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学園編

13.覚醒【サイド:ジーク】

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 アルが去った後、ジークは一人屈辱に溺れていた。

「くそぅ……なんなんだアイツは……。俺に情けをかけたつもりか……? ちょっとこっちが大人しくしてれば調子にのりやがって……」

 そう、ジークの変わり果てた性格は、すべてアルを油断させるための演技であったのだ。

 実際のジークは以前と変わらず、あの意地悪ないじめっ子のままであった。

 そして彼はいまだにアルを恨み、復讐の機会をうかがっている。

「まあいい……。そろそろ反撃の時間だ……」

 ジークは一人、ニヤリと笑った。

 その日の夕方、帰り道。

 一人帰宅するグレゴールの背中に、ジークは手を置き、声をかける。

「おい、グレゴール」

「は?」

 グレゴールはジークの声でそのような口調で呼び止められたものだから、違和感を感じて立ち止まる。

「おい、ジーク。俺様にお前から声をかけるなんてどう言うつもりだ? 昼間の金をもう一度献上しにきてくれたのか? せっかくバーナモントに助けてもらったのによぅ」

 グレゴールはそう言いつつ振り返る。

 だがそこには彼の予想に反して、いつものジークはいなかった。

 ジークの顔は気弱な感じではなく、昔のあの意地悪なボス猿の表情だった。

「おまえ……ホントにジークか?」

 まるで別人のようなたたずまいに、グレゴールは驚愕を隠せない。

「グレゴール……。お前もアルを恨んでいるよなぁ……?」

 ジークはグレゴールの肩を強くつかんで、語気を強めて言った。

「いつつ……」

 グレゴールの肩がミシミシ唸る。

 それだけで、グレゴールはこの・・ジークには勝てないと本能的に察してしまう。

(なんだコイツ……昼間とはまるで別人だ……。もしかしてコレが本来のコイツなのか……?)

 話を飲み込めないまま、萎縮してしまっているグレゴールに、ジークは本題を切り出す。

「俺と手を組め。そしてアル・バーナモントを破滅に追い込むのだ……」

 それを聞いてグレゴールも意地悪な顔で笑い返す。

 ジークを目的を同じくする仲間だと認識し、今度は恐怖ではなく、グレゴールは頼もしい気持ちで満ち溢れる。

「ふっふっふ……。なんだか知らねえが面白いことを言うじゃねえか……。確かにお前とならバーナモントを滅茶苦茶にできるかもなぁ……」

 グレゴールは自分の中に劣情が満ち溢れるのを感じた。

 アルは成長しても、いまだ中世的な魅力にあふれる少年だった。

 グレゴールはアルを屈服させたうえで、弄ぼうと考えていた。

 想像の中でアルを滅茶苦茶にするだけでグレゴールの興奮はますます高まっていった。

 勝手にニヤニヤしだしたグレゴールを制止するかのように、再びジークが口を開いた。

「おい、勘違いするなよ? アルは俺のものだぞ? それに、手を組むとはいったが、お前が下っ端で俺が上だ。お前はあくまで俺の駒にすぎない」

 散々な言われように、さすがにグレゴールも黙ってはいない。

「は? 勘違いしてるのはてめえだ。さっきまで俺に虐められてたのを忘れたのか? いつからそんなに偉そうになったんだ?」

 グレゴールがそう言った瞬間、彼の身体がふっとんだ・・・・・

「……は?」

 そして地面に衝突するッ!!

「ぐぎゃっ」

 ――べきゃっ。

 グレゴールの身体が嫌な音を立てる。

 ジークはそれを容赦なく上から見下ろし、腕を踏みつけにした。

「ふんっ」

 ――ぐりぐりぐり。

「ぎやあああああああああああああああああああああああああ」

「どうだ? これでもまだ俺が上だと認めないか? 俺はアルに負けてから剣と魔法を磨いて、そしてそれがバレないように巧妙にカモフラージュをして、復讐のために生きてきたんだ。お前なんかとは意気込みが違うんだよ。お前に虐められてたのだって、すべてはアルを油断させるためだ」

 言いながら、ジークは足に込める力を強めていき、それに伴いグレゴールの身体がさらに悲鳴を上げる。

「ぎやああああああああああああああああああああああああああ」

 しまいにはそのうち、


 ――ぺきょ。


 という間抜けな音とともに、グレゴールの腕の骨が折れた。

「わ、わかった! お前が上でいい。 悪かったからこの足をどけてくれ!」

 グレゴールは涙目で懇願する。

「ふん。わかればいいのだ。お前は俺の下僕だからな。ただし、アルの前ではばれないように、今まで通り俺を虐めろ。いいな?」

 ジークはそう言って足を退けると、瀕死のグレゴールをその場に置いて、夕やみに消えていった。
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