ヒーロー・オブ・ケプラー

天川 銀河

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第2章

第28話 「理想」と「現実」

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 そうして、初日の日程が終了した。
 オリエンテーションでは、今後のカリキュラムや様々な書類の配布とともに、個々の自己紹介を行った。
 そう、蛇堂は「自己紹介はない」という嘘までついていたのだ。
 レイを含め全員が、蛇堂が虚言癖持ちであることを疑い始めてしまった。

「じゃあ、今日は以上だ。
 というわけで……」

 蛇堂はひと呼吸おいてから、

「これから、お前たちを寮まで送り届ける。
 そして、寮の案内も行う」
「うおおおおおおおおおお!」

 クラス内は、大いに盛り上がった。


 ***


 蛇堂に率いられ、学校の敷地内を出たA組生徒たち。
 その中で、レイは神妙な顔でトボトボと歩いていた。

「星野ぉ、何でそんなに落ち込んでんだ?
 補習はウソだって言ってたろ?」
「いや、まあそうなんだけど……。
 まさかあんなにボロボロな結果になるなんて思わなくてさ」
「大丈夫だって。俺だって十四位だったんだし。
 元気出してこうぜ!」

 トウマは、隣を歩くレイの肩に手を置いて慰める。
 レイは「うん、ありがとう」とトウマに笑いかける。
 だがこれはあくまで、取り繕った笑顔にすぎない。
 内心では、先ほどの体力テストを引きずっている。

 最下位に沈んだレイ。
 ただ、最下位だから落ち込んでいるなどといった単純な理由ではない。

 ――黎明で自分が通用するとは限らないと、身をもって知ったからだ。

 鳴り物入りで入学してわけでもなく、むしろ滑り込み入学もいいところだった。
 それでも、何だかんだある程度は通用すると思っていた。
 恒一にも自信を持っていいと言われたし、これまでの努力が味方をしてくれると。

 だが、現実はあまりにも非情であった。

 周りには、レイとは違う権能でありながらそれを使いこなしている者ばかり。
 見たことのある権能など、一つたりともなかった。

 それに比べ、レイはどうだ。
 たかだか数か月の、いわば付け焼き刃のような権能。
 そんなもので、通用するはずがなかった。

「――イ。レイ」
「ひゃい」
「なんて声出してるのよ」
「ごめん、ちょっと考えごとしてて」

 セツナに顔を覗き込まれ、反射的に情けない声が出てしまった。
 セツナは「そう……」と顔を離し、前を向いた。

「――あなたね、考えすぎなのよ」
「……へっ?」
「物事を、深く考えすぎってこと」

 レイはセツナの言葉に、また間の抜けた声を漏らす。

「《精密投擲》のときのレイを見て思ったわ。
 どうやってコントロールをするか、的がどんな動きをしているか、とかね。
 そういうのを深く考えすぎるがあまり、脳で思い描いてる理想と現実の乖離にやられてるんじゃないかしら」
「――」

 セツナの言葉は、この上なく的確だった。
 思い返せば、言われた通りである。

「理想を思い描くのはいいけど、体現できるかどうかはその人の能力次第。
 上手くいったときは気持ちいいものだけど、そうじゃなかったときにどうするかが大事なのよ」
「なるほど……」
「言っとくけど、別にあなたの能力を否定してるわけじゃないわ。
 ……だって、私のこと助けてくれたし」
「――っ」

 少し照れ混じりに、セツナはそう言った。
 レイは少し頬を赤くしたセツナの顔を見て、触発されるように頬を赤らめる。

「じゃ、私行くから! じゃあね!」
「行くってどこに……?」
「ど、どっか!」

 大雑把ではあるが列を成している一行のどこへ行くというのか。
 それが気になるレイを尻目に、セツナは列の中へ紛れて行ってしまった。

 しかし、レイはセツナの言葉から大きな学びを得た。

 ――理想と現実の、乖離。

 人間である以上、理想を描くのは当たり前だ。
 そしてそれを体現しようとすることも、失敗した時に深く落ち込むことも然りである。

 そして、上手くいかなかったときに、どうするか。
 それだけは、すぐに答えが出せる。

「……頑張ろう」

 立ち上がり、前を向くしかない。
 ただでさえ、人よりも何倍も頑張らなければならないのだから。

 下も向かず、上も向かず、前を見る。
 そして、努力を重ねるしかない。

 生まれながらの才能がないレイには、それしかできないのだから。



「さて、着いたぞ。ここが、黎明英雄学園高校、一年A組生徒寮だ」
「すっごーい!!」
「デッケェェェ!」

 巨大な建物が、A組生徒たちの前に鎮座している。
 その全員が目を輝かせて、建物を見上げた。

「じゃ、俺は帰るぞ」
「え? 先生が案内してくれるんじゃないんスカ?」
「俺はあくまでの案内役な。
 こっからは、寮の管理人さんに引き渡すことになってる」
「――やあ、君たち。入学おめでとう」
「ほわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 蛇堂にそう問いかけたユウキの背後から現れた人影。
 否、それは人ではなかった。

「ろ、ロボット?」
「ま、そんなとこだな」
「違いますよ、スネークヘッド!
 ワタシはロボットではなく、アンドロイドです」
「はあ。そりゃ失礼」

 蛇堂のそっけない返しに、アンドロイドは「ムキー!」と怒りをあらわにした。

「アンドロイドなのに感情があるのか……」
「そこですの?」

 ズレた着眼点のレイに、隣に立っている女子がツッコミを入れた。

「ワタシは、DORM-αドルム・アルファ。この寮の管理人を任されてるアンドロイドです。これからよろしくお願いしますね、一年A組の皆さん」

 と、丁寧に頭を下げたドルムと名乗ったアンドロイド。
 正確には、頭のような形をしたホログラムが下に動いただけだが。

「ドルムは、一応身分的には黎明の教師だが、基本的にこの寮の中にいる。
 ロボ……アンドロイドだが、人並みに感情も組み込まれてるから、怒らせたらやばいぞ」
「やばいって……どうやばいんですか?」
「四肢を引き裂かれ、管理人室に展示される」
「ギィヤァァァァァァァァァァ!」

 ユウキの甲高い悲鳴は瞬く間に感染していき、生徒たちは恐怖に包まれた。

「そんなことはしませんが、あまり暴れすぎないように。
 君たちはあくまで、ヒーローを目指す卵たち。はしゃぐのはいいですが、常識の範囲内でお願いしますね。
 施設を壊されたりしたらたまったものじゃないので」
「まあ、そういうことだ。また明日な」

 蛇堂は生徒たちに背を向けて、手を挙げて歩き出した。
 しかし一度立ち止まり、

「あ、言っとくが」
「――」
「――明日からはビシバシ行くから、覚悟しておけよ」

 低く威圧感のある声を残し、今度こそその場を去った。

「じゃあ、行きましょうか」

 ドルムはそう言って、建物の方へ進んだ。
 生徒たちは蛇堂の言葉にモヤモヤしながら、それに続いた。
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