ヒーロー・オブ・ケプラー

天川 銀河

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第2章

第24話 三つの「再会」

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 静まり返った教室。
 目の前で激しい攻防を繰り広げていたミナトと圧《アツシ》もまた、二人そろってレイの方を見た。

 不思議な生き物を見るかのような眼差しでレイを見つめるクラスメイトたち。

 どういうわけか、水がポタポタと垂れている男子。
 茶色の髪が目にかかっていて、下を向いている暗い男子。
 銀色の長い髪の毛をなびかせて、こちらを向いた女子――。

「あっ――!」
「あなた……!?」

 目を見開いて、ずかずかと歩み寄ってくる。
 レイはなぜか、背筋が凍るような感覚に襲われた。

 目の前まで来て、立ち止まった少女。
 レイは固唾を飲んで、その様子を見つめる。

「――ありがとう、星野くん」
「……はい?」
「『はい……?』じゃないわよ! 暴走したアンドロイドから助け出そうとしてくれたでしょ。
 忘れたの?」
「いや、忘れてはないですけど……。僕の方こそ、ありがとうございました。
 あなたですよね、落ちていく僕を助けたの」
「まあ、あれは助けてもらったお礼みたいなものよ。勘違いしないでよね」
「は、はぁ……」

(勘違いってなんだ……?)

 妙な言い回しに疑問を抱き、レイは困惑の声を漏らす。
 周りは二人の様子に、未だ静寂を貫いたままである。

「……セツナ」
「?」
「氷室セツナ、私の名前。試験前に約束したでしょ?
 ――どっちも合格出来たら、名前を教えるって」
「あ、あぁ! 言ってましたね!」

 レイはそう言って、ポンと手を叩く。

「あと、敬語はやめてちょうだい。仮にもこれから三年間同じクラスで生活するんだから、よそよそしい態度で接して来ないで。
 ……もう友達なんだから」
「はい」
「もう敬語になってるじゃない!」
「『はい』って敬語なんですか!?」
「どう考えてもそうでしょ!?」

 少し照れ臭そうに話したセツナに、レイはとっさに返事をした。
 セツナはプイッと振り返って、席に戻っていった。

 レイは扉を閉めて、自分の席へ向かう。
 その途中で、ミナトと目が合った。
 うるさい動きで説教をしている圧を完全に無視し、ミナトはじっとレイの方を見ている。

 二人が顔を合わせるのは、卒業式の日以来。
 あの、最悪の日以来である。

 ミナトは舌打ちをして、レイから目を逸らした。

 レイは複雑な気持ちになりながら、自分の席に向かった。

「……って、あなた隣の席なのね……」
「よ、よろしく」
「ええ、よろしく」

 レイがぎこちなくそう言うと、セツナは少しだけ頬をほころばせた。
 そして、セツナから差し出された手を握り、握手を交わした。

 透明感の塊のようなその顔と肌に、レイは赤面した。

(……なんか、やけに視線を感じるな)

 はっきりと視線を固定せず、俯瞰してクラスを見たレイ。
 前から三番目の席であるレイは、主に両脇からの視線を強く感じた。

「今日、授業あると思うか?」
「どうだろう。オリエンテーションだけじゃないかな?」

 黒く逆立った髪の毛の男子の声に、橙色のショートボブの女子が答える。
 その他にも、入学初日にしてはクラス内は賑わっている。

 レイは、意味もなく一点を見つめる。
 その頭の中では、様々な思考が張り巡らされている。

 一番の懸念は、今後のミナトとの関わり方である。

 まさか、同じクラスになってしまうとは思わなかった。
 まして、黎明のヒーロー科はクラス替えがないと聞いた。
 つまり、これから三年間ミナトと同じ学び舎の下で生活をすることを強いられる。

 別に、レイはミナトに対して特段敵意を持っているわけではない。
 むしろ、敵意をむき出しにしているのはミナトのみだ。
 ……まあ、その理由がかなり尾を引いているわけなのだが。

「――い。――おい!」
「はいっ!?」
「大丈夫かい、星野くん」

 バッと顔を上げると、目と鼻の先にメガネをつけたたくましい顔があった。

「て、鐵山《てつやま》くん……。みっちゃんとは、もう決着がついたの?」
「みっちゃん、っていうのは?」
「ほら、さっき口論してたあの子だよ。
 僕の小さい頃からの幼馴染の、村雲ミナトっていうんだ」
「なるほど」

 レイの言葉に、メガネをクイっと上げた圧。
 その様子を見たミナトは、

「おいコラァ! 俺がいねェところで俺の名前出すんじゃねェクソカス!」
「……とまあ、あれが平常運転だから気にしないで」
「わかった。ありがとう」
「なァにボソボソ話してやがんだァ!」

 怒鳴り散らすミナトを横目に、レイは圧に耳打ちをする。
 それを見たミナトはさらに激怒し、机を強く叩いて立ち上がった。

 賑やかだった教室内の空気は凍り付き、ひそひそというささやき声で満たされた。
 ミナトはまた舌打ちをして、頭を激しく掻きながら座った。

「君は確か、星野くんが助けたあの女の子だったよな。
 初めまして。英知中学から来た、鐵山圧という。よろしく」
「あなたね、失礼よ。私は確かに助けられたけど、星野くんを助けた側でもあるんだから」
「あっ、そうか。すまない。悪気はないんだ」
「……まあいいわ。私は氷室セツナ。三年間よろしくね」

 自分の失言に申し訳なさそうに頭を下げた圧に、セツナは淡々と挨拶を済ませた。
 そして続々と、レイの周りにクラスメイトたちが集まってきた。
 否、正確にはレイではなく、セツナの周りに。

(すごい美人さんだし、そりゃ人気出るよな……)

 そう思った途端、レイの心臓が跳ねた。
 席に座ったとき、レイはセツナと握手を交わした。

 自らの右手を見つめながら、

(のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!)

 星野レイ、十五歳。
 異性の手を握るのは、十年ぶり二度目の快挙であった。

「――――はーい、席着けよぉ」

 賑わうクラスに、低い声とともに男が入ってきた。
 チリチリと他方向に散っている髪の毛。
 寝不足なのか、隈《くま》が目立つその顔。

 そして首元には、二匹の蛇。

「どうした。席に着け」

 ――ヒーロー名、《スネークヘッド》。
 白銀蛇堂が、教卓の前に立っていた。
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