ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち

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第130話力の代償

「よし! じゃあ目的のポイントに移動します! ついてきてください!」

 95階層に存在する海は驚くほど黒く見えた。

 なぜ黒いのかと言えば、恐ろしく海底が深いかららしい。

 完全に光が全く届かない、本当に底なんてあるのかというほどのあまりにも深い海はそれそのものが巨大なモンスターのようなものだと攻略君は言う。

 本来の攻略は隣の島にある転移装置で下層に入るのだが、今回用があるのはこの深い海の方だった。

「えーでは……浮島を設置していきます。どんどん組んでいってくださいね」

「「「はーい」」」

 僕らは用意してきたイカダを組んで大きな浮島の足場にしていく。

 そしてその真ん中に錬金窯をセットして、海に送り出した。

 ただし人は乗せないままにだ。ここ重要である。

 僕は浮島を慎重に水魔法と聖騎士オーラで押し出して、理想のポイントに設置した。

「コツは生き物がイカダに乗らない事。この海は生き物だけが浮かないから。絶対海に入っちゃダメだよ」

「えげつないでござるな……」

 桃山君が漏らした通り、うっかり海に入ったら知らずにあの世行きだった。

「そう。普通の感覚で入るとすごい勢いで沈んで水圧でぺちゃんこになる。魔力まで拡散するのも嫌らしいところだ。だからこの海は生き物がいないんだよ。もちろんモンスターも」

 だからこそ利用できるんだけど危険極まりない。

 どれほど危険かは今から実際に見せるとしよう。

「ではまず一匹。テイムしていないスライムを用意します」

 僕はまた守護者部屋で手に入れて来た粘菌スライムの瓶詰を取り出した。

「じゃあ全員こいつに魔力流して? 弱くていいから」

 指先から出る程度ガラス越しに魔力を流すと、中のスライムが元気に動き始めたのを確認。

 この守護者スライムは、相手の魔力を覚えて攻撃する性質もある。

 そしてその攻撃性はモンスターの中でも飛び切り高い物だった。

 でもこのガラス瓶に入れておけばとりあえず大丈夫。

 メンバーにガラス瓶を順に手渡し魔力を流してもらって、それを最後に僕はレイナさんに手渡した。

「じゃあ次に、レイナさんにはこいつを含めたアイテムを錬金釜の中に放り込んでもらいます。もう一度言いますが海に入らないように気を付けて」

「了解です!」

「材料は守護者のスライム、洗濯ノリ、ホウ砂、そしてオリハルコンインゴット一本と……錬金術で作ったキングの冠」

「なんか小学生の自由研究の材料みたいなのが……いや、ちょっとまった。オリハルコンってあのオリハルコン?」

「そうですよ? 鉱物階層でゲットしたやつです」

「それはかなり希少な鉱石だって知ってる?」

「知ってますけど……でも僕らの経験値の生贄になってもらいます」

「考え直せ! 今すぐに!」

 龍宮院先生は大慌てだけど、そんな葛藤はすでに済ませてここにいた。

「もう決めたことなんです! これを!」

「OKデス!」

 フワリとホバーステージに乗って材料を運んだレイナさんは、一切躊躇いもなく材料を錬金釜にぶち込む。

 そして大急ぎで帰って来た時には、イカダの上で異変が起り始めていた。

「な、何でござる?」

「なんか出た!」

 錬金釜からポンと金属のような何かがイカダの上に射出されたのだ。

 それを皮切りに次から次にまるでポップコーンのようにポンポコそれは生まれて、敵として認識しているこちらに向かって来ようとしていた。

 そいつらの頭の上に浮かぶ王冠はキングの証。

 それは全員の頭の上で光っていて、全身は黄金のオーラでキラキラと輝いていた。

 オリハルコンのボディを持ったスライムが錬金釜の誤作動で果てしなく増殖を繰り返す、その増え方はハッキリ言って普通じゃなかった。

 それは見ているだけでちょっと怖くなってくるくらいで、龍宮院先生も顔色が青くなっていた。

「い、いったい何をしたんだ? 訓練中には入れた素材の分しかモンスターは出てこなかったはずだ」

 戸惑うのも無理はなく、正直僕も説明されてもピンと来ていなかったせいでちょっと引いたくらいだった。

「えー今回はちょっと特別なやり方なんです。……ちなみに生成されるモンスターはダンジョンの深さ基準でレベルが決定されます。そしてキング化したモンスターは、他と比べて段違いに経験値がおかしなことになってます」

「……あの増えているのは?」

「守護者のスライムの性質もありますが、一緒に入れた”スライム”と呼ばれる物質が悪さをしてるらしいです。認識と言いますか魔法にはそういうの大事なんです」

 とは攻略君の言葉だ。

 この世界でスライムと呼ばれている物質、それがダンジョンでスライムと呼ばれている物質と魔法的に混ぜられることによって生じる誤動作だとか。

 概念として近いのに、異物でしかないものが誤作動に拍車をかけている。

 その結果がこの異常な爆増だった。

 そして魔力を流して攻撃判定している僕らにそいつらは攻めてこようとするが……海に落ちた瞬間、奈落にものすっごい勢いで沈んで、二度と上がってこれないと。

 結果生まれては沈み生まれては沈み―――続く連鎖がいっそシュールだった。

 そこではっとした浦島先輩は自分の肩を抱きながら、僕に叫んだ。

「増殖するスライムに海……閃いたわ! 触手的なもので乱暴する気でしょう! 薄い本みたいに!」

「違いますよ」

「ではアレですね! 水着を溶かす奴! ズルズルですか!?」

「だから違いますってば。ズルズルどころかホントに海に触れちゃダメだからね?」

「……なるほど。だからあえて水着を?」

「水着の件はすまなかったからもう許して? それとそろそろ褌着替えていいかな?」

 いろんな意見はあるけれど最後に全員その場に突っ立っているしかない中、龍宮院先生が代表して僕に訊ねた。

「えっと……どうすればいいの? これから?」

 分かっていると僕は頷く。

 そしてリュックからアウトドア用の机と、かまどをセット。さらにお茶とコーヒー。最後に人数分のカップを取り出して並べてゆく。

 後のメンバーはなるほどと頷いて自然に椅子を用意し始めた。

「え? どういうこと?」

「後は待つだけです。先生、飲み物何飲みます? 冷たいのもありますけど? 海ならこっちですかね?」

「…………え? 結局一回も戦ってないよ? 何しに来たの?」

「いえいえ、現在戦闘中ですよ。戦っている相手が、海にはまっているだけです。じゃあ準備ができたら次の段階行きますよ」

「次の段階?」

「そうです。今爆増しているスライムをですね……一匹確保したものがこちらになります」

 それは90階であらかじめ錬成したものだが、スイカのビーチボールの中に詰められてガチガチに封印を施されたそいつはゴロンと砂浜に転がった。

 攻略君直伝のあらゆる手段での拘束も加わった状態でもまだ動こうとする力は強烈である。

 そして目を点にしている龍宮院先生に渡すのは、特製スキルゲット棒だ。

「叩いてください」

「叩けって……これを?」

「はい。この棒はクリティカル率を大幅に上げます。1くらいはダメージが通るはず。動けないようにするの大変なんですからこう手早くポコポコお願いします」

「わ、分かった」

 龍宮院先生が言われた通りにスイカ柄のスライムを叩くと一叩きして異変に気がついたらしい。

「……スキルを覚えたんだけど?」

「いい感じですね。まだまだレベルアップには時間がかかりますからそれまでポコポコやりましょう。僕らもやります」

「…………」

 釈然としないまま、龍宮院先生はスイカボール相手にポコポコを繰り返していたが、レベルの違いがひどすぎてジョブが育ち切るまであっという間だった。

「あ。もう育ち切ったらやめてくださいね。後は一個レベルが上がってからです」

「……もういいっぽい」

「……そうですか。じゃあちょっと休憩でお願いできます?」

「……うん」

 当初の予定通り思考は停止してなんか元気のない龍宮院先生だけど、そこは割り切ってもらいたい。

 では僕らも全員分の特製スキルゲット棒を用意してポコポコを全員で決行した。

「これ……全員だとやりづらくない?」

「強すぎて動きを止めるの一匹で精一杯なんですよ」

「……今までで一番楽だけど、ひどい絵面でござるな」

「そうね……このなんとも言えない無常感。ワタヌキ式レベルアップだなって感じだわ」

「一匹くらい普通に戦ってみませんか? 何とかなりそうな気がします!」

 好戦的なレイナさんの要望には残念ながら応えるべきではなかった。

「……やめておいた方がいいよ。こいつこんなだけど全然効いてないでしょ? 現状、自由になったら一匹でもここにいる全員ひき肉にするのに三秒かからないくらい強いから」

「……やめておきましょう! 浜辺でスライム割りもオツです!」

 レイナさんはいい意味で切り替えが早かった。

 龍宮院先生はスキルアップの衝撃からまだ完全回復していないようで、いやいやと小声で呟く姿は自分に言い聞かせているようでもあった。

「いや……さすがにそんなことあるかな? スキルアップってそんなに簡単なものじゃないよ? こう、熾烈な戦いをいくつも潜り抜けて……初めて一つ上がるか上がらないかって感じなんだよ?」

「それはそうなんですけどねー」

 でも、やってることは同じなんです。

 状況を整えているだけで。

 だいたい簡単そうに見えるけど、この状況を作るまでに必要なアイテムは本来であれば想像を絶する難易度を潜り抜けて初めて達成されるものである。

 この楽さは今までのちょっとずつ積み上げて来たものの上に成り立つ、それこそ王冠のようなものなのだ。

 スライム叩きもコツを掴んで、ポコポコみんなで交互にスキルを上げていると、その時は龍宮院先生の時の声で判明した。

「ひょわああああああああ!」

「あ、レベルアップ?」

 突然のけぞって、悲鳴を上げた龍宮院先生はビクビク震えながら固まってしまった。

 ……そんなに?

 ボーナスが一気に入ったこともあるだろうが、レベル三十台からどれだけジャンプアップしたのか知るのは龍宮院先生のみである。

 何せ僕も一段飛ばしでレベルが上がったくらいなんだから、その上昇具合は今までの比ではないのだろう。

「ふおおお! これはきっくー……! 一体どんだけ経験値入ってんだか……」

 二番目に過剰な反応をしているのは浦島先輩だ。

 やはり負担が大きいのか、身をくねらせていて、ちょっと涙目だった。

 一方でエキスポに参加した面子は、結構深い階層でレベル上げをしていたからそうでもないが、それでも急激なレベル上昇でアドレナリンは噴き出した。

「ち、力が、力が溢れてくるでござるっ……!」

「fuuuuuu! 今までの比じゃないです! ドラゴン倒したってこうはならなかったですよ! 何事ですか!」

「なんかこう……真っ当ではない裏技だよね。これはマジで秘密にしておこう。条件を整えるまでのハードルが高すぎるけど。それに―――これで終わりじゃないからね?」

 そう言って、僕は増え続けているイカダの上のキラキラを指差した。

 すると全員の表情が強張って、一発目ですでに満身創痍の龍宮院先生は生まれたての小鹿のようになりながら、涙目で首を振る。

「い、いや……それはいけない……まずいって」

 正直僕もこんなにも体に反応があるとは思わなかったから申し訳ないけど……もはや手遅れだ。

 僕は残念ながらと紳士的に視線を逸らすと、そっと告げた。

「今の内にジョブを変えておいて……ください。スイカ叩きも頑張って」

「……!」

「容赦しようもないでござるが……ワタヌキ氏、無常でござるよ」

「なるほど……あまりにも急激なレベルアップは腰が砕けるレベル何ですね! 勉強になります!」

「なんか……エロくね? やっぱりエロなの?」

「ち……違いますよ」

 こら、浦島先輩! メ! ちょっと黙って!

 龍宮院先生にはこちらの想定以上の気合と根性を強いなければならないみたいなのは見ればわかる。

 そして怒涛のような経験値ラッシュがやって来る。

「ひやーぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 いや! ホント申し訳ない!

 白目をむいた龍宮院先生をテイムモンスターのオウギ君と一緒に介抱しつつ、僕は気まずさに目をそらし。

 紳士桃山君は、心頭滅却スイカ叩きに没頭し。

 同じくスイカを叩いているが、楽しそうなレイナさんは目を輝かせ。

 浦島先輩は自分も頬を紅潮させているのに、肌がツヤツヤになって行く。

一見すると夏のバカンスをしているようにしか見えないけれど……だからこそ一層ひどい絵面だ。

 毎度言っている気がするけど、今回も記録を更新したかもしれない。

 それでもレベルアップは止まらない。

 普通レベルは階層と同じくらいで止まるものだが、このペースだとかなり上まで上がるだろう。

 95階でのレベルアップは攻略君が言うように、効率が全く違う。

 本日のレベルアップ行軍が終わった時には全員のレベルは三桁の大台を軽く突破していた。
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