「おれの姫は美少女剣士、ただし『突発性・沸騰派』」 随時更新してます💛

中野 翠陽(なかの みはる)

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第7章「騎士籍、復活!」

第83話「妃の願い」

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 ロウが必死にレイピアをかまえた時、背後で、ざしゃっという足音がした。 
 辺境伯の一行だろう。
 二人のモネイ族を先行させ、アデムを間違いなく殺害するための援軍が到着したようだ。

 モネイの小男がひらりと跳躍して短剣をふりかぶる。
 短い刃ではあるがロウを刺し貫き、その後に気を失っているアデムの心臓に突き立てるには十分な鋭利さがある。

「きけけけっ! とどめだ!」
「……もうだめっ、ごめんなさいアデム団長!!」

 ぐったりと気を失ったアデムを抱え、ロウは身を固めた。きたるべき衝撃にそなえる。
 死の一撃を受けるために……。

 だが、刃は落ちてこなかった。

「……あれ?」

 おそるおそ目を開けたロウは、床に立つ革長靴から順々に上を見ていった。

 双頭の龍が縫い取りされた特別な革靴。
 薄い鋼で作られた脛あて。ここにも繊細な刻印がされている。それも、見慣れた双頭の龍の紋章が……。

 ホツェル王国で、この紋章を身に着けることができるのはただ一人。
 国王だけだ。

「あ……ケネス陛下……?」

 顔を上げたロウ=レイは口を開けたまま、つぶやいた。
 ケネス王はロウの前から跳ね上げた短剣を床から抜き取る。同時に、王の背後にいた騎士たちが一気に部屋になだれ込んだ。
 蒼天の青と純白の裏を持つ、蒼天騎士団のマントが粗末な宿の2階にあふれた。

「どうして……蒼天騎士団が……それに、陛下……?」
「『どうして』だと?」

 低い男の声がした。わずかに笑いさえ含んでいるような、余裕のある声だ。
 かつて、内乱の王国を腹心の騎士たちと駆けめぐり、ようやくホツェルに平和をもたらした男の声。

 ケネス。ホツェルの王。

「わが配下の騎士どもが危険な目にあっているのに、うかうかと王都にいられるか。
 それ以上に……」

 と、ケネス王はじろりとモネイの小男をにらみつけた。小男はすでに蒼天騎士たちに捕らえられ、指一本動かせない状態で床に伏せている。
 ケネスはぎらり、と剣を突き付けた。

「モネイの言い分を聞く用意はあるがな。ただし、おのれらの所業は断じて許さん」


 双頭の龍を縫いとった胴衣と革鎧を身に着けたケネス王は、ゆったりとしゃがみこみ、諸刃の剣でぴたぴたと小男の顔を叩いた。
 かすかに剣の刃が、顔に食い入る。
 すうっと薄い血の筋が男の頬を流れ落ちた。

「我が妃を、一度ならず二度までも手にかけるとは。八つ裂きにされても文句は言えぬぞ」
「く……っ、やるならやれ! われらモネイ族、独立のために死ぬなら悔いはない!」

 小男は床に踏み伏せられながらも、豪気に言い放った。だが、ケネスの黒い瞳は、すでに怒りでもえあがっている。

「モネイの独立とラーレを襲ったことは話が別だ。よし、望みをかなえてやる!」

 王の手にはアデムの佩剣。
 宝玉を柄に埋め込んだ剣が、すらりと上段に構えられた。

「陛下っ、おまちを!」
「ロウ=レイ、おまえがついていながら、再び襲撃をゆるすとはなんという失態だ!」
「申し訳ありません、ですけど、あの、アデム様がっ!」

 ロウの腕の中で、蒼白な顔をしたアデムがささやいた。

「……へいか……ここでモネイを殺してはなりません……くにが、みだれる」
「ラーレ。ホツェル一国とお前の命、俺にとっては比べものにならん。
 国はまた、立て直せる。
 だがお前を失ったあと、ひとりで生きる意味が俺にあると思うか?」
「なりません。それに、モネイなら、この毒の解毒方法をしっているかもしれません」

 ぴく、とケネス王の手が止まった。アデムが続ける。

「国王は、無用な殺生をせぬものです」
「お前を害するものは、べつだ」
「このモネイは、生かしてください……妃の願いひとつくらい、かなえてくれてもいいでしょう」
「……いったな。『妃の願い』と言ったな、ラーレ? よし!」

 ケネス王はニヤリと笑った。だが、手にした剣を一気に振り下ろす。

「ケネス陛下っ!!」

 ロウが叫ぶ。
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