの注目が集まる。入学前からそうそうに目立ってしまったようだ。

 ミュレットは赤くなって照れる。だが自分の結果に満足そうな表情を浮かべる。

「さすがミュレットだ……」

「次!」

 アルの番がくる。

(ようし……なんとかなるといいけど……)

 おそるおそるアルが水晶に手をやる。

 しかし水晶は何色にも光らない。無色透明を保っている。

「……ん?」

 教頭が首を傾げる。

 みんな何事かとその様子を見つめる。ミュレットとは別の意味で目立ってしまっている。

「おやおや、どうやら故障のようですかね……? 試しに私がやってみましょう」

 教頭が代わりに水晶を持つと、水晶は緑に光った。

「おや? 故障というわけではないようだ……」

「あの、その……」

「ん? なんだね?」

「大変言いにくいんですが、僕は魔力ゼロなので、それが正しい反応かと……」

 アルが言った言葉を、教頭は理解できなかったようで、

「は?」

 教頭と同じく、その場にいた誰もが耳を疑った。

「つまり、君は、魔力も持たない異常な身体なのに、魔法を学びたいと……?」

「ええ、まあ」

「「あっはっはっはっははっはっはっは」」

 会場にいたみんなが一斉にアルを嘲笑する。

(はぁ……やっぱりこうなるか……やれやれ)

「静粛に!」

 教頭が慌ててみなを止める。

「ま、まあ……君の入学はとりあえずは許可します。まあ一日も待たずして退学になるでしょうがね……。うちの授業は実力主義なので、そんなには甘くありませんから。とりあえずFクラスです」

「あ、ありがとうございます」

 アルは最悪入学できないことも考えていたから、これには驚いた。まあすんなり入学できてよかったとほっと胸を撫でおろす。

「ちょっと待ってください!」

 だが意義をとなえたのは、他でもないミュレットだった。

「ミュレット!?」

「な、なんだね君は?」

「ここって、魔剣学院ですよね? 魔法と剣の学園なはずです。それなのに魔法の適性だけでクラスが決まるなんておかしいです!」

「ふん、剣は入学後のカリキュラムでいくらでも実力を伸ばせるのだ。問題は魔法の才能だよ。魔法の才能がなければ、いくら剣を磨いても意味などないのだから」

(っく……)

 アルは小さく歯噛みする。

「じゃあアルと教頭先生で勝負して、アルが勝ったらAクラスにしてください!」

「なに!?」

 アルはなにを勝手なことをと思うが、どうしようもない。ミュレットは一度言い出したらとことん頑固なのだ。

 いったいなにが彼女をそれほどまでに駆り立てるのだろうとアルは疑問だった。

「ふん、なにを馬鹿なことをいっているのです。Fクラスのおちこぼれが、私に勝てるはずはありません。やるまでもないことです」

 結局教頭は折れなかった。

「くっそー、アルが戦えば絶対勝てたのになぁ」

 ミュレットは帰り道、残念そうにこぼす。

「まあまあ、とりあえず入学できたんだからさ」

「えーだって、私、アルと同じクラスがよかった」

 ミュレットが本心を吐露すると、

「なーんだ、そんなことか」

「え?」

「それなら任せといてよ。入学してからすぐに追いつくから」

「アル……」

 そうして二人は夕暮れの中を帰宅する。

 王都からバーナモント家のある街まではそこそこの距離があるが、人体加速魔法を使えば、二人ならば通える距離なのだ。

 帰るとミレーユとレミーユが温かい夕食を用意して待っていた。

「「二人とも、入学おめでとう!」」

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