「おれの姫は美少女剣士、ただし『突発性・沸騰派』」 随時更新してます💛

中野 翠陽(なかの みはる)

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第2章「運命はいつだって『西』にある……空腹とともに」

第29話「カラスの刻印は、筆頭騎士団のもの」

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(UnsplashのKawê Rodriguesが撮影)


「申し訳ないっ!」

 翌朝、クルティカは残った荷物をまとめて宿主に頭を下げた。ふとった宿主はじろりとクルティカをにらみつけた。

「……いったい、なぜあんたが泊った部屋の柱と天井が半分焼けているんだかね?」
「それはその……」
「しかも来たときは3人、今はあんた1人しかいないって、どういうことだ?」
「いろいろと、事情がありまして……」

 どういうことだ? とはクルティカこそ言いたい。だが、今はとりあえずバタバタと羽ばたく小さな龍を古いマントに包み、抱えて謝るだけだ。
 宿主は荷物もろくにないクルティカの手元を見て、ため息をついた。

「3人分の宿代と食事代、それに火事の弁償……しめて200リルになるがね。あんた、払えるのか」
「ここに持っているものが全部です。お許しあれ」

 机に並んでいるのは女が残していった上質のマント、革長靴、クルティカたちが持っていた革筒だけ。宿主はマントをひっくり返し、革長靴をじっくりみた。

「悪くないもんだが、これだけじゃな……その革筒には何が入っている?」
「これはちょっと……あ、金属槌ならあります」

 ごとり、とクルティカが槌を置いた。白銀の金属槌はどっしりと重く、いかにも高価そうだ。
「ほおおお……こりゃいい。これならひとつで100リルになる」
「足りますか?」
「足りんね。あと100リルいるな。マントと革長靴で30として、残り70リルは身体で払ってもらおうか?」
「か……からだ!? もうしわけない、おれはいたって不調法で、何もできず……できでき……」

 ぶああああっとクルティカの顔が赤くなった。昨夜の赤毛の女を思い出したのだ。たっぷりした乳房、しなやかな腰、そして赤い唇……。
 おたおたするクルティカを尻目に、宿主は奥に向かって叫んだ。

「おーい、屋根の修理と水くみと薪割りをする男手が見つかったぞ! 70リルっていうんなら、1カ月はタダ働きしてもらわなきゃ……ん? んんんん!??」

 宿主は突然、目を大きくして金属槌を見つめはじめた。もじゃもじゃの白い眉毛が寄り、よったかと思うと反対側に離れた。

「おい、その革筒の中身も見せろ!」
「え? ああ、はい……気を付けてください。この槍穂はとても鋭く研磨されていますから……」

 しかし宿主は槍穂には見向きもしなかった。かわりに3つに分解されている槍柄を見ている。

「そんじょそこらの槍じゃない……分解式の柄……銀の輪がはめてある……輪に刻印が」
「ああ、そうかもしれないです。だってこれは――」

 クルティカがそこまでいったとき、でっぷりと太った宿主がいきなりとびかかってきた。

「うわ、何するんです!?」
「お前ら、盗賊だな! 女ともうひとりは先に逃げたんだろう!?」
「盗賊!? おれたちは盗賊をとらえることはあっても、盗むなんて!」
「嘘をつくな、これを見ろ!」

 宿主はぐい、と槍の柄をクルティカの顔に突きつけた。

「この銀輪に、カラスの刻印があるのが見えるか」
「あ……はあ」
「このカラスの刻印はな、おそれおおくも王都の筆頭騎士団、蒼天騎士団の所有物という印だ」
「ああ、そうでしょうね。確かリデルが寮の武具室から……わわわっ! マントをつかまないでください、中身が、でるっ!」

 クルティカのぼろぼろのマントの中でリデル龍がじたばたと暴れている。あまり長い間マントにくるまれているので苦しくなってきたらしい。
 大あわてでマントをつかみ、宿主に言う。

「すいません、とにかくその金属槌で勘弁してください! あとは1カ月、薪割りでも何でもやりますから……」
「冗談じゃない! 騎士団から武器を盗むやつを信用できるか!?
 いいか、騎士団はな、わしらを悪龍や外敵から守ってくれる大事な人たちなんだ!
 それをおまえ、武器を盗みだした? いいいいったい、どうやって……蒼天騎士は、ホツェル最強なのに」

 宿主は興奮のあまり、クルティカの首をぎゅうぎゅうとしめはじめた。一般人の首絞めなど、ちょっと体をずらせばゆるめられる。まったくこたえないが、そんなことよりマントのなかのリデルが気になる。
 あまり放っておくと、また火でも吐くかもしれない……。 
 
「すまん、勘弁してくれ!」

 クルティカは指一本で、宿主の締め落としをはずし、くるっと体を入れ替えて後ろも見ずに走りはじめた。

「こら、この泥棒!」
「蒼天騎士団のものは、蒼天へ返しておいてください! アデム団長に渡せば、それなりの金をくれるはずですから……!」
「なにいいい! 気やすく『アデム団長』などというな! ……『うるわしのアデム』団長は……史上最強の騎士……美人だしのう……」

 しだいに遠ざかる宿主の声をききながら、クルティカは初夏のホツェル街道を走りに走った。
 街道筋を少し離れ、人目の少ない草原に入ったあたりでリデル龍をマントから放つ。

「ぷっぱあああ! なんだよ、あのオッサン? 武器が騎士団のものだってわかった瞬間から、目の色を変えちゃって?」
「熱狂的な騎士団……好きだ……時々いるんだ、ああいう人が……とくにアデム団長には」
「ああ、『うるわしのアデム』。あの団長は美人だもんねえ」

 リデル龍がのんきにパタパタとクルティカの肩に乗る。

「おい、自分で飛べよ」
「意外と疲れるんだよ、飛ぶって。きみの肩に止まっているほうが、らく」
「はあ……とにかく、またこれで無一文の宿なしだな」
「フン。昨日キスくらいすればよかったんだよ。それで宿代くらいは払ってもらえただろ?」
「……おまえ、みてたのか……」

 ぶんぶん、と余計な羽根音を立ててリデル龍が飛んでいく。

「その気になれば早く飛べるじゃないか!」
「きこえないもーーーん」

 夏の気配がただよう朝のホツェル街道を、小さな龍と騎士が入っていく。
 おっと、『元』騎士と、癒し手だった。
 そして白灰色のホツェル街道に、軽快な影がふたつ走っていく。『西の町城』へ向かって。

 少なくとも、一歩ずつ、一歩ずつ……。
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