ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち

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第111話先生と行く鉱物階層ツアー

「先生……言っておきますが、今回は前回のように踏破済みの階層を行くのとは全く違います。……そして、先生は今、過去最弱です。更に言うと進む階層はちょっと深すぎます」

「……わかっているよ」

「よって、推奨されるフォーメーションは……こうです!」

 テッテレーと明るめに言ってみたが、どう見てもそれはおんぶスタイルだった。

「まさかのおんぶっ……いや! 危険すぎないか! 戦闘はどうするんだ!?」

 半分叱るように叫ぶ龍宮院先生だったが、様々な事情を鑑みた末の合理的なスタイルだと自負していた。

「戦闘をするつもりなんてありません。それに、今回の階層を踏破するスピードにまだ先生はついてこれないです」

「ぐっ……これは完全に足手まといだな……」

 流石に自重すべきかと肩を落とすおんぶ形態の龍宮院先生だが、確かに完全にお荷物ではある。

 しかしそれは通過儀礼ではあった。

「……先生。正直僕も相当に気まずいですが……今からやることが我らがサブカル同好会最大の秘密です」

「……さ、最大の秘密?」

「そうです。僕も先生を引き込むなら、全員が知っている秘密は共有することもやぶさかではありません。……どうします? もちろんしなくてもいいですが」

 僕とて都合のいいように使っておいて、何もかも秘密にするつもりはない。

 顧問の先生として、探索を止められるかもしれないと思ったが、先生である前に龍宮院先生は武道家であり探索者であることは僕もすでに知るところだった。

「……わかった。ついて行かせてほしい。頼めるかな?」

「了解です。安全は……僕が責任をもって保証させていただきます」

「保証か……」

 ああでもその前に、絶対に釘を刺しておかなければいけないことがあった。

 攻略君。わかってるね? 今回は本当に安全優先で頼む。

 こんな危険なことは禁止とか言われないほどに完璧だと理想的だ。

『わかっているとも』

 それと……妙な恋愛脳を発動させるのは絶対なしでお願いする。くれぐれも。そうくれぐれもだ。

『お、おう。……わかっているともさ』

 そこを保証してくれるのなら、何の問題もない。

 いつもの鉄則通りに進めば、目的まで最短最速だった。



 おんぶスタイルにサブアームを展開。

 今日も元気に頭を燃やして向かう先は鉱石階層横断の決死行である。

「うわわわわわわ……」

「鉱石の階層のモンスターはゴーレムが多いらしいですよ。そして目玉はドラゴンです」

 僕は尋常ではないスピードで走りながら、観光案内などしてみた。

「ド、ドラゴンか。それはやばいな……」

「やっぱりやばいですか?」

「ああ……低層にドラゴンが生息しているダンジョンがある。昔、知人の探索者の隊が壊滅したと聞いた時は焦ったよ」

 おそらく実際にあったであろう事件は、手短な説明だったが間違いなく大事件だった。

「それ大丈夫だったんですか?」

「大丈夫じゃないさ。でもポーションがあったから何とかね。だが実力派ぞろいだったはずが、強すぎて撤退だ。一気に危険モンスターに登録されたよ」

「ドラゴン強いですもんね」

「……まるでドラゴンと戦ったことがあるみたいに言うね?」

「戦いましたからねー」

 スピードを落とさず走りながら見つめた視線の先には、山が動いているような巨大ゴーレムと、真っ赤なドラゴンが殴り合っている光景が目視で見える。

 爪や拳が振り回されるたびに、火山の噴火のような重々しい音が聞こえてきて、僕らはそのたびにピクリと震えていた。

「……アレと戦えると?」

「レベルしだいですかね? 80から90もあれば戦えるんじゃないですかね?」

「簡単に言うな。レベルなんてそんなにポンポン上がるもんじゃないだろう? 私が30までレベルを上げるのにどれだけ苦労したと思ってるんだ。それにレベルが少し上がったところで、一つ階層を降りたら全く通用しないほど1レベルの壁は高い。大雑把が過ぎるんじゃないか?」

「そうですねぇ。でも―――やりようはあるってことです」

 僕としては、得意不得意、そして弱点を突いたり意表を突いたりと、工夫次第で案外レベル差を覆す方法はある印象だった。

 しかしそれを実行するには、モンスターを知り尽くしていなければならない。

「じゃあ……ちょっとだけ試してみます?」

「え?」

 ちょうどいいし、僕は持って来た精霊入りカプセルを一つ取り出すと、先生に進呈した。

 「先生の属性は炎ですかね?」

「そうだけど……」

「じゃあ、これを上げますので。開けてみて消えなかったら名前を付けてあげてください」

「……わかった」

 それはもちろん、炎の上級精霊入りのカプセルで龍宮院先生がカプセルを手に取ると、燃える虎の姿の精霊が姿を現した。

「……」

「……先生? 命名ですよ、それでテイム扱いですから」

「わ、分かった……えっとそれじゃあ。コノハで」
 
 言われた通りに先生が名前を付けると、低く唸った虎は一際大きく燃え上がってカプセルの中に戻っていった。

「はい。テイム完了です。テイマーになれると思うので付け替えて?」

「……本当だ。簡単すぎないか?」

「そもそも精霊をこの状態にするのに、コツがいるんです。更に……」

 僕はその辺から、最も弱いゴーレムのモンスターを一匹捕まえて来てギュッと、聖騎士オーラで捕まえておく。

 こいつはそこそこ固いが、遅いし力が弱いのでパワー負けはしない。

 そして先生には一本薬を飲んでもらうと、攻撃力にほどほどのバフを盛った。

「バシバシぶん殴ってください。ダメージが通るはずです。陣地作成は基本のスキルなんですぐ覚えますよ」

 「……あ、覚えた……うそでしょ?」

 言われた通りバシバシ殴った龍宮院先生は、それだけでスキルをいくらか習得してしまったみたいだ。

 まぁ、先生は30階層くらいで活動していた探索者らしいので、この辺りの階層なら雑魚でも遥か格上だ。そんな相手に殴りかかれば、ダメージさえ通ればスキルの熟練度大量ゲットである。

 「モンスターはこのまま解放します。先生はボーナス振り中なので都合悪いですからね。レベルアップは後でゆっくりやりましょう」

「……」

 うんうん不可解だよね? 僕もそう思う。

 僕がやっているのは、本来なら多大な犠牲を払わなければ得られない知識の大盤振る舞いだけど、レベルが上の人がいたら是非試しにやってみて欲しいスキル上げのテクニックである。

 モンスターの見極めは慎重に。

 最低限の準備を整えたら、すぐに攻略再開だった。

「もうすぐ下の階です。いくつかアイテムを回収したら一気に90階まで行きますので舌を噛まないように」

「わ、分かった……」

 龍宮院先生の手にギュッと力が入るのを背中に感じて、僕も気合いを入れる。

 ではまず84階層に行ってみよう。



 鉱石階層はてっきり岩山ばかりだと思っていたが、そうでもなかった。

 川や湖なんかの水場も多く、鉄鉱石のような工業用の鉱石はもちろん存在したが、それ以上に驚かされたのは宝石の類だった。

「おおぅ……」

「すごいですね。ダイヤモンド?」

 今、僕の手のひらには拳大のダイヤモンドが握られていた。

 そしてこれは84層に普通に石ころみたいに転がっているアイテムだった。

「魔力を秘めた宝石だ。こんな質のいい物は見たことがないよ。本当にここは……84階層なんだね……」

「そうですよ。大きさはこんなもんでいいです。じゃあ次々行きます」

「感動とかないのかい!? すごい発見だよ!?」

「時間がないんです。それにもたもたしてもいられません」

 通常時なら手が震えるくらいしたかもしれないが、今は攻略のために必要なアイテムの一つでしかない。

 あと一分もすれば、メタリックな蜥蜴に囲まれてダイヤモンドの硬さの銃弾を雨あられと叩きつけられると予報が出ていた。



 続いては87階層の洞窟の中。

 僕はさっさと中に躊躇わずに入ると、穴の中には大量の金属くずが堆く積まれていた。

「すごい魔力だ……しかも嫌な感じの」

「ドラゴンの魔力がしみこんだ呪いの金属ですよ。こいつで剣でも鍛えたら、立派なドラゴンキラーが出来上がります」

「……今何て?」

 龍宮院先生にかまわず必要量をリュックの中にどんどん詰めて次。

 最後に奥まったところにある壁に狙いをつけて、パイルバンカーを叩き込むとゴロリと血のように赤い塊が転がり出て来た。

 それを素早く回収。

 こいつは攻略君がいなければ見逃しちゃう、目玉アイテムだった。

「これは?」

「あと40秒でドラゴンが戻ってきます。帰りは静かにお願いします……」

「……」



 パイルバンカーを正しく使っちゃったんじゃないかと感動しつつ、必要なアイテムを回収した僕はここからさらにスピードを上げた。

 ゴーレムは振動に敏感で、竜は匂いと熱によく気がつく。

 そんな彼らのセンサー網を抜けるのは、中々大変だとのこと。

 それでも攻略君は下へのルートを容赦なく暴き出し、ついに僕らは90階層に到達した。



「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……何度死ぬかと思ったかわからないよ」

「そ、そうですね。ヒヤッとするところがいくつもありましたが、お疲れさまでした。じゃあ、最後の仕上げです。90階層はボス部屋に入らないと戦闘は始まらないので、ここで準備しますよ」

 集めた素材に魔力を流して僕はスキルを発動する。

 そして、スキル任せに今回必要なアイテムを錬成していった。

 最終的に完成したのは、一個の宝玉と僕らの胴体くらいすっぽり入る竜の装飾の入った金属の輪っかだ。

 やはり大きい方に目が行くようで、建物の装飾みたいな輪を見て龍宮院先生は首を傾げた。

「これは一体なんなんだろう? 普通のアイテムではないのはわかるけど……」

「これは腕輪ですね。今回のキーアイテムです……そして」

 はいっと、僕は作ったばかりの腕輪を龍宮院先生に手渡した。

「ん?」

「このモンスター用の腕輪を今から戦う守護者の腕にはめてください」

「ええ! 私がかい!?」

「そう、先生がです。よろしくお願いします」

 せっかくここまで来たのだし、何もしないというのもつまんないだろう。

 これは本当に大事なところなので、最後ビシッといいところを決めて欲しいところだった。
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