僕は、僕が殺した彼女の人生をやり直す

伝説のししゃも

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第1話 はじまり

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 僕の手にはナイフ、そして目の前には血まみれの彼女が倒れている。
 大きすぎる後悔とわずかな達成感。現実味の無い光景だが、手に残る彼女の体を貫いた感触が、これは現実だと叫んでいた。
 部屋には僕と、彼女の呼吸だけが響く。

 仰向けに倒れた彼女は、恐れる様子もなくこちらをじっと見つめていた。彼女の視線に耐えきれなくなって、僕は視線を外してしまう。
 ふふっ、と彼女が笑う。そして一言


 「痛いよ」


 それ以上は何も言わなかった。

 足元に転がっていたペットボトルの水を一気に飲み干す。
 次に彼女の顔を見た時には、彼女はもう目を開けていなかった。
 部屋に響く呼吸の音が、僕のものだけになる。

 彼女だったモノに近づき、その手を握る。徐々に失われていく体温に、あぁ、本当に死んでしまったのだな、等とやけに冷静に考えていた。

 手を握ったまま、血だまりの出来た地面に腰を下ろす。

 こんな事をしでかしておいて、今後自分がどうなるか等と考えている僕自身が嫌になる。

 あれこれ考えているうちに僕は眠ってしまった。

 握りしめた彼女の手は、完全に冷たくなっていた。


 * * * * *


 ジリリと鳴り響く目覚まし時計の音に、僕は叩き起こされた。
 目をつむったまま手探りで、騒々しいそれを探すがなかなか見つからない。というか僕の目覚まし時計はこんな音だったっけ、などと考えながらやっとの思いで探り当てたのだが、アラームの止め方がわからない。手に取った目覚まし時計は思いのほか重たく、おもわず取り落としそうになってしまった。
 そこでようやく目を開ける。僕の手には見たことのない目覚まし時計が握られていた。僕のものにしては少しばかり少女趣味の過ぎる、ファンシーな時計だ。もちろんこんな物を買った覚えはない。もっと言えば目覚めた場所にも覚えはなかった。
 アラームを止め、時計を元の場所に戻し、頭の中を整理するべく再び目をつむった。

 どこだここは。
 少なくとも僕の部屋ではないだろう。

 なぜここにいる。
 わからない。僕には彼女を殺した、それ以降の記憶がない。

 いや、正確には少し違う。僕には彼女を殺した以降、そしてそれ以前の記憶が、削ぎ落とされたかのように無かった。自分の名前は何であったかすらも思い出せない。なぜ僕は彼女を殺したのか、思い出そうとしても靄がかかったように思考が先へと進まない。
 部屋の様子からみて、警察に捕まったというわけでもなさそうだった。留置所にしては内装が洒落すぎている。足元にはピンクのカーペットが敷かれているし、枕元にはご丁寧にぬいぐるみが並べられていた。まるで女の子の部屋みたいだなぁ、と思いながら立ち上がる。

 まぁ、そんなこと、本当はどうでもいいんだけど。そう、そんなことはどうだっていいのだ。僕の身に起きている異変に比べれば。いや、今は僕ではなく、私というのが正しいのかもしれない。僕の体には、なかったものが付いていて、付いてたものが付いていなかった。

 簡潔に言えば、僕の体は、女の子になっていたのだ。
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