ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち

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第6話ランチタイムの誘い

「いーよいしょぉ!」

 基本的には真面目なのが売りな僕である。

 カッスカスな経験値をものともせず、せっせとモンスターを倒すうちに、より効率的に獲物を倒すため、武器も洗練されてしまった。

 そして見つけた最適解は、メインウエポンにスレッジハンマー、サブウエポンにナイフという組み合わせである。

 気合一発粉砕したカニは一撃で――――とはいかず、そこそこ滅多打ちにしてようやく仕留めることが出来た。

「ふぅ。ノルマがきつい」

『だいぶん倒すのが上達してきたんじゃないか?』

「そう? なんか泥臭くない?」

『いや、危なげがないよ。強さはレベルだけではないからね』

「まぁ。手慣れては来たかも?」

 確かにここのところ毎日通っているだけあって、スーパーに行くみたいな感覚になってきた。

 ただ緊張感も薄れてきているのは我ながら問題だとは思っているんだ。

 大量の豚肉と蟹の詰め合わせを持って帰るために、クーラーボックスまで持参する今日この頃だった。

「しかし……微妙だよなこの授業。黙々とモンスターを仕留め続けるのにも限度がある」

『まだもう少し延々やってもらうことになってるしね』

「まぁ……そうなんだよね」

 残念ながらそうなんだよ攻略君。

 僕はまた一匹豚を手早くさばき、フゥとため息をついていると、ちょっと魔が差した。

「……授業中だけどさ、お腹が減ったな。ちょっとこれ……今食べてみようか?」

『本気かな?……できなくはないけど手間だよ?』

「そう言うのは嫌いじゃない」

『では手早くやってみようか』

 流石攻略君、話が分かる。

 それでは授業中だが、クッキングを始めよう。

 モンスター食で重要なのは、一番最初の下ごしらえである。

「……ぶつ切りにしたモンスター豚のバラブロックに解呪の魔法を一振り」

 僕は最初に選んだ僧侶の初期スキル”解呪”を使うことでそれを可能にする。

 こいつがあるから最初に僧侶を選んだと言っても過言ではなかった。

「これが効くんだから食べられないと言われているモンスター肉の謎が解けたも同然だよね」

 要するに毒だと思われていたのは呪いの一種だったのだ。

 それでも多少の毒性もちゃんとあるので、しっかり血抜きは推奨したい。

 スパイスの中に1階でも手に入るいくつかの薬草をシーズニングスパイスにして全体にまぶし、塩も一緒にまぶしておけば完全に理想的な解毒は完了したと言える。

「なんでだろう……この背徳感。この授業中に弁当を食べるのは許可されているのに、わざわざ焚火で火を入れるだけでちょっと特別な気がする」

 適度に切り分け、串に刺す。

 それを強火の遠火で焼いていくと、油が滴って煙が揺れた。

「ジュルリ……」

 焼き加減を見つつ、待つことしばし。

 明らかに匂いが変わり、表面の焼き色がほんのりきつね色になったのを見計らって、僕は動いた。

「ここだ!」

「……何やってるの?」

「ほひょ!」

 突然声をかけられて、思わず変声が出てしまった。

 聞きなれない声に恐る恐る後ろを振り返ると、そこには一人の女生徒が立っていた。

 短い髪の無表情な女の子は、大きな杖を持っていて後衛職の様だった。

 え、怖い。全然知らない人。

 でも彼女のジト目の圧力に負けて、素直に応えてしまうのが僕である。

「……えっと食事を?」

「食事……こんなところで?」

「え、ええ。たまにはこういうのもいいかなって。一応焚火は許可されてるでしょう?」

「されてるけど……一階でやってる人は初めて見た」

「……そうっすね」

 人があんまり来ない奥の方にやってきていたから油断してしまった。

 確かに1階で焚火をしている奴はいない。

 そんなことをするくらいなら、さっさと学校に戻って学食に行った方が早いからだ。

「でも……何食べてるの?」

「えっと……その辺にいる豚のモンスター?」

「毒」

 すぐさま断言されたが、僕はわかっていると頷いた。

「……無毒化しておいしく食べる方法を知っているので」

「!」

 また咄嗟に正直に言ってしまった。するとおそらく先輩は驚きで目を丸くした。

「ホント?」

「……本当」

「食べてみたい」

「本当に?」

「ホント」

 いつしか完璧に焼き上がった豚の串焼きから目を放さなくなった彼女。

 せっかく焼いたのだから未練はなくはなかったが、まだ肉は残っているし、勧めない理由もあまりなかった。

「……よかったらどうぞ?」

「ありがとう」

 なんだこれ?

 しかしさすがに先に食べさせるのは良心が痛む。

 いったん僕は先に一口串焼きに歯を突き立てると、極上に甘い肉汁が口の中いっぱいに広がった。

「……うわ! うまぁ!……失礼。でも痺れもないし、苦くもないですよ?」

「……モンスターの肉は強烈に苦いはず」

「……試した奴はいるんですね」

「いる。ちなみにその人は食中毒でお亡くなりに」

 ありそうな話に、僕は先人の勇気に敬服していた。

 その瞬間串焼きにあっという間にかぶりついた女子は、さっき以上に目を丸くしていた。

「おいしい……」

「……それは良かった」

 見られてしまったのは予想外だったが、全力で隠しているわけでもない。

 だが渾身の豚の塩焼きは気に入ってもらえたようで、追加を要求された。

「もっと食べたい」

「……どうぞ。カニもありますけど―――いります?」

「いる。……まさかの高級食材。毒だけど」

 ランチタイムのバーベキューは二人で黙々と肉をむさぼって終わった。

「じゃあまた」

「ああ、はい……」

 何だったんだろうこの時間?

 肉を食べたらさっさと行ってしまった女性の背を見送り僕は一言呟いた。

「……だれぇ?」

 正体不明の先輩……だと思われるけど僕はやっぱり全然知らなかった。
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