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連載
ダンジョンとおっさん 1
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とあるおっさんと一人の少年は、ひっそりと荒野の真ん中で死に掛けていた。
「砂嵐の中をさまよってもう五日ですよ……どうするんですか! もう食料も残り少ないんですけど!」
「……仕方ねぇよ少年。死なないようにがんばろうぜ?」
「そんな適当な!」
泣きそうに訴える少年。おっさんはなるべく堂々と適当なことを言う。
相棒の手前、強がっては見たものの、正直このままだと死にそうだなっとおっさんは思った。
だがここでそれを認めてしまったらそれこそ本当にあっという間に死んでしまいそうである。
まだ望みを捨てるには早い。最悪なのは冷静さを欠くことだ。
嘘でもいいから強がって、命からがらでも何とか生還を目指していきたいところだった。
「滅多に人が入らない秘境に、突如として吹き荒れる砂嵐……冒険者としては、いっとくのが普通だろう?」
「……元々何もない所に砂嵐が吹いたからってなんだっていうんですか?」
ぶつくさと少年は文句を言う。
だが突如起こった異変を調査することもまた、冒険者の仕事である。
そう、おっさんと少年は冒険者である。
商売柄、この手の危機には鼻が効く。
今回もまたおっさんの直感がここに面白そうな冒険の匂いを嗅ぎ取っていた。
「いやいやわかんねぇって。そもそもこんなだだっ広い所全部調べたやつなんていないだろう? それにおかしいんだ。この辺りにはやばい魔獣がうようよしてるって話だったのに今回は一匹も見かけない」
「そうだったんですか!?」
少年は驚いていたようだが、これにはおっさんも呆れた。
魔獣避けも色々と準備してきたが、それにしたって一匹も見かけないというのも妙である。
「お前も少しは自分で情報収集とかしろよ……。まぁいい具合に調査の依頼も出てたしな。見てきて情報を持ってくるだけで報酬があるなら行ってみる価値もあるだろ」
「そう言えばこの仕事、結構高額でしたよね。ただの調査なのに……」
「そりゃあれだろう。みんな失敗してるからだろ?」
「だからなんでそれ知ってて受けるんですか!」
「高額なのには理由があるもんだ。知らない方がおかしい」
「……むぅ。それはすみません」
納得は行っていないがしょんぼりしている少年におっさんは笑う。
なに、そんなに心配することはない。
「こう見えても、生き残ることに関しては結構自信がある。今は目先の事だけに集中しよう」
「目先が何にも見えないんですけどね……なんですこれ? 中を進んだらほとんど夜ですよ」
「ああ、おかしいよな、この砂嵐」
「はい。まったく収まる気配がないってどういうことでしょう。無理やり突破も多分無理」
「そもそもこれ、自然現象なのか? 何かの魔法かもしれないが……聞いたこともないもんな」
「ですよねぇ」
「だからこそ、中身が気になる!」
「……ですよねぇ」
がっくりと肩を落とす少年はあきれているようだったが、おっさんに言わせればまだまだこれから面白くなるところだった。
「呆れるところか? ここは俺よりも喜び勇んで突っ込んで、おっさんなんかに止められるところじゃないのか?」
「おっさんを止めさせないでくださいよ」
「いやいや、おっさんは意外と取り返しがつかないぎりぎりのラインは心得てるもんだぞ?」
「そうは思えないんですけど?」
少年はどうにもあまり信用していないジト目だった。
まぁ、改めてそう指摘されれば、おっさんとて自信満々に言い切れるわけでもなかった。
「まぁ意地になって止時を見失うのもおっさんにはありがちだ」
「ダメじゃないですか」
うむと頷くおっさんに少年は容赦ない。おっさんはそんな反応にナハハと笑い頭をかいた。
「そんな時は冷静な青年が正気に戻してくれると助かるね。幸いこのおっさんは若人の意見もしっかり吟味するおっさんだ」
持ちつ持たれつ、世の中ってそういうもんだろうとおっさんは思った。
「本当にそう願いたいもんですよ。ロマンだけ追い求めてたらお腹はふくれません」
「……いやだねぇ、夢のない若者は。結果しか見えてねぇ」
「僕だって言いたかないですよ。でもですね、遠征するのもタダじゃないんですから。伝説の勇者みたいにでたらめな強さがあるわけでもないんです。命は大事ですよ」
少年に本気の説教を食らうと結構堪えるものがある。それが身につまされればなおさらである。
おっさんはちょっといじけて唇を尖らせた。
「勇者なぁ……やっぱ血気盛んな若者は英雄願望があるもんなのかね。おっさんもこう、ずばーっとこの砂嵐を切り裂いたり出来れば、若者の信頼を得られるの?」
「なに言ってんですか」
おっさんは身振りで切り裂くまねをする。
おっさん的哀愁の漂うジョークのつもりだったのだが……。
「……あれ?」
スッパーンと晴れ渡ってしまった空を見上げておっさんはものすごく戸惑う。
まったく何が起こったのか分からないが、目が点になった少年は、おっさんに言った。
「……えーっと。う、うわー、さすがおじさんみなおしました……よ?」
「いや、さすがに俺じゃねぇから」
なにが起こったのかまったくわからないが、砂嵐が消えたというのなら好都合。
そして何より、荒野の果てにゆがんで見える、きらきら光る都まで見えたら行ってみるしかない。
「おい! なんかすごそうなのがあるぞ少年!」
おっさんが幻の都に興奮して少年に呼びかける。だがそこで少年の様子がおかしいことに気がついた。
少年は砂嵐が晴れたとたん、顔面蒼白になり、体を震わせていた。
「どうしたんだ?」
「――帰りましょう。ここは……入ってはいけない」
「は?」
「砂嵐の中をさまよってもう五日ですよ……どうするんですか! もう食料も残り少ないんですけど!」
「……仕方ねぇよ少年。死なないようにがんばろうぜ?」
「そんな適当な!」
泣きそうに訴える少年。おっさんはなるべく堂々と適当なことを言う。
相棒の手前、強がっては見たものの、正直このままだと死にそうだなっとおっさんは思った。
だがここでそれを認めてしまったらそれこそ本当にあっという間に死んでしまいそうである。
まだ望みを捨てるには早い。最悪なのは冷静さを欠くことだ。
嘘でもいいから強がって、命からがらでも何とか生還を目指していきたいところだった。
「滅多に人が入らない秘境に、突如として吹き荒れる砂嵐……冒険者としては、いっとくのが普通だろう?」
「……元々何もない所に砂嵐が吹いたからってなんだっていうんですか?」
ぶつくさと少年は文句を言う。
だが突如起こった異変を調査することもまた、冒険者の仕事である。
そう、おっさんと少年は冒険者である。
商売柄、この手の危機には鼻が効く。
今回もまたおっさんの直感がここに面白そうな冒険の匂いを嗅ぎ取っていた。
「いやいやわかんねぇって。そもそもこんなだだっ広い所全部調べたやつなんていないだろう? それにおかしいんだ。この辺りにはやばい魔獣がうようよしてるって話だったのに今回は一匹も見かけない」
「そうだったんですか!?」
少年は驚いていたようだが、これにはおっさんも呆れた。
魔獣避けも色々と準備してきたが、それにしたって一匹も見かけないというのも妙である。
「お前も少しは自分で情報収集とかしろよ……。まぁいい具合に調査の依頼も出てたしな。見てきて情報を持ってくるだけで報酬があるなら行ってみる価値もあるだろ」
「そう言えばこの仕事、結構高額でしたよね。ただの調査なのに……」
「そりゃあれだろう。みんな失敗してるからだろ?」
「だからなんでそれ知ってて受けるんですか!」
「高額なのには理由があるもんだ。知らない方がおかしい」
「……むぅ。それはすみません」
納得は行っていないがしょんぼりしている少年におっさんは笑う。
なに、そんなに心配することはない。
「こう見えても、生き残ることに関しては結構自信がある。今は目先の事だけに集中しよう」
「目先が何にも見えないんですけどね……なんですこれ? 中を進んだらほとんど夜ですよ」
「ああ、おかしいよな、この砂嵐」
「はい。まったく収まる気配がないってどういうことでしょう。無理やり突破も多分無理」
「そもそもこれ、自然現象なのか? 何かの魔法かもしれないが……聞いたこともないもんな」
「ですよねぇ」
「だからこそ、中身が気になる!」
「……ですよねぇ」
がっくりと肩を落とす少年はあきれているようだったが、おっさんに言わせればまだまだこれから面白くなるところだった。
「呆れるところか? ここは俺よりも喜び勇んで突っ込んで、おっさんなんかに止められるところじゃないのか?」
「おっさんを止めさせないでくださいよ」
「いやいや、おっさんは意外と取り返しがつかないぎりぎりのラインは心得てるもんだぞ?」
「そうは思えないんですけど?」
少年はどうにもあまり信用していないジト目だった。
まぁ、改めてそう指摘されれば、おっさんとて自信満々に言い切れるわけでもなかった。
「まぁ意地になって止時を見失うのもおっさんにはありがちだ」
「ダメじゃないですか」
うむと頷くおっさんに少年は容赦ない。おっさんはそんな反応にナハハと笑い頭をかいた。
「そんな時は冷静な青年が正気に戻してくれると助かるね。幸いこのおっさんは若人の意見もしっかり吟味するおっさんだ」
持ちつ持たれつ、世の中ってそういうもんだろうとおっさんは思った。
「本当にそう願いたいもんですよ。ロマンだけ追い求めてたらお腹はふくれません」
「……いやだねぇ、夢のない若者は。結果しか見えてねぇ」
「僕だって言いたかないですよ。でもですね、遠征するのもタダじゃないんですから。伝説の勇者みたいにでたらめな強さがあるわけでもないんです。命は大事ですよ」
少年に本気の説教を食らうと結構堪えるものがある。それが身につまされればなおさらである。
おっさんはちょっといじけて唇を尖らせた。
「勇者なぁ……やっぱ血気盛んな若者は英雄願望があるもんなのかね。おっさんもこう、ずばーっとこの砂嵐を切り裂いたり出来れば、若者の信頼を得られるの?」
「なに言ってんですか」
おっさんは身振りで切り裂くまねをする。
おっさん的哀愁の漂うジョークのつもりだったのだが……。
「……あれ?」
スッパーンと晴れ渡ってしまった空を見上げておっさんはものすごく戸惑う。
まったく何が起こったのか分からないが、目が点になった少年は、おっさんに言った。
「……えーっと。う、うわー、さすがおじさんみなおしました……よ?」
「いや、さすがに俺じゃねぇから」
なにが起こったのかまったくわからないが、砂嵐が消えたというのなら好都合。
そして何より、荒野の果てにゆがんで見える、きらきら光る都まで見えたら行ってみるしかない。
「おい! なんかすごそうなのがあるぞ少年!」
おっさんが幻の都に興奮して少年に呼びかける。だがそこで少年の様子がおかしいことに気がついた。
少年は砂嵐が晴れたとたん、顔面蒼白になり、体を震わせていた。
「どうしたんだ?」
「――帰りましょう。ここは……入ってはいけない」
「は?」
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