ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち

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第85話影桜の舞い散る戦場

 今、桃山君がいるのは68階層の鬼タイプのモンスターが多数生息しているエリアのはずだった。

 60階台の悪魔のエリアは、各種地獄のようなモチーフの階層で構築されている。

 そんな凶暴なモンスターの支配する階層の中でも戦闘色の濃厚なエリアは、上から行くには少々深い位置にあった。

 だが僕はすでに更に深いエリアを攻略済みなので問題はない。

「あ。いつの間にか70階層攻略してんじゃん。ずるー」

「抜け駆けはなしですよ!」

「申し訳ねぇ。今回は桃山君の修行のためにスピード攻略が必要だったから……」

「シュギョウ! なんですかその心躍る響きは! 修行パートは漫画の華ですが!?」

「好きだけどねぇ。どちらかと言えば引き立て回じゃない? 私的には味の良いサイドメニューだけど?」

「いやいやワタシ的にはもはや本編ですよ。真似したくなるでしょ? これ大事!」

「僕も大好きですよ修行回。炭酸みたく同時に摂取しなきゃ、威力半減です」

 非難を浴びつつ、修行トークに花を咲かせ、僕らは防寒着を着込んで生徒会の人達にもそれを提供する。

 そして69階層の極寒エリアを一気に駆け抜けることになった。

 その際生徒会の二人を誰かがおぶることになったのだが……女性二人をおんぶする役目は女の子二人が抜擢された。

「……まぁそうなるよね」

「あれー? おんぶしたかったのー? 代わったげようか?」

 浦島先輩が楽し気にからかってくるが、それはご遠慮いただきたい。

「これはイベントフラグか!?っと身構えた純情男子の気合いを返して欲しいもんですね。……冗談はともかく、これから69階層抜けるんですよ? 道先案内はバッチリやるんで。ちゃんと付いて来てください」

「ああ、それな。大丈夫さ、まぁ私は生徒会長のおんぶイベントを存分に楽しむけどね!」

「おい……」

「ここは任せて先に行け! 頑張れワタヌキ氏!」

「ガンバレ」

「……頑張りますとも。最短ルートを駆け抜けますんで、ここからは慎重に!」

 適当な声援がなんとも気が抜けるけど、攻略君のナビは今日も冴えわたっている。

 僕達はモンスターに遭遇することもなく、あっという間に69層を突破して、桃山君の修行場である階層にたどり着いた。

 僕はしかし、桃山君を広大な68階層から探すのは大変だろうと思っていたのだが―――彼は思ったよりずっと早く、簡単に見つかった。

「……!」

 ズン! ズズン!

 岩の多いフロアの地面を揺らし、腹に響く振動が断続的に聞こえてくる。

 僕らは甘く見ていたかもしれない。

 60階クラスのモンスター達と、その戦闘に適応し、人類を超越した超人の死闘は広大な敷地でも狭すぎるものらしい。



「がああああああああ!!!!!」

 ガスマスクの下の咆哮が僕らの鼓膜を叩いた。

 黒い桜の花吹雪が戦場を舞い、赤い閃光が分身しながら飛び掛かるのは、鬼の一体である。

 巨人じみたその体躯から振り下ろされる金棒を、すり抜けた様にしか見えないギリギリで躱し、桃山君は接敵の瞬間、刀を振るう。

 袈裟斬りに振り下ろしたと思ったら、足を飛ばし。腕を飛ばし。

 首を断って仕留めると、次の獲物へ襲い掛かった。

 その動きに躊躇いはなく、明らかに仕留め馴れていることが分かった。

 よく見れば、彼が一生懸命作ったコスプレ衣装は無数の傷を負い、夥しい血を浴びて赤黒い赤に染め上がっていた。

 敵に困ることはない。

 激しい戦闘に引き寄せられるように、鬼達はただ桃山君一人を目指して続々と集まって来ている。

 まぎれこんだ僕らを気に留めないほどに、モンスターである彼らもこの場の濃すぎるほどに濃い狂気に呑まれているように見えた。

 桃山君の戦闘は荒々しいが、鮮やかだ。

 乱れ飛ぶ二刀の斬撃が、鬼の首を次々と斬り落としてゆく。

 そんな戦闘をいったいどれだけ繰り返したのか? すでに無数に積み上がっている鬼の亡骸が、彼の死闘のすさまじさを物語っていた。

 異様な戦闘に呑まれてしまっていた僕らだったが、浦島先輩が唖然として口を開いた。

「……うわぁ。ガッツリやってんねぇ。これワタヌキ君の提案? ヤバすぎない?」

「いや……一応希望に沿って提案したんですが……予想以上の激しさでしたね」

「おおー。クレイジーですねモモヤマ氏! サムライやばいマジでした!」

 息を吸うように鬼を圧倒する桃山君の動きはすでに洗練されていた。

 いつか見せてもらった対人の鋭い型は、鬼の硬い皮膚、骨、そして瞬時に回復する生命力をまとめてぶった斬り、その命を絶つために最適化している。

 超人の使う豪快な刃の使い方は、あまりにも人間離れしたアクションにも見えた。

 ……うん、桃山君はすごく頑張っていたようだ。

 そして順調なのは何より喜ばしいのだが……こいつはちょっと頑張りすぎだ。

 この場で問題なのは……見学者がいる事だろう。

 学校の授業というにはあまりにも危険極まりない修行は、治安維持も司る生徒会的には眉を顰める内容に思える。

 僕はひとまず言い訳しようと振り返った。

「いやー、いつもこんなに激しくはないんですよ? でも今日は桃山君もヒートアップしていて……」

 そこまで言いかけて、様子がおかしいことに気がついた。

 八坂生徒会長は胸の前で手を握り、妙に熱っぽい視線を桃山君に向けていたのだ。

「……なんて鮮やかな」

「……リンネ? ああこれはダメだ……ホレたかな?」

「?……???」

 ジト目の如月副会長は、妙なセリフをボソリと呟く。

 ただ、セリフの意味する所を理解するのに、僕は少々の時間が必要だった。

「!!!!!」

 そんなことある!? めっちゃ殺伐としたこの空間で!?

 鬼の死体の真ん中で、影の桜吹雪と血しぶきの舞散る中、僕は人が恋に落ちる瞬間を初めて見て……いや、やっぱり無理じゃない?
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