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第4章「『二頭のクマ亭~ クマとシカ!?』」
第38話「『西の町城』 門前にて」
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(UnsplashのChristina Spoererが撮影)
「うっひゃああ、すごいねえ……」
『西の町城』に入るための南門のまえで、小さな龍リデルは、口を開けて行き交う人を眺めていた。
王都から西に向かうホツェル街道の終点、『西の町城(にしのまちしろ)』は王国の西端にあり、広大なテハ河に面している。
町城は王都と同じく、ぐるりと高い防御塀に囲まれ、壁のなかには城主の館や住人の家がぎっしりと立ち並んでいる。商店、工房、食堂や酒場、宿などさまざまな職業の人々であふれている。
とくに『西の町城』には港があり、向こう岸が見えないほどの大河であるテハ河から次々と船が到着する。辺境や隣国からの荷物が絶え間なく入っては出ていくという一大都市だ。
もちろん荷物とともに人間も、異文化も大量に出入りする。
『西の町城』は巨大な交易都市なのだ。
「王都では見たことがない衣装の人も多いよ。顔つきも体つきも全然違う……かかる病も違うのかなあ」
魔法で龍に変えられたと言っても、リデルは癒し手だ。多民族に対する興味は尽きないようだ。クルティカのマントの下に隠れつつ、飽きずに人々を観察している。
「すごい町城だね、入ってみたいね――中に」
「入れれば、な」
むうっとした顔でクルティカが答えた。
薄よごれた旅姿は一歩まちがえば、あやしい流浪の民のような風体だ。
マントはほつれ破れてぼろぼろ。この2日ろくに食べていないので、目が落ちくぼんで悲壮な影を落としている。リデルのほうは途中で虫や小さなトカゲを捕まえて食べていたので、それほど悲壮でもないが。
それでもクルティカの170タールを超える長身と堂々とした身ごなしは人目を引いた。さすが、最年少で騎士になった男だ。背中には途中で拾った枝を削って作った長棒を負っている。長さは約150タール。
常の男には振り回すことも難しいほどの長さだ。
「さあ、クルティカ、やろうよ」
リデルの言葉に、クルティカはため息をついた。
「しかたない。やるか」
クルティカはくるくるとマントを脱いで足元に置いた。リデルは咽喉いっぱいに息を吸い込み、小さな炎を吐きながら大声で叫び始めた。
「はーい、はいはい! 街道をお行きの皆さま!
寄ってらっしゃい見てらっしゃい。ここにいるのは人語をしゃべるカッコいい龍、リデルと、王都イチの武道者、ティッカー・クルゥ様だ!
ティッカーは宙に浮いたものすべて、手にしたの長棒で迅雷のごとく突き落とす!
その速さ、まさに疾風。
お疑いなら、お手持ちのパンや果物、干魚、焼き菓子などを投げてみて下さい。
……えーと、ほかに何が食べたい、クルティカ?」
「干し肉っ」
短く答えてから、クルティカはブンっと長棒を振った。腰を落として型どおりに構える。
両足はがっちりと大地に食い込み、腰はなだらかに落ちて俊敏に動き出せる形になっている。上半身の力は抜けて、持った長棒は重さ10ギラ以上。重さと長さだけでが十分に武器となる。それが筆頭騎士団、蒼天の騎士たるゆえんだ。
すぐれた心映えに、剣士としての高い技量。ともに持ち合わせているのが、騎士なのだ。
舞踊の名手のようなクルティカの構えに、道行く旅人がおもわず足を止めた。
次第に人が集まるのを見て、リデルはザベトの実をするどい歯でくわえて、クルティカに投げた。
その間も人々を煽るように叫び続ける。
「ほーらほらほら。見てよ見て見て! まだ食べられるザベトの実だよ、ああくそ、もったいない! ほんとは投げずに食べたいくらいだよううう!」
客寄せのせりふだが、後半は空腹のリデルの正直な叫びだ。どっと笑いが起きる。
リデルは名残りおしそうに、小さな赤い果物を次々と中空に投げ上げる。
「さあさあ、見てよ! 一瞬だから見逃さないで!」
「……はッ!!」
クルティカの気合とともに、直径1タールもない小さな小さなザベトの実が四つ、長棒で弾き飛ばされた。
ほおおおおっ、と群衆から声が漏れる。そこへ畳みかけるようにリデルが声を張り上げた。
「さあさあ、この王都イチの技を試してみたくないか!?
なんでもいいです、投げてみて――まあ、なるべく食べられるものがいいけどね……
あと、小さな龍のリデルちゃんへのご供物も受け付けていまーす!」
リデルの声が途切れた時、シュッ! と観客の中から物が投げられた。
とっさにクルティカの長棒が反応する。
「ふぬんっ!」
棒全体の長さを考え抜き、身体と完璧に同期させてクルティカが動いた。
投げられた大きなものの中心をみごとに射ぬく。
「おありがとうござーい……わあああ、干し肉の塊だああああ!」
がぶり、とリデル龍が吹っ飛んでいく肉に食らいついた。観客から笑いが起き、続いてさまざまな食べ物が投げ込まれた。
大きな干魚。
パンのカタマリ。
干したメタゼの実。
「おありがとうございますー! ありがとうううう!!」
干し肉の塊をマントの上に置いたリデル龍が、飛び交いながら投げ込まれたものを受け取っていく。
その速さは、クルティカの長棒に劣らない。半分ほどが、瞬時にリデルの口に吸い込まれていくが……。
クルティカはすべてのものを叩き落すとふたたび棒を構えた。
そこへ……。
背後からすさまじい速さで何か重量のあるものがとんできた。
クルティカはとっさに、死角からの飛来物を叩き落す。……と。いきなり、モノが叫んだ。
「あっぶねえなあ……いきなりどつくなよ。後ろにも眼があんのかね?」
「……仔グマっ!?」
「はあい、『西の町城』の人気者、かっこいい仔グマちゃん、バイ・ベアの登場だぞっ!」
しゅたっ! とクルティカの長棒から逃れて華麗な着地を決めたのは……金茶色のモフモフだ。
仔熊のヌイグルミ。
ホツェル街道で出会った謎の美少女、大男をつれた仔グマだった。
クルティカはすばやく槍をかまえ直し、
「おまえっ! ロウ=レイをどこにやった!?」
そうだ、まずあの沸騰派幼なじみの行方を知らねばならない……。
「うっひゃああ、すごいねえ……」
『西の町城』に入るための南門のまえで、小さな龍リデルは、口を開けて行き交う人を眺めていた。
王都から西に向かうホツェル街道の終点、『西の町城(にしのまちしろ)』は王国の西端にあり、広大なテハ河に面している。
町城は王都と同じく、ぐるりと高い防御塀に囲まれ、壁のなかには城主の館や住人の家がぎっしりと立ち並んでいる。商店、工房、食堂や酒場、宿などさまざまな職業の人々であふれている。
とくに『西の町城』には港があり、向こう岸が見えないほどの大河であるテハ河から次々と船が到着する。辺境や隣国からの荷物が絶え間なく入っては出ていくという一大都市だ。
もちろん荷物とともに人間も、異文化も大量に出入りする。
『西の町城』は巨大な交易都市なのだ。
「王都では見たことがない衣装の人も多いよ。顔つきも体つきも全然違う……かかる病も違うのかなあ」
魔法で龍に変えられたと言っても、リデルは癒し手だ。多民族に対する興味は尽きないようだ。クルティカのマントの下に隠れつつ、飽きずに人々を観察している。
「すごい町城だね、入ってみたいね――中に」
「入れれば、な」
むうっとした顔でクルティカが答えた。
薄よごれた旅姿は一歩まちがえば、あやしい流浪の民のような風体だ。
マントはほつれ破れてぼろぼろ。この2日ろくに食べていないので、目が落ちくぼんで悲壮な影を落としている。リデルのほうは途中で虫や小さなトカゲを捕まえて食べていたので、それほど悲壮でもないが。
それでもクルティカの170タールを超える長身と堂々とした身ごなしは人目を引いた。さすが、最年少で騎士になった男だ。背中には途中で拾った枝を削って作った長棒を負っている。長さは約150タール。
常の男には振り回すことも難しいほどの長さだ。
「さあ、クルティカ、やろうよ」
リデルの言葉に、クルティカはため息をついた。
「しかたない。やるか」
クルティカはくるくるとマントを脱いで足元に置いた。リデルは咽喉いっぱいに息を吸い込み、小さな炎を吐きながら大声で叫び始めた。
「はーい、はいはい! 街道をお行きの皆さま!
寄ってらっしゃい見てらっしゃい。ここにいるのは人語をしゃべるカッコいい龍、リデルと、王都イチの武道者、ティッカー・クルゥ様だ!
ティッカーは宙に浮いたものすべて、手にしたの長棒で迅雷のごとく突き落とす!
その速さ、まさに疾風。
お疑いなら、お手持ちのパンや果物、干魚、焼き菓子などを投げてみて下さい。
……えーと、ほかに何が食べたい、クルティカ?」
「干し肉っ」
短く答えてから、クルティカはブンっと長棒を振った。腰を落として型どおりに構える。
両足はがっちりと大地に食い込み、腰はなだらかに落ちて俊敏に動き出せる形になっている。上半身の力は抜けて、持った長棒は重さ10ギラ以上。重さと長さだけでが十分に武器となる。それが筆頭騎士団、蒼天の騎士たるゆえんだ。
すぐれた心映えに、剣士としての高い技量。ともに持ち合わせているのが、騎士なのだ。
舞踊の名手のようなクルティカの構えに、道行く旅人がおもわず足を止めた。
次第に人が集まるのを見て、リデルはザベトの実をするどい歯でくわえて、クルティカに投げた。
その間も人々を煽るように叫び続ける。
「ほーらほらほら。見てよ見て見て! まだ食べられるザベトの実だよ、ああくそ、もったいない! ほんとは投げずに食べたいくらいだよううう!」
客寄せのせりふだが、後半は空腹のリデルの正直な叫びだ。どっと笑いが起きる。
リデルは名残りおしそうに、小さな赤い果物を次々と中空に投げ上げる。
「さあさあ、見てよ! 一瞬だから見逃さないで!」
「……はッ!!」
クルティカの気合とともに、直径1タールもない小さな小さなザベトの実が四つ、長棒で弾き飛ばされた。
ほおおおおっ、と群衆から声が漏れる。そこへ畳みかけるようにリデルが声を張り上げた。
「さあさあ、この王都イチの技を試してみたくないか!?
なんでもいいです、投げてみて――まあ、なるべく食べられるものがいいけどね……
あと、小さな龍のリデルちゃんへのご供物も受け付けていまーす!」
リデルの声が途切れた時、シュッ! と観客の中から物が投げられた。
とっさにクルティカの長棒が反応する。
「ふぬんっ!」
棒全体の長さを考え抜き、身体と完璧に同期させてクルティカが動いた。
投げられた大きなものの中心をみごとに射ぬく。
「おありがとうござーい……わあああ、干し肉の塊だああああ!」
がぶり、とリデル龍が吹っ飛んでいく肉に食らいついた。観客から笑いが起き、続いてさまざまな食べ物が投げ込まれた。
大きな干魚。
パンのカタマリ。
干したメタゼの実。
「おありがとうございますー! ありがとうううう!!」
干し肉の塊をマントの上に置いたリデル龍が、飛び交いながら投げ込まれたものを受け取っていく。
その速さは、クルティカの長棒に劣らない。半分ほどが、瞬時にリデルの口に吸い込まれていくが……。
クルティカはすべてのものを叩き落すとふたたび棒を構えた。
そこへ……。
背後からすさまじい速さで何か重量のあるものがとんできた。
クルティカはとっさに、死角からの飛来物を叩き落す。……と。いきなり、モノが叫んだ。
「あっぶねえなあ……いきなりどつくなよ。後ろにも眼があんのかね?」
「……仔グマっ!?」
「はあい、『西の町城』の人気者、かっこいい仔グマちゃん、バイ・ベアの登場だぞっ!」
しゅたっ! とクルティカの長棒から逃れて華麗な着地を決めたのは……金茶色のモフモフだ。
仔熊のヌイグルミ。
ホツェル街道で出会った謎の美少女、大男をつれた仔グマだった。
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