「おれの姫は美少女剣士、ただし『突発性・沸騰派』」 随時更新してます💛

中野 翠陽(なかの みはる)

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第7章「騎士籍、復活!」

第78話「モネイの道」

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(Unsplashのshahin khalajiが撮影)


 夜の宿『青猪(あおいのしし)』にアデムの怒号が響いた。

「おかしい、なにかがおかしい。だが理由がわからんのだ!」

 どん! とアデムは小机をたたいた。
 はずみで傷に響いたのだろう、おもわずうめいた。

「くっ! ……これではまるで、『愚者の砂金取り』だ……!」

 アデムはホツェルのことわざを口にした。
 愚か者が川面にうつった太陽の輝きを砂金と間違えて、永遠にすくい続けるという
愚かさを戒めることわざだ。

 だが、それを聞いたロウ=レイがいきなり立ち上がった。

「……『愚者の砂金取り』……きん、モネイの金!」

 叫んだかと思うと部屋のすみへ行き、荷物をがさがさとあさりだした。

「……ロウ=レイ?」
「まってください、アデムさま! 
 アレは、たしか『西の町城』から着てきた服に入れておいたはず……あった!」

 ロウ=レイは小さく光るものをもって駆け戻ってきた。

「これです! モネイ族の耳輪!」
「……ああ、モネイのものが、身に着けている耳輪だな?」
「そうです、これ、よく見て下さい」

 アデムはモネイの耳輪を明かりにかざした。

「このシルシは……辺境伯家の紋か?」
「そうです、以前ザロ伯の屋敷から、かっぱらって……じゃない、その、拝借してきました。
 ザロ伯にはモネイの血が入っているんです。たしか、母親がモネイ族だったとか」
「初耳だな……まあ、珍しい事でもなかろう。モネイ族は辺境に属しているし」

 アデムが耳輪を戻そうとするのを、ロウはとめた。

「アデム様、裏もよく見て下さい」
「うら??」

 明かりのもとで、アデムは小さな耳輪を傾けたり、ひっくり返したりして
じっくりと眺めはじめた。
 やがて、アデムの美貌がこわばった。
 耳輪に小さく数字が刻印されているのを見つけたのだ。

「……これは数字……通貨単位か?」
「そうです。この耳輪は、モネイ族の身元をあらわすだけでなく、
 辺境伯の領地内では、お金としても使われているんです。
 ホツェルのお金じゃない、まったくべつのお金です」

 アデムの顔が蒼白になった。

「……ザロ伯は、自領内でホツェル貨幣とは別の貨幣を流通させているのか……?」
「はい」
「別の貨幣を流通させるとは、独自の経済を作り上げるつもりか!」
「はい。それもかなりの部分まで出来上がっています。
 この耳輪はすでに辺境では、貨幣です。
 ホツェルのリル貨幣にとって代わろうとしているんです!」

 じろり、とアデムは厳しい目でロウ=レイを見た。

「……ロウ。お前、かなりくわしいな?」

 ロウは少しだけ肩をすくめた。

「……すみません、アデム様、あの……」
「いいたいことがあるなら、早く言え」
「その……あの……これはぜったいに内緒だって、国王陛下が……」
「ケネスが!?」

 アデムと大ガラスは同時に叫んだ。

「すいません……ぜったいに言っちゃダメって、陛下から言われているんですけど
 あたし、国王陛下の密命で辺境伯に近づいたんです……情報を取ってくるようにって」
「情報?」

 さすがの大ガラスもあっけにとられている。
 だが、そこへアデムが冷静に言った。

「ザロ伯が、『辺境の独立』を企んでいる、ということを探りとるよう命じられたな。
 ちがうか、ロウ=レイ?」


 ロウ=レイは観念したように目を閉じて、うなずいた。


「……はい、その通りです。すいません、アデム様」

 ほう、とアデムは息を吐いた。
 ぐったりと体を椅子にまかせる。

「おかしいと、思っていた。たしかにお前は惚れっぽいが、バカではないと思っていた。
 それが、あの女たらしで有名な辺境伯にまいっている、と聞いたときから
 何かが奇妙だと感じていた。
 ……そう……辺境独立の動きに、ケネスは気づいていたのね」

 ロウ=レイはますます小さくなり、

「はい。密偵として誰を送り込むか、陛下もずいぶん考えたらしいんですけど、
 他の女騎士では、作戦がバレるからって」
「お前の惚れっぽさは、王都でも有名だからな……。だが、それだけではあるまい」

 アデムは体を起こして、

「ザロは、ホツェルからの独立を企むほどのバカさかげんだ。
 いざとなったら、どんなことをやらかすか、底がしれん。
 だからこそ、何が起きても、自分の安全を確保できる女騎士を選んだわけだ。

 そうだろう、ロウ?」

「あたしが一番、使いやすかったんです、陛下にとっては」

 大ガラスは、ほんの少し首をかしげた。

「それで、ジャバはどうなる? 
 『六月祭り』の前にケネスはトーヴの婚約について知っていたのであろ?
 ジャバから申し届けがあったはずゆえ……。

 では、ジャバはどっち側だ?
 辺境伯にひとり娘をやるとは、つまり、辺境伯派かのう?」

「……さあ、そこまではわかりません。
 あの婚約はあたしにとっても、突然でした」

「では、あの『六月祭り』の騒ぎは、お前が勝手にしたことか?」
 
 アデムが問うと、ロウは、正直に顔を赤くした。

「あの、あれはその、すみません、カッとなりまして……」
「半分は、本物の恋だったわけか。かわいいところがあるのう、ロウ」

 大ガラスはケケケッと笑い声を立てた。
 だがその隣で、アデムは沈み込むように考えている。

「では、陛下は今、辺境伯だけでなくジャバも斃すつもりで追っているかもしれない。
 辺境伯も危険は十分わかっている……。
 それなのに、このノロノロ旅程は一体どういうこと?
 まるで、遠回とおまわりの時間稼ぎをしているかのようではないか……」 

 そのとき、ロウ=レイがひゅっと息を飲んだ。

「……遠まわり? アデム様、それです!!」
「なに?」
「モネイ族は、ホツェル街道とは別の道を持っていると聞きました!
 けもの道のような……モネイ族以外では通れないが『西の町城』まで、
 たった3日で移動できる道です!
 辺境へ移動するときには、その道を通って『西の町城』の港から船で移動するそうです。
 今も、その道を通っているのでは?」
「モネイの道か……しかし、だとしたら、今ここへ向かっているのは何者だ?」

 アデムがそう言った時、階下から大声がした。


「親衛隊長どのぉ、アデム様! 旅の一行のかがり火が、遠くに見えたって事ですぜ!」
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