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第7章「騎士籍、復活!」
第76話「金と銀の両目」
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(UnsplashのWylly Suhendraが撮影)
「なに……なんだったの、あれ……。あの『目』はたしかに……」
ロウ=レイは雨の上がったホツェル街道に立ち尽くしていた。
そこへ、宿「青猪」のあるじが、駆け寄ってくる。
「ねえちゃん、大丈夫かい!? あんた、俺たちをかばって、へんな雨に打たれただろ??」
「あの呪文は、なんなの……?」
「呪文? そんなもん、聞こえなかったが」
『青猪』のあるじは、すっかり晴れ渡った空を見あげた。もはや黒雲の気配すらない。
「なんだったのかねえ、あれ? なあ、ねえちゃん。悪かったよ。
あんたも一生懸命やってるんだ。俺たちも『アデム親衛隊』として特訓しなきゃな」
「えっ、訓練、続けてもいいの?」
ロウ=レイが目を見張ると、『青猪』のあるじにつづいて、他の男たちも集まってきた。
「さっきのねえちゃん、かっこよかったっけねえ」
「『蒼天騎士は、つねに雲の上にあるべし!』ってなあ。さすが騎士だなあ」
「俺らも騎士になれっかな?」
「むりだんべ。騎士になるにはガキのころから特訓を受けねば、なんね」
「……いいえ」
ロウ=レイは、いつしか自分を取り巻いている男たちに向かって、きっぱりと言った。
「騎士とは、訓練でなるものはない。特訓で得られるものでもない。
誰かを、何かを守ろうと決心して、戦う者を『騎士』と呼ぶんです!」
おおおおお、とどよめきが立った。
「ねえちゃん……かっこいいのう」
「騎士だ、騎士だ。そったら、わしらも、騎士になれるんべ」
「やっぱり蒼天騎士がいいなあ。黄雲騎士団より、緑雨騎士団より、
やっぱり、蒼天だなあ」
「あ、いや、その……まあ、蒼天騎士は、むずかしいかな……」
ロウ=レイがごにょごにょとつぶやいたとき、背後から鮮やかな声が聞こえた。
「そうです! ロウ=レイの言うとおり!
騎士とは、誰かを守るもの。身を捨てて、何かを守ろうとした瞬間から、
あなた方にも騎士の資格があるのです!」
「アデム様!?」
ふりむくと、純白の布(どうも巨大な包帯だったらしい)を脱ぎ捨てたアデムが
軽い革胴だけの姿で立っていた。
右肩にはまだ分厚い包帯が巻かれたままだが、その姿はすでにりりしく、
美しく、
しなやかに強かった。
「特訓を続けて、ロウ=レイ。わが親衛隊は多少の特訓には、ひるまぬはず」
「そうです、そうです アデム様!」
「俺たちは『うるわしのアデム』親衛隊だ!!」
大騒ぎのなか、アデムはかすかにうなずいた。
「訓練を、ロウ=レイ。思っていたよりも、備えるための時間が少ないかもしれない」
「アデム様?」
「大ガラス様から連絡が入りました。辺境伯の一行は、ここからわずか2日の距離に、いるらしい」
ざわ、とロウ=レイの胸がざわめいた。
「……ザロさまが、きてる……あと2日の距離……」
「相手を甘く見るな、ロウ。辺境伯ひとりならともかく手練れのモネイ族がついている。
手ごわいぞ、あの連中は」
こくり、とロウはうなずいた。
黒衣の男どもの強さは、身に染みている。
『西の町城』でやられたときは、ろくな攻撃もできず、防戦一方だった。
たとえその時のロウ=レイが戦えない少女、
シシドをかばっていたとしても、惨憺たる結果だった。
そのモネイ族を、今度はロウ=レイと手負いのアデム、
急ごしらえの『アデム親衛隊』で迎え撃たねばならない……。
ぶるっ、とロウ=レイの身体がふるえた。隣に立つアデムが、あでやかに笑った。
「こわいか、ロウ?」
「……まさか、武者ぶるいってやつですよ、アデム様」
ロウがニヤリと笑うと、アデムも笑った。
「心強いな」
「アデム様が一緒ですからね」
「それと、あの連中だな……」
アデムはにこやかに笑って、『親衛隊』へ行った。
「諸君、ごくろうです! 特訓は厳しいでしょうが、ロウは私の腹心です。
わが身と同じと思って、訓練に耐えてください。
そうだな、『親衛隊』の銘を作っておきましょうか」
わああ、と20人の男たちが歓声を上げた。
アデムの美貌が、蒼天に輝く。
「『剣を取れ。剣先に希望を。鍔(つば)には双頭の龍の守護を』
どうかな?」
「かっこええね! ええがね、それ! さすが親衛隊だな!」
「『剣を取れ。剣先に希望を。鍔(つば)には双頭の龍の守護を』!」
「『うるわしのアデム親衛隊』!」
アデムは手を天へ突き上げた。
男たちも同様に、バラバラに手を突き上げる。
普段はパンをこねている手、酒を売っている手、羊を育てている手……。
だがいま、彼らはまぎれもなく、ひとつのものでつながっていた。
『うるわしのアデム親衛隊』。
王都を追われた、もと騎士団長と、王命により廃騎士となったロウ=レイのもとへ
無償で集まってきた男たちだ。
アデムを守るために作られた親衛隊。
それはどんな精鋭騎士団よりも、輝かしく見えた。
ぐっ、と手を握りしめて、ロウも叫んだ。
「『剣を取れ。剣先に希望を。鍔(つば)には双頭の龍の守護を』!」
「『剣を取れ。剣先に希望を。鍔(つば)には双頭の龍の守護を』!!」
アデムとロウ=レイ、親衛隊の手が、青く澄んだ空へ向かって突き上げられた。
ロウ=レイは叫ぶ。
「さあ、特訓よ!」
「おうううう!!」
「なに……なんだったの、あれ……。あの『目』はたしかに……」
ロウ=レイは雨の上がったホツェル街道に立ち尽くしていた。
そこへ、宿「青猪」のあるじが、駆け寄ってくる。
「ねえちゃん、大丈夫かい!? あんた、俺たちをかばって、へんな雨に打たれただろ??」
「あの呪文は、なんなの……?」
「呪文? そんなもん、聞こえなかったが」
『青猪』のあるじは、すっかり晴れ渡った空を見あげた。もはや黒雲の気配すらない。
「なんだったのかねえ、あれ? なあ、ねえちゃん。悪かったよ。
あんたも一生懸命やってるんだ。俺たちも『アデム親衛隊』として特訓しなきゃな」
「えっ、訓練、続けてもいいの?」
ロウ=レイが目を見張ると、『青猪』のあるじにつづいて、他の男たちも集まってきた。
「さっきのねえちゃん、かっこよかったっけねえ」
「『蒼天騎士は、つねに雲の上にあるべし!』ってなあ。さすが騎士だなあ」
「俺らも騎士になれっかな?」
「むりだんべ。騎士になるにはガキのころから特訓を受けねば、なんね」
「……いいえ」
ロウ=レイは、いつしか自分を取り巻いている男たちに向かって、きっぱりと言った。
「騎士とは、訓練でなるものはない。特訓で得られるものでもない。
誰かを、何かを守ろうと決心して、戦う者を『騎士』と呼ぶんです!」
おおおおお、とどよめきが立った。
「ねえちゃん……かっこいいのう」
「騎士だ、騎士だ。そったら、わしらも、騎士になれるんべ」
「やっぱり蒼天騎士がいいなあ。黄雲騎士団より、緑雨騎士団より、
やっぱり、蒼天だなあ」
「あ、いや、その……まあ、蒼天騎士は、むずかしいかな……」
ロウ=レイがごにょごにょとつぶやいたとき、背後から鮮やかな声が聞こえた。
「そうです! ロウ=レイの言うとおり!
騎士とは、誰かを守るもの。身を捨てて、何かを守ろうとした瞬間から、
あなた方にも騎士の資格があるのです!」
「アデム様!?」
ふりむくと、純白の布(どうも巨大な包帯だったらしい)を脱ぎ捨てたアデムが
軽い革胴だけの姿で立っていた。
右肩にはまだ分厚い包帯が巻かれたままだが、その姿はすでにりりしく、
美しく、
しなやかに強かった。
「特訓を続けて、ロウ=レイ。わが親衛隊は多少の特訓には、ひるまぬはず」
「そうです、そうです アデム様!」
「俺たちは『うるわしのアデム』親衛隊だ!!」
大騒ぎのなか、アデムはかすかにうなずいた。
「訓練を、ロウ=レイ。思っていたよりも、備えるための時間が少ないかもしれない」
「アデム様?」
「大ガラス様から連絡が入りました。辺境伯の一行は、ここからわずか2日の距離に、いるらしい」
ざわ、とロウ=レイの胸がざわめいた。
「……ザロさまが、きてる……あと2日の距離……」
「相手を甘く見るな、ロウ。辺境伯ひとりならともかく手練れのモネイ族がついている。
手ごわいぞ、あの連中は」
こくり、とロウはうなずいた。
黒衣の男どもの強さは、身に染みている。
『西の町城』でやられたときは、ろくな攻撃もできず、防戦一方だった。
たとえその時のロウ=レイが戦えない少女、
シシドをかばっていたとしても、惨憺たる結果だった。
そのモネイ族を、今度はロウ=レイと手負いのアデム、
急ごしらえの『アデム親衛隊』で迎え撃たねばならない……。
ぶるっ、とロウ=レイの身体がふるえた。隣に立つアデムが、あでやかに笑った。
「こわいか、ロウ?」
「……まさか、武者ぶるいってやつですよ、アデム様」
ロウがニヤリと笑うと、アデムも笑った。
「心強いな」
「アデム様が一緒ですからね」
「それと、あの連中だな……」
アデムはにこやかに笑って、『親衛隊』へ行った。
「諸君、ごくろうです! 特訓は厳しいでしょうが、ロウは私の腹心です。
わが身と同じと思って、訓練に耐えてください。
そうだな、『親衛隊』の銘を作っておきましょうか」
わああ、と20人の男たちが歓声を上げた。
アデムの美貌が、蒼天に輝く。
「『剣を取れ。剣先に希望を。鍔(つば)には双頭の龍の守護を』
どうかな?」
「かっこええね! ええがね、それ! さすが親衛隊だな!」
「『剣を取れ。剣先に希望を。鍔(つば)には双頭の龍の守護を』!」
「『うるわしのアデム親衛隊』!」
アデムは手を天へ突き上げた。
男たちも同様に、バラバラに手を突き上げる。
普段はパンをこねている手、酒を売っている手、羊を育てている手……。
だがいま、彼らはまぎれもなく、ひとつのものでつながっていた。
『うるわしのアデム親衛隊』。
王都を追われた、もと騎士団長と、王命により廃騎士となったロウ=レイのもとへ
無償で集まってきた男たちだ。
アデムを守るために作られた親衛隊。
それはどんな精鋭騎士団よりも、輝かしく見えた。
ぐっ、と手を握りしめて、ロウも叫んだ。
「『剣を取れ。剣先に希望を。鍔(つば)には双頭の龍の守護を』!」
「『剣を取れ。剣先に希望を。鍔(つば)には双頭の龍の守護を』!!」
アデムとロウ=レイ、親衛隊の手が、青く澄んだ空へ向かって突き上げられた。
ロウ=レイは叫ぶ。
「さあ、特訓よ!」
「おうううう!!」
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