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逃走

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「こちらテラ第14独立部隊。これから、敵本国に向けて発進致します」

ハワイ島から出た空母は、太平洋上で停船していた。

カタパルトデッキ上に、三機のフィギュアがステルス型の巨大戦闘機につけられて、発進を待っていた。

人型のフィギュアは飛ぶことができない為に、目的地までは戦闘機に連れていって貰うことになっていた。

「大尉!わくわくしますな」

オバマに乗り込んでいるガイの言葉に、新型であるキラーの中で、マホメッドは笑った。

「敵地にいくのだ。遊びではない」

「わかっております。大尉!」

ガイも、にやりと笑った。

「大尉」

会話の途中で、女の声がユーテラスに響いた。

「陸奥は、インド洋を越えて、中東に向かっているようです」

「わかった」

マホメッドは頷いた後、疑問を口にした。

「しかし…何故陸奥は、ハワイ島付近には来ない。ここに、前線基地があることは承知しているはずだ」

そのまま、考え込んだマホメッドの耳に、また女の声が飛び込んで来た。

「大尉!今、入った情報によりますと、我々と沖縄基地の間に、空母の反応があります!」

「何!?」

「確認に入ります。このまましばらく、お待ち下さい」

「おいおい!」

今まで黙っていたガイが、口を開いた。

「了解した」

マホメッドはそれだけ言うと、ゆっくりと目を瞑った。





「アルテミア…」

コウはユーテラスの中で、フィギュアの目線で、世界を見ていた。

「僕は、乗っているのか。君に…」

コウの問いに、アルテミアがこたえるはずもなかった。

「ふう~」

液体に包まれているというのに、息を吐けた。そんなことに改めて驚いていると、下から小さな声が聞こえてきた。

「うん?」

コウが下を向くと、アルテミアも下を向いた。

足下に、アキラがいた。

「コウ!」

上を向いて、手を振るアキラの姿を認め、コウは我に返った。

「ア、アキラ!」

後ろを向くと、丸腰になったブシ二機とガルがいた。


「こ、ここは…」

コウの頭に、基地を襲撃するフェーンの部隊の様子がよみがえった。

「戦場だった!」

そう思うと、極度の緊張と恐怖が、コウを襲った。

震える体。

その震えは、アルテミアに伝わった。

ぶるぶると震え出すアルテミアを見て、二機のブシは後ずさったが、ガルは動かなかった。

「今度は、何を仕掛ける?」

ガルの中で、河村はアルテミアを見つめながら、どんな攻撃にも対応するように身構えていた。

しかし、河村の考えは徒労に終わった。

何故ならば、アルテミアは踵を返すと、基地の外に向けて走り出したからだ。

「オリジナルフィギュアが、逃げる!?」

それは、河村の予想外であった。

「な」

一瞬、対応に遅れてしまった。

「ま、待て!」

フェンスを破壊して、基地の外に出たアルテミアを見て、腰が引けていたブシのパイロット達がよみがえった。

一気にブースターを点火させると、アルテミアとの距離を詰めた。

「逃がさんぞ!」

ビームマシンガンは奪われていた為に、二機のブシは高周波ブレードを抜いた。

「だけどさ」

河村は、溜め息をついた。

「逃げたからといって…性能差が埋まる訳でもないし」


突然、アルテミアは足を止めると、二機のブシに向かって襲いかかった。

両手に伸びている爪で、ブシの腕を一瞬で斬り裂いた。

「やっぱりね。さすがだわ。戦いに不慣れなはずなのに、パイロットのイメージを感じ取り、最善の動きをしてみせている」

河村は、目を細め、

「これが、自己進化するというオリジナルの一端か」

拳を握り締めた。

その時、別回線が開いた。

「河村少尉。状況はどう?」

聞こえてきた声は、有馬のものであった。

「よくないです。機体の右腕は損傷してしますし」

「今から、こっちのフィギュアを出すわ。テラの攻撃に、謎のミサイル攻撃。沖縄基地を、オリジナルフィギュアを守る為に、近くにいた我々が、援護に向かう!」

「え!!」

有馬の言葉に、河村は思わず驚きの声を上げた。

「それに、新たなテラの空母が、あたし達の近くに停まっているのよ」

有馬は、レダーの画面を見つめた。

「恐らく目的は、あたし達と同じ」

「でしょうね」

河村は、ブシを瞬殺し、再び走り出したアルテミアを見つめた。

「とにかく、足止めしておいてね」

「もしかして、俺のフィギュアも出すのですか?」

このまま通信を切ろうとした有馬に、河村が訊いた。

「勿論よ。でも、いいじゃない!姉妹で、パイロット」

「よくない!」



その頃、有馬が指揮する空母の上に、二機のフィギュアが発進準備にかかっていた。


「お兄ちゃん。手こずってるみたいよ」

「仕方ないわね」

ユーテラスの中で、会話を交わすパイロット達。

「まったく、よく少尉になれたものね」

「仕方ないわ。家族の尻拭いは、私達で」

距離を考えて、ステルス型の戦闘機に運ばれるのではなく、足につけたスキー板のような推進機と、付属のブースターで海上を疾走するのだ。

「河村麗奈!行きます!」

「河村莉奈!行きます!」

二機のフィギュアは、カタパルトデッキから飛び出すと、しばらく空中を飛んだ後、海面に着地し、そのまま猛スピードで、沖縄基地向かって走り出した。



「わかりましたよ」

河村は深く溜め息をついてから、覚悟を決めた。

「足止めします」

接近戦は不利と見て、距離を取りながら足を狙い撃ちすることにした。

「破壊できなくても、バランスは崩せるはず」

人型のフィギュアの弱点は、バランスである。

逃げるアルテミアの足下に、銃口を向け、乱射しながら、後を追うことにした。

「まったく!自国のフィギュアとやりあうなんて!」

銃弾が弾かれるのを見て、河村は破壊されたフェンスの柱を、ガルに取らせた。

「思ってなかったよ」

柱を曲げて、ブーメランにすると、アルテミアの足下に投げた。

すると、ブーメランが走っている足に絡まり、アルテミアは転倒した。

「やりますか!」

河村は、ガルのブースターを点火させた。
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