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第1章「蒼天騎士は、つねに雲の上にあるべし」
第14話「廃騎士クルティカ、王命により追放!」
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(UnsplashのKatsiaryna Endruszkiewiczが撮影)
広場中の眼が花柱に集中した。蒼天騎士団をあらわす青い飾り布を巻いた柱に、白い丸パンがひっかかっている。
いや、白いローブを着た丸々と太った男が花柱にガッキとしがみついている。
クルティカがつぶやく。
「あっ、リデル……忘れてた……」
ケネス王が不思議そうに、
「あれは、知り合いかクルティカ。あんなところで何をやっている?」
「いろいろ事情がございまして、陛下……ええと、おれ付きの癒し手なのですが」
「癒し手というより、災厄を招くやつのようだな」
「まさしく」
クルティカが花柱を見上げるうちに、数人の騎士がハシゴを持ってきて柱に登り、丸々としたリデルを抱えおろした。
ようやく地上に降りた丸パン男は汗をふきふき、
「ひゃあああ。たすかった……ひどいよ、クルティカ。あとから迎えに来るって言ったのに!」
「すまないな、状況が変わったんだ」
「状況でも何でも、忘れないでくれよ……あっ、ロウちゃん、無事だったんだね?」
周囲の緊迫した気配を一気にぶちこわす、のんきなリデルの言い方にケネス王が笑った。
「わが身も救えぬ癒し手か――おい」
「はあ。ひぇおっ! へ、陛下!」
リデルがバタバタとローブを整える。
その様子は焼き立てのパンがころころと転がるようで、さらに王の笑いを誘った。
「そち、名は何という」
「リデル・ルハラでございます」
「ルハラ……聞いたことがあるな。我が叔母、公爵未亡人の侍女にルハラという少女がいた気がするが」
「……ルヴァイン・ルハラは、わたくしの妹でございました」
一瞬だけ、丸パン男の身体がびりりと引き締まり、圧気のようなものが放たれた。
しかしギザギザとした気配はすぐに、柔らかそうな身体に吸い込まれて消えてしまった。一瞬で消えてしまったので、気配の不穏さに気づいたのはクルティカくらいだったかもしれない。
ケネス王は少し妙な表情をしたが、すぐに手にした大太刀を膝をついたリデルの肩に置いた。
「ふむ……では、こうしよう。
リデル・ルハラ。おまえには今から旅を命じる。
廃騎士クルティカ、廃騎士ロウ=レイとともに王都を出るのだ。
旅のあいだ、クルティカの腕の黒化がこれ以上すすまぬよう手当せよ。
これは王命である!」
「あひゃあ! じゃない、はあああっ、陛下!」
「よし、これにて騒ぎは終わりだ。
さあ、六月祭を始めよう。楽隊は音楽を! みな花柱のまわりで踊れ!」
たちまち華やかな音楽が鳴り、笛と太鼓が続いた。
皆が広場で踊りはじめるなか、黄雲騎士団長ジャバと、金髪を黒ずませたザロ辺境伯が憎々しげにクルティカをにらみつける。
もちろん、クルティカが背後にかばっているロウ=レイにも。
だがジャバ団長もザロ伯も、これ以上は手を出すことができない。
王命により追放を命じられたクルティカとロウ=レイは厳重に騎士たちに取りまかれているからだ。一行はおごそかに王都を出るため、大門へ向かう。
ついでに白いローブの裾でつんのめりそうになっているリデルも一緒に。
規則正しい足音を響かせながら、クルティカの横にいる先輩騎士がさりげなく言った。
「クルティカ……気をつけろ。辺境伯はああ見えて、ただの軽薄男じゃない。怪しげな者たちを配下に持っているという噂だ」
クルティカも視線を合わせないようにしながら、さりげなく答える。
「……怪しげなもの? 自衛軍ですか?」
「いや、軍ではない。はっきりと見た者はいないのだが、伯爵が意のままに使える一群がいるらしい。腕がたつらしいぞ」
「……腕利きの秘密部隊、ですか」
「ああ。闇にまぎれ、辺境伯の邪魔になるものをひそかに処分するやつらだと聞いた……」
ふっと、クルティカの脳裏に王宮前広場での情景が浮かんだ。
ロウ=レイが辺境伯に斬りかかった時、レイピアは正確に伯爵の急所を狙っていた。蒼天騎士団でも指折りの騎士であるロウが、至近距離で的を外すはずがない。
しかし『何か』が邪魔をした。
ごくごく小さな、石つぶてみたいなもの。剣戟の最中に空を切って飛んでくるはずがないものだ。
それがロウの太刀筋を微妙にずらし、突然の襲撃に1タールも動けなかった辺境伯を救った。
クルティカは静かに答えた。
「ありがとうございます……気をつけます」
それきり言葉は途切れた。
大門が見える。夜にもかかわらず門番がカンヌキを動かし、数人がかりで門を開こうとしている。
その先には、明かりのない真っ暗な夜が広がっていた。
クルティカの隣にいた騎士が、朗々とした声で叫ぶ。
「廃騎士クルティカ! 廃騎士ロウ=レイならびに、癒し手リデル!
王命により、王都より追放する!」
3人が深い闇に足を踏み入れる。
背後で、ばたりと大門が閉じられ、ふたたびカンヌキの音が響いた。今度はクルティカたちを締め出す音だ。
眼の前には、小石を敷き詰めたホツェル街道が月光を浴びて白く光っていた。
「さて、どうする?」
クルティカはひそかにつぶやいた。
(第1章 了 このまま明日から、第2章が始まります!
運命の幼なじみ 沸騰派・美少女剣士とこの世の災厄をかき集める癒し手を連れた
クルティカの苦難の旅に、大笑いしてください!)
広場中の眼が花柱に集中した。蒼天騎士団をあらわす青い飾り布を巻いた柱に、白い丸パンがひっかかっている。
いや、白いローブを着た丸々と太った男が花柱にガッキとしがみついている。
クルティカがつぶやく。
「あっ、リデル……忘れてた……」
ケネス王が不思議そうに、
「あれは、知り合いかクルティカ。あんなところで何をやっている?」
「いろいろ事情がございまして、陛下……ええと、おれ付きの癒し手なのですが」
「癒し手というより、災厄を招くやつのようだな」
「まさしく」
クルティカが花柱を見上げるうちに、数人の騎士がハシゴを持ってきて柱に登り、丸々としたリデルを抱えおろした。
ようやく地上に降りた丸パン男は汗をふきふき、
「ひゃあああ。たすかった……ひどいよ、クルティカ。あとから迎えに来るって言ったのに!」
「すまないな、状況が変わったんだ」
「状況でも何でも、忘れないでくれよ……あっ、ロウちゃん、無事だったんだね?」
周囲の緊迫した気配を一気にぶちこわす、のんきなリデルの言い方にケネス王が笑った。
「わが身も救えぬ癒し手か――おい」
「はあ。ひぇおっ! へ、陛下!」
リデルがバタバタとローブを整える。
その様子は焼き立てのパンがころころと転がるようで、さらに王の笑いを誘った。
「そち、名は何という」
「リデル・ルハラでございます」
「ルハラ……聞いたことがあるな。我が叔母、公爵未亡人の侍女にルハラという少女がいた気がするが」
「……ルヴァイン・ルハラは、わたくしの妹でございました」
一瞬だけ、丸パン男の身体がびりりと引き締まり、圧気のようなものが放たれた。
しかしギザギザとした気配はすぐに、柔らかそうな身体に吸い込まれて消えてしまった。一瞬で消えてしまったので、気配の不穏さに気づいたのはクルティカくらいだったかもしれない。
ケネス王は少し妙な表情をしたが、すぐに手にした大太刀を膝をついたリデルの肩に置いた。
「ふむ……では、こうしよう。
リデル・ルハラ。おまえには今から旅を命じる。
廃騎士クルティカ、廃騎士ロウ=レイとともに王都を出るのだ。
旅のあいだ、クルティカの腕の黒化がこれ以上すすまぬよう手当せよ。
これは王命である!」
「あひゃあ! じゃない、はあああっ、陛下!」
「よし、これにて騒ぎは終わりだ。
さあ、六月祭を始めよう。楽隊は音楽を! みな花柱のまわりで踊れ!」
たちまち華やかな音楽が鳴り、笛と太鼓が続いた。
皆が広場で踊りはじめるなか、黄雲騎士団長ジャバと、金髪を黒ずませたザロ辺境伯が憎々しげにクルティカをにらみつける。
もちろん、クルティカが背後にかばっているロウ=レイにも。
だがジャバ団長もザロ伯も、これ以上は手を出すことができない。
王命により追放を命じられたクルティカとロウ=レイは厳重に騎士たちに取りまかれているからだ。一行はおごそかに王都を出るため、大門へ向かう。
ついでに白いローブの裾でつんのめりそうになっているリデルも一緒に。
規則正しい足音を響かせながら、クルティカの横にいる先輩騎士がさりげなく言った。
「クルティカ……気をつけろ。辺境伯はああ見えて、ただの軽薄男じゃない。怪しげな者たちを配下に持っているという噂だ」
クルティカも視線を合わせないようにしながら、さりげなく答える。
「……怪しげなもの? 自衛軍ですか?」
「いや、軍ではない。はっきりと見た者はいないのだが、伯爵が意のままに使える一群がいるらしい。腕がたつらしいぞ」
「……腕利きの秘密部隊、ですか」
「ああ。闇にまぎれ、辺境伯の邪魔になるものをひそかに処分するやつらだと聞いた……」
ふっと、クルティカの脳裏に王宮前広場での情景が浮かんだ。
ロウ=レイが辺境伯に斬りかかった時、レイピアは正確に伯爵の急所を狙っていた。蒼天騎士団でも指折りの騎士であるロウが、至近距離で的を外すはずがない。
しかし『何か』が邪魔をした。
ごくごく小さな、石つぶてみたいなもの。剣戟の最中に空を切って飛んでくるはずがないものだ。
それがロウの太刀筋を微妙にずらし、突然の襲撃に1タールも動けなかった辺境伯を救った。
クルティカは静かに答えた。
「ありがとうございます……気をつけます」
それきり言葉は途切れた。
大門が見える。夜にもかかわらず門番がカンヌキを動かし、数人がかりで門を開こうとしている。
その先には、明かりのない真っ暗な夜が広がっていた。
クルティカの隣にいた騎士が、朗々とした声で叫ぶ。
「廃騎士クルティカ! 廃騎士ロウ=レイならびに、癒し手リデル!
王命により、王都より追放する!」
3人が深い闇に足を踏み入れる。
背後で、ばたりと大門が閉じられ、ふたたびカンヌキの音が響いた。今度はクルティカたちを締め出す音だ。
眼の前には、小石を敷き詰めたホツェル街道が月光を浴びて白く光っていた。
「さて、どうする?」
クルティカはひそかにつぶやいた。
(第1章 了 このまま明日から、第2章が始まります!
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