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学園編
12.いじめ
しおりを挟む翌日、アルはジークのことを注意して観察してみることにした。
彼が怪しい動きを見せればいち早く反応できるし、それにもしいじめの現場に出くわしたら、それを止めることも考えたからだ。
「お、さっそくか……」
休み時間になると、ジークに話しかける人物がいた。
同じクラスのいじめっ子――グレゴール・ゴゥリラだ。
グレゴールもアルに負けて以来、クラスカーストのてっぺんから引きずり降ろされ、うっぷんがたまっていたのだろう。
そこにちょうど現在のジークのような気弱な存在がいたから、いじめの対象としてはうってつけだったのだろう。
「おう、ジーク……。ちょっと面かせよ」
「う、うん……」
ジークはグレゴールに言われるままついていく。それだけ見ても、やはり以前のジークと同一人物だとはとても思えない。
アルもそれを気づかれないように後から追う。
グレゴールはジークを人目につかない場所に連れてきた。
「おいジーク……今日も持ってきたんだろうな……?」
「え、えーっと……一応コレ……」
ジークは恐る恐るポケットからお金を取り出した。
「ふん、持ってるんならさっさとよこしやがれ、バカヤロウ」
グレゴールはそれをジークの手からもぎとった。
「あの野郎……ほんとにクソだな……」
それを見ていたアルはひとりごつ。
「じゃあな、明日も頼むぜ」
グレゴールはそう言って立ち去ろうとする。
「あの……でも、もうこれ以上は、お父様にもバレそうで……」
ジークは気弱そうに抗議する。
「あん? 何言ってやがんだ。そんなこと俺の知ったこっちゃない。平穏に暮らしたきゃ明日もちゃんと持ってこい」
グレゴールは言いながらジークにこぶしを振りかざして見せた。
「……っひ!」
グレゴールはビビッて動けないジークを軽く突き飛ばすと、こんどこそその場を立ち去ろうとした。
念入りに、周りに誰かいないか確認してから、暗がりを出る。
だが――
「おい、ちょっと待てよ」
グレゴールは度肝を抜かれる。
(そんな……さっきまで誰もいなかったはずなのに? 俺は周りを確認したのに?)
グレゴールが声の主に振り返ると、そこにはアル・バーナモントがいた。
「アル・バーナモント!? なんのようだ……」
グレゴールの額を冷や汗が流れる。アルはグレゴールにとっては関わりあいたくない相手だった。
試合でアルに負けたせいでクラスでの扱いが悪くなったのだ。
それにもうアルに勝てないことも承知しているので喧嘩を売る気にもならない。
「グレゴール……さっきジークから奪ったお金を返すんだ」
アルは怒気を強めた口調で言う。
グレゴールは少し迷ったのち、困惑の表情をとりつくろうと、
「……っは! なんのことかしらねぇな!」
などと誤魔化した。
「そうか……あくまでしらばっくれる気なんだな……」
アルはやれやれとため息をついた。
そしてジークのほうを見やると、
「ジーク! 彼にお金をとられたというんだ……!」
ジークに証言を求める。
だがジーク本人はそれでも気弱な態度を崩さない。
「で、でも……」
といって怯え震えている。
「大丈夫だ。僕が護ってやるから。僕はグレゴールより強い」
アルは力強い口調でジークを安心させてやる。
「わ、わかったよ……。そうだ。僕はグレゴールに脅されている。お金を盗られた!」
ジークは意を決してなんとか大きな声で宣言した。
「よし! どうだグレゴール。これで言い逃れはできないぞ?」
アルはグレゴールの肩をがっしり捕まえて、にらみつける。
「……っち。わーったよ……」
グレゴールはしぶしぶアルにお金を手渡す。
そしてグレゴールはそのままいそいそと逃げようとする――
――がアルがそれを許さない。
「おい、金額が足りないが……?」
「……は? 何を根拠に……」
「おい、ジーク。金額、足りないよなぁ?」
アルは受け取ったお金をジークに手渡し確認させる。
「う、うん。足りない」
「……っち。抜かりねぇな……」
グレゴールはポケットからお金を取り出すと残りの分をジークに渡した。
(ふん。抜かりないのはどっちだ……。誤魔化そうとしやがって……)
アルは心の中でグレゴールを非難する。
グレゴールは今度こそ、アルたちから逃げようと足を前に出した。
だが今度もアルに呼び止められる。
「おい。どこに行くんだグレゴール?」
「は? 金は返しただろ? まだなんかあんのかよ」
「まだ足りないだろ? なあジーク?」
アルは再びジークに問いかける。
だがジークもなんのことだかわからないようで。
「え? 僕はもう返してもらったけど……」
「いや違うだろ? 君はこれまでにもグレゴールにお金を奪われてきた。違うか?」
「え、まあそうだけど……」
「……だそうだ。グレゴール。これまでにジークから奪ったお金、全部を返してもらおうか……?」
アルは満面の笑みでグレゴールの肩を掴んで語り掛ける。
「おいおいマジかよ……」
グレゴールの顔からどんどん血の気が失せて青ざめていった。
すっからかんになったグレゴールはむしゃくしゃした気分で教室へと戻っていった。
残されたジークはアルにお礼を言う。
「ありがとう……アル君。昔君に酷いことをしたというのに……。助けてくれるなんて君はほんとうに優しいね」
「いやあなんてことないよ。まあまた困ったら言ってね」
アルはそれだけ言うと教室に戻っていった。
アルが教室に戻ると、真っ先にミュレットが駆け寄ってきて言った。
「グレゴールをまた懲らしめたみたいじゃない。やるわね」
「早耳だね……。ついさっきのことなのに」
「そりゃあそうよ。グレゴールのあの不機嫌な態度を見てればだれでもわかるわよ」
「あ、そう……」
二人が顔を近づけてそんな会話をしていると、割り込むようにクラスの女子たちがやってきて、
「アル君聞いたわよ。グレゴールを懲らしめたんですってね!」
「さっすがアル君ね! クラスのヒーローだわ」
と、またたくまにアルを取り囲む。
「あはは……みんな大げさだよ……」
アルは無邪気にも笑顔になってしまう。
それを見てミュレットはまた機嫌を悪くする。
「ちょっと! 私とアルが話してたのに……!」
いつの間にかアルは囲まれ、彼女らに引っ張り合いのもみくちゃにされてしまっていた。
(やれやれ……またか……)
アルは甘い香りに包まれながらも、うんざりとした表情でため息をつくのだった。
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