ヒーロー・オブ・ケプラー

天川 銀河

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第2章

第27話 黎明式体力テスト

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 そして間もなく、一種目めの《反応走》が始まった。
 順番と組み合わせは、蛇堂がどこからともなく取り出したくじによって決められた。

 レイは最後の八組目となり、セツナと同じ組だった。

「またあなたと同じ……」
「何で嫌そうなの!?」
「別に嫌じゃないわよ。ここまで被ることってあるのかって思っただけ」

 それにしては、ため息が深かった。
 そう思ったレイは、他の者たちが集まっている場所で一組目の三人を見ることにした。
 セツナもその後に続き、レイの隣でその様子を見守り始めた。

(何でついてくるんだ……!?)

 偶然の巡りあわせもあるが、セツナは常にレイの隣にいる。
 ふわっと香るセツナの香りが、レイの中の煩悩に直接語りかけてくる。

「一組目。
 ――燐堂カナタ、水城みずきハル、鋼崎こうざきイオ」

 蛇堂が三人の名前を呼ぶと、二人の男子と一人の女子が前に出た。

(燐堂くんって、さっきのクールな子か……)

 白く短い髪に、片目が隠れている男子生徒、燐堂カナタ。
 水が滴り落ちている男子生徒、水城ハル。
 人間からは聞こえるはずのないカシャカシャという音とともに前に出た女子生徒、鋼崎イオ。

 その三人が、スタート地点に立った。

「一応言っとくが、権能を使うか使わないかは本人に任せる。
 使わなくてもいい記録が出せるってヤツは使わなくてもいいが、まあそんなヤツはいないだろう」

 冗談交じりにそう言った蛇堂に、一同は苦笑する。
 手応えの薄さに蛇堂も苦笑いを浮かべ、そして、

「――用意、スタート!」

 振り返り、唐突にテストは始まった。
 かと思われたが――、

「と言ったら始まるので」
「……フェイントか」

 駆け出したカナタはそう呟き、スタート地点に戻る。
 が、とっさに再び前を向いた。

(何してるんだ、燐堂くん――)

 レイがそう疑問を抱いた瞬間だった。

「――もう、スタートしてるぞ」

 ニヤリと不気味な笑みを浮かべた直後、蛇堂はそう言った。
 いち早くその気配に気づいていたカナタは、両手を後ろに伸ばす。
 そしてその両手に力を集め、

「……バースト!」

 詠唱のような一言とともに、両手から青い炎を放出した。

「――炎を出して、ブーストした!?」

 レイの隣に立つセツナは、驚嘆の声を漏らす。
 その声に、全員が息をのんだ。

「僕も、負けないぞっ!」

 水に濡れた生徒・水城ハルも、負けじとそれに続く。

(――っ!?)

 レイはハルの足もとを見て、目を見開いた。

「おい、アイツ浮いてるぞ!?」
「どういうこと!?」

 口々に驚きの声をあげる一同。
 しかしレイが着眼しているところは、空中浮遊のみではない。

「――水紋?」
「水紋ってどういうことだ? 星野」
「足もとをよく見て。一歩踏み出すたびに、水面に広がる波紋みたいなものが発生してる」

 黒瀬トウマの質問に、レイはハルから目を離さないようにしながらそう答える。
 さらに、心なしかハルの走る速度は常人よりも速く見える。

 あの状態で走るときに足が速くなるのか、はたまた素の状態でも走るのは速いのか。
 どちらにせよ、スピードは目を見張るほどのものだ。

(……あれ? 鋼崎さんはどこに――?)

 二人に気を取られすぎて、もう一人の走者である鋼崎イオの存在を忘れていた。
 スタート地点からコースを見回し、視界がゴール地点に到達したその時。

(嘘、だろ?)

 レイは、自らの目を疑った。

「――鋼崎イオ、3.74。
 ――燐堂カナタ、4.26。
 ――水城ハル、5.68」

 鋼崎イオは、炎でブーストしたカナタよりも、空中を水面のようにして走っていたハルよりも、先にゴールしていたのだ。
 二着のカナタに、0.5秒もの差をつけて。

 誰もが予想だにしなかった結果に、一同は歓声を上げた。

「すげえ!」
「何か、競馬見てるみたいで面白いなこれ!」

 もはや娯楽として楽しんでいる者もいるほどに、一組目から盛り上がりを見せた。

「イオちゃん! 何の権能なの、それ!」
「あ、あっしの権能は《金属同化》っていうんだ。
 金属でできたものとなら何でも体を同化させられる」

 元気のよい緑色のショートボブの生徒がそう聞くと、イオは照れ臭そうにそう言って自らの頭を軽く掻きむしった。

「でも、このグラウンドに金属なんてなかったろ?」
「あぁ、実はあっしの手足は義足なんだ。
 で、この義足には特殊な力が施されてるんだけど……。
 あっしが力を入れると、一瞬だけ爆発的に動けるんだよ」

 イオは長袖のジャージをまくり、長いズボンの裾を手でめくりあげて見せた。
 メカメカしいその姿に、それを見ている全員が感嘆した。

「次の三人、準備しろ。時間は有限だ」

 蛇堂の催促する言葉に、駆け足で次の三人が用意を始めた。

「二組目。
 ――風祭かざまつりリリ、天音あまねユズ、朽木くちきユウ」


 ***


 一種目めの《反応走》が終了。
 最も速かったのは、特殊な義足を駆使した鋼崎イオの3.74。
 そして最も遅かったのは、九条カレンという女子生徒の8.45だった。

(順位的にはそこまで悪くない。
 今のところはだけど……)

 レイのタイムは、6.21。
 上手く波乗りを成功させ、勢いそのままにゴールイン。
 十八人の中で、ちょうど九位の成績だった。

 鐵山圧のタイムは、4.91。
 力を入れることで鋼鉄の脚に変貌する権能を使い、運動能力を大幅に上昇させた。

 セツナのタイムは、5.34。
 地面を凍らせ、その上をスケート選手のように滑った。
 「走っていないだろう」という生徒たちからの指摘があったものの、記録としては認められた。

 ミナトは、フェイントに引っかかってブチキレてしまったことで大幅に出遅れた。
 だが、雷の権能による爆発的なスピードにより、なんとか五秒台でゴールした。

「続いて、二種目めに移る」

 ――二種目め、《精密投擲《ピンポイントスロー》》。
 動き回る的にソフトボールほどの大きさのボールを三回投げ、命中させた回数に応じてポイントを得られる。
 命中させれば高い得点を得られるが、当たらなければポイントはない。

 一人目、三枝ユウキ。

「当たれぇ!」
「――」
「そいやぁ!」
「――」
「何とかなれぇ!」
「――」

 三度全て、失敗。

「明らか不利だろ、俺ぇ!
 逃げ足速いだけの権能だぞ!」
「それもまた、黎明の体力テストの特徴だ。
 自分の権能がどういう場面で本領を発揮するのか、逆にどういう場面に弱い、あるいは役に立たないか。それを再確認させるのが、このテストの目的だ」
「な、なるほどなぁ……?」

 地団駄を踏みながら抗議するユウキに、蛇堂は淡々と説明する。

「実際、三枝はさっきの《反応走》では三番目の成績だったじゃん!」
「とっても速かったですし、すごかったですわ!」
「……ま、まあ? 走るのは俺の得意分野だしぃ?」

 黄色い称賛の声に、チラチラと各女子の体を見やりながら照れるユウキ。
 冷たい目で見ている男性陣だが、蛇堂の何気ない説明でこのテストの意味を再認識した。

「二人目、星野レイ」

 レイは、この種目では二番目のくじを引いた。
 
 ゆっくりと所定の位置につき、蛇堂からボールを受け取る。
 他の種目で足を引っ張る可能性を加味して、ここで一度だけでも命中させる。
 それを目標にして、レイはこの種目に挑む。

 レイは目を閉じて、深呼吸をする。

「頑張れよ、星野くん!」

 圧からの応援の声を聞き、レイはそれを元気に変えた。

 ボールを持つ手に、力を込める。
 水がしみ出し、そして――、

「ボールを、水で押し出しただと……」

 カナタはレイの権能を見て、目を見張る。
 その横で、ミナトもその様子を見つめている。

 レイは手のひらを上に向け、噴き上げる水でボールを操作している。
 その光景に、クラスメイトたちはざわついている。

「……あれ?」
「投げないのか?」

 そのざわつきは、意味を変えて大きくなっていく。

(この状態から、どうやって前に押し出せばいいんだ……?)

 レイは水に浮かんで揺れているボールを見つめながら、固まってしまった。

(このままボールを前に押し出して、コントロールができるか?
 いや、無理だろ。止まってる的ならまだ勢いで押し出せば当たるけど、的は動いてる。
 コントロールしようとすれば、水の量が足りなくて落ちるだろ……)

 レイは、全速力で思考を巡らせる。
 そして辿り着いた結論は、

「……水が、止まったぞ?」

 レイは、手のひらから噴き出す水を止めた。
 そして的をじっと見始めた。

 確かに的は、動いている。
 レイの視界の範囲内で、グルグルと動いている。

 ――不規則では、ないのだ。

「……っ!」

 レイはボールを、そのまま投げた。
 的の動きを予測して、投擲されたボールと的が重なり合う場所を予測し――、

「――」
「……外、れた」

 投げた、つもりだった。
 だが、現実はそう上手くは行かない。

 レイは「くそっ……!」と呟き、拳を握りしめる。

「二投目。さっさと投げろよぉ、星野。時間は有限だって、何度も言わせるな」
「すっ、すみません」

 レイは二投目のボールを受け取り、また位置についた。


 ***


 そして、八種目全てが終了した。

 レイは、真っ青な顔で下を向いていた。

 結局、《精密投擲》では結果を残せなかった。
 さらにその後の種目は、レイの懸念通りになってしまった。

 全ての種目で、思うような結果を残せなかった。
 ――軒並み、下位に沈んだのだ。

「ひとまず、全員お疲れさん。
 手っ取り早く、結果だけ映し出すぞ」

 蛇堂は眠気まじりの声でそう言って、手首につけている腕時計のようなものからテスト結果を投影した。

「うおっ! 俺五位だ!」
「私、八位!」
「っぶねー! 十四位だ!」

 レイは、上から探そうとはしなかった。
 下からも、探そうとはしない。

 探すまでもなく、

「十八位……」

 最下位という結果に、終わってしまった。

(地獄の補習……。何となくこうなるような気はしてたけど――)

「あ、ちなみに補習はウソな」
「――え?」
「うお、何だお前ら」

 蛇堂の発言に、一同は口をそろえた。

「何だって、こっちのセリフっすよ!
 何で嘘ついたんすか!?」
「何かペナルティを課さないと、手を抜くヤツが出てくると思ったからな。
 ぬるーい雰囲気でテストをしても、意味がないだろう。
 君らの最大限を引き出すための、つくべくしてついた嘘だ」
「――」
「んじゃ、俺は先に教室戻ってるから、更衣を済ませて戻って来い。
 オリエンテーションをする」

 そう言って、一同を置いて去って行った。

(よ、良かったぁぁぁぁぁ……!)

 ざわめく一同の中、レイは一人だけ膝から崩れ落ちてため息を漏らしたのだった。
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