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(――にしてもだ)
パイロットルームに戻った河村は、ベッドの上に横になり、天井を見つめながら、考え込んでいた。
(まだ正式には、公表されていなが…6番目のオリジナルフィギュアのパイロットは、一般人ということになる。だが、一般人がフィギュアに乗れないことはない。オリジナルフィギュアならな)
河村は、目を細めた。
(なぜならば、最初の愛され人は…一般人だった)
ゆっくりと上半身を上げると、ベッドの横の壁にもたれた。
(だとそれば、6番目に入ってる彼は、3人目の一般人になるのか)
考え込んでいると、河村は少し手が震えていることに気付いた。
電話がかかってきたのだ。
レクイエムにより、破壊されたネットワークは、日本主体で再構築はされていたが、オープンかつ無限と思われていたインターネットは、すべて日本によって…いや、レクイエムによって管理されていた。
その為、テラなどはインターネットを使うことはほとんどなくなっていた。
生き残った民衆は、相変わらず使っていたが…すべて閲覧されていることを前提としながら、利用していた。
そして、日本軍もまた、インターネットを使わずに、独自のネットワークをつくり、それを使用していた。
「はい」
あくまでも話すだけをメインにした為、指先と耳に錠剤くらいの機械つけるだけとなった電話は、何をしなくても、口を開くだけで会話ができた。
「はい。どうやら一般人のようです。それは、間違いありません」
河村の言葉に、回線の向こうで頷いたのは、上杉正継であった。
「そうか…引き続き、調査を頼むよ」
「はい。また何かありましたら、ご報告します」
上杉の声に頷くと、河村は電話が切れるのを確認してから、息を吐いた。
「ふう~。まさか本人からあるとはね」
レクイエムの破壊の後、新たなネットワークを構築したのは、上杉であった。
日本軍専用の回線。さらに、日本国民の為の回線。
そして、自分の仲間の為の秘匿回線。
「やれやれ」
河村は天井を見上げた後、部屋の奥にある窓ガラスに目をやった。
「やっと沖縄に来ましたよ。速水先生」
河村はぎゅっと拳を握り締め、軽く身を振るわした。
「先生のおっしゃっていたことが今、少しですが…理解できています」
そして、目を瞑った。
(ミトコンドリア・イブの再発を防ぐ)
そのまま疲れから、寝そうになった河村の耳に、緊張をようするサイレンの音が響いてきた。
慌てて、ベッドから飛び降りると、河村は部屋から廊下に出た。
「何が起こっている!?敵襲か!」
廊下を走っていると、次々に部屋から軍人が飛び出してきた。
「違う!敵襲ではない!」
宿舎から飛び出した河村の目に、格納庫から歩き出したオリジナルフィギュアの姿が映った。
「何事だ!」
管制室に飛び込んできた司令官は、ずっと眉を寄せていた。
「オリジナルが始動!どうやら、パイロットの意識に反応しているようです!」
オペレーターの報告に、さらに眉を寄せると、司令官は叫んだ。
「フィギュア部隊を発進させろ!」
「オリジナルフィギュアの捕獲かよ!」
第一格納庫に入ったパイロット達は、遠ざかっていくオリジナルフィギュアの背中を確認し、舌打ちした。
「今、動けるのはどれよ!」
パニックになっている格納庫内で、整備兵に向かって、パイロット達は叫んだ。
そんな中、フェーンによって半壊した第二格納庫に向かった河村は、先程機乗したガルに飛び乗った。
「パイロットが、オリジナルとシンクロしてしたら、勝てないが!」
河村は、ガルを始動させた。
「まだのはずだ!」
体を包む液体を感じながら、河村はオリジナルフィギュアの背中をとらえた。
「コーティングもしていない!裸のままで!」
背中のブースターと、両足につけられたホバーシステムを発動させ、ガルは一瞬で、オリジナルフィギュアとの距離を詰めた。
「さっさと戻りな!」
オリジナルフィギュアの肩を掴もうとした…その瞬間、
(触るな!)
河村の頭に声が響いた。
「な!」
絶句した河村の目に、振り向きながら、硬化しているオリジナルフィギュアの姿が映った。
「馬鹿な!」
パイロットの勘が、機体を後ろに下がらせた。
と同時に、オリジナルフィギュアとガルの間に、巨大な手が落ちていた。
「高周波ブレード!?」
と言ってから、河村はフッと笑った。
「違う」
目を細め、肉眼では見にくいほど透明で、鋭いものを凝視した。
「爪か」
オリジナルフィギュアの指先から伸びた爪が、ガルの手を切り裂いたのであった。
「鮮やか過ぎて、驚いたよ」
河村は、間合いを開けて、少し冷静になろうとした。
その時、後ろから、三機のブシが近付いてきた。
「どいていろ!新人!」
ブシの一機が、スピードを上げた。
「駄目ですよ!無闇に近付いたら!」
河村の忠告を無視して、ガルのそばを通り過ぎたガルは、オリジナルフィギュアに手を伸ばした。
すると、オリジナルフィギュアは身を屈め、地面を蹴り、ブシに向かって突進した。
「す、すごい」
ガルの中で、河村は感嘆した。
なぜならば、オリジナルフィギュアの爪が、ブシの鳩尾から背中まで貫通していたからである。
「今のスピードは…フィギュアのものでは…いや、違う!これが、本来の力なのか」
感嘆する河村の目の前で、腕を抜かれて倒れるブシと…その横で、真っ直ぐに立ち、こちらを見据えるオリジナルフィギュア。
その姿は、戦いの女神そのものだ。
「し、仕方がないな」
河村は身を震わしながら、楽しそうに笑った。
「計画は、違うけど…やりますか」
「有馬司令!河村少尉から、連絡ありです!」
「早すぎない?」
沖縄近海に浮かぶ空母のブリッジで、白い軍服を着た女の船長が、オペレーターの報告に少し驚いていた。
「しかし、オリジナルフィギュアは格納庫から出たようです!」
「なら、仕方がないわ。チャンスは逃がすなってね」
有馬は、クルーに命じた。
「今から、美人をナンパしにいくわよ」
「ほんと急だわ」
舵を握っているのは、がっしりとした屈強な体をした男であるが、化粧をしていた。
「予定通りにはいかないものよ」
有馬はブリッジの窓から、海を見た。
「それにしましても、テラの奇襲があったと思えば、陸奥まで来るなんて」
管制官の城戸真理亜は、ため息をついた。
「蕪城ちゃんには、ちゃんと演習と伝わってるはずよ」
有馬は、にこっと笑った。
「だけどねえ」
舵を握る男は、身をくねらせた。
「ごちゃごちゃ言わない!こっちは、テラの襲撃…じゃなくなったけど、暴走により基地を脱出したオリジナルフィギュアを回収!その後、テラとの交戦により、航路を外れる!わかってる?最後の航路を外れるが、重要よ」
有馬は、ブリッジにいるクルーを見回した。
「時間稼ぎね」
男はまた、身をくねらせた。
「とにかく!レクイエムがいる帝都から、オリジナルフィギュアを離すこと!それが、あたし達の任務よ」
「その理由は何ですか?」
城戸のもっともな質問に、有馬は即答した。
「さあね」
「ここからだ。問題だ」
河村は、ふうと息を吐いた。
二機のブシは、ガルの後方に控えていた。
「どう連れ出す?」
ユーテラス内で、悩んでいた河村の耳に、警報が響いた。
「な!?」
眼球に浮かぶ…危険信号は、上空を示していた。
「弾頭ミサイル!?どこからだ」
しかし、考えている暇はなかった。
河村は舌打ちすると、機体のブースターを全開にした。
「司令!帝都から避難命令です!」
「遅いわ」
司令は、オペレーターの報告に顔をしかめると、即座に命令を発した。
「全職員に伝えろ!持ち場を離れ、地下シェルターへ避難!フィギュアは、できるかぎり、基地から離れろ!」
司令官の声に、一斉に席を立つオペレーター達。
「司令!」
不安そうな目を向けるオペレーターに、司令官は苦笑してこたえた。
「目的は、ここじゃない!オリジナルフィギュアだ!」
「コウ!」
オリジナルフィギュアを追って、アキラは格納庫から飛び出した。
その瞬間、頭上を河村が乗るガルが通り過ぎた。
「くそ!」
河村は、片腕となった機体を上に向け、ビームマシンガンの照準を合わせた。
「ミサイルが、百発以上だと!?それも、テラ製のミサイルじゃない!」
河村は、すべて撃ち落とすことは不可能と判断した。
しかし、誘爆を狙い、できる限り撃ち落とすことにした。
「ままよ!」
ビームマシンガンにより、数十発は撃ち落とせたが、足りない。
「基地からは、なしかよ!」
河村は撃ちながら、離脱することにした。
「うわああ!」
空が花火のように輝き、爆風がアキラのバランスを崩し、地面に倒れさした。
(何が…起こっているんだ)
逃げたい一心だったコウの心に、外のざわめきが伝わっていた。
液体に包まれたユーテラスの中は、静かだというのに、心がざわめいた。
(何が起こってる?)
と疑問を感じた瞬間、コウの顎が上がった。
(え)
コウの目に、爆発の煙と光を突き抜けながら、天から降り注ぐミサイルの雨が映った。
(!?)
コウは突然、目を見開いた。頭が一瞬で真っ白になった。
次の瞬間、フラッシュバックする過去の記憶。
燃える街。燃える…母親。
「うわああああっ!」
声を出して、嗚咽した瞬間、コウの記憶は飛んだ。
「く、くそ!」
基地から離れた場所に着地したガルは、何度もミサイルに向かって、引き金を引いていた。
「この攻撃の目的は、何だ!」
自軍の基地にミサイルを撃ち込む…その意図が、河村にはわからなかった。
「避難状況は!」
司令官の叫びに、通信機からオペレーターの声がした。
「あとは、司令官だけです!」
「嘘をつけ!まだフィギュアが残っているわ」
管制室の窓から見える二機のブシと、オリジナルフィギュアを司令官は睨んだ。
ブシのパイロットは、軽いパニックになっていた。
「早く離脱して下さい!」
何度目かのオペレーターの声に、やっと了解とこたえると、機体を動かそうとした。
その時、二機のブシは、オリジナルフィギュアの攻撃を受けた。
「え!」
蹴りとタックルを喰らい、バランスを崩したブシの手から、ビームマシンガンを二丁奪うと、オリジナルフィギュアは地面を転がりながら、引き金を引いた。
「な!」
その様子を見ていた司令官は、目を見開いた。
正確かつ素早い動きで、オリジナルフィギュアは次々に、ミサイルを撃ち落としていく。
しかし、ビームマシンガンのエネルギーが最後の一発を残して、切れてしまった。
「うおおおおっ!」
ユーテラスの中で、コウが咆哮を上げると、オリジナルフィギュアは立ち上がり、ビームマシンガンを捨てると同時に、拳を天に突き上げた。
「馬鹿な…あり得ない」
ミサイルとオリジナルフィギュアの拳がぶつかった瞬間、大爆笑が起こった。
眩しい光が、司令官の視界を真っ白にしたが、彼は目をそらさなかった。
そして、光が消えた時…拳を突き上げたまま、無傷のオリジナルフィギュアが立っていた。
「そ、そっか…」
ユーテラスの中で、拳を握り締めていたコウは、無意識に話していた。
「君には…名前がないのか…。僕がつけて上げるよ」
コウがゆっくりと拳を開くと、オリジナルフィギュアは腕を下ろした。
「僕の名前は、コウ。君の名前は…」
コウの頭に、ブロンドの後ろ姿がよみがえる。
「アルテミア。そうアルテミアだ」
コウは、自然と微笑んでいた。
なのに、瞳からは涙が流れていた。
ユーテラスを満たす液体と、涙は自然と混ざりあい、消えていった。
「本当に…こいつに…コウが」
アルテミアの足下まで来たアキラは、見上げながら、唾を飲み込んだ。
その頃、沖縄基地爆撃失敗の報告は、水戸にある巨大な邸宅に伝えられていた。
「そうか…失敗したか」
茶の間で茶をたてながら、老人は笑った。
「起動したばかりだから、破壊できると思っていたが…流石は、オリジナルと言ったところか」
老人は手を止めると、茶碗をそっと目の前に正座する軍人に、差し出した。
「人型のフィギュアですか」
軍人は豪快に、片手で茶碗を掴んだ。作法など関係なかった。
その飲み方を観察しながら、老人は口を開いた。
「もう一度、コアの状態に戻し、つくり直すつもりでしたが…どうやら、パイロットとシンクロしているようでして」
「どうしてです」
軍人は空になった茶碗を置くと、老人を見つめ、
「また培養できたとしても、恐らく人型」
少し眉を寄せた。
「武藤くんがしくじったようで」
老人はどこからか、写真を取りだし、軍人の前に置いた。
「これが!」
初めて見たアルテミアの姿に、軍人は少し驚いた。
「ブロンドの髪に、淡いブラウンの瞳…。どうやら、中のパイロットは日本人ではない」
老人は、ため息をついた。
「我が国のパイロットではないと?」
軍人は、姿勢を正した。
「いや…それは、何とも言えぬ。だが!最後のフィギュアは、日本人のようでなければならなかった」
老人は、写真を睨んだ。
「しかし…起動したものは仕方がない。報告によれば、まだ第一段階の初め。今なら、修正がきくかもしれん」
軍人は、立ち上がった。
「行かれるのか?」
老人は見上げることなく、虚空を睨んだ。
「まだ早いですな。焦りませんよ。上杉の動きも気になりますし」
「愛され人でありながら、我々の計画を理解しないあの男…。どうしたものか」
悩む老人に、軍人は笑った。
「心配なさるな。愛され人は、やつだけではない」
そう言うと、老人に背を向けた。
「そうじゃったわ」
老人はフッと、笑った。
「沖縄基地の爆撃の件は、テラの別部隊の仕業と、報道させます。では、御免」
軍人は、茶室から出た。
「親分!」
すぐに、軍人の周りを部下が囲んだ。
「松!親分と呼ぶな!閣下と呼べ!」
「はい!親分!」
背が低くて、丸坊主の軍人との会話を聞いて、周りから笑いが起きた。
「まったく、調子が狂うぜ」
軍人は頭をかき、歩き出した。
彼の名は、前田藤十郎。
オリジナルフィギュア大和の愛され人であった。
「しかし、ボス」
藤十郎のそばに、長髪の細見の男が来た。
「水戸と手を組むつもりですか?」
「それは、決めていない」
藤十郎は、歩くスピードを上げた。
部下に見られないように、冷たい目を前に向けながら、話を続けた。
「俺の目標は、あくまでも死んだ兄貴の遺言に従うのみ!」
「…」
細見の男は、無言で頭を下げた。
「最後のオリジナルフィギュアが、こちらに来るならば!迎えるのみ!誰が、邪魔しょうとな!」
藤十郎は、前を睨み、
「帝都まで来れば、あのしじいと目的は一緒になるが、今は敢えて手を組まん」
そのまま、外に待っていた軍事用へりに乗り込んだ。
「前田藤十郎…喰えぬ男よ」
老人は、茶室で新しいお茶を立て始めていた。
「しかし、やつの大和は、破壊力だけでいえば、レクイエムに次ぐ強さ。敵にする訳にはいかぬ」
ふと手を止めると、老人はアルテミアの写真に目をやった。
「しかし…その姿。誰かに似ているようが気がするが、気のせいか」
老人のアルテミアを見ての嫌悪感は、ブロンドであるだけではなかったのかもしれなかった。
しかし、そのことに老人は気づかない。
なぜならば、自ら忘れさせたことだからだ。
記憶から抹消したことを、自ら思い出すことはできなかった。
パイロットルームに戻った河村は、ベッドの上に横になり、天井を見つめながら、考え込んでいた。
(まだ正式には、公表されていなが…6番目のオリジナルフィギュアのパイロットは、一般人ということになる。だが、一般人がフィギュアに乗れないことはない。オリジナルフィギュアならな)
河村は、目を細めた。
(なぜならば、最初の愛され人は…一般人だった)
ゆっくりと上半身を上げると、ベッドの横の壁にもたれた。
(だとそれば、6番目に入ってる彼は、3人目の一般人になるのか)
考え込んでいると、河村は少し手が震えていることに気付いた。
電話がかかってきたのだ。
レクイエムにより、破壊されたネットワークは、日本主体で再構築はされていたが、オープンかつ無限と思われていたインターネットは、すべて日本によって…いや、レクイエムによって管理されていた。
その為、テラなどはインターネットを使うことはほとんどなくなっていた。
生き残った民衆は、相変わらず使っていたが…すべて閲覧されていることを前提としながら、利用していた。
そして、日本軍もまた、インターネットを使わずに、独自のネットワークをつくり、それを使用していた。
「はい」
あくまでも話すだけをメインにした為、指先と耳に錠剤くらいの機械つけるだけとなった電話は、何をしなくても、口を開くだけで会話ができた。
「はい。どうやら一般人のようです。それは、間違いありません」
河村の言葉に、回線の向こうで頷いたのは、上杉正継であった。
「そうか…引き続き、調査を頼むよ」
「はい。また何かありましたら、ご報告します」
上杉の声に頷くと、河村は電話が切れるのを確認してから、息を吐いた。
「ふう~。まさか本人からあるとはね」
レクイエムの破壊の後、新たなネットワークを構築したのは、上杉であった。
日本軍専用の回線。さらに、日本国民の為の回線。
そして、自分の仲間の為の秘匿回線。
「やれやれ」
河村は天井を見上げた後、部屋の奥にある窓ガラスに目をやった。
「やっと沖縄に来ましたよ。速水先生」
河村はぎゅっと拳を握り締め、軽く身を振るわした。
「先生のおっしゃっていたことが今、少しですが…理解できています」
そして、目を瞑った。
(ミトコンドリア・イブの再発を防ぐ)
そのまま疲れから、寝そうになった河村の耳に、緊張をようするサイレンの音が響いてきた。
慌てて、ベッドから飛び降りると、河村は部屋から廊下に出た。
「何が起こっている!?敵襲か!」
廊下を走っていると、次々に部屋から軍人が飛び出してきた。
「違う!敵襲ではない!」
宿舎から飛び出した河村の目に、格納庫から歩き出したオリジナルフィギュアの姿が映った。
「何事だ!」
管制室に飛び込んできた司令官は、ずっと眉を寄せていた。
「オリジナルが始動!どうやら、パイロットの意識に反応しているようです!」
オペレーターの報告に、さらに眉を寄せると、司令官は叫んだ。
「フィギュア部隊を発進させろ!」
「オリジナルフィギュアの捕獲かよ!」
第一格納庫に入ったパイロット達は、遠ざかっていくオリジナルフィギュアの背中を確認し、舌打ちした。
「今、動けるのはどれよ!」
パニックになっている格納庫内で、整備兵に向かって、パイロット達は叫んだ。
そんな中、フェーンによって半壊した第二格納庫に向かった河村は、先程機乗したガルに飛び乗った。
「パイロットが、オリジナルとシンクロしてしたら、勝てないが!」
河村は、ガルを始動させた。
「まだのはずだ!」
体を包む液体を感じながら、河村はオリジナルフィギュアの背中をとらえた。
「コーティングもしていない!裸のままで!」
背中のブースターと、両足につけられたホバーシステムを発動させ、ガルは一瞬で、オリジナルフィギュアとの距離を詰めた。
「さっさと戻りな!」
オリジナルフィギュアの肩を掴もうとした…その瞬間、
(触るな!)
河村の頭に声が響いた。
「な!」
絶句した河村の目に、振り向きながら、硬化しているオリジナルフィギュアの姿が映った。
「馬鹿な!」
パイロットの勘が、機体を後ろに下がらせた。
と同時に、オリジナルフィギュアとガルの間に、巨大な手が落ちていた。
「高周波ブレード!?」
と言ってから、河村はフッと笑った。
「違う」
目を細め、肉眼では見にくいほど透明で、鋭いものを凝視した。
「爪か」
オリジナルフィギュアの指先から伸びた爪が、ガルの手を切り裂いたのであった。
「鮮やか過ぎて、驚いたよ」
河村は、間合いを開けて、少し冷静になろうとした。
その時、後ろから、三機のブシが近付いてきた。
「どいていろ!新人!」
ブシの一機が、スピードを上げた。
「駄目ですよ!無闇に近付いたら!」
河村の忠告を無視して、ガルのそばを通り過ぎたガルは、オリジナルフィギュアに手を伸ばした。
すると、オリジナルフィギュアは身を屈め、地面を蹴り、ブシに向かって突進した。
「す、すごい」
ガルの中で、河村は感嘆した。
なぜならば、オリジナルフィギュアの爪が、ブシの鳩尾から背中まで貫通していたからである。
「今のスピードは…フィギュアのものでは…いや、違う!これが、本来の力なのか」
感嘆する河村の目の前で、腕を抜かれて倒れるブシと…その横で、真っ直ぐに立ち、こちらを見据えるオリジナルフィギュア。
その姿は、戦いの女神そのものだ。
「し、仕方がないな」
河村は身を震わしながら、楽しそうに笑った。
「計画は、違うけど…やりますか」
「有馬司令!河村少尉から、連絡ありです!」
「早すぎない?」
沖縄近海に浮かぶ空母のブリッジで、白い軍服を着た女の船長が、オペレーターの報告に少し驚いていた。
「しかし、オリジナルフィギュアは格納庫から出たようです!」
「なら、仕方がないわ。チャンスは逃がすなってね」
有馬は、クルーに命じた。
「今から、美人をナンパしにいくわよ」
「ほんと急だわ」
舵を握っているのは、がっしりとした屈強な体をした男であるが、化粧をしていた。
「予定通りにはいかないものよ」
有馬はブリッジの窓から、海を見た。
「それにしましても、テラの奇襲があったと思えば、陸奥まで来るなんて」
管制官の城戸真理亜は、ため息をついた。
「蕪城ちゃんには、ちゃんと演習と伝わってるはずよ」
有馬は、にこっと笑った。
「だけどねえ」
舵を握る男は、身をくねらせた。
「ごちゃごちゃ言わない!こっちは、テラの襲撃…じゃなくなったけど、暴走により基地を脱出したオリジナルフィギュアを回収!その後、テラとの交戦により、航路を外れる!わかってる?最後の航路を外れるが、重要よ」
有馬は、ブリッジにいるクルーを見回した。
「時間稼ぎね」
男はまた、身をくねらせた。
「とにかく!レクイエムがいる帝都から、オリジナルフィギュアを離すこと!それが、あたし達の任務よ」
「その理由は何ですか?」
城戸のもっともな質問に、有馬は即答した。
「さあね」
「ここからだ。問題だ」
河村は、ふうと息を吐いた。
二機のブシは、ガルの後方に控えていた。
「どう連れ出す?」
ユーテラス内で、悩んでいた河村の耳に、警報が響いた。
「な!?」
眼球に浮かぶ…危険信号は、上空を示していた。
「弾頭ミサイル!?どこからだ」
しかし、考えている暇はなかった。
河村は舌打ちすると、機体のブースターを全開にした。
「司令!帝都から避難命令です!」
「遅いわ」
司令は、オペレーターの報告に顔をしかめると、即座に命令を発した。
「全職員に伝えろ!持ち場を離れ、地下シェルターへ避難!フィギュアは、できるかぎり、基地から離れろ!」
司令官の声に、一斉に席を立つオペレーター達。
「司令!」
不安そうな目を向けるオペレーターに、司令官は苦笑してこたえた。
「目的は、ここじゃない!オリジナルフィギュアだ!」
「コウ!」
オリジナルフィギュアを追って、アキラは格納庫から飛び出した。
その瞬間、頭上を河村が乗るガルが通り過ぎた。
「くそ!」
河村は、片腕となった機体を上に向け、ビームマシンガンの照準を合わせた。
「ミサイルが、百発以上だと!?それも、テラ製のミサイルじゃない!」
河村は、すべて撃ち落とすことは不可能と判断した。
しかし、誘爆を狙い、できる限り撃ち落とすことにした。
「ままよ!」
ビームマシンガンにより、数十発は撃ち落とせたが、足りない。
「基地からは、なしかよ!」
河村は撃ちながら、離脱することにした。
「うわああ!」
空が花火のように輝き、爆風がアキラのバランスを崩し、地面に倒れさした。
(何が…起こっているんだ)
逃げたい一心だったコウの心に、外のざわめきが伝わっていた。
液体に包まれたユーテラスの中は、静かだというのに、心がざわめいた。
(何が起こってる?)
と疑問を感じた瞬間、コウの顎が上がった。
(え)
コウの目に、爆発の煙と光を突き抜けながら、天から降り注ぐミサイルの雨が映った。
(!?)
コウは突然、目を見開いた。頭が一瞬で真っ白になった。
次の瞬間、フラッシュバックする過去の記憶。
燃える街。燃える…母親。
「うわああああっ!」
声を出して、嗚咽した瞬間、コウの記憶は飛んだ。
「く、くそ!」
基地から離れた場所に着地したガルは、何度もミサイルに向かって、引き金を引いていた。
「この攻撃の目的は、何だ!」
自軍の基地にミサイルを撃ち込む…その意図が、河村にはわからなかった。
「避難状況は!」
司令官の叫びに、通信機からオペレーターの声がした。
「あとは、司令官だけです!」
「嘘をつけ!まだフィギュアが残っているわ」
管制室の窓から見える二機のブシと、オリジナルフィギュアを司令官は睨んだ。
ブシのパイロットは、軽いパニックになっていた。
「早く離脱して下さい!」
何度目かのオペレーターの声に、やっと了解とこたえると、機体を動かそうとした。
その時、二機のブシは、オリジナルフィギュアの攻撃を受けた。
「え!」
蹴りとタックルを喰らい、バランスを崩したブシの手から、ビームマシンガンを二丁奪うと、オリジナルフィギュアは地面を転がりながら、引き金を引いた。
「な!」
その様子を見ていた司令官は、目を見開いた。
正確かつ素早い動きで、オリジナルフィギュアは次々に、ミサイルを撃ち落としていく。
しかし、ビームマシンガンのエネルギーが最後の一発を残して、切れてしまった。
「うおおおおっ!」
ユーテラスの中で、コウが咆哮を上げると、オリジナルフィギュアは立ち上がり、ビームマシンガンを捨てると同時に、拳を天に突き上げた。
「馬鹿な…あり得ない」
ミサイルとオリジナルフィギュアの拳がぶつかった瞬間、大爆笑が起こった。
眩しい光が、司令官の視界を真っ白にしたが、彼は目をそらさなかった。
そして、光が消えた時…拳を突き上げたまま、無傷のオリジナルフィギュアが立っていた。
「そ、そっか…」
ユーテラスの中で、拳を握り締めていたコウは、無意識に話していた。
「君には…名前がないのか…。僕がつけて上げるよ」
コウがゆっくりと拳を開くと、オリジナルフィギュアは腕を下ろした。
「僕の名前は、コウ。君の名前は…」
コウの頭に、ブロンドの後ろ姿がよみがえる。
「アルテミア。そうアルテミアだ」
コウは、自然と微笑んでいた。
なのに、瞳からは涙が流れていた。
ユーテラスを満たす液体と、涙は自然と混ざりあい、消えていった。
「本当に…こいつに…コウが」
アルテミアの足下まで来たアキラは、見上げながら、唾を飲み込んだ。
その頃、沖縄基地爆撃失敗の報告は、水戸にある巨大な邸宅に伝えられていた。
「そうか…失敗したか」
茶の間で茶をたてながら、老人は笑った。
「起動したばかりだから、破壊できると思っていたが…流石は、オリジナルと言ったところか」
老人は手を止めると、茶碗をそっと目の前に正座する軍人に、差し出した。
「人型のフィギュアですか」
軍人は豪快に、片手で茶碗を掴んだ。作法など関係なかった。
その飲み方を観察しながら、老人は口を開いた。
「もう一度、コアの状態に戻し、つくり直すつもりでしたが…どうやら、パイロットとシンクロしているようでして」
「どうしてです」
軍人は空になった茶碗を置くと、老人を見つめ、
「また培養できたとしても、恐らく人型」
少し眉を寄せた。
「武藤くんがしくじったようで」
老人はどこからか、写真を取りだし、軍人の前に置いた。
「これが!」
初めて見たアルテミアの姿に、軍人は少し驚いた。
「ブロンドの髪に、淡いブラウンの瞳…。どうやら、中のパイロットは日本人ではない」
老人は、ため息をついた。
「我が国のパイロットではないと?」
軍人は、姿勢を正した。
「いや…それは、何とも言えぬ。だが!最後のフィギュアは、日本人のようでなければならなかった」
老人は、写真を睨んだ。
「しかし…起動したものは仕方がない。報告によれば、まだ第一段階の初め。今なら、修正がきくかもしれん」
軍人は、立ち上がった。
「行かれるのか?」
老人は見上げることなく、虚空を睨んだ。
「まだ早いですな。焦りませんよ。上杉の動きも気になりますし」
「愛され人でありながら、我々の計画を理解しないあの男…。どうしたものか」
悩む老人に、軍人は笑った。
「心配なさるな。愛され人は、やつだけではない」
そう言うと、老人に背を向けた。
「そうじゃったわ」
老人はフッと、笑った。
「沖縄基地の爆撃の件は、テラの別部隊の仕業と、報道させます。では、御免」
軍人は、茶室から出た。
「親分!」
すぐに、軍人の周りを部下が囲んだ。
「松!親分と呼ぶな!閣下と呼べ!」
「はい!親分!」
背が低くて、丸坊主の軍人との会話を聞いて、周りから笑いが起きた。
「まったく、調子が狂うぜ」
軍人は頭をかき、歩き出した。
彼の名は、前田藤十郎。
オリジナルフィギュア大和の愛され人であった。
「しかし、ボス」
藤十郎のそばに、長髪の細見の男が来た。
「水戸と手を組むつもりですか?」
「それは、決めていない」
藤十郎は、歩くスピードを上げた。
部下に見られないように、冷たい目を前に向けながら、話を続けた。
「俺の目標は、あくまでも死んだ兄貴の遺言に従うのみ!」
「…」
細見の男は、無言で頭を下げた。
「最後のオリジナルフィギュアが、こちらに来るならば!迎えるのみ!誰が、邪魔しょうとな!」
藤十郎は、前を睨み、
「帝都まで来れば、あのしじいと目的は一緒になるが、今は敢えて手を組まん」
そのまま、外に待っていた軍事用へりに乗り込んだ。
「前田藤十郎…喰えぬ男よ」
老人は、茶室で新しいお茶を立て始めていた。
「しかし、やつの大和は、破壊力だけでいえば、レクイエムに次ぐ強さ。敵にする訳にはいかぬ」
ふと手を止めると、老人はアルテミアの写真に目をやった。
「しかし…その姿。誰かに似ているようが気がするが、気のせいか」
老人のアルテミアを見ての嫌悪感は、ブロンドであるだけではなかったのかもしれなかった。
しかし、そのことに老人は気づかない。
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記憶から抹消したことを、自ら思い出すことはできなかった。
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