ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち

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第94話夢の守護者

 ビュンとカメラ君の風切り音が急上昇する音がする。

 あまりにも唐突にこのダンジョンの歴史において、記念すべき一戦は始まりを告げた。

「じゃあ行きます!」

 レイナさんのギター演奏が始まり、ピリリと空気が恐怖から戦闘の緊張に切り替わる。

 ドラゴンは身を起こし、こちらを見下ろしたまま灼熱の火炎を滝のように吐き出して来た。

「!」

 腕アーマーとオーラで全力で防御に徹してなお、肌が焼かれる炎はさすがはドラゴンの息だけのことはある。

 視界は真っ赤に染まり、僕は背後の仲間を守り切ったはずだが、しかし続いて炎を割って目の前に尻尾が飛んで来るのはさすがにずるいとそう思った。

「……んぐぅ!」

 ズドンと骨に響く衝撃は、強力過ぎて踏みとどまることも出来ずに吹き飛ばされた。

「ワタヌキ!」

「大丈夫でござるか!」

 返事より先に壁を蹴り、桃山君を狙った風の魔法に僕が割って入れたのは、もはや根性だ。

 オーラの障壁に当たった魔法はチリジリになるが、桃山君がまともに受けたら胴体から真っ二つになりそうな威力は単純に脅威である。
 
「大丈夫! ……はぁ! 息ができんだろうが!」

 思わず叫んで、肺に酸素を補給した。

 同時に全身に回復魔法を施して一気に痛みを洗い流した。

 魔法まで使ってくるとはこのドラゴンやる。

 こいつは回復が忙しくなりそうだった。

「桃山君! 風魔法は僕が受ける! レイナさん、魔法お願い!」

「「了解!!」」

 指示を飛ばして、僕は吼えた。

 ウォークライで僕に注意を引きつけてからが、本当の我慢時だ。

 攻略君は覚悟を固めた僕に言う。

『さてここは本来超えるべき試練の一つだ。だが、今の君達なら倒せない相手ではない。こいつを倒すことが出来たなら、大きなイベントだって緊張することはないだろう?』

「だといいね! 試練系のミッションか……。ああっ! やってやろうじゃないか!」

 ドラゴンは続いて翼を広げて、飛び上がった。

 ドラゴンとしては当たり前だが、実際にやられるとその絶望感は半端じゃない。

 だがやすやすと射程外に退避させることは許さず、僕はオーラを伸ばしてドラゴン自身に掴まることで追いすがった。

 ビュンと勢いをつけてオーラを伸縮させた反動で上を取ると、ドラゴンの視線が露骨にきつくなり敵意が増すのを感じた。

「!?」

『ドラゴンは習性として上空を取られるのを嫌うよ』

「早く言って!」

『いや、ヘイトを稼ぐにはナイスだ』

 それはまぁそうだけど。

 スパイダーマンごっこの代償が、ドラゴンが目を血走らせて襲い掛かって来るというのは割に合わない。

 だが、襲い掛かって来てくれるというなら、今の僕にはその口に入り込まない大きさのゲンコツを持っていた。

「食らえ! 性能テストだ!」

 タイミングを合わせて、鉄巨人の拳を横っ面に叩き込む。

 長い首が鞭のように弾け、飛んでいくのは意外でもあった。

「……やるじゃないか鉄巨人パンチ」

 だが鈍重そうに見えた巨体が、空中で器用に体勢を整えてしっかり着地。

 ドラゴンが素早く反撃に転じたのは驚きである。

 回復を何重にも重ねて防御したが、思ったより手元で伸びる爪の一振りは、豆腐みたいに僕のオーラを切り裂いてきた。

 ざっくりと肌が裂け鮮血が飛ぶが、こっちは生命力重視。

 さらに回復を重ねると、逆再生のように肉体は修復されてゆく。

「いったぁ! なんか初めて生命力重視を実感したかも!」

『それは良かった。どんな攻撃もそう簡単には君を殺せはしない。だから常に精神を強く保つことだ。死にさえしなければ最後に生き残るのはいつも君だよ』

「……ああ、そのつもりでやってるとも」

 そして防御力と引き換えに手に入れている物理攻撃力は、このドラゴンにだってバッチリ届いた。

 身体を捻り回転しながらまずは1ヒット。

 腕に決まった一撃で、鱗が飛び散りドラゴンの身体がくの字に曲がる。

 遠心力を乗せた圧倒的パワーがハンマーの持ち味だ。

 存分に勢いをつけてすべてのパワーを込めて打ち据えれば、ドラゴンの鱗だって叩き砕けた。

 後は正真正銘全力の一撃でドラゴンの頭蓋骨が割れるか、試してみるのも面白い。

 だがドラゴンの名は伊達ではなく、結構手ごたえのあった傷はすでにふさがり始めていて、その瞳を見れば戦う気力は尽きるどころか燃え上がっているのが分かった。

「……あれくらいじゃダメなのか?」

『ドラゴンのタフさは他のモンスターの比ではない。そのまま倒すなら10回は殺す気でダメージを与えるべきだ』

「……そんなに?」

『うん。だがドラゴンには一つ弱点がある。それが逆鱗だ。つまりこいつは鉄巨人と同じ……』

「弱点を見極めれば、難易度が下がるモンスター?」

『ちなみに弱点は顎の下だ。遠慮なく叩き込め』

「……了解」

 専属ミュージシャンによる伴奏も盛り上がってきている。

 ああ、そろそろいい感じに魔力も溜まって、大きい一撃が来そうな頃合いだ。

 ドラゴンもこちらを敵として認めて身構え、慎重さを見せ始めている。

 僕は短く息を吸い込んで叫んだ。

「桃山君! そろそろ仕留める!」

「心得た!」

 返事が聞こえた瞬間、僕は再びウォークライを使って注意を引いた。

 そしてタイミングを計ったかのように、ゴースト達がドラゴンに纏わりついて一気に熱を奪っていた。

 バキバキと凍り付いて行くドラゴンはネクロマンサーの領域に囚われているようだった。

「圧倒的感謝!」

 吹きかけられた炎は僕自身がすべて塞ぎ切る。

 オーラを船のように鋭角に張り、受け流すように突き進む。

 僕の背には桃山君と、もう二人連れてきていた天使がいて僕の魔法防御を強化してくれたのは、更にプラスの好条件だ。

 それでようやくオーラを保ち、ブレスが切れるその瞬間を待つ。

 炎を吐き続けていられる時間はだいたい20秒ほど。

 それが終われば、チャンスは自ずとやって来た。

「弱点は顎の下!」

「おおお!」

 炎を左右に裂いた瞬間、飛び出した桃山君は自分の最大速度を大幅に超えた。

 彼の額には二本の角が輝いていて、さっそく手に入れた切り札を切ったらしい。

 ドラゴンにすら目にも止まらず、眼下の死角に飛び込んだ桃山君は刀を一本顎の下に突き刺そうとしたが―――刃は浅く刺さる程度で止まったのを見て僕も驚愕した。

 弱点じゃなかったのか!?

 しかしダメだった時の第二案はすでに行動中だった。

「第二波行きますよっと!」

 桃山君は横に飛び、僕は遅れて刀の芯をめがけスレッジハンマーを叩き込んだ。

 それはまさに釘打ちだ。

 全力で打ち付けられた刀はドラゴンの顎を貫通して、脳天までも貫く。

 更に上空に雷雲が渦を巻き。第三波はレイナさんによる演奏のフィナーレと同時にやって来た。

「ヘイ!」

 ズドンと雷がドラゴンを撃ち、刀を伝って全身を丸焼けにすると、ようやくだが完全に勝負は決した。

「ぎゃあああ! 拙者の刀が丸焦げでござる!」

「……ゴメン。たぶん曲がってもいる」

「丁度良い的でした! ワタシ達最高です! これでワタシ達本物のドラゴンスレイヤー! 多分世界初ですよ!」

 喜んで跳ねるレイナさんと、僕らはハイタッチする。

 白目をむいて、倒れたドラゴンを見上げると確かにとんでもない達成感が胸に湧いてくるのを感じた。



「カメラ君……今の撮った?」

 ヒューンと飛んできたカメラ君は尋ねるとピコンとライトを点滅させてイエスとのこと。

 そして、今ここには祝勝会に最適の料理の素材が山の様に転がっていた。

「よぉし! 腑抜けてもいられないぞ! ドラゴンステーキの下処理だ! 宝も持てるだけ持って帰って、今日のドラゴン戦の鑑賞会しよう!」

「最高でござるなそれ!」

「人生の夢がまた一つ叶ってしまいますね!」

 それね! ドラゴンステーキ食べるの楽しみ過ぎる。

 とりあえず、ヘロヘロの桃山君に頼み込んでドラゴンの尻尾の輪切りを大量生産するのは確定事項だった。
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