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第4章「『二頭のクマ亭~ クマとシカ!?』」
第40話「そういうことみたいよ、クルティカ」
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(UnsplashのAndre Sebastianが撮影)
「ロウ=レイがどこにいるかって? お前、後ろにも眼があるんじゃなかったのかよ?」
モフモフの仔グマは、鋭い爪でカツンとクルティカの長棒をはじいた。
「……ふっ!?」
クルティカの指先に、びりびりという波動が伝わった。全身がたわむほどの衝撃だ。
たかが爪ではじいただけで、この衝撃……いったいこの仔グマ、なにものだ?
ごくり、唾を飲んだとき仔グマの顔が『木』に変わった。
正確には、木の盆に変化したのだ。
「うぎゃおうううう! こういうものは、投げるなと……おしえてあるだろうが、シシド……くそロウ!」
「だって、いつまでも戻ってこないバイ・ベアが悪いだもの。それにしても、こんなところで何をやっているのよ、クルティカ?」
「ロウっ!?」
そこには白いシャツに空色のスカートをはいた町娘のようなロウ=レイが立っていた。横には、愛らしい金と銀の瞳をもった少女がじっとクルティカをみつめている。
ぱちりとした瞳は右が金、左が銀色に煙っている。見たこともないような美しさだ。
だが、その眼の奥に何か引っかかるものがある……しっかりと見ようとしたとき、ごつん! と少女が頭突きしてきた。
「痛っ!」
「おそい」
「は?」
「くるのが、おそかった」
少女はツンと口をとがらせて言った。
ロウ=レイも言い添える。
「そうよ。あんたとリデルがちっとも到着しないから、毎日シシドちゃんと南門の前で待っていたのよ」
「そうなのか……すまなかったな。なにしろ路銀がなかったものだから」
「路銀がなかった? だからあんな大道芸をやっていたの?」
クルティカがうなずく。となりでリデル龍もバタバタを翼をはためかせた。
「そうだよう、大変だったんだから、ロウちゃんがいなくなってから」
「……その声、リデル? リデルなの!? いったいどうして龍になんかなっちゃったの?」
ロウ=レイが驚いてリデルを見る。リデルは得意げにそっくり返り、
「まあ、いろいろ事情があって。なにしろ途中の宿でクルティカが赤毛の美人と……」
「リデル、だまれ」
「ああ、うん。そうだね、あの美人の事は内緒だよね。そうだよねえええ……」
「美人がどうしたんですって、クルティカ?」
「なんでもない」
「それよりお腹が空いたよ。ロウちゃん、お金持ってない? 何か食べたいんだよ!!」
ここでロウ=レイと小さな少女は顔を見合わせた。
「へんよね……だって路銀は、ニキシカさまがふたりぶんを残していったはずだけど」
「おいてた、ニキシカが」
今度はクルティカとリデルは顔を見合わす。
「お金なんてなかったよ?」
「間違いじゃないか、ロウ?」
しかしロウ=レイは茶色の巻き毛をぶんぶん振りながら、
「ニキ様がそういったんだもの。絶対に嘘をつかない人よ」
「だれだよ、さっきから。ニキ、ニキって……あっ、あのデカブツか!」
クルティカの脳裏に、天をもあざむく美貌の男が浮かんだ。
あの細身の男は、たしか『ニキ』と呼ばれていた。
しかしなぜロウ=レイがあの男について、これほど親しげに言うのか……。
むっとするクルティカの横でリデルがつぶやいた。
「……そう言えばあのとき、誰かが地面に革袋みたいなものを置いたような……」
「それよ」
「だけど、すぐになくなったような」
「なくなった!?」
ロウ=レイと『シシドちゃん』と呼ばれた、金と銀の瞳を持つ少女が同時に叫んだ。
リデルが続ける。
「そうそう。クルティカが倒れているうちに、このモフモフ仔グマちゃんがすぐに戻ってきて、ひょいひょい歩き回っているうちに無くなったような……」
「……そう言えば、おととい、妓楼の女が『二頭のクマ亭』に来たわね?」
「たまった支払いを取りに来た。マスター、すぐに払ってた」
「余分なお金なんか、ぜったいにないのにね」
「あっても、ニキシカが渡さない」
こくり、こくりとロウ=レイと少女は顔を合わせてうなずいた。
「そういうことみたいよ、クルティカ」
「どういうことだよっ!?」
クルティカは思わず叫んだ。
「なんなんだよ、この仔グマは!? なんでこいつが、おれたちの旅費をかっぱらっていったんだ?」
「まあまあ落ち着いて、クルティカ」
少し見ないうちに、ほほがふっくらしてきたロウ=レイはにこりと笑った。
「バイ・ベアは仔グマで、この町城の港通りにある酒場『二頭のクマ亭』の持ち主なの」
「まあな」
仔グマはいばって言った。
いばれる部分は、一言もなかったと思うが……、
それにしても……外見は金茶色のモフモフで、『西の町城』に酒場を持っていて、中身はおっさん?
なんだ、いったいあの仔グマは。
そしてクルティカは、いったい何に巻き込まれようとしているのか……。
それにしても本当に、あの赤毛美人のことがロウ=レイにばれなくてよかった。
アレコレ、ヤっちゃったからな。
いや、おれの純潔に問題があるわけじゃあないが……。
クルティカは内心の動揺をおしかくし、一行とともにようやく『西の町城』の南門をくぐっていった。
「ロウ=レイがどこにいるかって? お前、後ろにも眼があるんじゃなかったのかよ?」
モフモフの仔グマは、鋭い爪でカツンとクルティカの長棒をはじいた。
「……ふっ!?」
クルティカの指先に、びりびりという波動が伝わった。全身がたわむほどの衝撃だ。
たかが爪ではじいただけで、この衝撃……いったいこの仔グマ、なにものだ?
ごくり、唾を飲んだとき仔グマの顔が『木』に変わった。
正確には、木の盆に変化したのだ。
「うぎゃおうううう! こういうものは、投げるなと……おしえてあるだろうが、シシド……くそロウ!」
「だって、いつまでも戻ってこないバイ・ベアが悪いだもの。それにしても、こんなところで何をやっているのよ、クルティカ?」
「ロウっ!?」
そこには白いシャツに空色のスカートをはいた町娘のようなロウ=レイが立っていた。横には、愛らしい金と銀の瞳をもった少女がじっとクルティカをみつめている。
ぱちりとした瞳は右が金、左が銀色に煙っている。見たこともないような美しさだ。
だが、その眼の奥に何か引っかかるものがある……しっかりと見ようとしたとき、ごつん! と少女が頭突きしてきた。
「痛っ!」
「おそい」
「は?」
「くるのが、おそかった」
少女はツンと口をとがらせて言った。
ロウ=レイも言い添える。
「そうよ。あんたとリデルがちっとも到着しないから、毎日シシドちゃんと南門の前で待っていたのよ」
「そうなのか……すまなかったな。なにしろ路銀がなかったものだから」
「路銀がなかった? だからあんな大道芸をやっていたの?」
クルティカがうなずく。となりでリデル龍もバタバタを翼をはためかせた。
「そうだよう、大変だったんだから、ロウちゃんがいなくなってから」
「……その声、リデル? リデルなの!? いったいどうして龍になんかなっちゃったの?」
ロウ=レイが驚いてリデルを見る。リデルは得意げにそっくり返り、
「まあ、いろいろ事情があって。なにしろ途中の宿でクルティカが赤毛の美人と……」
「リデル、だまれ」
「ああ、うん。そうだね、あの美人の事は内緒だよね。そうだよねえええ……」
「美人がどうしたんですって、クルティカ?」
「なんでもない」
「それよりお腹が空いたよ。ロウちゃん、お金持ってない? 何か食べたいんだよ!!」
ここでロウ=レイと小さな少女は顔を見合わせた。
「へんよね……だって路銀は、ニキシカさまがふたりぶんを残していったはずだけど」
「おいてた、ニキシカが」
今度はクルティカとリデルは顔を見合わす。
「お金なんてなかったよ?」
「間違いじゃないか、ロウ?」
しかしロウ=レイは茶色の巻き毛をぶんぶん振りながら、
「ニキ様がそういったんだもの。絶対に嘘をつかない人よ」
「だれだよ、さっきから。ニキ、ニキって……あっ、あのデカブツか!」
クルティカの脳裏に、天をもあざむく美貌の男が浮かんだ。
あの細身の男は、たしか『ニキ』と呼ばれていた。
しかしなぜロウ=レイがあの男について、これほど親しげに言うのか……。
むっとするクルティカの横でリデルがつぶやいた。
「……そう言えばあのとき、誰かが地面に革袋みたいなものを置いたような……」
「それよ」
「だけど、すぐになくなったような」
「なくなった!?」
ロウ=レイと『シシドちゃん』と呼ばれた、金と銀の瞳を持つ少女が同時に叫んだ。
リデルが続ける。
「そうそう。クルティカが倒れているうちに、このモフモフ仔グマちゃんがすぐに戻ってきて、ひょいひょい歩き回っているうちに無くなったような……」
「……そう言えば、おととい、妓楼の女が『二頭のクマ亭』に来たわね?」
「たまった支払いを取りに来た。マスター、すぐに払ってた」
「余分なお金なんか、ぜったいにないのにね」
「あっても、ニキシカが渡さない」
こくり、こくりとロウ=レイと少女は顔を合わせてうなずいた。
「そういうことみたいよ、クルティカ」
「どういうことだよっ!?」
クルティカは思わず叫んだ。
「なんなんだよ、この仔グマは!? なんでこいつが、おれたちの旅費をかっぱらっていったんだ?」
「まあまあ落ち着いて、クルティカ」
少し見ないうちに、ほほがふっくらしてきたロウ=レイはにこりと笑った。
「バイ・ベアは仔グマで、この町城の港通りにある酒場『二頭のクマ亭』の持ち主なの」
「まあな」
仔グマはいばって言った。
いばれる部分は、一言もなかったと思うが……、
それにしても……外見は金茶色のモフモフで、『西の町城』に酒場を持っていて、中身はおっさん?
なんだ、いったいあの仔グマは。
そしてクルティカは、いったい何に巻き込まれようとしているのか……。
それにしても本当に、あの赤毛美人のことがロウ=レイにばれなくてよかった。
アレコレ、ヤっちゃったからな。
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