ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち

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第99話なぜかお悩み相談

 鉄巨人の腕を預け、やることをやり遂げた次の日の授業中。

「……」

 ダンジョンにて僕は現在2階で延々とトイレを作っていた。

「なんでだ……妙に落ち着く。授業中なのになぁ」

 なんていうか……トイレはいい。作るのにほとんど時間がかかんなくなってきた。

 これが売店だと本当に色々と大変なので、ひとまずトイレである。

 最近気がついたことだが、とりあえず適当に建てると地形が変わる時に適度にばらけるようで、近場に大量に作っても大丈夫なのは最高に都合が良かった。

「……はぁ。とりあえず1階から5階までの間に20個くらいずつばらまくのを目標にしてみよう」

 階層が下がるごとに、どんどんトイレを広くしてみようかな、うふふ。

 みんなの驚く顔が今から楽しみだ。

 ただ、そんな僕の腑抜けた様子に苦言を呈したのは攻略君だった。

『何をやってるかなぁ君は……』

「なにって。大いに進歩しているじゃないか。授業中に1階でしかうろうろしていなかったのに今2階だよ? 快挙だよ」

『……』

 そんなに不満そうにしないで攻略君。これでもただただトイレを作ってるわけじゃないんだ。

 こうやって一か所に留まって作業に没頭していると、そいつらは向こうからやって来てくれた。

『来たよ』

「ああ。おお! でかいアルマジロだ!」

 ハンマーでは強すぎるので、素手でぶん殴る。

 無事仕留めて、僕はアイテムボックスにとりあえず放り込んだ。

「やっベー……リアルでも実際見たことないよ。なんか違うのかな?」

『……何をやってるんだい?』

「いや、味が知りたいなって」

『君ってやつは……食いしん坊かな?』

「いやいやまぁ冗談ってわけでもないけど、モンスターの分布もね。調べられるじゃない?」

『分布なら私が教えられるじゃないか?』

「よく知らないんじゃ僕が質問できないでしょ? 口頭で羅列されてもわけがわからないし」

『まぁ確かに?』

 この辺り僕は攻略君の数少ない弱点であると思っている。

 まるで知らないことは検索できない。ネットみたいな側面があるのはどうしようもないことだ。

 本当に攻略君を知るには、僕の方も知見を広げなければならないというわけだ。

「一回でも出会うと、僕も想像がつくから……あ、サソリだ。でかぁ……よっと!」

 こいつは叩き潰しておこう。

 ……いや、これだけデカかったら食べられるかな?

 毒は気にしなくてもいいので一回試してみようとこれもアイテムボックスに放り込んだ。

「攻略君……デカいサソリは蟹カテゴリーでいけるかな? いつかのカニ鍋みたいな? もしそうなら可能性を感じるけど」

『味は似ているよ、風味は少し違うけど』

「おお、やっぱり食べられるんだ。いいね楽しみだ」

 やはり、こうしてゆっくりするのも悪くない。やり慣れないことをして疲れたら癒しの時間は必要である。

 とりあえずまた一つトイレを作り終えて、僕はヨッコラせと腰を上げたのだが、どうやら僕は作業に集中しすぎて、周囲への警戒がおろそかになっていたようだ。

「……何やってるの?」

「うおっと! ビックリした……」

 いきなり攻略君ではない声に話しかけられて身をすくめた僕が顔を上げるとクラスメイトの月読さんが僕を覗き込んで、呆れた視線を向けていた。

「こんにちは。月読さん」

「こんにちは。ワタヌキ君、今日もあなたは研究熱心ね?」

「そう? 最近やった工夫なんて。花瓶に入れる花を造花にしたくらいだよ」

「……いえ、トイレの話ではないわ」

「そうなの? てっきり月読さんのことだからトイレのことだとばかり」

「……人をトイレの話しかしない女みたいに言うのはやめてくれないかしら?……でも確かにあなたとは最近その話しかしてない気もするわね」

「……でしょう?」

「反省するわ。じゃあ……少しお話ししても構わない?」

 おっとこれは思わぬ展開だった。

 僕は驚いたが、ちょうど作業は終わったところで、これは待たれていたんだと思うと無下にする気も起きない。

 僕は頭を掻いて頷く。

「……そりゃあ構わないけど、たいして面白い話をするのとか得意でもないよ?」

「聞いてくれるだけでもいいわ。……ちょっとした悩み相談とか?」

「?……何で僕に?」

 しかしあまり接点のない人間にするにはピンとこない話題に首をかしげると、月読さんは肩をすくめる。

「不思議なんだけど、貴方に話すと、解決しそうな気がするからよ」

「……そうなの?」

「勘だけどね。それに……あなた何か隠してない?」

 急に何を言い出すかと思えば、不思議なことを言う。

 彼女の表情にあるのは、ほんのわずかな期待と好奇心。

 まぁ軽い雑談にはちょうどいい動機なんじゃないだろうかとは思った。

「さてどうだろうなぁ。隠し事がないわけじゃないけど、そんなに隠しているわけでもないかな? 月読さんこそ、ミステリアスと評判だけれども?」

 これは本当。

 ミステリアスな美少女月読さんにクラスの男子は興味津々らしい。

 最近、関わりが増えて来たことで入ってきたネタをさっそく使ってしまったが、案外月読さんは興味がなさそうだった。

「私も隠し事がないわけじゃないけど、そんなに隠しているわけではないかも。……まぁみんなそうなのかもね」

「かもね」

「でも……そう、パーティメンバーには言えないんだけど、最近ちょっと行き詰ってる感じはあるの」

「行き詰ってる? クラスで一番深い階層に潜ってるのに?」

 それは何だか、僕にしてみれば意外な悩みだった。

 一般的に言うと月読さんは最前線組で、行き詰るどころか突っ走ってるイメージだったからだ。

「そう。……はっきり言って実力に見合ってない気がする。濃い戦闘はしていると思うけどなんて言うか、毎回ギャンブルをしている気分というか……命懸けの割に成長している気がしないっていうか……どう思う?」

 どう思うと言われてもねぇ。

 僕は困ったと首を傾げた。

 実際命懸けで技能を磨くとか、僕が一番怠っているところだけになんとも言えない。

 地上でいうなら同格以上の相手と訓練することで技術が向上することはあるだろう。

 ただ実際それを実行して生き残っているというのなら、月読さん達は対モンスターに対して最適な戦闘を行えているのは間違いなかった。

「うーん。成果は見えにくいけど強くはなっているんじゃ?……とは思うけど、もっと強くならないと、危険を感じる?」

「……そうね。そうなのかも」

 月読さんは肯定する。

 僕にしてみても彼女の言葉は理解できた。

 この間月読さん自身が死にかけたことも、そう考えるきっかけになったのだろう。

 そしてまぁ魔法使いであろう彼女は、後衛で仲間が戦っている姿を見ることになる。

 僕もきっと毎回真正面からあの化け物達と仲間が戦っていたら、常に不安になるに違いなかった。

「まぁ……心配ですよね」

「そうなの。でも安全を重視しようっていうのも、何かパーティの空気とずれてるっていうか」

「ああ……まぁそうでしょうねぇ」

 何かいろんなしがらみがあってガチ勢をやっているんだろうから、必死にやっているメンバーに、速度を落とせというのも何かが違うのはわかる気がした。

「じゃあ、死なないように強くなるしかないと……」

「……まったくその通りね」

 ハァとため息を吐く月読さんの悩みは割と軽い口調だが切実だった。

 僕が思うに月読さんが求めているのは実は成長の実感というよりも、最悪の事態を避けるための実力といったところだろうか?

 ただそうだとしても、僕が何を語るかは難しいところだ。

 助言をするのは簡単だ。

 だけど僕らがやっていることを綺麗にアドバイスしたところで、あまりいい結果が付いて来るとは思えない。

 おそらくサブカルチャーに興味があるとも思えないから、うちの同好会にガッツリかかわってもらうのも違う気がする。

 いや、わかんないけど……たぶん共通の趣味はないでしょ?

 手っ取り早く、とりあえず強くなる方法なんて都合のいいことを考えて……僕は一つだけ思い当ってしまった。

「あっ。あるかも、手っ取り早く強くなれるかもしれない方法……良かったら試してみる?」

「え?」

 余りにも都合が良すぎる提案に、さすがに月読さんも身構えたのを感じた。
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