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第75話 不穏な影(下)
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【サイド:ハイヤール】
連中がいったい何を復活させようとしているのかは知らない――だが、この魔力量や魔法陣の巨大さからいっても、おそらく魔王かそれに準ずるなにか、邪神や魔人の類に違いないことは確かだ。
このまま放っておくと、ものの数分で、ユグドラシル王国の近郊に巨大な敵対生物が誕生してしまう。
そうなれば、いくらユグドラシル王国といえども、ひとたまりもないだろう。
もちろんフランリーゼ様を筆頭としたドラゴン軍団など、ユグドラシル王国にもかなりの戦力はある。
だが、このような召喚陣による巨大生物なんて、相手にしたら、被害がどのくらいになるか、想像もつかない。運よく退けられたとしても、ユグドラシル王国へのダメージは避けられないだろう。
もし世界樹に傷がいくことでもあれば、とんでもないことだ。
それだけは避けなければならない。
もしこれが魔王の復活だとしたら、それこそ、ユグドラシル王国だけじゃない――この周辺諸国が吹っ飛ぶぞ……。
これは、戻って報告している時間なんてない。この場所で、なんとしても俺が止めなければならない……!
なぁに、相手はしょせん田舎の宗教団体だ。人間ごときに引けをとる俺様じゃない。
俺は、すぐさま奴らの儀式を止めるべく、遺跡へ降り立った。
人間の姿に変身して、遺跡の中へ入る。
遺跡の周辺にはエルドウィッチ教の信者たちがいて警備していたが、どれも俺の相手ではない。すべて瞬殺し、俺は遺跡の中へ。
遺跡の中へ入り、奥へ進むと、なにやら祭壇があった。
そして祭壇を取り囲むのは、何名かの男たち。
祭壇にいる男たちは、さきほどまでのエルドウィッチ教の連中と違い、みなそれなりの手練れに見えた。魔力量もすさまじいし、なにより着ている服装も違う。やつらが幹部で間違いないだろう。
エルドウィッチ教の幹部は俺に気づくと、儀式の手を止めないまま、俺に話しかけた。
「おや……これは……。ふぅむ。ドラゴンですか……。困りましたねぇ。こちらは大事な儀式の途中だというのに……。邪魔をされてはたまりません」
片手を儀式に集中させたまま、振り向いた男は、白い長髪に赤い目、そして目の周りに深い傷を持った隻眼の男だった。どうやらこいつがリーダーか……?
「あんたを困らせにきたんだよ。なんの儀式だか知らないが、俺が止めてやる」
「あなた一人ですか? それは無理でしょう……」
「いや、俺はドラゴンだ。可能だね」
「そうですねぇ……あなたはこの片手で、一分で十分です」
「なにぃ……?」
男は片手を俺のほうに向けた。
もう片方の手は、儀式に使用しているのか、祭壇のほうに向けたままだ。男の手と祭壇の間には、魔力で繋がれた糸のようなものが走っている。
俺に向けられた手から、何やら蜘蛛の糸のような形状の魔力が、俺に飛んでくる。
そして糸は俺を絡めとると、俺の魔力を吸引しはじめた。
俺はあまりにもの速さに、避けることもできなかった。
「なに……!? なんだこれは……!」
「アブソリュートアブソーバー!!!! っくっくっく……飛んで火にいる夏のドラゴンだ。ちょうど生贄になる魔力が足りないと思っていたんですよ。ドラゴン、いいじゃないか。ドラゴンといえば、魔力の器としては最高峰だ。あなたの魔力、ありがたく使わせてもらいますよ……っくっく」
「なんだとぉ……!? くそ、はなせ……! っく、出られない……!」
おかしい、ただの魔術師に、この俺が引けをとるなんて。
「はははははは! 死になさい!」
「ぐあああああああああああああ!!!!」
俺の中から、どんどん生命エネルギー、魔力が吸い取られていく。
俺は動けなくなって、膝から崩れ落ちた。
「どういうことなんだ……お前、なにもんだ……ただの魔術師が、人間ごときが……ドラゴンを片手で葬るなて……そんなのありえない……」
「ただの魔術師ですって? この私がですか……? っくっくっく、どうやらあなたの目は節穴みたいですねぇ……」
「なんだと……?」
ドラゴンを人間が倒したなんて、それこそ、勇者や大魔導士以外にはきいたことがない話だ。
現代魔術の世界においても、魔法大学を卒業した程度では、ドラゴンを倒すなんてできない。
単独でドラゴンを倒せる人間は、宮廷魔術師――国に5人ほどの希少な存在だ。
それをこいつは、片手でなんて……あり得ない。
俺が、負けるはずはないんだ……!
くそ、俺がこんなところで負けるなんて……。
ユグドラシル王国はどうなってしまうんだ。
すみません、フランリーゼ様……セカイ様……!
「私は大賢者エルダーンの弟子……! そしてSSS級の大魔術師ですよ……! アーシュブランム王国が宮廷魔術師筆頭――イルベ・ルイルベールとはこの私のこと……! そして、悪魔と契約した者でもある――」
イルベと名のったその男の高笑いだけが、遠ざかる意識の中で反響した。
俺は静かに、まるで眠るようにして意識を失った。
ああ、願わくば……ユグドラシル王国に平穏があらんことを――。
連中がいったい何を復活させようとしているのかは知らない――だが、この魔力量や魔法陣の巨大さからいっても、おそらく魔王かそれに準ずるなにか、邪神や魔人の類に違いないことは確かだ。
このまま放っておくと、ものの数分で、ユグドラシル王国の近郊に巨大な敵対生物が誕生してしまう。
そうなれば、いくらユグドラシル王国といえども、ひとたまりもないだろう。
もちろんフランリーゼ様を筆頭としたドラゴン軍団など、ユグドラシル王国にもかなりの戦力はある。
だが、このような召喚陣による巨大生物なんて、相手にしたら、被害がどのくらいになるか、想像もつかない。運よく退けられたとしても、ユグドラシル王国へのダメージは避けられないだろう。
もし世界樹に傷がいくことでもあれば、とんでもないことだ。
それだけは避けなければならない。
もしこれが魔王の復活だとしたら、それこそ、ユグドラシル王国だけじゃない――この周辺諸国が吹っ飛ぶぞ……。
これは、戻って報告している時間なんてない。この場所で、なんとしても俺が止めなければならない……!
なぁに、相手はしょせん田舎の宗教団体だ。人間ごときに引けをとる俺様じゃない。
俺は、すぐさま奴らの儀式を止めるべく、遺跡へ降り立った。
人間の姿に変身して、遺跡の中へ入る。
遺跡の周辺にはエルドウィッチ教の信者たちがいて警備していたが、どれも俺の相手ではない。すべて瞬殺し、俺は遺跡の中へ。
遺跡の中へ入り、奥へ進むと、なにやら祭壇があった。
そして祭壇を取り囲むのは、何名かの男たち。
祭壇にいる男たちは、さきほどまでのエルドウィッチ教の連中と違い、みなそれなりの手練れに見えた。魔力量もすさまじいし、なにより着ている服装も違う。やつらが幹部で間違いないだろう。
エルドウィッチ教の幹部は俺に気づくと、儀式の手を止めないまま、俺に話しかけた。
「おや……これは……。ふぅむ。ドラゴンですか……。困りましたねぇ。こちらは大事な儀式の途中だというのに……。邪魔をされてはたまりません」
片手を儀式に集中させたまま、振り向いた男は、白い長髪に赤い目、そして目の周りに深い傷を持った隻眼の男だった。どうやらこいつがリーダーか……?
「あんたを困らせにきたんだよ。なんの儀式だか知らないが、俺が止めてやる」
「あなた一人ですか? それは無理でしょう……」
「いや、俺はドラゴンだ。可能だね」
「そうですねぇ……あなたはこの片手で、一分で十分です」
「なにぃ……?」
男は片手を俺のほうに向けた。
もう片方の手は、儀式に使用しているのか、祭壇のほうに向けたままだ。男の手と祭壇の間には、魔力で繋がれた糸のようなものが走っている。
俺に向けられた手から、何やら蜘蛛の糸のような形状の魔力が、俺に飛んでくる。
そして糸は俺を絡めとると、俺の魔力を吸引しはじめた。
俺はあまりにもの速さに、避けることもできなかった。
「なに……!? なんだこれは……!」
「アブソリュートアブソーバー!!!! っくっくっく……飛んで火にいる夏のドラゴンだ。ちょうど生贄になる魔力が足りないと思っていたんですよ。ドラゴン、いいじゃないか。ドラゴンといえば、魔力の器としては最高峰だ。あなたの魔力、ありがたく使わせてもらいますよ……っくっく」
「なんだとぉ……!? くそ、はなせ……! っく、出られない……!」
おかしい、ただの魔術師に、この俺が引けをとるなんて。
「はははははは! 死になさい!」
「ぐあああああああああああああ!!!!」
俺の中から、どんどん生命エネルギー、魔力が吸い取られていく。
俺は動けなくなって、膝から崩れ落ちた。
「どういうことなんだ……お前、なにもんだ……ただの魔術師が、人間ごときが……ドラゴンを片手で葬るなて……そんなのありえない……」
「ただの魔術師ですって? この私がですか……? っくっくっく、どうやらあなたの目は節穴みたいですねぇ……」
「なんだと……?」
ドラゴンを人間が倒したなんて、それこそ、勇者や大魔導士以外にはきいたことがない話だ。
現代魔術の世界においても、魔法大学を卒業した程度では、ドラゴンを倒すなんてできない。
単独でドラゴンを倒せる人間は、宮廷魔術師――国に5人ほどの希少な存在だ。
それをこいつは、片手でなんて……あり得ない。
俺が、負けるはずはないんだ……!
くそ、俺がこんなところで負けるなんて……。
ユグドラシル王国はどうなってしまうんだ。
すみません、フランリーゼ様……セカイ様……!
「私は大賢者エルダーンの弟子……! そしてSSS級の大魔術師ですよ……! アーシュブランム王国が宮廷魔術師筆頭――イルベ・ルイルベールとはこの私のこと……! そして、悪魔と契約した者でもある――」
イルベと名のったその男の高笑いだけが、遠ざかる意識の中で反響した。
俺は静かに、まるで眠るようにして意識を失った。
ああ、願わくば……ユグドラシル王国に平穏があらんことを――。
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