ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち

文字の大きさ
74 / 257

第74話とあるパーティの奮闘

「……こ、これは。本当にあるじゃん」

 愕然として天音さんが立ち尽くしていた。

 その原因は1階に当然のように設置されていた扉付きの小部屋で、それは紛れもなくトイレだった。

「だから言ったでしょう?」

 月読 カノンは、驚く友人に少しだけ得意げに言った。

 とはいえ彼女も何となくそれが出来上がるだろうとは思っていたが、実際にトイレとして成立しているところを見ると感慨深い。

 彼はたぶん成し遂げたのだろう。

 ただ自分の目で見ても信じられないのか、クラスメイトの天音さんはとても悔しそうな顔をしていた。

「ぐっ。でもまだダンジョンが変化したら消えるかもしれないし? 何回やっても無事とも言えないし…………なんか生意気」

「そんな風に言うものではないわ。すごく助かるでしょう?」

「……それはそうね」

 他愛ない事のように思えるが、実際は世界を揺るがしかねない変化だと思う。

 ダンジョンを開拓する足掛かりになりそうな技術は、きっと未来、人類の役立つことなんてわかり切ったことだ。

「すごいわよ? ちゃんと水も出るから」

「なんでよ!? おかしくない!?」

「そうなの。おかしいのよ」

 だが、何でそんなことが出来るのかはわからない。

 彼はおそらくスキルを使っているが、どうやってそれが身につけられるのかは全く知らないし、公開されてもいない。

 スキルは切り札だから隠すのは普通だが、自分達とは明らかに違う才能は少しだけ羨ましいとカノンは思っていた。

 でもない物ねだりをしていたって仕方がない。

 雑談はこれくらいにして、カノン達は他のパーティメンバーを追いかけた。

「さて、見物はこれくらいにして―――じゃあ私達も、やるべきことをしましょう」

「……そうね。いつまでもトイレ見てるのも馬鹿らしいわ」



 現在カノン達のパーティは5階で探索を続けていた。

 しかし戦闘はパーティで挑んでいても、出てくるモンスターと実力が拮抗していて、毎回激しい戦闘を繰り返していた。

「はぁああああ!」

 前衛の草薙君が果敢に飛び掛かっているのは、先日殺されかけたポイズンスパイダーだ。

 非常に硬い外骨格と、強力な毒が恐ろしいモンスターはとてもソロでは相手にならない。

 戦士の人間離れした力で振るわれた剣ですら刃が立たず、草薙君は何度も斬りつけているのに大したダメージにはなっていなかった。

 そして接近戦を挑んでいるうちに、ポイズンスパイダーの腕の一撃が草薙君の服を貫いて引きずり回した。

「うわっ!」

「草薙! 今助ける!」

 慌てた羽々霧君は持っていた槍で引っかかった服を裂いたが、隙を突かれて粘液で壁に縫い留められた。

「ぐぁ! マズイ! 動けない!」

 そして放り出された草薙君は地面に叩きつけられ、動けないようだ。

 前衛がいなくなってカノンも嫌な汗が噴き出たが、すでに魔法の準備は完了していた。

「この! やったな!」

「……行きます!」

 カノンと天音さんは練り上げた魔力を魔法にして解き放つ。

 強力な熱線と炎はポイズンスパイダーの体に命中して一気に焼き尽くした。

 魔法に焼かれポイズンスパイダーは力を無くして崩れ落ち、動かなくなる。

 際どいところだったがどうやら止めを刺すことに成功したようだった。

「……よし、やったな」

「大丈夫?」

「ああ。かすり傷だよ」

 こちらに足を引きずりながらやってきた草薙君は明らかにかなりのダメージを負っていた。

 カノンは彼に歩み寄って、その場に座らせるとすぐに治療を開始する。

「あまり無茶するものではないわ。やっぱりこの階層は私達には少し早いんじゃないかしら?」

 カノンは回復魔法を施しながら、リーダーである草薙君に話をしてみる。

 しかし彼はゆっくりと首を横に振った。

「いや、ギリギリの戦いだから意味があるんじゃないか。雑魚を倒しても大した経験にはならないよ」

「それはそうだけど……」

「実際俺、強くなってきてる実感があるんだ。だから今はどんどん戦っていきたい。それがパーティのために一番いいと思うんだ」

「……そうね」

 カノンは曖昧に返事をした。

 しかし実際は、彼女が魔法使いという後方支援だからだろうか? 草薙君の言うような強くなった実感はあまりない。

 一日2匹、運が悪いと1匹倒せるかどうかという討伐数はさすがに少なすぎる気がする。

 だが一般論では戦闘は仕留めるかどうかよりも、一回ごとの戦闘の質が重要だと言われていた。

 過酷な戦闘を潜り抜ければ、良質な経験を得られて強くなれる。

 その強さは、レベルというよくわからないダンジョンに入ることで生み出された指標よりもよほど価値のあることだと。

 実際、格下のモンスターを倒しても中々レベルは上がらないし、立ち回りや戦い方は一戦するたびに、洗練されて行っているのは間違いないことだった。

 そしてそれは前衛である草薙君達の方が実感として感じやすいところなのだろう。

「遠回りの様だけど、一つ一つの戦闘を丁寧にやっていこう。大丈夫。僕らは負けないさ」

「……ええ、分かった」

 回復が終わり、肩をポンと叩くと草薙君は立ち上がる。

 魔法があるから成立するが、無茶なことは変わらないとカノンは思った。

 それでも、無茶をするのはカノン達全員が力を求めているからだ。

 このパーティはとても活動的だ。そんな彼らと行動を共にすれば少なくとも停滞するようなことにはならない。

 だが草薙君はこちらを振り返ると、こんな提案をしてきた。

「でも今日はもう帰ろうか。体が治っても装備がもうダメだ。流石にこれじゃあ5階のモンスターは倒せない」

「こっち回復終わったよー。感謝しなよ? 回復と攻撃が出来る魔法使いなんて滅多にいないんだから。二人もいるのはラッキーなんだよ?」

「いちいち恩に着せるなよ……」

「じゃあ、怪我するんじゃないわよ。魔力だって減るんだから」

「……そうだな」

 これは、表情に出てしまっていたかもしれない。

 まだまだ未熟だなと内心カノンは自嘲する。

 しかし今日も無事全員生き延びることが出来た。

 カノンは提案を受け入れて、来た道を慎重にたどって上の階へと上がっていった。




 1階にようやくたどり着いて、カノン達は胸を撫でおろす。

 この階層のモンスターならさすがに負けることはない。

 カノン達は重い足取りで、ダンジョンの外に向かっていたら、そこで今まで見たこともないものを発見した。

「な、なによこれ!」

 天音さんが声を上げて驚いていたが、カノンも同じように驚いていた。

 派手な看板が飾られた小部屋だった。

 備え付けのカウンターの上には、お代はこちらと書かれた宝箱と、数点の商品らしきアイテムが並んでいた。

「あれ!? トイレが売店になってる!」

「なんだこれ? 来た時はなかったよな?」

「ポーションが並んでないか!? 持って行っても構わないという事か?」

 だけどカノンはなんとなく嬉しくなって、ダンジョンにいるとは思えないほど穏やかな笑みを浮かべていた。

 ああ、これはたぶんトイレの彼がやったのだろう。

 売店にはトイレもしっかりついていたから、たぶんそうだ。

 これは彼もすごい速さで進化しているんじゃないかとカノンは感心してしまった。

「……」

 きっと、凄く努力しているんだろうとそう思う。

 自分達の進歩が感じられない現状だと、なおさらそう感じた。

 彼は建築にすべての労力を割いているだろうし、戦闘している暇なんてないだろうと考えるのは自分達がそうだからである。

 だけどなんでだろう?

 彼の事を思い出すと、カノンはあの青白い燃える頭がちらついた。

「そんなわけないわよね……」

「何か言った?」

「何でもないわ。あ、このポーションものすごく安い。買っていこうかな?」

「……でも怪しくない?」

「こっちにはモンスターポークサンドってあるけど……本当にモンスターなのかな?」

「……そうなら毒じゃん」

 まぁそうだけど、ちょっと興味がある。本当にちょっとだけ。
感想 3

あなたにおすすめの小説

さびれたレンタル道具屋の転生おっさん、道具の使い方を教えまくる。~客のS級冒険者が俺を歴戦の英雄と勘違いして弟子入りを求めてくるんだが~

遥風 かずら
ファンタジー
前世で過労死した久世織人が目を覚ますとそこは異世界の王都、しかも古道具屋の跡取り息子として転生していた。アクセル・リオットとして成長した彼は荷物持ちとして冒険者パーティーに同行、その道中に【無限収納】スキルを開花させる。 パーティー活動から離脱後、四十歳となったアクセルは前世の記憶を思い出し、儲かりそうという考えで道具レンタル屋を始めていた。客足もなく店がさびれる中、道具の使い方が出来てない冒険者によって治安の乱れや魔物討伐の失敗が続いているという話を常連客から聞かされる。あらゆる道具に精通するアクセルは客の冒険者に使い方を教えに行くことを思い立つ。 アクセルの教えにより、やがてS級冒険者や聖女、王女までも勘違いして彼の元には次々と弟子入りを求める者が現れていくのだった。

《カクヨム様で50000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う

なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。 スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、 ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。 弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、 満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。 そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは―― 拾ってきた野良の黒猫“クロ”。 だが命の灯が消えかけた夜、 その黒猫は正体を現す。 クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在―― しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。 力を失われ、語ることすら封じられたクロは、 復讐を果たすための契約者を探していた。 クロは瀕死のソラと契約し、 彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。 唯一のスキル《アイテムボックス》。 そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、 弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。 だがその裏で、 クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、 復讐の道を静かに歩み始めていた。 これは―― “最弱”と“最凶”が手を取り合い、 未来をやり直す物語

俺の家に異世界ファンタジーガチャが来た結果→現実世界で最強に ~極大に増えていくスキルの数が膨大になったので現実世界で無双します~

仮実谷 望
ファンタジー
ガチャを廻したいからそんな理由で謎の異世界ガチャを買った主人公はガチャを廻して自分を鍛えて、最強に至る。現実世界で最強になった主人公は難事件やトラブルを解決する。敵の襲来から世界を守るたった一人の最強が誕生した。そしてガチャの真の仕組みに気付く主人公はさらに仲間と共に最強へと至る物語。ダンジョンに挑戦して仲間たちと共に最強へと至る道。 ガチャを廻しまくり次第に世界最強の人物になっていた。 ガチャ好きすぎて書いてしまった。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

ダンジョンのある生活《スマホ片手にレベルアップ》

盾乃あに
ファンタジー
進藤タクマは25歳、彼女にフラれて同棲中の家を追い出され、新しい部屋を借りたがそこにはキッチンに見知らぬ扉が付いていた。床下収納だと思って開けたらそこは始まりのダンジョンだった。  ダンジョンを攻略する自衛隊、タクマは部屋を譲り新しい部屋に引っ越すが、そこにもダンジョンが……  始まりのダンジョンを攻略することになったタクマ。    さぁ、ダンジョン攻略のはじまりだ。

ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった

海道一人
ファンタジー
二十年前、地球の各地に突然異世界とつながるダンジョンが出現した。 ダンジョンから持って出られるのは無機物のみだったが、それらは地球上には存在しない人類の科学や技術を数世代進ませるほどのものばかりだった。 そして現在、一獲千金を求めた探索者が世界中でダンジョンに潜るようになっていて、彼らは自らを冒険者と呼称していた。 主人公、天城 翔琉《あまぎ かける》はよんどころない事情からお金を稼ぐためにダンジョンに潜ることを決意する。 ダンジョン探索を続ける中で翔琉は羽の生えた不思議な生き物に出会い、憑依されてしまう。 それはダンジョンの最深部九九九層からやってきたという天使で、憑依された事で翔は新たなジョブ《運び屋》を手に入れる。 ダンジョンで最強の力を持つ天使に憑依された翔琉は様々な事件に巻き込まれていくのだった。

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。