ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち

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第79話天使階層を攻略しよう

 花々と光あふれる階層で、僕はコソコソと忍びながら攻略君の言葉に耳を傾けていた。

『聖騎士のオーラを、属性効果マシマシで常時展開しておくと、天使に見つかりにくくなる。今回君一人なのは実はこれが大きいよ』

「……それで、今回いい回復薬を作るために必要なアイテムはなに?」

 声を潜めて尋ねると、攻略君はレシピを答えた。

『天使の体液。精霊の水。炎の鳥の尾羽根ってところだね』

「……天使の体液?」

 なんかとんでもないことを言い出したぞ? この攻略君。

 僕はいったん、聞き返した。

「……それは絶対必要なのかい?」

『もちろんだ。涎でも涙でも血でも何でもいい。とにかく天使属性のモンスターの体液だ』

「……飲みたくないんだけど」

『じゃあ死なないことだね』

「じゃあ……死にたくはないからいいか」

 イメージ的な意味でもこれから使うかもしれない桃山君がいなくてよかったかも。

 いやまぁ死ぬと決まったわけではないけれども、死なないに越したことはない。

『まぁ今回作るのは蘇生薬だから、飲むんじゃなくて身体に振りかけるんだけどね』

「……蘇生薬かぁ。どれくらい蘇生するかは知らないけど、ひょっとしてマジで死人が生き返ったりする?」

『死人が生き返るよ』

「えぇ? マジか……それってヤバくない?」

 言っていることが本当なら人類の歴史を変えそうな一本だけど、どうやら冗談ではないようだが、制約がないわけでもなさそうだった。

『ただしそこまでの効果を期待するなら50階より深いところでの使用限定だけどね。この薬はダンジョンの大気中に漂う濃い魔力を用いて、身体の組織と魂を完全修復する薬なんだ。いや、運がいいよ君の友達は。オーガのいる階層が50階より深いところにないと、今回の攻略は成立しなかった』

「んんっ!……それもそうだけど、そういう事じゃないんだよなぁ」

 放っておけば死にかねない怪我でもすぐ治る回復薬くらいの認識でいたが、明確に死人も生き返ると明言されると、ちょっと意味合いが変わって来た。

 ゲーム脳の僕からすると全回復アイテムと蘇生アイテムくらいの違いではあるのだが、確かにそれは違うものだった。

 死者を蘇生するアイテムはその可能性こそ論じられていたが、未だに発見されていない。

 条件付きとはいえ、可能だというのならその価値は計り知れないものになるだろう。

「……まあ、これも黙ってればわからないか」

『現状で簡単に使えるものではないからね。それこそ無用な死人を増やしたくなければ必要な時以外使わないことをお勧めするよ』

「そうだね。そうしよう」

 では蘇生薬をどうするかは後々考えるとして、今はその優秀な回復薬をとりあえず手に入れることから始めることにしよう。

「……じゃあ、今回その天使のモンスターを見つけて片っ端から腹パン的な?」

『……君ってやつは中々えげつないことを言うなぁ。いや違うよ』

「じゃあどうする? やっぱり倒して手に入れるしかないかな?」

 何ならドロップアイテムで纏めてくれると精神衛生上とても優しいんだけど、攻略君の言い方だと、どうも素材の方っぽいので地味に絵面がひどくなる未来しか見えない。

『そこで朗報だ。聖騎士は天使属性をテイムするのに、補正のあるジョブだよ』

「えぇ?……テイムして、エンドレスで体液摂取しようって?……さすがに鬼すぎない?」

『違うそうじゃない……いやまぁそういうことになるのか?』

 こんな天国みたいなフロアで、なんでこんな地獄より地獄みたいな会話をしなければならないんだ。

 僕はどうしたものかと唸るが、テイムすればいいというのは気が楽だった。

 今までのテイムの傾向を考えると、安全策を取りたい僕としては非常に魅力的な流れではあった。

『天使のテイムに必要なアイテムはない。彼らを倒した強者に確率で従うだけだ』

「ああ……結局戦うことにはなるのか。でも勝てるかな?」

『勝つことは難しくないよ。だが確率なのが曲者だね』

「……となると」

『まぁ出るまで頑張る。つまりは回数の問題になる』

「回数をこなせと? それは……最悪の部類だなぁ」

 僕は深いため息をついた。

 今まで出会った中でも最強クラスのモンスターと、何度も目的が達成されるまで戦い続けなければならないのだとすると、それはかなり絶望的に思える。

 もしそれが可能だとすれば、攻略君の知恵頼みとなることが決定した。

 だけど……。

「倒すとなると……攻略君はすごい事言い出すんだよなぁ」

『極めて安全かつ効率的な提案しかしないよ。なに、今回も存分にうま味があるとも。悪魔がそうであったように、天使にも効く特別な水を君はまだ持っているだろう?』

 攻略君の言うアイテムは、おそらく精霊の階層で大量に汲んで来た例の泉の水なのは間違いなさそうだった。

「……精霊の水? でもだとしても空を飛ぶ天使にこれをどうやって喰らわせるんだ? 蒸気にするにしても今回は密室ではないし。なによりぶつけるには量が足りない。とても回数が足りるとは思えないけど?」

 悪魔の時とは前提条件が違いすぎる。

 そして天使は大抵、翼を持っていて空を飛べるというのも難易度を高くしていた。

 だが攻略君は何の問題もないというように答えた。

『なに。小分けに出来ないならどぶ漬けで行こう』

「……どぶ漬けって」

『いいかい? 今回君は友人のためのひと手間くらいに考えているかもしれないが、この階の攻略は君にとってもすさまじく有益だ』

「……そんなに?」

 ここまで言う攻略君はなんだか珍しい。

 どうやら本当にこの天使階の攻略は、攻略君一押しのスポットの様だった。

『ああ。だから私は是非とも成功させてもらいたい。現状だと最初が危険なんだ。ぐずぐずして天使に狙われたらただでは済まないからね。ホラ、早く穴を掘ろう』

「おおぅ。まさか……落とし穴でいく気ですか? さすがに無理じゃないか? 天使は飛ぶんだよ?」

『そうとも。だけど餌があれば飛び込むだろう? 落とし穴の魔法文字は覚えているかな?』

「……ああ。覚えてる」

『なら早めに始めよう』

 攻略君の言う餌に、僕はとても心当たりがあった。

 そして僕はインプの書を開く。

「……なんかすまん」

 ああ、今日のMVPは間違いなく君になりそうだよと、視線が優しくなったのは出会ったばかりの彼を案じたからだった。
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