ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち

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第62話重要な選択

 杖の一撃で簡単に砕ける岩……みたいなモンスターはあまりにも弱い。

 おかげで随分と倒した気がするそれをしっかりカウントして、とうとう準備は整った。

「ふぅ……これでおしまいです」

 レイナは思ったよりも早く目標を達成したが、正直なところ不安がぬぐえずにいた。

 前もって説明はされたものの、その説明が眉唾な話ばかりだということもある。

 信じる根拠は、自分の目で見たサブカル同好会の強さのみ。

 新装備や、見たこともないジョブなどで根拠はだいぶん補強され、期待感が大きいが、常識やセオリーという名のフィルターは、無視するには分厚過ぎる。

 そして実際に彼らの強さの真実を理解する方法はなかった。

 不思議な薬はワタヌキの言う通りレイナを弱くしたが、そういう呪いや毒の可能性だってまだまだ残っていて、一つ噛み合わなければ最悪の結果になることをレイナもわかっていた。

「彼らの言葉通りなら、次のレベルアップでワタシは未だかつてない魔力と生命力を手に入れるはず……」

 そしてレイナ自身が実感としてそれを確かめる方法は、愛用の装備を身に着けて実際にモンスターを倒すしかなかった。



「……よし」

 レイナは動き出す。

 ひとまず手っ取り早く試すには、1階のモンスターでは弱すぎた。

 前の自分と比較するのなら、自分のクラスの授業が分かりやすいとレイナは判断した。

 そしてこの試しの実感次第では、今後の活動が……いや人生が大きく変わる可能性がある。

 レイナは気合を入れて笑みを作る。

 そしていつも通り元々自分がメインに活動していた階層を攻略しているパーティに混ぜてもらうことにした。



 7階層。

 50階クラスを体験した今では、てんで大した圧力ではないが決して侮れる相手ではない。

 飛び出すモンスターは今の自分には少し手ごわい相手でもある。

「やっぱりレイナさんがいてくれると全然違うよ!」

「魔法期待してる!」

「ええ、任せてください……」

 それはいつも通りのダンジョンアタックだった。

 ただ、いつもと変わったことがあるとすれば、彼らの賞賛がまったく心に響かないことだろう。

 今の自分はたぶん今までよりはるかに弱い。彼らの賞賛は私が今まで積み上げてきたフィルターによるものだろうとわかるからだ。

 そして何度目かのモンスターを討伐した時、そろそろだろうと思っていたタイミングでレイナのレベルは一つ上がった。

「……!」

 ああ―――だがしかし、そこでレイナは確信した。

 ここ数日の賭けは、勝ちだと。

 全身に鳥肌が立って思わず笑みが浮かぶが、この歓喜を共有できる人はこの場に誰もいない。

 だがしかしダンジョンは空気を呼んでくれたのか、成果を試す相手だけは用意してくれたみたいだった。

「うわあああ! 蛇だ! 蛇が出た!」

「警戒しろ! こいつはヤバイ!」

 いつか戦った種類と同じ大蛇がこちらを見つけ襲い掛かって来たのは、パーティメンバーにとっては悪夢のような事態だっただろう。

 しかし今のレイナにとってはとても幸運だった。

「フゥ……じゃあ行きましょうか」

 レイナは精神を統一する。

 そしていつもと同じように魔力を高め、杖を構えた。

 まったくおあつらえ向きによく来てくれたものだと、レイナは歓喜と感謝で思わず笑みを浮かべた。

 そんなタイミングバッチリな彼にはお礼に今の全力をプレゼントするつもりだった。

「大きいのいきますよ!」

 早すぎる精神統一に、え?っと戸惑いながらも、射線を開けてくれるパーティメンバーは優秀だ。

 しかし魔力を解き放った瞬間、レイナの笑顔は凍り付く。

「―――は?」

 魔法はしかし今までとは全く違う感覚で魔力を引き出し解き放たれた―――。



 何時もの部室でまったりとというわけでもなく、僕は本日パソコン作業に精を出していた。

「うーん……浦島先輩どんな感じです?」

「いやーまぁ光っちゃいるけど……なんか挙動がおかしい」

「見た感じ。うまく文字が表示されてない感じでござるよ?」

「マジかぁ……」

 浦島先輩改造計画、魔術文字点灯のためプログラミングを試している僕だが、こいつが中々難しい。

 浦島先輩は衣裳を装着して実際に操作してもらっていたがうまく動かず、桃山君は佳境の衣装作りの合間に手を貸してくれていた。

 ネットで調べればどうにかなると思っていたが、ただ決まった位置だけ光らせるだけのことが少しばかり難易度が高い。

 こうなったらいよいよ攻略君の能力をフル活用して解決してしまおうかと考えていると、その時部室に全力ダッシュしてくる足音が聞こえた。

 そしてどういうわけか足音はこの部室の前に止まると、扉が砕けるような勢いで開け放たれた。

 そこに立っていたのは我らが同志、レイナさんである。

 彼女は肩で息をして、ずいぶん急いでここにやってきたようだった。

「おつかれさまー……どうしたの?」

「あれはヤバイです! 威力が別物じゃないですか!?」

 すごい迫力で詰め寄られた。

 一瞬何の話か分からなかったが、すぐに準備が整って魔法を使ってみたんだなと察すると僕は穏やかに微笑んだ。

「ああ、効果が実感できたならよかった。うちに攻撃魔法を本格的に使える人はいなかったから、僕らよりすごかったんじゃない?」

「あー確かにー。攻撃魔法派手だもんなぁ」

「そうでござるなぁ。戦士系のスキルは魔法に比べると威力の増減が分かりづらいでござる」

「実感なんてもんじゃないです! レベルアップの瞬間、流れる魔力が違います! 撃ったら7階の蛇が消滅しました! 前は焦げただけだったのに骨までこんがり灰です!」

 そりゃあ派手に火力が上がったものだ。

 やっぱり効果を実感するなら魔法使いがぴか一らしい。

 しかし先にクラスメイトに披露するとは、元々人目を集めるほどの実力者ならではで思い切りがよかった。

 そしてそのお披露目は、うまくいったみたいだった。

「ワタシ感動しました! しかもまだまだ上がるんですよね!」

「そりゃあ……」

 たぶんこれから、恐ろしく上がる。

 レベルアップはもう現時点でも50階相当の扉が開かれているんだから次の実感も劇的に違いなかった。

 安心感もあって、強く否定しなかったのも悪かったんだろう。

 わずかばかりの沈黙はレイナさんの期待をさらに煽ってしまったようだ。

 彼女の目は輝いて、アニメならシイタケみたいになっていそうだった。

「ですよね! そうです! 教えを乞うならマスターですね! これからは君のことをマスターワタヌキと呼びましょう!」

「マ、マスターワタヌキ……」

 だけどさすがにその呼び方は勘弁してほしい。

「おめでとうございますマスターワタヌキ」

「おめでとうでござるマスターワタヌキ」

「ご指導ご鞭撻よろしくお願いします! マスターワタヌキ!」

「あれー……示し合わせたかの様じゃん。ははん? 君達、さては悪乗りしてるね?」

 三人で拍手しながらセリフを揃えるこいつらは……まったく楽しい奴らだった。
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