29 / 257
第29話パワーレベリングに行こう
「ふおおおおおお! 私、後衛だからあんまり走らせないで欲しいんですけどぉ!」
浦島先輩が鉄巨人に追いかけられて、全力疾走していた。
コスプレ仕様の重装備は大変そうだけど、先輩も結構足が速い。
ここの周回の利点であり欠点は一人でやらなきゃいけないことだなーなんて他人事の感想が浮かんだ僕はひどい奴だった。
相手が一体だし、意識がそれてルートがずれると転ばなくなるから仕方がない。
でもあの巨人から追いかけられている感覚は本当に生きた心地がしないんだ。
さて転ばすポイントに来た浦島先輩は急カーブ―――裏技に成功した。
ズズン! と部屋全体を揺らす豪快な転倒から逃げつつ、浦島先輩は鉄巨人の背中を駆け上って、鞭で急所を一撃する。
ズバンとうまく文字を削ることが出来たらしく、鉄巨人はそのまま動かなくなり崩れていったのが確認できた。
「お見事です先輩!」
「……よっしゃー! やったったぞ!」
転移宝玉を片手に掲げる浦島先輩は、今まさにレベルアップも体験しているに違いなかった。
「すっげー! 流石守護者! もうレベル上がったじゃん!……でもいつもと違うっ……!」
そして溜めに溜めたボーナスが一気に浦島先輩に別次元の力を与えたはずである。
ニギニギと自分の指を動かし、身体を動かしている先輩は生命力と魔法防御主体のビルドのはずだが、体感として違いを感じているのは間違いなかった。
「こいつはやばい。こう……生命力が溢れる感じする」
「お疲れ様です。どうです先輩?」
「……死ぬかと思ったわ! でも、体感させてもらったよ。ワタヌキ君の言うことが嘘じゃないってさ」
「でしょう?」
「まぁ……うわ! スキルもめちゃくちゃ覚えてんのね。これはすごい。レベル差があるとここまで違うもんかぁ。ちょっとやべーわ」
壁を越えて、浦島先輩のマスク越しの声色は実に楽しげである。
そして恐ろしい体験を潜り抜けた二人は、まだやってない一人を詰めることにした。
「じゃぁ……次、頑張って」
「うん。頑張れ」
「……また今度じゃダメでござるか?」
「「ダメ」」
「……後生でござるぅ」
じゃあ張り切って行ってきてくれ、桃山君。大丈夫、この試練が終わった後新しい扉が君を待っているはずだ。
ここぞとばかりに迅速に鉄巨人をリポップさせて、桃山君の挑戦は始まった。
「し、死ぬかと思ったでござるが……これはさすがに洒落にならんでござるな」
桃山君は上がった息でガスマスクをシュコシュコ言わせながら、自分に起こった変化を感じ取ったらしい。
桃山君が優先させたのは、攻撃力と俊敏性だ。
耐久力を捨てた超攻撃型ビルドを嬉々として選択した桃山君は、中々ロマンチストだと僕は確信した。
では最初の儀式も終えたことだし、続いての儀式は僕が踏んだ手順のいくつかを一足飛びである。
「では二人とも第一段階クリアという事で、続いて行ってみましょうか?」
「「は?」」
「そんなに声を揃えて仲がいいですね。大丈夫、スキルもレベルももう一つ扉開けちゃいましょう」
「……今度はどこに連れてく気? もぅお腹いっぱいよ?」
「……いやな予感がするでござる」
「20階ですよ? すごいですね、一日に二回も守護者と戦った探索者なんて、学園初なんじゃないかな?」
一度突破さえしてしまえば、20階まですぐ来れる。
なるほど確かに一度攻略すると躊躇う理由がないなって、攻略君の言葉に納得している自分が恐ろしかった。
とはいえまだまだ鉄巨人を一体倒しただけの二人には荷が重い。
今回メインで戦うのは、他ならぬ僕の役目だった。
「では今回は二人とも後方支援お願いします。百足は毒液を吐くんで範囲内に絶対入らないように。特に桃山君は気を付けてね? ポーションと毒消しは渡しておくから、アイテムで支援お願いします」
「ぎゃあああ! 無理無理無理! 私虫ダメなんだって!」
「それはさすがに死ぬでござるぅ!」
「大丈夫大丈夫。戦うのは僕だから」
「ホ、ホントにここ20階?」
「どどど、どうやってこんなところまで……」
「今は細かいところは目を瞑っておいて。では―――パーティ戦でやってみましょうか」
僕も聖騎士の力をそろそろ実感するために、こいつはちょうどいい相手だ。
ゴキリと首を鳴らしてハンマーを担いだ僕は、気が高ぶって頭の炎を燃え上がらせた。
まぁ自分じゃわからないけど、感情が高ぶると燃え上がるのは仕様らしい。
聖騎士のジョブの特徴は色々ある。
戦士と僧侶を引き継いだパラメーターの補正は、下級職の比ではないという。
それも今後の育成が楽しみな要素だが、一番の特性はその身に纏うオーラにあった。
鉄巨人を倒す時にも感じたが、状況次第で強力な攻撃手段にも防御手段にもなるそれは、シンプルながら非常に使いやすい。
そして―――。
「なるほど。攻略君が一押しにするわけだ」
百足に向かって飛び出した僕は、まるで人間ロケットだった。
身体に纏ったオーラが僕の意識に従って、動きを強化している。
おそらくパラメーター以上の加速力が得られているのは間違いなかった。
このまま殴るのは容易いが……僕はまずあえて牙をむいた百足の攻撃をこの身で受けることにした。
右腕一本を差し出したがしかし、百足の牙はほとんど肌にすら届いていない。
「よっと!」
そしてハンマーを左腕で横なぎに払うと、一つ百足の頭が吹き飛んだ。
毒液を被ったが、これもまた弾かれたようだ。
「だが匂いはダメか……息は止めておいた方がいいのかな?」
『積極的には吸わない方がいいね。だが自己治癒出来る程度に毒は抑えられているよ』
「……ならいいか。力む前に呼吸は必要だ」
さてもう片方の頭のターゲットはウォークライを使う必要もなく、強力なダメージ量で僕に釘付けだ。
僕の胴体を引きちぎろうと真っすぐ突っ込んでくる的は巨大で、そういうのを砕くのはハンマーの得意とするところだった。
「なんかビルドのコンセプトとズレてない? 怪我はするけど死なない感じだと思ってたんだけど?」
『レベルが上がったからね。それに上級職はその特性も破格だよ。より深く潜れるように』
「……なるほど」
20階でこれなら、もっと先を見据えた壊れ性能ってことなんだろうと思うと背筋が冷えた。
まぁそれはともかく、守護者の百足が完全に息絶えたところでみんなソワソワしていると思うので、僕は戦闘の終了を告げた。
「20階攻略完了です! お疲れさまでした!」
「うおおおおお! めっちゃすごかったでござる!」
「なんで腕もげてないの!? 回復する!?」
「大丈夫、大丈夫。それにグズグズしている暇はないです。さてではアイテム回収して、目的地に行きましょう」
「待って? ……ここが目的地じゃないんでござるか!?」
「それはさすがにもういいんじゃない?」
「でもまだ、二人ともろくにレベルアップしてないじゃないですか」
「いや一日に1個も2個も上がるのがおかしいんだからね?」
「そうでござる。たいていの人間は卒業までに10いかないんでござるよ?」
「じゃあ。ラッキーですよ。二人とも卒業に十分なレベルは今日中に稼げるから」
「「……」」
もはや閉口した二人だが、メンタルにくるのはここからだった。
「では……僕はゴムボートの大きなやつを買ってますから、ここで膨らませてから持っていきましょう」
「……意味が分からない」
「ゴムボートでござるか?」
「そう……でもここからは心を強く持ってね?」
僕は一応忠告したが、気持ちが反映されて頭の火力はややとろ火になった。
ボートを担いだコスプレ集団の僕らは、沼に繋がる水場に到着すると、試験もかねてドローンを展開してみた。
プワーンと甲高い音を立て、ドローンが飛んで行く。
それは人類規模での革新ではあるのだが21階初体験の二人に驚く余裕がないのが残念である。
「これで……たぶん良し。撮影準備出来たよー」
「の、暢気でござるな。ここって……21階層なんでござるよね?」
「自殺行為じゃないかなぁ……いや、ポーションは持って帰ってんだよなぁこの後輩」
意味が分からないと青い顔をする友人二人だが、まだ青くなるのはここからだった。
「その通りです。だからモンスターが強くて、ジョブの熟練度を上げるのに最適なんですよ」
僕はせっせと準備を整えて二人をボートに押し込み沼へ。
オールを漕いで所定の位置についた。
「シールド貼りまーす!」
しかし自分でやったからわかるがめっちゃおっかなかったから、安心のために魔法の盾は貼っておく。
最後の仕上げに、ショックバレットを森の中に叩き込むとお祭りの始まりである。
「武器構えて! 忙しいですよ!」
「「ぎゃあああああ!!!!!」」
やっぱり現れた森の凶悪なモンスター達は本日もまったく容赦のない牙の剥き出し具合だった。
では今あらゆる経験値をジャブジャブ稼げるボーナスチャンスを、僕以上の効率で堪能してもらおう。
まさにパワーレベリングを出来ているんじゃないだろうか?
いやあ、パワーレベリングってこういうんじゃないかな?
あ、金色の奴いた。叩いておこう。
情報が多すぎて気にしすぎると切りがないが、今は無心レベルで集中しないともったいない。
ジョブを整えるために重要な儀式みたいなものはまぁ別の意味で心が痛いけど、僕としてはドローンにどんな映像が撮れているか今から楽しみである。
襲撃はしばらく続いた。
やはり長い。とても長い時間ではあったと思う。
ひたすら叩いて叩いて、騒がしかった僕らの悲鳴もそのうち無くなり。
モンスターの断末魔だけがひたすら響き続ける奇妙な時間は唐突に終わりを迎えて、沼に静寂がようやく戻ってきていた。
ボートの上で疲れ果て、その場に座り込む二人に僕は意識の確認のために話しかけた。
「……どうでした?」
「……なんでござろう? ダンジョンの光と闇を同時に見たような時間でござった……」
「楽をしているはずなのに、力を得るには代償が必要だよねって妙に実感したわ……」
だいたい同意見である。
桃山君も浦島先輩も詩的な表現をするもんだなって感心してしまった。
「でも……恐ろしくレベル上がってない?」
「上がってますよ。ジョブも育ち切ってるでしょ? 今のパラメーターなら二人の希望の上級職も解放されてるはずですよ」
これは攻略君情報だが、実際それは達成されている。
僕もすぐに目的のジョブは手に入ったから、大丈夫だと思う。
「僕は今聖騎士ですけど、このレベリングのおかげなんです」
「せ、聖騎士なんてジョブ……あるんでござるね」
「聞いたことないんだけど……かなり興味がある」
「いやいや、僕のことより先に自分の事でしょう?」
急激なパラメーターの上昇の恩恵であるジョブの開放は、僕らに無数の選択肢を叩きつけてくる。
そこにはいくらでも個人の趣味を反映することが出来るから、選んでいくだけで特色が生まれるだろう。
攻略君に話を聞けば、やはりダンジョンでの醍醐味は組み合わせを選べるようになってからだと思う。
「いやいやさすがにそんな劇的な変化はしないんじゃないでござるか?」
「そうそう私ら突っ立ってただけだし」
自分の状況を確認するのが怖いのか、引きつった笑みでないないと言う二人だが、鑑定の特殊技能がなくても、レベルと今なれるジョブくらいは確認できるのだからそこはしっかり確認して堪能して欲しいところだ。
とはいえ驚き疲れると休みも必要だと僕もよくわかっていたが。
「いや、実際すごい変化があると思いますよ? ちょっと僕はドローン回収して来ますね」
僕はハハハと軽く笑いながら、ドローンを回収しに行った。
こちらは確認すると、動いているし一定の距離を自動で飛行までしているのだからなかなかうまくいっていると言える。
後はちゃんと撮影出来ていれば大勝利だが、後で確認してみよう。
気が抜けたのか桃山君と浦島先輩はかぶっていた仮面とヘルメットを脱いでいる。
しかし僕は二人の……いや、浦島先輩の顔を見て思わず二度見してしまった。
「劇的な変化してますけど!?」
「は? 何? ステータスの話?」
「いやいや! めっちゃ痩せてるでござるよ先輩!」
「ああん? セクハラか? 私のパーフェクトボディにはいささかの変化もなさそうじゃね?」
「めっちゃ厚着だからですよ! 顔めちゃくちゃほっそりしてます!」
「えぇ~? マジかよ?」
桃山君もギョッとしていたから、たぶん目の異常というわけではないはずだった。
……ワニのせいだったりするか? しないよな?
最後に色々不安もあったが、今日という一日は大きく僕らを変化させたのは間違いなかった。
浦島先輩が鉄巨人に追いかけられて、全力疾走していた。
コスプレ仕様の重装備は大変そうだけど、先輩も結構足が速い。
ここの周回の利点であり欠点は一人でやらなきゃいけないことだなーなんて他人事の感想が浮かんだ僕はひどい奴だった。
相手が一体だし、意識がそれてルートがずれると転ばなくなるから仕方がない。
でもあの巨人から追いかけられている感覚は本当に生きた心地がしないんだ。
さて転ばすポイントに来た浦島先輩は急カーブ―――裏技に成功した。
ズズン! と部屋全体を揺らす豪快な転倒から逃げつつ、浦島先輩は鉄巨人の背中を駆け上って、鞭で急所を一撃する。
ズバンとうまく文字を削ることが出来たらしく、鉄巨人はそのまま動かなくなり崩れていったのが確認できた。
「お見事です先輩!」
「……よっしゃー! やったったぞ!」
転移宝玉を片手に掲げる浦島先輩は、今まさにレベルアップも体験しているに違いなかった。
「すっげー! 流石守護者! もうレベル上がったじゃん!……でもいつもと違うっ……!」
そして溜めに溜めたボーナスが一気に浦島先輩に別次元の力を与えたはずである。
ニギニギと自分の指を動かし、身体を動かしている先輩は生命力と魔法防御主体のビルドのはずだが、体感として違いを感じているのは間違いなかった。
「こいつはやばい。こう……生命力が溢れる感じする」
「お疲れ様です。どうです先輩?」
「……死ぬかと思ったわ! でも、体感させてもらったよ。ワタヌキ君の言うことが嘘じゃないってさ」
「でしょう?」
「まぁ……うわ! スキルもめちゃくちゃ覚えてんのね。これはすごい。レベル差があるとここまで違うもんかぁ。ちょっとやべーわ」
壁を越えて、浦島先輩のマスク越しの声色は実に楽しげである。
そして恐ろしい体験を潜り抜けた二人は、まだやってない一人を詰めることにした。
「じゃぁ……次、頑張って」
「うん。頑張れ」
「……また今度じゃダメでござるか?」
「「ダメ」」
「……後生でござるぅ」
じゃあ張り切って行ってきてくれ、桃山君。大丈夫、この試練が終わった後新しい扉が君を待っているはずだ。
ここぞとばかりに迅速に鉄巨人をリポップさせて、桃山君の挑戦は始まった。
「し、死ぬかと思ったでござるが……これはさすがに洒落にならんでござるな」
桃山君は上がった息でガスマスクをシュコシュコ言わせながら、自分に起こった変化を感じ取ったらしい。
桃山君が優先させたのは、攻撃力と俊敏性だ。
耐久力を捨てた超攻撃型ビルドを嬉々として選択した桃山君は、中々ロマンチストだと僕は確信した。
では最初の儀式も終えたことだし、続いての儀式は僕が踏んだ手順のいくつかを一足飛びである。
「では二人とも第一段階クリアという事で、続いて行ってみましょうか?」
「「は?」」
「そんなに声を揃えて仲がいいですね。大丈夫、スキルもレベルももう一つ扉開けちゃいましょう」
「……今度はどこに連れてく気? もぅお腹いっぱいよ?」
「……いやな予感がするでござる」
「20階ですよ? すごいですね、一日に二回も守護者と戦った探索者なんて、学園初なんじゃないかな?」
一度突破さえしてしまえば、20階まですぐ来れる。
なるほど確かに一度攻略すると躊躇う理由がないなって、攻略君の言葉に納得している自分が恐ろしかった。
とはいえまだまだ鉄巨人を一体倒しただけの二人には荷が重い。
今回メインで戦うのは、他ならぬ僕の役目だった。
「では今回は二人とも後方支援お願いします。百足は毒液を吐くんで範囲内に絶対入らないように。特に桃山君は気を付けてね? ポーションと毒消しは渡しておくから、アイテムで支援お願いします」
「ぎゃあああ! 無理無理無理! 私虫ダメなんだって!」
「それはさすがに死ぬでござるぅ!」
「大丈夫大丈夫。戦うのは僕だから」
「ホ、ホントにここ20階?」
「どどど、どうやってこんなところまで……」
「今は細かいところは目を瞑っておいて。では―――パーティ戦でやってみましょうか」
僕も聖騎士の力をそろそろ実感するために、こいつはちょうどいい相手だ。
ゴキリと首を鳴らしてハンマーを担いだ僕は、気が高ぶって頭の炎を燃え上がらせた。
まぁ自分じゃわからないけど、感情が高ぶると燃え上がるのは仕様らしい。
聖騎士のジョブの特徴は色々ある。
戦士と僧侶を引き継いだパラメーターの補正は、下級職の比ではないという。
それも今後の育成が楽しみな要素だが、一番の特性はその身に纏うオーラにあった。
鉄巨人を倒す時にも感じたが、状況次第で強力な攻撃手段にも防御手段にもなるそれは、シンプルながら非常に使いやすい。
そして―――。
「なるほど。攻略君が一押しにするわけだ」
百足に向かって飛び出した僕は、まるで人間ロケットだった。
身体に纏ったオーラが僕の意識に従って、動きを強化している。
おそらくパラメーター以上の加速力が得られているのは間違いなかった。
このまま殴るのは容易いが……僕はまずあえて牙をむいた百足の攻撃をこの身で受けることにした。
右腕一本を差し出したがしかし、百足の牙はほとんど肌にすら届いていない。
「よっと!」
そしてハンマーを左腕で横なぎに払うと、一つ百足の頭が吹き飛んだ。
毒液を被ったが、これもまた弾かれたようだ。
「だが匂いはダメか……息は止めておいた方がいいのかな?」
『積極的には吸わない方がいいね。だが自己治癒出来る程度に毒は抑えられているよ』
「……ならいいか。力む前に呼吸は必要だ」
さてもう片方の頭のターゲットはウォークライを使う必要もなく、強力なダメージ量で僕に釘付けだ。
僕の胴体を引きちぎろうと真っすぐ突っ込んでくる的は巨大で、そういうのを砕くのはハンマーの得意とするところだった。
「なんかビルドのコンセプトとズレてない? 怪我はするけど死なない感じだと思ってたんだけど?」
『レベルが上がったからね。それに上級職はその特性も破格だよ。より深く潜れるように』
「……なるほど」
20階でこれなら、もっと先を見据えた壊れ性能ってことなんだろうと思うと背筋が冷えた。
まぁそれはともかく、守護者の百足が完全に息絶えたところでみんなソワソワしていると思うので、僕は戦闘の終了を告げた。
「20階攻略完了です! お疲れさまでした!」
「うおおおおお! めっちゃすごかったでござる!」
「なんで腕もげてないの!? 回復する!?」
「大丈夫、大丈夫。それにグズグズしている暇はないです。さてではアイテム回収して、目的地に行きましょう」
「待って? ……ここが目的地じゃないんでござるか!?」
「それはさすがにもういいんじゃない?」
「でもまだ、二人ともろくにレベルアップしてないじゃないですか」
「いや一日に1個も2個も上がるのがおかしいんだからね?」
「そうでござる。たいていの人間は卒業までに10いかないんでござるよ?」
「じゃあ。ラッキーですよ。二人とも卒業に十分なレベルは今日中に稼げるから」
「「……」」
もはや閉口した二人だが、メンタルにくるのはここからだった。
「では……僕はゴムボートの大きなやつを買ってますから、ここで膨らませてから持っていきましょう」
「……意味が分からない」
「ゴムボートでござるか?」
「そう……でもここからは心を強く持ってね?」
僕は一応忠告したが、気持ちが反映されて頭の火力はややとろ火になった。
ボートを担いだコスプレ集団の僕らは、沼に繋がる水場に到着すると、試験もかねてドローンを展開してみた。
プワーンと甲高い音を立て、ドローンが飛んで行く。
それは人類規模での革新ではあるのだが21階初体験の二人に驚く余裕がないのが残念である。
「これで……たぶん良し。撮影準備出来たよー」
「の、暢気でござるな。ここって……21階層なんでござるよね?」
「自殺行為じゃないかなぁ……いや、ポーションは持って帰ってんだよなぁこの後輩」
意味が分からないと青い顔をする友人二人だが、まだ青くなるのはここからだった。
「その通りです。だからモンスターが強くて、ジョブの熟練度を上げるのに最適なんですよ」
僕はせっせと準備を整えて二人をボートに押し込み沼へ。
オールを漕いで所定の位置についた。
「シールド貼りまーす!」
しかし自分でやったからわかるがめっちゃおっかなかったから、安心のために魔法の盾は貼っておく。
最後の仕上げに、ショックバレットを森の中に叩き込むとお祭りの始まりである。
「武器構えて! 忙しいですよ!」
「「ぎゃあああああ!!!!!」」
やっぱり現れた森の凶悪なモンスター達は本日もまったく容赦のない牙の剥き出し具合だった。
では今あらゆる経験値をジャブジャブ稼げるボーナスチャンスを、僕以上の効率で堪能してもらおう。
まさにパワーレベリングを出来ているんじゃないだろうか?
いやあ、パワーレベリングってこういうんじゃないかな?
あ、金色の奴いた。叩いておこう。
情報が多すぎて気にしすぎると切りがないが、今は無心レベルで集中しないともったいない。
ジョブを整えるために重要な儀式みたいなものはまぁ別の意味で心が痛いけど、僕としてはドローンにどんな映像が撮れているか今から楽しみである。
襲撃はしばらく続いた。
やはり長い。とても長い時間ではあったと思う。
ひたすら叩いて叩いて、騒がしかった僕らの悲鳴もそのうち無くなり。
モンスターの断末魔だけがひたすら響き続ける奇妙な時間は唐突に終わりを迎えて、沼に静寂がようやく戻ってきていた。
ボートの上で疲れ果て、その場に座り込む二人に僕は意識の確認のために話しかけた。
「……どうでした?」
「……なんでござろう? ダンジョンの光と闇を同時に見たような時間でござった……」
「楽をしているはずなのに、力を得るには代償が必要だよねって妙に実感したわ……」
だいたい同意見である。
桃山君も浦島先輩も詩的な表現をするもんだなって感心してしまった。
「でも……恐ろしくレベル上がってない?」
「上がってますよ。ジョブも育ち切ってるでしょ? 今のパラメーターなら二人の希望の上級職も解放されてるはずですよ」
これは攻略君情報だが、実際それは達成されている。
僕もすぐに目的のジョブは手に入ったから、大丈夫だと思う。
「僕は今聖騎士ですけど、このレベリングのおかげなんです」
「せ、聖騎士なんてジョブ……あるんでござるね」
「聞いたことないんだけど……かなり興味がある」
「いやいや、僕のことより先に自分の事でしょう?」
急激なパラメーターの上昇の恩恵であるジョブの開放は、僕らに無数の選択肢を叩きつけてくる。
そこにはいくらでも個人の趣味を反映することが出来るから、選んでいくだけで特色が生まれるだろう。
攻略君に話を聞けば、やはりダンジョンでの醍醐味は組み合わせを選べるようになってからだと思う。
「いやいやさすがにそんな劇的な変化はしないんじゃないでござるか?」
「そうそう私ら突っ立ってただけだし」
自分の状況を確認するのが怖いのか、引きつった笑みでないないと言う二人だが、鑑定の特殊技能がなくても、レベルと今なれるジョブくらいは確認できるのだからそこはしっかり確認して堪能して欲しいところだ。
とはいえ驚き疲れると休みも必要だと僕もよくわかっていたが。
「いや、実際すごい変化があると思いますよ? ちょっと僕はドローン回収して来ますね」
僕はハハハと軽く笑いながら、ドローンを回収しに行った。
こちらは確認すると、動いているし一定の距離を自動で飛行までしているのだからなかなかうまくいっていると言える。
後はちゃんと撮影出来ていれば大勝利だが、後で確認してみよう。
気が抜けたのか桃山君と浦島先輩はかぶっていた仮面とヘルメットを脱いでいる。
しかし僕は二人の……いや、浦島先輩の顔を見て思わず二度見してしまった。
「劇的な変化してますけど!?」
「は? 何? ステータスの話?」
「いやいや! めっちゃ痩せてるでござるよ先輩!」
「ああん? セクハラか? 私のパーフェクトボディにはいささかの変化もなさそうじゃね?」
「めっちゃ厚着だからですよ! 顔めちゃくちゃほっそりしてます!」
「えぇ~? マジかよ?」
桃山君もギョッとしていたから、たぶん目の異常というわけではないはずだった。
……ワニのせいだったりするか? しないよな?
最後に色々不安もあったが、今日という一日は大きく僕らを変化させたのは間違いなかった。
あなたにおすすめの小説
さびれたレンタル道具屋の転生おっさん、道具の使い方を教えまくる。~客のS級冒険者が俺を歴戦の英雄と勘違いして弟子入りを求めてくるんだが~
遥風 かずら
ファンタジー
前世で過労死した久世織人が目を覚ますとそこは異世界の王都、しかも古道具屋の跡取り息子として転生していた。アクセル・リオットとして成長した彼は荷物持ちとして冒険者パーティーに同行、その道中に【無限収納】スキルを開花させる。
パーティー活動から離脱後、四十歳となったアクセルは前世の記憶を思い出し、儲かりそうという考えで道具レンタル屋を始めていた。客足もなく店がさびれる中、道具の使い方が出来てない冒険者によって治安の乱れや魔物討伐の失敗が続いているという話を常連客から聞かされる。あらゆる道具に精通するアクセルは客の冒険者に使い方を教えに行くことを思い立つ。
アクセルの教えにより、やがてS級冒険者や聖女、王女までも勘違いして彼の元には次々と弟子入りを求める者が現れていくのだった。
《カクヨム様で50000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う
なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。
スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、
ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。
弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、
満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。
そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは――
拾ってきた野良の黒猫“クロ”。
だが命の灯が消えかけた夜、
その黒猫は正体を現す。
クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在――
しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。
力を失われ、語ることすら封じられたクロは、
復讐を果たすための契約者を探していた。
クロは瀕死のソラと契約し、
彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。
唯一のスキル《アイテムボックス》。
そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、
弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。
だがその裏で、
クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、
復讐の道を静かに歩み始めていた。
これは――
“最弱”と“最凶”が手を取り合い、
未来をやり直す物語
俺の家に異世界ファンタジーガチャが来た結果→現実世界で最強に ~極大に増えていくスキルの数が膨大になったので現実世界で無双します~
仮実谷 望
ファンタジー
ガチャを廻したいからそんな理由で謎の異世界ガチャを買った主人公はガチャを廻して自分を鍛えて、最強に至る。現実世界で最強になった主人公は難事件やトラブルを解決する。敵の襲来から世界を守るたった一人の最強が誕生した。そしてガチャの真の仕組みに気付く主人公はさらに仲間と共に最強へと至る物語。ダンジョンに挑戦して仲間たちと共に最強へと至る道。
ガチャを廻しまくり次第に世界最強の人物になっていた。
ガチャ好きすぎて書いてしまった。
素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。
名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。
ダンジョンのある生活《スマホ片手にレベルアップ》
盾乃あに
ファンタジー
進藤タクマは25歳、彼女にフラれて同棲中の家を追い出され、新しい部屋を借りたがそこにはキッチンに見知らぬ扉が付いていた。床下収納だと思って開けたらそこは始まりのダンジョンだった。
ダンジョンを攻略する自衛隊、タクマは部屋を譲り新しい部屋に引っ越すが、そこにもダンジョンが……
始まりのダンジョンを攻略することになったタクマ。
さぁ、ダンジョン攻略のはじまりだ。
ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった
海道一人
ファンタジー
二十年前、地球の各地に突然異世界とつながるダンジョンが出現した。
ダンジョンから持って出られるのは無機物のみだったが、それらは地球上には存在しない人類の科学や技術を数世代進ませるほどのものばかりだった。
そして現在、一獲千金を求めた探索者が世界中でダンジョンに潜るようになっていて、彼らは自らを冒険者と呼称していた。
主人公、天城 翔琉《あまぎ かける》はよんどころない事情からお金を稼ぐためにダンジョンに潜ることを決意する。
ダンジョン探索を続ける中で翔琉は羽の生えた不思議な生き物に出会い、憑依されてしまう。
それはダンジョンの最深部九九九層からやってきたという天使で、憑依された事で翔は新たなジョブ《運び屋》を手に入れる。
ダンジョンで最強の力を持つ天使に憑依された翔琉は様々な事件に巻き込まれていくのだった。
ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ
高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。
タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。
ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。
本編完結済み。
外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。