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第56話 決勝

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 試合は2対2で大将戦へ。勝負は俺に託された。
 相手チームの強さの秘訣……それは俺たちに似たものを感じる。
 あきらかに、普通に鍛えたのでは到底たどり着けないような、そんな規格外の強さ……。

 俺が試合会場へと入ろうとすると、廊下で何者かに呼び止められる。
 腕を組んで偉そうしにた、マッチョのお姉だった。
 どこかの先生か? それか、面倒なタイプの観客か?
 
「ちょっとアンタ」
「なんだ……?」
「次の決勝戦に出るのよね?」
「そうだが……」
「気を付けないさい、相手は文字通り規格外よ。普通の相手じゃないわ」
「そうか。だがそれは俺も同じだ。ご忠告どうも」

 何者かは知らないが、相手が誰であろうと俺には関係ない。
 ただ勝つだけだ。
 だがそれにしても規格外とは……いったいどういう意味なんだろうか。

 俺の対戦相手は、マグナという女だった。俺と同じく、1年生らしい。
 マグナは赤灰色のトゲトゲショートカットに、着崩した制服、真っ赤なピアスといった風貌の女だった。
 ギャルってやつなのかな。あまり真面目そうな生徒とはいいがたい。

「それでは、レルギア選手VSマグナ選手……これが正真正銘、剣武祭を締めくくる、最後の試合です! 最後にふさわしい試合になることを期待します。はじめ……!!!!」

 例によって俺はその場から一歩も動かない。
 俺が勝つのは明白だし、わざわざこっちからしかける必要もないからな。
 それよりも、相手の強さの秘訣を見たい。

「こないならこっちからいくぞ……!!!!」
「おう、こい……!」

 マグナはそう言って、俺に向かってきた。
 一瞬のうちに、マグナはなんと犬の姿に変化した。

「なに……!?」

 恐ろしく早いスピードだった。おそらくこれは魔力操作の応用だろう。俺がドラゴンの姿に化けるのと原理は同じ……。だが、ここまでの精度、かなり使い慣れているとみえる。
 しかも犬の細部までもが再現されている。よほど犬であるということにこだわりがあるのか。

「ガルルルルル!!!!」

 マグナは犬の姿のまま、俺に襲い掛かってきた。
 しかし、俺は難なくそれを避ける。

「やるね……! だが、これならどうだ!」
「……!?」

 次に、マグナは召喚魔法を発動させた。召喚陣を描くでもなく、無詠唱での召喚だ。
 なるほど……さすがは俺と同じ、規格外の生徒ということか。なにかまだまだ秘密がありそうだな。

「ガルルルルル!!!!」「ガルルルルル!!!!」

 なんとマグナは犬をさらに2匹召喚した。
 マグナと合わせて、3匹の犬が目の前に現れた。

「これでどれがホンモノかわかるまい!」

 マグナたちは複雑なフォーメーションで攪乱させながら、俺を包囲する。
 そして、隙をみて攻撃をしかけてくる。
 だが……そんな手は俺には通用しない。
 俺はずっと目に魔力を集中させていた。すべての動きをとらえていた。
 どれがマグナかは、ずっと目で追っている。

「そこだ……!」
「ぐあ……!」

 俺はみごとマグナをとらえた。
 マグナは吹き飛ばされ、人間の姿に戻る。

「っく……やるな……」
「お前もな。なかなかいい攻撃だったぞ」

 俺は魔力剣でマグナを軽く斬り裂いた。
 そこそこ重傷を負わせるつもりで切ったのだが、マグナは服が切れただけだった。
 なるほど、回避も優れているな。
 マグナの切れた服からは、紋章のようなものが覗いていた。
 それは、まるで俺のアイリの噛み痕――龍の紋章にそっくりだった。

「そ、それは……!」
「……っ!? み、みるな……!」

 マグナはとっさに紋章を手で隠す。
 もしかして、マグナも俺と同じような境遇にあるのか……?
 だとしたら、この強さもうなずける。
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