ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち

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第36話非常時の備え

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「ふぅ……これでまぁ後一匹……」

 モンスターを探して右往左往すること数日。

 何で僕だけ錬金釜使っちゃダメなのよと愚痴を零したくなったが、授業中だから仕方がない。

 ただ隠しパラメーターの時と違ってモンスターの種類を限定しなくていいし、僕自身のレベルが上がっていることもあってそれでも何とかノルマは達成出来た。

「超化……本当に、習得出来たな」

『おめでとう! よかったよ! すぐ終わって本当によかった!』

 チョット涙声の様な気がする攻略君は思ったより十倍労ってくれたが、なにもそこまでという感想だった。

「喜びすぎじゃない? どしたのよ?」

『いや……思ったより絵が地味すぎたなって。せっかく上級職を解放してこれからだって時に私が余計なことを言ったもんだから女の子にまで引かれてしまって……』

「……気にしてないから。全然全く気にしてないからね?」

『……うん。でもこのスキルはきっと君の力になってくれるはずだよ。女の子にだってモテモテだ!』

「いや、本当に気にしていないんだよ? ああ、でもそれなんだけどさ……具体的に超化ってどういうことなの?」

『……なんとなく察して乗っているのかと思ってたんだけど、見当もついてなかったのか……。つまりは一時的な限界突破かな?』

 あんまり内容を知らないことを白状したら呆れられてしまった。

 いや、なんとなくそうかなという予想はあったけど、改めて考えるとそんな都合のいいものあるのかなって感じだった。

「そんなもの突破したら危ないんじゃないのかい?」

『それはそうだ。しかし限界を超えた力を緊急事態に任意で使えるんだよ? 一時的にすべてのステータスが10倍にもなる』

「じゅ、10倍!? それはまた破格な……」

 まさに驚異的な性能に、僕はその後の反動が怖くなってきた。

『その代わりタイムリミットがあるね。体力の消耗が激しいから注意だ』

「それはないも同然のデメリットだなぁ」

 うーむと僕は深く唸った。

 攻略君がおすすめするくらいだから、そんなにヤバい事にはならないとは思うのだが、実際に使って見なければ結論は出ないらしい。

 とはいえ目的を達成したことだし、さて帰ろうかと荷物をまとめていると、レベルアップの影響か、遠くから悲鳴が聞こえた気がした。

「……緊急事態?」

『緊急事態だね』

 咄嗟に走る。

 それは下の階層から聞こえてきているようだ。

 あんまり他の生徒に関わりたくはないが、緊急事態を無視するほど情がないわけじゃない。

 僕は咄嗟に頭に顔を隠す炎を発現させて、悲鳴の方向に走った。

 周囲に対象以外の人影ナシ。

 そして誰かを襲っているのは2階にしては強力なモンスターだった。

『あれは、ポイズンスパイダーだね。5階に出るモンスターだ。ランダムエンカウントしたらしい』

「……ランダムエンカウント」

 攻略君の言うそれを僕も授業で習ったことがある。

 ダンジョンでは極低確率で、その階層に普段出現しないモンスターが現れることがあるという。

 そのモンスターのレベルは階層にそぐわないほど高いことも多く、ダンジョン探索者の死亡理由でかなり高いウエイトを占めるんだとか。

 だが助けることは今の僕なら簡単……なはずだったんだけど僕はこの土壇場で重要なことを思い出した。

 つまり今まで僕は……どんな状況で作業をしていたかということをだ。

「……しまった。まだ回復してないっ!」

『危険だね』

 これはまずいのではないだろうか?

 助けに行くどころか死体が一つ増えるだけでは?

 いろんな思考が一度に浮かんで、走馬灯を見ながら僕はハンマーを振りかぶる。

 一撃で真面目に仕留めなければ、死ぬ!

 そう感じた僕の選択は、ほとんど一個に絞られた。

 超化+最大攻撃力。

 一撃で叩き潰せば、何の問題もない。

「……!」

 最強の攻撃手段を、全力で叩きつける。

 しかし超化スキルを使用した瞬間、全身の毛穴が開いたような感覚は、相当にヤバいと理解出来た。

 筋肉が全身一回り膨れ上がる。

 身体の奥の奥から滞っていた何かが噴き出す。

 血の巡る音が聞こえ、細胞そのものがカッと目を覚まして別物になってしまうような感覚に振り回されるように僕は一撃を繰り出すと、モンスターが弾けた。

 手ごたえなんて全くない。

 一瞬空振りしたかと思ったくらいである。

「……」

 えぇ? 消し飛んだけど?

 どう考えてもハンマーよりもでっかいモンスターが一撃だった。

 誰だか知らんが倒れている女生徒は大丈夫そうだ。

 しかし所詮はHP1。2階で歩き回ったらすぐ死ぬ気がしてならない。

 だから僕はダッシュで家に帰ることにした。

 怪我をしている女の子を置いてだが、いやまぁポーションでも落っことしていけば大丈夫だろう。

 その日、初めて使った超化のほとんどの時間は逃げに使ったが、その速度はまさに韋駄天の様だったに違いなかった。


 月読 カノンはその日、ダンジョンにソロ活動の自主練習のつもりでやってきていた。

 大分ダンジョンというものに慣れて来て、浅い階なら何の心配もないと―――そんな驕りがあったのは間違いない。

 それにタイミングは最悪だったとも言える。

 魔法使いの彼女は3階でモンスターを倒して、精神力が残り少ないと感じて切り上げた直後に、巨大な蜘蛛のモンスターに遭遇したのだ。

 ダンジョンでは稀に、そういったことがあると知識としては知っていた。

 その階層に見合わない強力な個体が突然現れるランダムエンカウントはタイミングしだいでは容易く死にかねない。

 ただしそれは知っていただけで、しっかりと理解していなかったのだとカノンは身をもって知ることになった。

 パーティをいつも組んでいる仲間の姿は今はない。

 なるほど、確かに誰もがパーティ推奨だと口々に言うはずだった。

「うっ……!」

 蜘蛛の糸が手足を絡め取り、武器を飛ばされる。

 目の前に蜘蛛の牙が迫ってきて、ああもうここで終わりなんだと死を覚悟した時―――彼は突然現れた。

 魔力が切れていたとはいえ、自分が手も足も出なかったモンスターを一撃で屠る彼の姿はとても同じ人間には思えなかった。

 手に持ったハンマーをたった一振りしただけで、命中した蜘蛛は消し飛ぶ。

 ハンマーの振った先に飛び散った体液がわずかにその痕跡を残すのみだ。

 カノンの視線の先にあったのは、青白い炎の残光だけ。

 カノンは呆けて、走り去る彼の背中を見送ることしか出来なかった。

「なに? ……頭すごい燃えてたけど……なに?」

 いつの間にか、手足の拘束が解けているのは彼の仕業だろう。

 たぶん彼の着ていたものは学校の制服だった気がするが、彼女の知る中にあんなに強い生徒はいない。

「……」

 そして彼が去った後にはポーションが一つ転がっていた。

「これは、置いて行ってくれたの?」

 カノンはポーションを拾い上げて、これは使っていいものなのかと首を傾げた。



「……桃山氏、そう言えば今日なんとダンジョンで襲われてる女の子を助けたんだよ」

「……何でござるかそのラノべみたいなイベント。羨まし。どんな娘でござった?」

「え? 顔なんて見てないよ、超逃げて来た」

「えぇ? なんでぇ?」

「えぇ? だって、何話していいかわかんないじゃん。僕も死にそうだったし。ポーションだけ置いてさっさと帰ったよ」

「……そうでござるか。まぁそれでこそ、ワタヌキ君でござるな」

 なんだろう? 穏やかな顔なんだけど、そこはかとなく腹立たしい波動を感じる。

 しかし確かにレアなイベントと言われればレアなイベントだった。

 そして僕らは、浦島先輩おすすめギャルゲーを解きながら、女の子のピンチに颯爽と現れる男視点で物語を眺めていた。

「こんな感じでござった?」

「こんな感じだったわ」

「何だよそれ最高か?」

 浦島先輩が後ろから感想を漏らすが、残念ながら自分には画面の中の彼のようにアフターケアを出来る度量はなかった。

「……先輩ギャルゲー好きですよね。女性向けは興味ないんすか?」

「おいおい、女ならみんなBL好きってわけじゃないのだぜ?」

「いや、BLだけじゃないでしょ。男が攻略される奴もありますって」

「なんだいそっちか」

 そういうの女性向け表記だった気がするんだけど、浦島先輩の好みには合わないようで、テンションが少し控えめになった。

「まぁ……私は元来百合好きだから」

「……このゲーム、男が主人公では?」

「プレイヤーが私なんだから実質百合だろうがよ?」

「……まぁ?」

 要するに、男子を攻略するより女子を攻略したいということかな?

 浦島先輩心はよくわからない。

「まぁでも、ジャンルの開拓は気が向けば雑食だよ。今後はもっと楽しみ方は増やせるかもね。ホラ……ダイエット成功してしまったし……正体隠す衣裳作った時も、うちの同好会のポテンシャルを感じたよね。これはコスプレに手を出すしかないかと思う今日この頃だよ?」

「ああ、アレよく着てますしね。ダンジョンのガチ装備で問題ないって相当ですよ」

 僕も今は市販ジャージだが、今後何かしら鎖帷子以外でも手を加えてみようかと考えてしまったくらいだ。

「そうでござるなぁ。何気にみんな多芸でござる」

 確かに本気でコスプレもやってみればすごいものが出来そうではあった。

 うん。色恋イベントとかたぶん無理! 

 僕はせっせとゲームのイベントを攻略しながら、ゲームの主人公のアグレッシブさは方向性が違うなっとそんな愚にもつかないことを考えていた。
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