宇宙の果てで謎の種を拾いました

くずもち

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第106話とっておき中のとっておき

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「馬鹿な奴だ。よし……制圧完了。全艦すぐに―――」

「……ひどいな。頭を撃ち抜くなんて」

 予定通りでもこれはやばい。

 まさに頭蓋骨が砕ける衝撃だった。

 しかし僕は生きている。

 不思議なことだが、僕はすぐさま再生して何事もなかったかのように振る舞って見せた。

「いやぁ。死ぬのは初めてです。死ぬほど痛いですから銃なんて使わない方がいいですよ」

「……化け物が!」

 予定通りド肝を抜けたようでなにより。

 冷静な判断力を奪うのならとりあえず驚きというのは手っ取り早い手段だと僕は思う。

「化け物? いえいえ、これもニライカナイコロニーの素晴らしさを知ってもらうプレゼンの一部ですとも。未知の資源に未知の技術。そして金銀財宝に不老不死……この身をもって誓ってすべて真実であると皆さんに伝えなければ始まりません」

「何の話だ……」

「皆さんがここに来てくれた理由のお話ですよ。荒唐無稽な私共の話のどこからどこまでが真実か? その一部でもお伝え出来たなら幸いですが」

「……すべてが真実だと言うのか?」

「もちろん。今までの我々との一連のやり取りは動画で記録し、皆様自身の手で持って帰っていただきます。しかしながら私の見立てでは……ここにいらっしゃった、好奇心溢れているはずの皆様は、少々正常な判断が難しい現状にあるように思うのです」

「……!」

 銃口が再びこちらを向く。

 やれやれ、やはり一度くらいでは諦めてはくれないようだ。

 僕としては、あと何回か付き合うこともやぶさかではなかったが、次の引き金は剣と弓によって妨害された。

 その場を飛び退いたF1は攻撃したのが月人と地球人だと知ると大きく目を見開いていた。

「貴様ら……! なぜ動ける!」

「何度もやらせないよ」

「大丈夫かい? カノー」

「大丈夫。不老不死の果実は食べただろう?」

 手を出さないで欲しいと言っておいたはずなのに、フーさんと白熊さんは助けてくれたようだ。

 僕は仕方がないなと二人の目を見ると―――

 どうする?

 逆にそう彼女達は視線で問いかけてくる。

 2人の問いは、少なくとも目の前のF1より、僕の心をキュッと揺さぶって来た。

「そうだね……サービスはこんなものでいいかな? じゃあ、仕上げをシュウマツさん、お願いできる?」

「いや、せっかくだ。『契約』を確かめてみるといいだろう」

「……ああ、そうか。そうだね」

「おい! 何をするつもりだ!」

 叫ぶF1はいったん放っておいて、僕はひとまず強制的に場を整えることに決めた。



 では少しだけシュウマツさんとの『契約』について話をしよう。

 シュウマツさんと契約すると、シュウマツさんと僕の魂に繋がりが出来る。

 すると何が起こるかというと、僕らの魂に刻まれている情報が双方に共有されることになる。

 つまりシュウマツさんが元の世界の生物の記憶を有して、その技術を扱えるように、僕がシュウマツさんの能力の一部を使いこなすことが出来るということだった。

「じゃあ、試してみようか―――」



『解呪』



「!!」

 唱えた瞬間、その場で意識を失って崩れ落ちたのは地球と月の兵達だった。

 相手は何が起こったのか全く分かってはいないだろうけれど、立っているのはコロニーの兵士だけだ。

 フーさん曰く、今まで強烈なマインドコントロールが施されていた状態から解放されると、人格は再統合されるらしい。

 それが解呪による効果なのか、それとも元々備わっている人体の機能によるものなのかはわからないが、経験者は生まれ変わったようだと言うから、効果は相当なものだろう。

 そしてもう一つ、コロニーのアンドロイド達を止めているのは、準備を整えていたオペ子さんである。

 月人のコントロールから解放されたアンドロイド達は、続いてオペ子さんとの話し合いに応じてくれているようで、動く気配はないようだった。

「よし。僕の魔法はうまく出来たかな?」

「完璧だ。うまいじゃないか」

 シュウマツさんに褒めてもらえたのなら、僕は満足してもよさそうである。

 そしてオペ子さんは、今はフルでその機能を使っているようだった。

「コロニーの同胞はワタクシが対応中です」

「うん。頼んだよ。出来れば穏便に勧誘しておいて」

「了解しました。好感触ですので期待しておいてください」

 ならば結構。

 その結果、誰一人動かない状況が誕生した。

 一段落かと思いきや、肝心のF1だけは正常ではなかった。

「―――!」

 顔は青ざめ、視線が定まらないのは、解呪の性質を考えるととても不可解だ。

「ん? 使った魔法は解呪だよね?」

「あいつ、なんだかおかしいけど、どういうこと?」

 様子がおかしいことに気が付いたフーさんも白熊さんも警戒を強めていたが、僕だって焦った。

「いやわかんないね……シュウマツさんどう?」

「解呪は見事なものだったよ。ただ……彼女はずいぶんと不自然な生き物らしい。いや生きているのかも怪しいな」

「そんなに? 一応魂はあったと思うんだけれど……ああ、確かに」

「き、貴様! 何をした!」

 足元すらおぼつかない状態で声を荒げるF1に、僕は説明した。

「みんな健康になってもらっただけですよ。貴女はどうやら……体調を崩しているみたいだけれど」

 そう。僕は正常な状態に体の方を治しただけのはずだ。

 その歪みの元がなくなれば、気を失った人達は皆目を覚ます。

 一番最初に目を覚ましたF2に、F1は命令した。

「起きたのなら銃を構えろ! 脱出するぞ! ここはなにかマズイ!」

「え? アレ? ちょっと待ってください……少し考える時間をください……」

「!!!」

 上位の個体からの正式な命令を拒む。

 それは本来のフェアリーシリーズにはありえない事なのだろう。

 更に混乱したF1は蒼白な顔で後ずさり、僕に化け物でも見るような視線を向ける。

 そして銃を構えると、立て続けに僕に向かって弾丸が放たれた。

 「……無駄なことです。そんなものではもう彼を傷つけることはできませんよ?」

 銃弾を受け止めたのは僕の足元からせり上がって来た、オペ子さんアウターの腕だった。

 床下からユラリと揺らめく暗い炎には、見覚えがある。

 また魔法じみたやり方で助けてくれたものだが、助かった。

 得体の知れない異形のマニピュレーターを含めて、事実得体の知れない化け物ムーブを決めていた僕は、困ったような表情を浮かべるのみである。

「アレは……危険だ! 殲滅だ! 一欠片も残してはならない! 全艦主砲を発射しろ! コロニーを……私ごと叩き潰せ!」

 だがそんなことを言っている場合ではなかった。

 全力で脳波を放ち、そう命じたF1の行動に僕は一瞬固まった。

「それはさすがにいくら何でも……」

「主砲!? コロニーに撃ち込むっていうの!」

「いやいや、理性的なのが売りじゃないのか月人は! ボクらよりめちゃくちゃじゃないか!」

 弾かれたようにフーさんと白熊さんは飛び出して、F1を拘束する。

 だが彼女はすでに目の焦点が定まらない様子で、正気だとも思えなかった。

「いや、いいよ。あれも彼女の選択だ」

「「いいわけないでしょ!(だろ!)」」

「あ、はい……ごめんなさい」

 すごく怒鳴られてしまった。

 それはごもっとも。このままじゃみんな死んでしまう。

 だが突発的な危機的状況を、僕は想定していなかったわけではない。

 アレは本来まだ未完成のはずだったのだが、幸運なことにそれを動かす術が僕にはある。

 普通だったらどうしようもなかっただろう。でも僕と契約したことで、シュウマツさんもまた僕の魂に触れているのだ。

 シュウマツさんと僕の契約は双方向なのだ。

 僕がシュウマツさんの世界を知る様に、シュウマツさんも僕の世界の事を知っている。

 もはや僕がデータを出してわざわざ教える必要はない。

 それは僕という、こちらの世界の魂の端末から僕ら人類が歩んできた軌跡をたどれるということ。

 すなわち今までは、学習の必要があったこちらの技術をシュウマツさんは瞬時に理解することが出来るということだった。

 僕は仕方なく……そう仕方なく、未完成の最後のギミックを無理やり発動することにしたわけだ。

「……ならこっちも最後の切り札を使わせてもらおう」

 ああもう本当に仕方がないな。

 実力行使をして来ると言うのなら、僕らはきっちり守り切る。

 そんな僕にシュウマツさんもあきれ気味だった。

「めちゃくちゃ楽しそうだな君は……最後まで気を引き締めたまえよ?」

「そんなに楽しそう? まぁ万が一は考えていたから、保険が効いて嬉しかっただけさ」



 月の艦隊の売りは、命令に絶対服従する完璧な軍隊である。

 最上位者からの命令通り、艦隊は運用され、主砲は準備された。

 一隻だけでも撃ち込めばコロニーの一つくらい簡単に崩壊させられる高出力のビーム砲は、これまでの歴史上コロニーに向けられたことはない。

 非人道的な兵器。

 それは間違いなくそう呼ばれる類のものではあったが、今はまだ未熟な月勢力が生き残るためには必要な抑止力でもあった。

 しかしこの日、何のためらいもなく光は放たれた。

 しかも艦隊からの一斉掃射である。

 無数に伸びる破壊の光は、コロニーの外壁を一瞬で融解させ、崩壊させるはずだった。

 しかし―――コロニーは命中する前に動き出し、船体は形状を変化させてゆく。


 外宇宙探査船ニライカナイ、戦闘モード。


 コロニーを守るようにその背に背負い、常に外敵に立ちはだかる無敵の人型機動兵器は両腕をゆっくりと前にかざし、主砲の直撃を受け止めた。
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