ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち

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第86話僕らの気質

「グオオオオ……」

 一際巨大な鬼が姿を現し、桃山君をぎょろりと瞳を動かして見ていた。

 また一体、鬼を倒した桃山君は出てきたそいつを見据えて、ユラリと前に立った。

 睨み合いのさなか、周囲のまだ残っているはずの鬼達も手を出してこない。

 それはまるで一騎打ちの様だった。

 そしてしばし睨み合った後、桃山君が動く。

 瞬きすら追いつかない刹那、桃山君の身体が霞んだと思った瞬間には、彼は鬼の脳天めがけて刃を振り下ろしていた。

「グオオオオオ!」

 ガキンと金属同士が激しくぶつかる音がして、金棒で刀が止まる。

 鬼はそのまま腕力で振り回すように弾き飛ばしたが、桃山君は空中で器用に回転して地面に着地すると呟いた。

「……面白い」

 そして全身に力を込めて桃山君は再び駆け出し、一瞬でトップスピードに持ってゆく。

 いつしかマスクの奥の瞳は紅く爛々と輝いていて、フードの中からは長い水晶のように透き通った角が突き出しているのを、僕は見た。

 そこからは速度が速すぎて,僕でも完全に目で追えない。

 次に目にした桃山君は、5体に分身して鬼を取り囲んでいた。

「!」

 鬼は分身すべてをめがけて大きく金棒を振り回す。

 豪快に嵐のような突風が巻き起こったが、黒い花びらが分身の姿すら覆い隠して、次に桃山君が現れた時には―――勝負は決していた。

 賽の目に分割されて崩れる鬼の前に、新たな鬼神は降り立った。

『うん。修羅化解放完了だ』

「……おお~」

 いい物を見たという感じの攻略君だったが、あまりにも僕らっぽくないガチ戦闘に、僕は若干不安になってしまった。

「……攻略君、僕は喜んでいいと思うかい?」

『さて、彼が喜んでいたら、一緒に喜ぶべきだろうね』

 なるほど、それは道理だ。

 新たな力を解放し、一段落ついた桃山君の殺気が徐々に収まるのを感じる。

 そして僕らに気がついた桃山君はいつもの調子で話しかけて来た。

「おや? みんなどうしたでござるか? 拙者は順調でござるよ?」

「……うーん。いつも通りすぎる」

「逆に怖い」

「サイコロステーキ斬りとはわかっています! 最高にクレイジーです!」

「みんなしてひどくないでござる!?」

 いや、その努力に本気の敬意は持っているとも。

 そして、君は成し遂げた。

 それをしっかりと目撃した僕らは拍手で彼を賞賛した。

「なんでいきなり拍手! え? 怖い……一体何事で……うっ!」

 ただ、ふざけていられたのはここまでだった。

 額の青白い光の角が消失したとたん、ガスマスクから血が飛び散って、桃山君が崩れ落ちたのだ。

「はぁ!?」

「どうした!」

「緊急事態です!」

「……だ、大丈夫でござる。ちゃんととっておきのポーションは残してるでござるよ」

 何とか膝立ちで踏みとどまった桃山君は僕らを押しとどめる。

 修羅化の反動は、どうやら僕が思っていた以上の様だ。

 即死はしなかったが、死にかけの桃山君から伸びた影が、桃山君の体に蘇生薬をぶっかけた。

 すると桃山君の身体は輝いて、体中にあった怪我が一瞬で赤ちゃんのようなすべすべの肌に復元された。

「がはぁ! こ、こいつは効くでござるな!」

 流石は死人でも生き返る蘇生薬。桃山君も飛び起きた。

 そしてなんとここまで蘇生薬は使っていなかったようで、生き延びて戦い続けたらしい桃山君は蘇生薬の効能に感動しているようだった。

「いやぁ。スキルも手に入れて、本気で生まれ変わったようでござる」

「わ、笑えないよ桃山君。ちょっと頑張りすぎだ」

「……そうでござるな。まさか吐血するとは……反動舐めてたでござる」

 だが得た物は大きい。

 あの巨大な鬼は、明らかに普通の鬼より強い個体だった。

 それをあそこまで圧倒出来るスピードとパワーを引き出せるとは、修羅化はかなり強力なスキルだという事は間違いなさそうだ。

「……それで? どうだった? 腕の方は上がったかい?」

 僕は確認のために桃山君に訊ねると、彼はシュコとガスマスクを鳴らして力強く頷いた。

「間違いなく……こんなに楽しい時間は人生で初めてだったでござるよ」

 そこまでか。

 いや、あの入れ込みようを見れば一目瞭然か。

 我々は楽しいと感じたなら、命まで削れる人種だ。

 分かっているんだから止めればいいんだけど、自分もそうだから説得力が皆無なのが少し悲しい。

「じゃあ、桃山君も無事回収できたので、ひとまずセーフエリアに戻りましょうか?」

 まだ回復したばかりの桃山君を担ぎ上げ、僕は転移宝玉を取り出した。

 また鬼達が襲い掛かってくる前に速やかに撤収推奨だ。

 でないと今度は自分達であの激闘をすることになるが、さすがに今はそれは勘弁して欲しかった。
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