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第7章「騎士籍、復活!」
第73話「クズ辺境伯を、迎え撃て!」
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(Unsplashのhiva sharifiが撮影)
「……それで、これはいったい、どういう事なんです?」
ホツェル街道の中ほど、宿屋『青猪(あおいのしし)』の二階で
食事を出してもらいつつ、ロウ=レイは、アデム団長に尋ねた。
部屋のすみには、麗々しく飾り剣をかかげた男が直立不動している。
いちおう、衛兵のつもりか……。
真っ白な布にくるまれたアデムは、椅子に座って小さくため息をついた。
「どうもこうも……3日前に大ガラス様と王都を出て、ここまで来たところで
傷がひらいて、落ちたのよ……」
「そこは、聞きましたけどね」
ロウ=レイはじろりと、小さく変身している大ガラスをにらんだ。
「なぜ、落ちたアデム様をもう一度たすけに戻らなかったんですか、大ガラス様??」
大ガラスはすました顔で、用意させた干し果物と木の実の食事をぱくついている。
「重傷のアデム様を、街道にほっといて先に行くなんて」
「それは、私が先に行くように、頼んだのだよ、ロウ」
「えっ?」
アデムの言葉に、ロウは目を見張った。
純白のイモムシ、アデムはゆるゆると手を振り、
「まずは『西の町城』へ異変を伝える必要があったのだ」
「……西の町城へ……なぜです、アデム様?」
ばさり、と漆黒の羽音がした。
「辺境伯を、ここで食い止める必要があるから。そうですね、アデム?」
「はい」
アデムは考え込みながら答えた。
「私を襲ったのは、辺境伯の手のものです。手練れだった……
たかが10人を、この私が倒しきれなかったほどの猛者だった。
おまけにトーヴ姫までさらわれる始末」
「さらわれた? トーヴ姫は、婚儀式のために『西の町城』へ向かっているのでしょう?」
ロウが不思議そうに尋ねると、アデムはきっぱりと、
「いや、あれはさらわれたのだよ、ロウ。
たしかに婚儀式のために旅をする必要はあった。しかし出発は10日ほど後の予定で、
荷造りも従者の準備も、予定通りにすすめられていた。
それを、私が襲われた翌朝、何かに追われるように突然、辺境伯が出発した。
婚約者であるトーヴ姫を連れていくのはともかく、
その父であり、自分が所属するはずの黄雲騎士団のジャバ団長を放り捨ててまで、
さきに出発する必要はなかったはずだ」
「なぜ、それほど急いで……」
「ケネス王の怒りを、おそれたのでひょう」
大ガラス様はモシャモシャと木の実をつつきながら言った。
「アデムを襲った一群は、なみの者どもではなかった。
王宮の警備軍が本気で探りはじめたら、すぐに身元が割れるような連中です。
今はもう、正体がわかっているかもしれないですね。
そこから辺境伯までたどり着くのは、すぐです。
……ケネスは、今、怒り狂っている。
辺境伯をとらえたら、一刀で半分に断ち割るでしょう」
「はあ……ケネス陛下が……」
ロウ=レイはあっけにとられる。
常に冷静沈着、慈しみ深いホツェル王国のケネス王が、辺境伯を断ち割るところなんて
想像できなかったのだ。
大ガラスは器用に干し果物を飲み込んで、奇妙な声で笑った。
「まったく、男というのは愚かなものですよ。
自分が何を望んでいるのか、全然わかっていない。
大事なものを失う事態におちいるまで、自分の望みを認めないのですからね」
「大ガラス様、それはもう――」
アデムは純白のサナギに顎をうずめて、面倒そうに言った。
「その話は、今は置いておきましょう。大事なのはこれからです。
ロウ=レイが来たとは言え、こちらには戦力が足りない……。
私の右肩はまだ傷が癒えていません。
いつものように動けるわけではない。
この状況で、連中を相手にするのは、厳しいでしょう……」
「れんちゅう? だれのことです?」
ロウ=レイの問いに、アデムは黒玉石の瞳を光らせて答えた。
「……辺境伯と、彼に従う黒衣の男どもだ。私を襲った連中。
辺境伯の手先となっている、北方のモネイ族だ」
「モネイ族!?」
ロウが叫ぶ。部屋のすみにいた男がびくりと身体を立て直した。
どうも居眠りをしていたらしい……仕方がない、もとはパン屋か肉屋の男だ。
ロウはかすかに声をひそめて、
「あの黒衣の男どもは、モネイ族なんですか?」
「まちがいない。先代の辺境伯は、モネイ族と手を組んでいた。
うわさでは、現・辺境伯、ザロどのの母親はモネイの女らしい。
関わりが、深いのだ」
「モネイは不思議な技を使います。強いです。
あたしも『西の町城』で戦いました。
歯が立たなかった……クルティカでさえ、苦戦していました……」
「そうだ……モネイ族はわれら王都の騎士が知らぬ技を使う。
正統派の騎士では苦しい戦いになる。
とはいえ、このままトーヴ姫をさらっていくのを、
指をくわえて見ているわけにいかない。
だからこうして、待っているのだ」
「……待っている……何をですか、アデム様?」
じじっ、と獣脂の明かりが風に揺れた。
ほの明るさの中、真っ白な布にくるまれた元騎士団長は言った。
「三日前、王都をあわてて出発した辺境伯の一行は、まだ街道の途中だ。
理由は分らんが、旅程が遅れているらしい……。
ちょうどいい。
ここで、辺境伯の一群を迎え撃つのだ そしてトーヴ姫を奪還する……!」
「……アデム様、なんだかやけに、トーヴ姫の奪還にこだわっていますね?」
ロウの問いに、大ガラスは、ケケケッ、という奇妙な笑い声を立てた。
「アデム、まだあきらめていないのですか?」
「なに、なにを? 大ガラス様?」
「いいですか、ロウ=レイ。
アデムは、 トーヴ姫をケネス王の妃にしようと企んでいるのです。
あのバカな男が、おまえ恋しさに狂ったようになっているのを知りながら
まだ、清浄な妃をあてがおうとしている。
人間とはなんとまあ、何と愚かなものよ」
ケケケッ! ともう一度笑った時、大ガラスの動きが止まった。
「ケ……ケケケヘエエゥッ!!」
「大ガラス様、まさか、毒が!?」
「ケヘエエッ!!」
おろおろするロウ=レイを尻目に、アデムは立ちあがり
あっさりと大ガラスの足をつかんだ。
ひっくり返して振り回す。
「アデム様、いったい何を!?」
「けへえええっ!?」
ぽんっ! と大ガラスののどに詰まっていた木の実が転がり落ちた。
「けへっ……らんぼうすぎる……アデム」
「わが積年の宿願をあざ笑うから、天罰が当たったのでしょう」
やわらかな光の下、すっくりと立ったアデムは、ロウ=レイを見た。
「ともかく、近々、辺境伯の一行はホツェル街道を通過するはずです。
トーヴ姫を奪取するためには、われらだけで一行を迎え撃たねばならん。
蒼天騎士、ロウ=レイ。
わが配下の『親衛隊』を訓練し、戦いにそなえよ!」
「……はっ! ……って、
アレを訓練するんですか、アデムさま!?」
ロウは部屋のすみを見た。
ふだんは肉屋だか羊飼い高をしている男は、もう座り込んですやすやと寝息を立てていた。
……えらいものをしょい込んでしまったようだ……。
「……それで、これはいったい、どういう事なんです?」
ホツェル街道の中ほど、宿屋『青猪(あおいのしし)』の二階で
食事を出してもらいつつ、ロウ=レイは、アデム団長に尋ねた。
部屋のすみには、麗々しく飾り剣をかかげた男が直立不動している。
いちおう、衛兵のつもりか……。
真っ白な布にくるまれたアデムは、椅子に座って小さくため息をついた。
「どうもこうも……3日前に大ガラス様と王都を出て、ここまで来たところで
傷がひらいて、落ちたのよ……」
「そこは、聞きましたけどね」
ロウ=レイはじろりと、小さく変身している大ガラスをにらんだ。
「なぜ、落ちたアデム様をもう一度たすけに戻らなかったんですか、大ガラス様??」
大ガラスはすました顔で、用意させた干し果物と木の実の食事をぱくついている。
「重傷のアデム様を、街道にほっといて先に行くなんて」
「それは、私が先に行くように、頼んだのだよ、ロウ」
「えっ?」
アデムの言葉に、ロウは目を見張った。
純白のイモムシ、アデムはゆるゆると手を振り、
「まずは『西の町城』へ異変を伝える必要があったのだ」
「……西の町城へ……なぜです、アデム様?」
ばさり、と漆黒の羽音がした。
「辺境伯を、ここで食い止める必要があるから。そうですね、アデム?」
「はい」
アデムは考え込みながら答えた。
「私を襲ったのは、辺境伯の手のものです。手練れだった……
たかが10人を、この私が倒しきれなかったほどの猛者だった。
おまけにトーヴ姫までさらわれる始末」
「さらわれた? トーヴ姫は、婚儀式のために『西の町城』へ向かっているのでしょう?」
ロウが不思議そうに尋ねると、アデムはきっぱりと、
「いや、あれはさらわれたのだよ、ロウ。
たしかに婚儀式のために旅をする必要はあった。しかし出発は10日ほど後の予定で、
荷造りも従者の準備も、予定通りにすすめられていた。
それを、私が襲われた翌朝、何かに追われるように突然、辺境伯が出発した。
婚約者であるトーヴ姫を連れていくのはともかく、
その父であり、自分が所属するはずの黄雲騎士団のジャバ団長を放り捨ててまで、
さきに出発する必要はなかったはずだ」
「なぜ、それほど急いで……」
「ケネス王の怒りを、おそれたのでひょう」
大ガラス様はモシャモシャと木の実をつつきながら言った。
「アデムを襲った一群は、なみの者どもではなかった。
王宮の警備軍が本気で探りはじめたら、すぐに身元が割れるような連中です。
今はもう、正体がわかっているかもしれないですね。
そこから辺境伯までたどり着くのは、すぐです。
……ケネスは、今、怒り狂っている。
辺境伯をとらえたら、一刀で半分に断ち割るでしょう」
「はあ……ケネス陛下が……」
ロウ=レイはあっけにとられる。
常に冷静沈着、慈しみ深いホツェル王国のケネス王が、辺境伯を断ち割るところなんて
想像できなかったのだ。
大ガラスは器用に干し果物を飲み込んで、奇妙な声で笑った。
「まったく、男というのは愚かなものですよ。
自分が何を望んでいるのか、全然わかっていない。
大事なものを失う事態におちいるまで、自分の望みを認めないのですからね」
「大ガラス様、それはもう――」
アデムは純白のサナギに顎をうずめて、面倒そうに言った。
「その話は、今は置いておきましょう。大事なのはこれからです。
ロウ=レイが来たとは言え、こちらには戦力が足りない……。
私の右肩はまだ傷が癒えていません。
いつものように動けるわけではない。
この状況で、連中を相手にするのは、厳しいでしょう……」
「れんちゅう? だれのことです?」
ロウ=レイの問いに、アデムは黒玉石の瞳を光らせて答えた。
「……辺境伯と、彼に従う黒衣の男どもだ。私を襲った連中。
辺境伯の手先となっている、北方のモネイ族だ」
「モネイ族!?」
ロウが叫ぶ。部屋のすみにいた男がびくりと身体を立て直した。
どうも居眠りをしていたらしい……仕方がない、もとはパン屋か肉屋の男だ。
ロウはかすかに声をひそめて、
「あの黒衣の男どもは、モネイ族なんですか?」
「まちがいない。先代の辺境伯は、モネイ族と手を組んでいた。
うわさでは、現・辺境伯、ザロどのの母親はモネイの女らしい。
関わりが、深いのだ」
「モネイは不思議な技を使います。強いです。
あたしも『西の町城』で戦いました。
歯が立たなかった……クルティカでさえ、苦戦していました……」
「そうだ……モネイ族はわれら王都の騎士が知らぬ技を使う。
正統派の騎士では苦しい戦いになる。
とはいえ、このままトーヴ姫をさらっていくのを、
指をくわえて見ているわけにいかない。
だからこうして、待っているのだ」
「……待っている……何をですか、アデム様?」
じじっ、と獣脂の明かりが風に揺れた。
ほの明るさの中、真っ白な布にくるまれた元騎士団長は言った。
「三日前、王都をあわてて出発した辺境伯の一行は、まだ街道の途中だ。
理由は分らんが、旅程が遅れているらしい……。
ちょうどいい。
ここで、辺境伯の一群を迎え撃つのだ そしてトーヴ姫を奪還する……!」
「……アデム様、なんだかやけに、トーヴ姫の奪還にこだわっていますね?」
ロウの問いに、大ガラスは、ケケケッ、という奇妙な笑い声を立てた。
「アデム、まだあきらめていないのですか?」
「なに、なにを? 大ガラス様?」
「いいですか、ロウ=レイ。
アデムは、 トーヴ姫をケネス王の妃にしようと企んでいるのです。
あのバカな男が、おまえ恋しさに狂ったようになっているのを知りながら
まだ、清浄な妃をあてがおうとしている。
人間とはなんとまあ、何と愚かなものよ」
ケケケッ! ともう一度笑った時、大ガラスの動きが止まった。
「ケ……ケケケヘエエゥッ!!」
「大ガラス様、まさか、毒が!?」
「ケヘエエッ!!」
おろおろするロウ=レイを尻目に、アデムは立ちあがり
あっさりと大ガラスの足をつかんだ。
ひっくり返して振り回す。
「アデム様、いったい何を!?」
「けへえええっ!?」
ぽんっ! と大ガラスののどに詰まっていた木の実が転がり落ちた。
「けへっ……らんぼうすぎる……アデム」
「わが積年の宿願をあざ笑うから、天罰が当たったのでしょう」
やわらかな光の下、すっくりと立ったアデムは、ロウ=レイを見た。
「ともかく、近々、辺境伯の一行はホツェル街道を通過するはずです。
トーヴ姫を奪取するためには、われらだけで一行を迎え撃たねばならん。
蒼天騎士、ロウ=レイ。
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