ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち

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第67話実は一番危ないところ

 攻略君の攻略情報は、まず手始めにこうだった。

『今回準備はダンジョンの中で行うよ』

「……それはどこの階で?」

『もちろん50階から先だ。とあるポイントでまずは水汲みだね。この間買った寸胴鍋が大活躍するはずだ』

「……料理以外に使いたくないなぁ」

『似たようなものじゃないか。まぁ料理するのは今回悪魔だけどね』

「……悪魔ってうまいの?」

『……君ってやつは』

 いや、今のは匂わせた攻略君が悪くない?

 鍋に水を沢山汲んで、いったい何をしようというのかは知らないが攻略君のいう事は絶対である。



 スピード感はあるが、実は一番危険なところが再び始まる。

 僕は険しい表情のまま、パンと顔を両手で叩いて気合いを入れると、パーティメンバーに告げた。

「じゃあ……攻略を始めます。さっきの言葉を絶対に忘れないように」

「わ、わかった」

「わかりました」

「殿は任せるでござる」

「いや……後ろに意識は割かないで、はぐれないようにだけ集中して」

「「「……」」」

 最初の一歩にクラウチングスタートを選択したのは、そのスピード感をまずは視覚的に理解してもらうためだった。

「行きます!」

 そして僕は走り始めた。

 最初からトップスピードにはしない。

 だがみんなもレベルが上がっているだけあって、ちゃんと付いて来ているのを確認しながら、徐々にスピードを上げてゆく。

 ダンジョンは下れば下るほど基本的に広くなってゆく。

 ぐずぐずしていたら、いつまでたっても10階を踏破なんて出来やしないから仕方がなかった。

 だが今となっては難しいことはない。

 攻略君の情報を駆使すれば、最適ルートを駆け抜け続けるだけの簡単な作業だ。

 しかし50階以降を改めて横目で眺めてみると、このエリアの美しさに見惚れてしまった。

 まさに手付かずの大自然を体現したかのような風景は一見すると楽園の様であった。

 残念なのはじっくりと風景を楽しんでいる余裕は僕にはないという事だろう。

 僕達は全力疾走のまま、55階層までやってくると目的の湖を発見して小休止を取った。

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……何の行軍だよ! ビックリしたよ!」

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……それにめちゃくちゃおっかないです! 何で初めて来た階層をこんな突っ切るような真似が出来るんですか!? 罠があったら死にますよ!」

「罠だけじゃなくてモンスターがいても、やばい地形にうっかりはまっても、何ならこのまま叫んでいても死にますよ。余計なこと考えないで息整えて。余裕があるならガンガン鍋に水を汲んでください」

「「……はい」」

「何で水汲みなんでござるか?」

「この後必要になるからだよ?」

「……了解でござる」

 そう、それでいい。僕だって全く余裕はない。

 モンスターが集まってくる前に目的の水を回収。

 アイテムボックスに大量の水をぶち込んで全力疾走続行である。

 溶岩や、竜巻の吹き荒れる荒々しい自然を表現したフロアもあった気がしたが、安全ルートを最短で走り抜けたら、まぁ暖房や冷房の効いた部屋を通り過ぎるのと大差はない。

 そして僕らは無事、60階守護者のフロアに到達して、ようやくいったん神経を緩めることが出来た。

「はい……お疲れ様でしたー。いやーおっかないですねやっぱり」

「「「…………」」」

 肉体面はともかく、精神面での緊張で口も利けないほど疲れ果てているメンバーは、実によく頑張ってくれたものだった。

 だが息が出来る様になったら、ここからが本番である。

 なにせ60階層の守護者を倒さないともう一回今の全力ダッシュをしないと帰れないという地獄が続くのだ。

「まぁ。これから戦うのが悪魔だとしたら、負けても地獄に引きずり込まれそうですけどね。アッハッハッハッ……


「笑えない冗談だ!」

「縁起でもないこと言わないで欲しいでござる!」

「……そうでした。これからがある意味本番ですね」

「そういうこと。じゃあ―――始めようか」

 だけどまぁ、僕はもう階層を突破した時点でちょっと安心していた。

 何せ攻略君の攻略は、今まで守護者に対しては本当にお手軽な攻略を提供してくれている。

 今回は鍋と水しか用意していないが、後は攻略君の指示に従えばいいわけだ。

 僕らは守護者の扉を開く。

 今回の部屋はずいぶんと薄暗い。

 ただ冷気のような嫌な空気が脇を通り過ぎてゆくと、僕は思わず身震いしてしまった。

「……」

 そして天井は高いがそんなに広くない部屋の中に、真っ黒な剣を持った生物が石の椅子に座っていた。

 そいつは僕らを視界に収めると、血のように赤い瞳を見開き、立ち上がった。

 そしてコウモリのように皮膜の張った翼を広げフワリと空に舞い上がる。

「……悪魔だ」

 レイナさんの呟きが耳に入った。

 説明されるまでもなく、そいつが悪魔だというのは間違いないらしい。

 じゃあ攻略君。こいつのお手軽な倒し方をお願いします。

 そう念じると、攻略君は僕にこう指示した。

「浦島先輩! レイナさん! 今すぐ薪で火を起こして汲んで来た水を火にかけて!」

「「えぇ!」」

 驚くのも無理はない。

 僕も正直今からか!?と思ったが、そんなことを考える暇があったら一秒でも早く火を起こすべきだ。

「魔法じゃダメなんですか!」

 だがそれでも疑問を差しはさんだレイナさんに、僕は手短に答えた。

「雑味が邪魔だ。魔力は使わないで。泉の水の純粋な魔法じゃないとダメだ」

 僕らが汲んで来た水は、精霊の加護を受けた聖なる水だ。

 こいつは悪魔に対してすさまじい特攻性能があるらしい。

 だが、この悪魔は強い。

 水を直接かけようとしたところで、当てるのは至難の業と言わざるを得ないが、気体にしてしまえば、そんなものは関係ないということのようだ。

「……なるほど。毒殺みたいなものか、これなら簡単に……」

 と思ったが僕は言ってから気がつく。

 いや、今から火を起こしてあの量の水が蒸発するまで一体どんだけ時間がかかるんだよと。

 攻略君? この作戦本当に大丈夫? 悪魔の人、今にも襲い掛かってきそうだけど?

 焦る心のままに念じると、攻略君は我が意を得たりとドヤ声でこう言った。

『ああ。気張り給えよ! ここからは前衛の独壇場だ! かわいい女の子達にいいところ見せ放題だよ!』

「……!」

 だからそう言う攻略は止めろって言っただろう!?

 なんか攻略君の悪い虫が騒いだ形跡に僕は絶望する。

 しかし時すでに遅し、賽は投げられていた。

「火! 火ですね! ええっとシノ! やり方わかりますか!」

「ええ! ま、まぁ。出来る……出来るとも! ホラ! マッチも持ってる!」

 後ろから非常に頼りない声も聞こえるけれども、今は考えている暇はなかった。

 前衛と後衛。

 役割が決まっているのなら、引き付けるのは僕の役目だ。

「桃山君……刀を抜いてくれ。全力だ……全力で時間を稼ぐ」

「……心得た」

 僕らは武器を構えた。

 すると悪魔の姿がいきなり視界から消え、僕はハンマーをフルスイングして迎え撃つ。

 悪魔の恐ろしく速い剣に合わせられたのは、我ながら奇跡に近かった。

「だけど……見えない訳じゃない!」

 ガツンと剣を弾くと、僕の目の前で火花が派手に散って僕の網膜に鮮やかに焼き付いた。
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