武装硬化~ティア・ドール

如月エイリ

文字の大きさ
18 / 23

偽りの瞳

しおりを挟む
「…」

ユーテラスの中で、コウは考え込んでいた。温かな液体に全身が包まれていると、知らずに心が落ち着いてきた。

(交渉といっても…この中から出た瞬間、僕は無力になる。アルテミアの中にいながら、話せないかな?)

そんなことを考えていると、格納庫内にアナウンスが響き渡った。

「オリジナルフィギュア内にいる少年!本艦草薙にいるクルーは、あなたを拘束し、危害を加える気はありません
。オリジナルフィギュアの愛され人は、一国の代表以上の存在になります」

そこまで、マイクに向かって言った後、有馬は息を吐いて、少し間をあけてから音量を上げた。

「愛され人が本人の寿命や病気以外で、死んだり傷ついた場合!オリジナルフィギュアは暴走します!それをとめることができるのは、他のオリジナルフィギュアのみです!本艦一隻では、止められません!ですので…」

再び間をあけると、マイクに叫んだ。

「爆弾を抱え込んだのは、こっちの方なんだよ!さっさと、女の中からでてこいや!」

口調を荒げた有馬を見て、城戸は眉を寄せた。

「し、司令…」

「まったく!」

有馬はマイクのスイッチを切ると、頭をかいた。

「テラのやつらは、オリジナルの怖さを知らないから、大胆にできるのよ!もしフィギュアが暴走した場合、核兵器よりもおそろしいことになるのに!」

有馬は、髪をかき乱した。黙っていれば、どんな服も着こなす美人なのだが、イラついているときの彼女は鬼のようであった。

「しかし、司令」

呆れながらも、城戸がきいた。

「あのオリジナルフィギュアは、起動したばかりで、動きも素人。いくら強力といっても、こちらのフィギュア達で対処できませんか?」

城戸の言葉に、有馬は思い切り顔をしかめ、横目で睨んだ。

「素人が乗ってるから、何とかできたのよ!いえ、素人というよりも、人間が乗ってるから、オリジナルフィギュアは暴走せずに制御できているの。それは、他のオリジナルフィギュアも同じ…。一説によると、15年前のレクイエムの世界侵攻は、愛され人が傷つけられたからといわれているわ。だから、最初に攻撃したのが、韓国朝鮮に中国」

「え!だったら、個人の感情で世界が滅んだですか!」

目を丸くする城戸から、有馬は視線を外した。

「個人?違うわ。神の癇癪よ」

呟くようにそう言うと、有馬はブリッジの窓から海を見た。









「ったく…」

オーストラリア近海にあった軍事施設を殲滅した陸奥は、すべての活動が停止した瓦礫の上でたたずんでいた。

もう動くものもない。

蕪木睦美は、陸奥から降りると、自らが行った一方的な破壊の結果を無表情で見つめていた。焼けた臭いも死臭も、何もかも全て慣れすぎていた。

「どうやったら、できるのかな。俺1人を残すなんてさ」

陸奥の下で、下敷きになっていたオバマの中から、レーンが這い出してきた。

「あんたの腕よ。そんなガラクタで、よく陸奥とやりあえたわね」

蕪木は振り向かずに、そう答えた。

「やりあえた?傷一つもつけることができなかったけどね」

レーンは、自分に背をむけている蕪木の背中に銃口を向けた。

「でも、あんたなら傷つけられそうだ」

「やめなさい!」

蕪木はゆっくりと振り向くと、レーンではなく、その向こうの陸奥を睨んだ。

赤く目を光らせていた陸奥の動きが、止まった。

「フッ」

レーンは笑うと、銃口を下げた。

その様子を見て、蕪木は腕を組んだ。

「合格よ。あんたのフィギュアの操作能力の高さを実感したわ。同レベルのフィギュアに乗っていたら、あたしでも勝てなかったでしょうね」

「光栄だね。すべての海を制する魔女に誉められるのわ」

レーンは銃を捨てると、陸奥を見上げた。

「さすがは、黄金の鳥の弟にして、我が弟ね」

蕪木の言葉に、レーンは肩をすくめて見せた。

「よしてくれ。あんたのとこは、俺のことを認知していないし、兄も俺の母親がアジア系とは知っているが、日本人とは知らない。それに、あんたと年も変わらない」

レーンは両目のカラーコンタクトを外した。ブルーアイズから、黒目に変わった。

「どうやら父親方の血が濃いようで、あまりハーフとは言われないよ」

レーン・ウォーターズ。白人としての父と日本人の母を持つ男。母は正妻ではない。その為、厳格なる蕪木家では、レーンの存在は認められていない。

「あんたの兄さんの機体を見たわ。大した腕ね」

蕪木はレーンの目を見つめた。

「だけど、兄さんの機体では、世界を変えられない。6番目を狙っていたけど、他に取られた」

「だったら、あたしからこいつを奪ったらいい。あんたが、こいつの愛され人になればいい」

「そいつはごめんだよ。姉さん」

レーンも、蕪木の目を見つめ、

「その他大勢の日本人と…いや、他のオリジナルフィギュアの乗り手と違い、あなたは日本人だけが世界を支配する世界を望んでいない。だからこそ、あなたが陸奥に乗っている。世界を自由に旅することができる…こいつを」

その後、再び陸奥に目線を移した。

「だからといって、あたしは日本軍のトップの1人よ」

蕪木は、歩き出した。

「俺だって、半分は日本人だ!」

自分の横を足早に通り過ぎた蕪木に、レーンは叫んだ。

「今回のことは、兄さんに言っていない。日本人として!いや、あんたと俺の母親の子供として、俺は!力がほしい!」

レーンの目から、涙が流れた。

「この世界に、いや!人間に違いなどないということを教えてやりたい!」

レーンの言葉に、蕪木は目を瞑った。すると、脳裏にやさしく笑う母親の姿と、その母親の腕の中で眠る赤ん坊の姿が浮かんだ。

「そういえば…今まで、あんたにプレゼントはあげたことなかったわね」

蕪木は、足を止めた。

「さっき、俺が乗ってた機体には、いろいろくれたけどね」

レーンの皮肉に、蕪木は微笑んだ。

「あんたの才能は多分、母からね。父と結婚する前は、優秀な自衛隊員だったようだし」

そういうと、蕪木はどこからか取り出した封筒をレーンに投げた。

「これは?」

掴んだことを確認すると、蕪木は前を向いた。

「今までの誕生日をまとめてプレゼントするわ。それでも、多いかもね」

そのまま、陸奥の中に消えた。

「レーン…。あんたは、今日ここで、戦死した。その覚悟があれば…チャンスはあるかもね」

起動した陸奥は、踏みつけていたオバマを切り裂くと、その場から海中に消えた。粗悪品であるオバマのコアを、オリジナルフィギュアが捕食することはない。


「姉さん」

レーンは、陸奥の移動で発生した風に煽られながらも、封筒の中身を掴み、微動だにしなかった。

彼の手の中に、あったものは…一枚のIDカードであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...