宇宙の果てで謎の種を拾いました

くずもち

文字の大きさ
4 / 108

第4話植木鉢とブロッコリー

しおりを挟む
 ここには大気がある。

 そして、重力があった。

 なによりこうして僕が生きていられるということは、このコロニーはきちんと機能しているということだった。

 そんなものを一瞬で作り上げるなんて言うのは本来であれば夢のまた夢の話だろう。

 でももし可能だとしたらそれはまるで―――。

「フフフッ。ホントに魔法みたいな話だなぁ……」

「いや、だから魔法だってば、そんなに納得できないものかね?」

「……そうは言ってもさ、魔法で完全なコロニーとか作れるの?」

 そこはなんとなく科学技術を信仰する人類的にプライドに触るのだが、現状肯定が返ってくることは確定だった。

「建築の魔法は、元の世界では一般的だったよ。私の世界の人類は自由に町を作り変え楽しんだものだ」

「それはとても魔法っぽいなぁ」

「それと、コロニーを完全にするのはこれからだとも。現状は、私が君が生きていられるギリギリのバランスを無理やり整えているにすぎない。それで、さっそくだが、私を植えてくれないだろうか?」

 ただまた思いもよらないワードが出て来て、僕は聞き返した。

「……植えるの?」

「ああ。私は曲がりなりにも植物の一種だからね。土がなければ始まらない」

「そんな、急に普通の植物ぶらないでもいいんだよ?」

「元より植物のつもりなのだが? ちゃんと植える場所は用意してある、頭上の建造物が見えるかな?」

 シュウマツさんに言われて空を見上げると、そこはコロニーの中心部だった。

 だが僕は首を傾げた。

「あそこでいいの?」

 本来であれば、コロニーの中心に当たるその場所は中心に近づくほど、無重力に近くなる。

 その上精密機器はあっても、土なんて欠片もなさそうなコロニーの真ん中はあまり植物が育つのに向いていなさそうだが、やはり間違ってはいないようだった。

「問題ないとも。私も普通の植物とは違うものでね。大丈夫、土はたっぷり詰めてある」

「土、詰めてあるんだ」

「通路は作ってあるから出来るだけ深めに埋めてほしい」

「本当に埋めるんだ……わかったよ」

 意味は分からないけれど、やることはわかった。

 もう準備が整えてあって、あえてシュウマツさんが埋めろと言うのならそうしてみるとしよう。

 僕はさっそくスペーススーツアウターに乗り込んで、昇降機に向かうとシュウマツさんの指示した中心部へと急いだ。

 中心の建造物は資料通りに作ってはいないみたいで、かなり形状に変更があった。

 なめらかな外壁には用途の良くわからない、いくつも丸い穴が開いているのが見える。

 本来ならコロニーの制御に必要な様々な施設が入っているはずなのだが、僕的にはなんでこんな金属の筒に土が大量に詰まった妙なもので、僕が今生きていられるのか不思議でしょうがなかった。

「この中に?」

「ああ、頼むよ」

「……わかった」

 だが現実に生きているのだから進まねばなるまい。生きるとは神秘である。

 僕は申し訳程度に建造物の中に作られた、通路というかトンネルを通って施設の中心部へ進んだ。

 そして重力が限りなくゼロに近い場所に、ここに埋めてくださいと言わんばかりの土の壁を発見して、さっそく作業を開始した。

「無心……そう、無心で作業するとも」

「そう身構えなくても埋めるだけでいいのだがね。……ああでも、私を埋めたら出来るだけ急いで逃げた方がいいだろうな。来た道と反対方向に、宇宙に出られる出口を作っておいたから飛び出すといい。きっと面白いものが見られるよ」

「……なんだか嫌な予感がするなぁ」

 スペーススーツアウターは宇宙開発のための建機をルーツとするだけあって、こういう土木建築は得意分野である。

 ザックザクと作業は滞りなく進んで、僕は土壁をあっという間に掘り進むと、ようやくシュウマツさんからOKが出た。

「よし。では、私をこの穴に放り込んで土をかぶせてくれるかな?」

「よくわからないけど……わかった」

 言われるがままにシュウマツさんを放り込で、埋め戻す。

「よし! 撤退!」

 どうなるかはわからないがブースターを全力で噴射して、言われたルートを一直線である。

 ハッチを開き、僕は宇宙空間から飛び出した場所を振り返る。

 今、僕の一番の懸念はこの後シュウマツさんがどうなるかだった。

「……こんなところで一人はきついから。シュウマツさんもいなくなったりはしないでくれよ?」

 面白いものが見られるとは一体何か? 疑問は尽きない。

 宇宙空間に飛び出して数分。ついに変化は起こった。

「えぇ……」

 コロニーは小刻みに揺れていた。

 そして施設の無数の穴から何かが猛烈な勢いで飛び出してきて僕はヒエッとバイザーを手の平で覆った。

 それは確かに植物のようで、とんでもない大きさの根が施設に開いた不自然な穴全体から次々伸びていて、止まる気配はなかった。

「ナニコレ……」

 そして、根を張ってからの成長は更にでたらめである。

 バキバキと音を立てる勢いで幹が伸び、全体像は大きすぎて把握できないほどだった。

「だ、大丈夫なのかなこれ?」

 これはコロニーが壊れそうだ。

 コロニー出身者からしたら心臓に悪い光景だが、もはや見ている以外にどうしようもない。

「……止まった?」

 ようやく振動が収まる頃には、完全に機械で出来ていたはずのコロニーは半分植物的な外観に様変わりしていた。

 目を白黒させている僕だったが、その時何かがこちらに飛んできていることに気が付く。

 蛍のような光体はフヨフヨ僕の方へ飛んできて、シュウマツさんの声で話しかけて来た。

「どうだろう? いい感じに育っているだろうか?」

「……まぁ、常識云々は今更か」

「何か言ったかな?」

「いいや大したことじゃないよ。それととてもよく育っているのは間違いない。少し育ちすぎじゃないかなとは思うけれど」

 ハハハと渇いた笑いが漏れる。

 木の生えたコロニーはどう見てもコロニーの常識からもかけ離れていて、普通とはいいがたかった。

「だからこそのサブボディだよ。光量も調節できるし、いい大きさだろう?」

「そこ大事かな?」

「重要だとも、それにこっちの方が話やすい。本体から直接語り掛けたら、首が痛くなってしまいそうだからね。どうだろう? 私の新生した姿は?」

 言われるがままに僕は木を見上げる。

 確かに大きすぎるのでどこを見て話をすればいいのか僕にはまるでわからないわけだが、すごいことだけはよくわかる。

 僕は種から木に生まれ変わった友人に、素直に賛辞を送っておいた。

「おめでとう、シュウマツさん。それにしてもとにかく……でっかいね。どれくらいでっかいのかここからじゃわからないけれども」

「……それもそうだな。では一度全体像を見てみるかな?」

「全体像?」

「そうだとも。魔法で全体が見える場所まで飛んでみると言うのはどうだろう? 君のスーツくらいの大きさならそれくらい簡単だ」

「そんなこと出来るのかい? 宇宙船もないのに?」

「もちろん。転移魔法を使えばいい」

「……冗談言ってる?」

「冗談ではないが?」

 シュウマツさんの極真面目なトーンに僕は戦慄を覚えた。

 人類が宇宙に出て相当な年月が経過している。だと言うのにSF定番のワープ技術は未だ研究中の不安定なものでしかない。

 半信半疑であるが、ここしばらくでありえないほどありえないを体験しているのだから反論するのは時間の無駄かもしれない。

 僕は素直に頷く。すると僕の周囲は不思議な光に包まれていた。

「では行くよ?」

「お手柔らかに、これ以上驚いたら心臓が持たなそうだ」

「ならば残念なお知らせだな。きっと君はもっと驚くだろう」

 それはまたあんまりな予言だが、当たる気がした。

 パッとコマを飛ばしたように視界が切り替わったのは一瞬だった。

「おお……」

 薄暗い宇宙に僕は浮いている。

 そして―――見たこともない非常識な物体は、眼下にあった。

 かなり離れているのか、視界に収まる範囲まで小さくなったコロニーはしかし、コロニーと言っていいのか僕にはわからない。

 ドーナツ状の輪の真ん中にでっかい木が生えている。

 木は青々とすでに茂っていて、全体はコロニーよりもはるかに大きいのだからもはやそれを植物と呼んでいいのかすらよくわからなかった。

「しょく……ぶつかなぁ」

「植物だが?」

 僕にしてみればさも当たり前という言い方が、今は逆に疑わしかった。

「感想はどうだろう? 驚いてもらえたかな?」

 期待交じりに感想待ちのシュウマツさんに、僕は期待に添えるとも思えない感想を口にした。

「どこから驚いていいのかわからない。宇宙空間にはみ出てるけど大丈夫なの?」

「種の時から大丈夫だったんだから大丈夫なのでは?」

「それもそうか……輪っかのついた植木鉢にでっかいブロッコリーが生えてるみたいだ」

「……待ってほしい。それは褒められているのだろうか?」

「うん。普通に感動してる」

 いやゴメン。つい口を突いて出ちゃった。すごいとは思っている。

 だってほんとにそんな感じなんだもの。

 シュウマツさんは釈然としない様子だったが、今の形になったコロニーを見て、満足そうだった。

「まぁ……存分に楽しんでくれ。君が住人第一号だ」

 シュウマツさんの言葉に、僕は目を丸くした。

 なるほど確かにその通りだ。

 僕は今まで考えたこともない不思議な視点でコロニーを眺める。

 このおかしな大地を独り占めできるというのは中々悪い気分ではない。

「なるほど……それは贅沢でいいね。ところで、後で転移の魔法も詳しく教えてくれない? 研究したいんだ」

「そっちなのかね?」

「うんまぁはい。転移って要するにワープでしょ? 元々研究してたから少しはね?」

 僕は魔法使いでも大富豪でもなく、技術者だ。

 理解出来るところから注目していきたいところなのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

処理中です...