ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち

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第161話烽火の視点

 「はぁ…はぁ……はぁ……なんなんだここは! なんなんだよここは!」

 サブカルチャー研究部の連中に妙な洞窟に連れてこられた時点で、許容量を超えた烽火は今回の妙な探索から早々に抜けることを決めた。

 奴らが主導なのも気に入らないが、いいなりになるなど愚の骨頂。

 今回の目的はあくまで調査だ。あえて別行動をして裏を探り、予定外の行動を起こすことで、奴らの動揺を誘って自らぼろを出させられるのであれば最上の結果だと判断した。

 何、どうせあんな奴らが連れてくるところだ、大したことがない……そんな風に考えてのことだったが―――この階層はまさしく魔境だったのだ。

 外から観察してあら探しをする余裕なんて一切ない。

 次々に襲い掛かって来る強力なモンスター達はすべてもれなく血に飢えていて、あまりにも強力過ぎたのだ。

「どうなってる! ここはダンジョンだよな!? こんな……どうしてあいつらがこんなに深い階層に!」

 烽火もすでに頭ではわかっていた。

 だからこそ会長は彼らに目を掛けるのだろうと。

 でも気に入らなかった。

 すべてを隠し、正道以外の方法でダンジョンを攻略している奴らの一体なにを信じられると言うのか?

 ダンジョンの攻略は、人を揃え、金を集め、人類の英知と力を結集して行うものではないのか?

 そんなたまたま独自のやり方がうまくいっただけの素人が過剰に持ち上げられるなど、あってはならない。

「パオ!」

「ひぃ!」

 モンスターの鳴き声が聞こえ、烽火は息を呑む。

 視界に入り込む長い体毛を持ったゾウの……いや、マンモスのようなモンスターは、ジャングルを踏み潰しながらこちらを追って来た。

 一体なんの恨みがあるのか? 執拗に自分を追いかけてくるモンスターから烽火は必死に逃げる事しかできない。

 だがそれも長くは続かないだろう。

 もう限界だと烽火は奥歯を噛みしめた。

 あのモンスターは間違いなく自分が勝てる相手じゃない。

 だから転がるようにジャングルを走りながら気がつけば烽火は叫んでいた。

「何なんだ! 何なんだよアイツらは……! 全部アイツらのせいだ! なんで私がこんな目に!」

 地鳴りはドンドン大きくなり、追いかけてきていた。

 近づいてきているという事は、スピードは完全に負けているのだろう。

 でも走るしかない。止まるわけにはいかない。

 黙っていた方が少しくらい長生きできるかもしれないが、それでも言わなきゃやってられなかった。

 それというのもいよいよサブカルチャー研究部を正視していられなくなった切っ掛けは―――あの頭の燃えるコスプレの存在だった。

「それに! 一番気に入らないのはあのコスプレ野郎だ! なんだってファイアーボールヘッド! なんだ! ガワだけ真似れば行けると思ったか!? アレは……気軽に真似していい物じゃないんだ! 知り合いだからって真似するんじゃない! そうだアレは―――!」

 とても美しかった。

 あのエキスポの動画は何度も何度も見直したほどだ。

 余りにも圧倒的な力の具現。

 ダンジョンに関わり始めて、こんなにも心が躍った経験は今までになかった。

 敵だって海外のトップ探索者だろうに! 歯牙にもかけない!

 きっとプロだって勝てない!

 まさにダンジョンに求めていた理想の姿の一端を見た気分だった。

 そんな誰かはこの世のどこかに存在しているのだろうけど、間違ってもローカル同好会の一学生であるわけがない。

「ホントは……私だってあいつらに興味があったんだ。あの人が……生徒なわけがない! じゃあ、アレは……あの人は誰なんだ!」

 一際大きな揺れが至近距離で炸裂し、地面がひっくり返った。

「……!」

 当然その上に乗っているアリのような烽火も一緒に空を舞う。

 ああ、もうこれで終わりか……。

 烽火の脳裏には、あの燃える頭の戦う姿が何度もよぎっていた。

 ああ、まぁ、今なら死ぬのもいいかもしれない。

 どうせいつかは死ぬのだし、最後に見ているのがあの美しい姿なら幻でも悪くない。

 地面にぶつかる重い衝撃が全身を揺らして、体が地面を転がる。

 メガネは砕け、伝わる痛みの信号が容赦なく脳に到達した。

 逆さまになった視界に見えたモンスターは、昔博物館で見た原始の世界がそのまま見下ろしているようにも見えた。

「……うそだ!」

 あわや踏み潰される! その瞬間だった。

 モンスターを横から一撃したのは、脳裏に過った燃える頭だ。

 稲妻のように現れて、ハンマーでモンスターを粉砕した姿はリアルの迫力に満ちている。

 あの動画の映像がダブった。

 それは紛れもなく神懸かったあの姿そのものだった。

「へぇ???」

 鼻水を啜り上げ、あまりにも美しい一瞬を烽火はその目に焼き付けた。

 彼はたった一撃で山のようなモンスターを討ち取って、こちらに歩みよると確かに自分に手を伸ばす。

 烽火は、その手を取る前に何かが決壊した。

「うおおおおおおん! ……ざいんぐだざいー!!!!」

「!!!!」

 滂沱のごとく涙があふれ出して、烽火は人生で初めて号泣した。

 ミスターファイアーボールヘッドはそれはもう困惑していたようだったけれど、サインはどうしても欲しかった。
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