ヒーロー・オブ・ケプラー

天川 銀河

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第2章

第21話 すれ違い

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 合格が決まった翌日。
 レイのもとに、再び電話がかかってきた。
 恒一からのものだと思って電話を取ったレイは、スマホの画面を見て固まった。

「ソラネ……」

 日向ソラネ。
 レイとともに、黎明を受験した幼馴染。
 実技試験会場は別だったものの、受験番号は連番だった。
 彼女の受験番号は744番。

 ――そしてその番号は、合格者一覧の中にはなかった。

「もしもし?」
「……もしもし」

 ソラネの声は、これまでに聞いたことのないくらいに暗かった。
 電話越しでもわかる、今の彼女の心持ち。
 レイは、ソラネが次に口を開くその時を待った。

「……、落ちちゃったね」
「――」

 その言葉に、レイは言葉を失った。
 「私たち」というソラネの言い回し。

 レイの受験番号も、合格者一覧にはなかった。
 それを見て、ソラネは電話をかけてきた。
 当然、ソラネはレイも不合格だったと思い込んでいるのだ。

「あの、ソラネ……」
「私、実技試験の成績は悪くなかったんだよ。
 でも、筆記試験の方でそれを帳消しにしちゃって」
「――」

 言い出すタイミングが見つからない。
 というか、この状況で言い出せるはずもない。

「聞いたよ、レイ。プログラムエラーが出て暴走したアンドロイドを一人で止めたんだってね。
 それで、その後意識を失って、その後続いた実技試験でポイントを稼げなかったって」
「……」
「……お互い、恵まれなかったね」

 スマホを握る手が、プルプルと震える。
 言うべきか、否か。
 実は特別な観点の対象となって、自分は合格が決まったと。
 もしここで言ってしまえば、ソラネは怒るかもしれない。
 怒り狂って、泣き喚いて、最悪切られてしまうかもしれない。

 電話も、縁も。

 しかし、ここで言わなければずっと引きずることになる。
 隠し通そうとして後々バレたりすれば、それこそソラネは怒ってしまうだろう。

 口を開いては、閉じる。
 心の中の二人のレイが、互いに気持ちを相殺し合っている。

「レイは、これからどうするの?」
「……これから?」
「落ちちゃったなら、このままだと中卒になっちゃうでしょ。
 せめて高校は出とかないとじゃん?」
「――」
「私、他のヒーロー科高校から推薦もらえたんだ。
 黎明から漏れた生徒の中でも見込みがあるって判断された生徒は、他のヒーロー科高校からのスカウトを受ければそこに行けるんだって。
 レイは、そういう声ってかかったりした?」

 ソラネの声色が、少し明るくなった。
 同じ境遇の人間が身近にいるという事実が、自分を安心させる材料になっているのだろう。

 レイはスマホを握りしめ、意を決した。

「ソラネ。僕、黎明の入学決まったんだよ」
「――え?」

 思いもよらなかったレイの言葉に、ソラネは耳を疑った。

「昨日、ハウリング・ジェットから電話がかかってきてさ。
 確かに僕は全然ポイントは足りなかったけど、特別な観点で見た先生方が協議した結果、ギリギリ三十六位で食い込めるポイントになったんだ」
「――」

 こうなることは、薄々わかっていた。
 ソラネは、数十秒ほど何も言わずに黙っていた。
 レイはその間、口を開くことなく次の言葉を考えていた。

 もういっそ、切ってしまいたい。
 そうすれば、今のこのどうしようもなく気まずい空気から脱することはできる。

 しかし、お互いに切ろうとしなかった。
 レイもソラネも、言葉を探しているのだ。

「そう、なんだ……」
「……ソラネ――」
「――おめでとう」

 最終的にソラネが辿り着いた言葉は、祝福の言葉だった。
 レイもまたこの返答は予想だにおらず、少し動揺してしまった。

「確かに、実技が始まる前にいくつか観点があるって言ってたね。ヒーローとしての素質を見る、とかなんとか。
 あの銀髪の女の子を助けるために、自分のことなんて気にせずに動いたんでしょ?
 そういうのが、やっぱり先生たちに気に入られたってことなんだろうね」
「……」
「――やっぱり、君はすごいよ」

 震える声で、ソラネはそう言った。
 レイはベッドに座ったまま、その言葉を受け取って目を伏せた。

「私、実は見てたんだ。――見たことないおじいさんと、鍛錬を積んでるところ」
「……えっ?」
「あんなに地味な権能しか持たなかった君が、たった七ヶ月であそこまで権能を使いこなせるようになるなんて。私、びっくりしちゃったよ。
 ……それでまさか、私が置いていかれるなんてね」
「――」

 ソラネは自嘲げに笑いながら、レイに問いかけるようにそう言った。

「うさぎとかめの話、小さい頃から大好きでね。お母さんによく、『うさぎにはなっちゃダメだよ』って言い聞かせられてたんだ」
「――」
「……でもっ、結局なっちゃったよ……!」
「ソラネ……」

 そう、名前を呼ぶことしかできなかった。
 今は、何を言ってもソラネを貶める言葉へと変わってしまいそうだから。

「親がどっちもすごい権能者だからさっ……!
 きっと、上手く行くって思い込んでたのっ……!
 レイから『負けない』って言われたときも、高い所で安心してたんだと思う。
 もちろん努力はしてきたし、全力は出した。でも、君は私が思ってたよりもずっと速いスピードで登ってきてた。それで、あっという間に抜かされてっ……!」
「……」
「私、何してるんだろうねっ……!」

 口を挟むのが、怖い。
 レイは唇を噛み締めて、ただ聞くだけしかできない。

「ごめんっ……。私からかけておいてこんなこと言うのはおかしいけど」
「……うん」
「――今日はこれ以上、話せそうにないや」

 レイが何も言えないで黙り込んでいるまま、通話は切れた。
 光っている画面が、レイの目にはやけに寂れて映った。
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