ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち

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第135話ちょっとギアを上げ過ぎた

「まぁ気楽にやろう。ただの確認だ」

「は、はい……」

 カフェから外に出た僕は、龍宮院先生とお互いに向かい合って、格闘レッスンの時間である。

 とはいえこうして人相手に向かい合うとさすがに緊張してしまう。

 というのも僕は先日から手加減の練習を始めているのだが、日常生活では何とかなっても、攻撃となるとこれが中々難しいことが判明していたからだ。

 こう……戦闘に切り替わったと意識すると、ギアが一段切り替わったような感覚をようやく意識できたってことなんだろう。

 とりあえずいきなり殴りかかるのはかなり怖い。

 掴んで取り押さえるが現実的な方法のように思えるが、僕にそういうのをやった経験はなかった。

 やり慣れていないのは、精度の低さに直結していた。

「……ふぅー」

 僕は集中して先生をよく見て、飛び掛かる。

 狙いは襟。

 授業で何度かやった柔道技狙いだ。

「……んん?」

 だが次の瞬間グルリと視界がひっくり返って、気がつくと勢いよく地面に背中から叩きつけられていた。

「ごへぇ!」

 更に勢いあまってズドンとちょっと洒落にならない音がして地面まで砕ける。

「うわ! ご、ごめんな! 大丈夫か!」

 大慌てで龍宮院先生が声を掛けるので、僕は半分埋まった体をズボリと引き抜いた。

「……だ、大丈夫です……一体何が?」

「腕を取って投げただけ。でも……すごいな君、今のは殺しちゃったかと思った」

「……勘弁してください」

 僕は自前の魔法で回復を掛けながら起き上がる。

 ダメージもそんなに大きくはなく、これには先生も驚いていた。

「いやすまない! 相手が100レベル越えともなるとどうしても勘が働いてね。しかしこれがレベルの暴力か……前から一定の所から力が跳ね上がる感覚があったけど、もう何段階か確実に増えてるな。意識を調節しないと」

「……ですね。しかしビックリするほど自然に投げられました」

「ああ、まぁ君、格闘技は授業を受けたくらいだろう? 動きが分かりやすかった。それに打撃はやらないと思っていたからね。それは正解だ。人間相手に取り押さえるとなると打撃は加減が聞かない。投げか、キメか……そういう技の方が手加減しやすいだろうからね」

「そうですね」

「まぁ繰り返し練習しよう。しかし君は、掴んだ感触がなんだかすごいな。体の周りに膜のようなものがあった。薄くしてくれていたが……あれは強度を増せるのかい?」

「はい。こんなこともできますよ」

 僕はオーラを手の形にして、先生の全身をきゅっと握って見せる。

 全身をくるまれるように掴まれる感覚に先生は声を上げた。

「うわ! これはオーラで包んでいるのか……」

「そうです。変幻自在のオーラは体の動きの補佐にも攻撃にもガードにも使えます」

 聖騎士特有のもので、守護することに特化したスキルだが応用が効きやすい、攻略君一押しのスキルである。

「……それはなんというか雑に強いな。なら下手に技を教え込むより君の場合そのオーラの使い方を磨いた方が手加減はしやすいかもしれないな」

 僕も多分そっちの方が今となっては危険がないだろうなとは思った。

「……うん。なるほど。ならそっちはゆっくりやろう。じゃあ今日は先に私の方から試させてもらおうかな。君に手加減はいらないようだし……今度は全力で防御してくれ」

「……! 了解です」

 龍宮院先生は攻めに転ずることを宣言すると、肩をグルグル回し腰を落として構える。

 驚くほど静かな空気から、一転して龍宮院先生の蹴りは飛んできた。

「正面だ!」

「!」

 咄嗟にアームを展開して、盾で防ぐ。

 ゴワンと銅鑼のような音が鳴り、何とか防げたがドラゴンに殴られたってこんな衝撃は来なかった。

「いい反応だ! 勘がいいんだな! じゃあ次は上!」

 脚が空に伸び、かかと落し。

 再び盾で防いだが、あまりに衝撃が強すぎてオーラごと体が地面にめり込んだ。

「……んぐっ!」

「……ふむ。君、オーラでこっちの跳ね返る衝撃まで殺してるね。そんなことまでできるのか。いいな聖騎士!」

「そ、そうでしょう? 伊達にメイン盾をやっていません」

 これでも高レベルモンスター相手に身体を張って来たんだ。

 攻めはともかく守りには少し自信があって、数々の激戦がその自信を裏打ちしていた。

「本当に遠慮はいらないわけだ……じゃあ今度はこれだ」

 飛びのいた先生は今度は拳を腰だめに構え、意識を集中。

 少し離れた位置から何をしようとしている。

 察した僕はパイルバンカーを地面に突き刺して支柱にすると背中を預けて盾を構えた。

「いい判断だ!」

 そして拳を開いて突き出したその手からドンとエネルギーの塊が撃ち出されたのを僕は確かに見た。

 それは攻撃に特化した一撃だった。

 言ってしまえばエネルギーを凝縮して放つ弾丸こそ、先生が新たなジョブで身に着けた未知の攻撃手段だ。

 僕の目の前でドカンと先ほどの蹴りに匹敵する衝撃が弾け、光の粒が背後に流れてゆく。

 流石は先生。試し撃ちの時点で十分使いこなしている。

 しかし魔法に比べて速射性能に優れているはずの気功弾は後が続かなかった。

「……どうしました?」

 そっと盾の間から覗いてみる。

 そこには手のひらを構えた状態で目を大きく開いている龍宮院先生がいて、そして彼女はツゥと一筋涙を流した。

「ホントどうしました!?」

「ああ……いやすまない。思ったよりも感動してしまった。……いや感動するだろう? 波だよ……波が出たんだ。道場のみんなに自慢したら泣いて悔しがるよ」

「そこまで?」

「そりゃそうだろう! もう明日から格闘家はみんなこいつを出すためにダンジョンに籠りに行くほどの発見だよ!」

「あー……確かに」

 世界で今まで使える人間がいなかったから、みんな練習しなかったんだ。

 出せるとわかれば、練習するし、修行したい。

 特にちびっ子にでも見せたら、明日から教室で必殺技修行がさぞかし捗ることだろう。

 浪漫の発露で、目の前の先生も一人の格闘家に戻りつつあった。

「うん! じゃあどんどんいくよ! まだまだ試してみたい!」

「……そうですね。スキルは格上相手の組手でも上がるみたいです。さっきのレッスンのお礼に付き合いますよ」

「本当かい!? じゃあ始めようか!」

 宣言通り、龍宮院先生のギアが上がっていく。

 繰り出される拳の弾幕はとてもじゃないが、僕のような素人が馬鹿正直に体でガードできるような威力でもスピードでもなかった。

 僕はまぁ格闘の素人なりに、今までのダンジョン経験を最大限駆使して頑張ったと思う。

 ただ、予想外だったのはこの聖騎士の性能だろう。

 こいつは格闘系のジョブと相性が良すぎる。

 もっと言うならその相性というのはサンドバックとしての相性だった。




 防戦一方でぶちのめされること一時間ほど。

 一応無傷ではあったが、僕の方が最初に精神が限界を迎えた。

「……っ先生! ちょっとタイムです! もう無理!」

「えぇ~? せっかく体が温まってきたところなのに……」

「最初に手加減の特訓をした初心者が誰だったかという事を思い出してください!?」

「いやいや、今の君ならもう十分探索者として通用するさ。私に手加減の必要はないしね!」

「双方必要ですって!」

 この先生実は酔っぱらってない!?

 とんでもねぇ! この人かなりのバトルジャンキーだ!

 このままだとジョブのスキルがカンストするまで組手に付き合わされかねない。

 有名探索者に修行とかそれはそれですごい事なんだろうけど、さすがに勘弁して欲しかった。

 僕が疲弊していることに気がついた龍宮院先生は残念そうではあったが、そこでいったん拳を収めた。

 ただまずいのは、この修行のせいか探索者として思ったより先生が盛り上がっていたことだった。

「でもそうだな…………生徒にここまで付き合ってもらうのは問題があるか。……これは教師をやってる場合じゃないかもな。真剣にダンジョンアタックに戻って……」

「それはさすがに待ってくださいお願いします! ……言ったでしょう? そのジョブは3つ極めてさらに強力なジョブへと昇華すると! ……そんなあなたに最適な修行法を進呈します!」

「本当に!」

 苦労して部に昇格させたのに、顧問を手放してたまるもんですかい!

 そんなことになったら僕が浦島先輩に殺されてしまう!

 僕が数度頷き取り出したのは、さっき一匹倒してしまったが予備に持ってた頑丈なアイツだった。

「……どうぞキングオリハルコンスライムのサンドバックです」

「……ひき肉にされないかな?」

「今なら僕のレベルも上がりましたんで、スイカバージョンより強力な封印を施せます! 先生ならいい組手相手になるかと! このネットに入れておけば逃げないと思いますので!」

 すまん! 僕の代わりに生贄になってくれ!

 熟練度稼ぎを最大効率でやるなら、テイムしないでこうして封印するのが便利。

 ただし危険なので、龍宮城辺りで使う分にはきっとためになるはずだった。
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