僕は、僕が殺した彼女の人生をやり直す

伝説のししゃも

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第5話 通学路

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 さて、困ったな。
 いきおいこんで家を出たまではよかったのだけれど、どうにも道がわからない。かれこれ十五分以上は歩き回っている気がする。よく考えたら僕は彼女が通っている学校の名前も、学年さえも知らない。何か手掛かりはないかと鞄をあさるが、生徒手帳はおろか通学定期のようなものも見つからない。一度家に戻ろうにも、むやみやたらに歩き回ったせいで、その道すらわからない。
 あぁ、これは詰んだ。家を出る前にきちんと彼女に確認をしておくんだったなぁ。制服の袖で汗をぬぐい、空を仰ぐ。
 いや、待てよ。もしかしたら。辺りをきょろきょろと見渡し、自分の姿が映りそうなものを探す。歩き回った疲れのせいか、蝉の声がやけにうるさく感じる。大体、この住宅街のどこにそんなに蝉がひそんでいるのだろう。頭がうまく回らない。朝ごはん、ちゃんと食べておくんだったなぁ。こんなことだったら手鏡でも持ってくるんだった。何も考えずに家を飛び出した自分を呪いながらしばらく歩き回ると、少し先にカーブミラーが見つかった。喜んで駆け寄るが、あれ、おかしいな。誰も映ってない。彼女なら付いてきているだろうと思ったんだけど。

 「おーい、おーい!」

 カーブミラーに向かって呼びかける。はたから見たら暑さで頭がどうにかなっちゃった人に見えていることだろう。事実、犬の散歩をしていたおじいさんが何事かと立ち止まってこちらを見ていた。遠巻きに見ているつもりかもしれませんが、カーブミラーに映ってこちらからもばっちり見えてしまっていますよ。そんなどうでもいいことをおじいさんに伝えてあげたいと思いながら、めげずに呼びかけを続けていると彼女が鏡の端からひょこりと顔を出した。

 「ちょっとやめてよ、私が変な目で見られちゃうじゃん」

 彼女があわてているが、それは今更な話だろう。呼びかけをやめたからか、見物に飽きたのか、おじいさんも散歩を再開した。これでまわりを気にすることなく質問ができる。彼女はまだ何やら文句を言っているが、それに耳を貸すと長くなりそうなので聞こえていないふりをする。

 「キミの学校がどこにあるかわからないんだけど・・・」
 「もしかして、それもわからずに家を出たの!?」
 「申し訳ないけど、そのもしかしてなんだ。キミの学校の場所なんかを教えてくれないかな、手間をかけさせて悪いけど」  
 「はぁ、しかたないなぁ。一度しか言わないからしっかり聞くんだよ?まずは」

 そこまで言って、驚いたような表情で彼女の口が止まる。あれ、彼女の後ろに誰かいる?鏡の中の彼女も、僕と同じように僕の後ろを凝視していた。背後を確認しようと振り返る、と同時に後ろから誰かに飛びかかられる。

 「おっはよー柚葉!何してんの?こんなところでさ!」
 「えぇと・・・」

 この子は誰だろう。彼女より少し背の小さい、活発そうな女の子だ。僕と同じ制服を着ているのを見るに同じ学校の生徒、そして名前で呼んだことから、彼女の友人だろうかなどと推測する。急に現れたことよりも、女の子にとびかかられたことに対して内心動揺しまくっていたのだが不信感を抱かれないように平常を装おうとと努力する。

 「なにって、普通に学校に行く途中だけど」
 「でもこっちは柚葉の家から見ても学校と反対方向だよ?」
 「あ、あんまりいい天気だから、散歩しようと思って」
 「うーん、散歩するには少し暑いんじゃないかな」

 どうしたものか、こたえることすべてが裏目に出てしまっている。第一この子こそ自らの言うこんなところとやらで何をしているのだろう。

 「何をしてるかって?学校と逆方向に歩いてく柚葉が見えたから、おもしろそうだと思ってあとをつけてたんだよ」

 あぁ、そういうことか。それならその時点で話しかけてくれればこんなに歩き回らずにすんだのに・・・。

 「柚葉がカーブミラーの前で騒ぎ出したときは、ついに壊れちゃったかと思って本当に心配だったよ」

 そうか、それなら笑いをこらえるように下唇をかみしめているのはなぜだろう。

 「それで、柚葉がカーブミラーとおしゃべりをはじめたあたりでさすがにこれはやばいと思って出てきたってわけ」

 うすうす気が付いてはいたけど、やっぱりそこもみられてたのか。聞かれてまずい会話をしなくてよかった。カーブミラーがすさまじいまでの殺気を放っている気がするが、それはきっと気のせいだろう。それに、見られて恥ずかしいのは僕だって同じなのだ。

 「まぁ柚葉がカーブミラーとおしゃべりする趣味があろうと私は引いたりしないよ。人にはいろいろと秘密があるもんね。それよりも、急がないと遅刻するよ?」

 もうそんな時間か。歩き回って余計な時間を使ってしまたのだから当然と言えば当然だが。初日から遅刻をするのは彼女も望ましくはないだろう。鏡の中で彼女がそんな趣味あるはずない!否定して!と騒いでいたが時間がもったいないので無視した。

 「それじゃあ、学校まで走っていくよっ!」

 突き刺さるような日差しの中走り出す小柄な少女のその声につられて、僕も走り出した。

 途中で妹とすれ違い、何をやってるんだというような目で見られたのは、彼女には黙っておこう。
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