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勇者の異世界放浪記

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「うーん……」

 僕。雨野 隆星は思い悩む。

 僕は異世界から召喚された勇者である。

 信じてくれる二人の仲間と人類を脅かす魔王を討伐するため世界を旅する。

 とてもわかりやすい話だと思った。

 助けを求める人がいて、僕の力で彼らを助けることが出来たならどんなにいいだろうと。

 その思いは強くなりこそすれ、弱くなることなんてない。

 本当の気持ちがあるとすれば、色あせないこの決意こそが本物だと答えは出したつもりだった。

 だが、ある魔法使いが巻き起こした騒動は、答えを掴み始めていた僕を深い悩みの底に突き落とした。

 想像を超える数々の強者達。

 何もできなかった非力な自分。

 そしていかに身の丈にあっていなくとも、かかるプレッシャーで、もはや止まることは許されない。

 僕は今までごまかしていた、いつか訪れる『問題』が突然目の前に現れた様な気がした。


「勇者様……大丈夫ですか?」

 心配そうに僕の顔を覗き込む白い少女が僕に手を差し伸べる。

「……うん。大丈夫。さぁいこうか!」

 だから彼女の手を僕は力強く握り返す。

 それはいつもとかわらない。

「旅はまだまだ続きそうだにゃぁ」

「そうだね。まだまだこれからさ」

 仲間の言葉に応えて、『勇者』な僕はもちろん力強く頷いた。


 僕には『勇者』である僕を受け入れてくれる仲間がいる。

 彼女達と触れ合うと、出していた答えが間違えであったとは思えなかった。

 でもまだ完全ではなかったということだろう。

 焦らないわけじゃないけれど、考える時間もまだ残っている。

 僕が迷っているのは、今はまだ旅の途中で。僕が何も知らなかったからだろう。

 だからもっと考えなければならない。

 そもそも僕は、問題を既に出されていた。

 自分の目で見て、この世界でなにをするべきか考える。

 僕はその問題を考えることに意味があると思った。

 ひとまず固まっていた答えが簡単に揺らいでしまったのだとしたら、きっと何かが足りていないに違いない。

 だから僕の旅もまた終わらない。

「魔法使いは答えを教えてくれないもんな……」

 僕は呟く。

 とはいえ彼が出す答えと僕の答えはたぶん一致しない予感はあった。

 僕と同じ、異世界にやって来た同郷の先輩は、根本的に立ち位置が違う。

 絆を結んだ相手も。考え方も。目指すところもまったく違った。

 そしてどんな答えを得たところで、彼とたどり着く結末は全く違う気がした。

 同じ異世界人だとは思えない彼の話が常にハッピーエンドだとすれば、僕の話はどうなるかわからない。

 僕に彼のようなすべてをハッピーエンドにするような力はないのだから。

 最初に言っておく。



 僕の物語はーー勇者が敗北する物語だ。

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